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DQ3 そして現実へ…~もう一人の転生者(別視点)

作者:あちゃ
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非常識な男とその家族…はい私達の事です!

やって来ましたランシール!
あれです、独りぼっち試練の巻…
大丈夫かしら…アルルさんって、あんまり強いってイメージがないのよねぇ…

「此処で試練を受けるのかぁ………」
大きな神殿の前で呟くのはお父さん。
「やだなぁ…僕、試練とか試験とかテストとかって嫌いなんだよねぇ…」
カンダタとモニカさんの情報を聞き、真っ先に文句を言い出したお父さん。

「………だからって、此処で眺めていても意味ないでしょ!ホラ…入りますよリュカさん!」
嫌がるお父さんを無理矢理神殿内へ入れ、アルルさんが反論する。
でもね、ここでの試練はアルルさんだけの試練だから。


「よくぞ参られた旅の方。此処は勇者の持つ勇気を試す試練の場…この扉を抜け『地球のへそ』と呼ばれる洞窟に1人で赴き、真の勇者として勇気を証明してもらいたい」
内部は無駄に広く天井が高い。
その無駄スペースに響き渡る神官の声。

「え、1人で!?…な、何故1人で行かなければならないのですか!?」
仲良くみんなで試練を受けるつもりだったお兄ちゃんは、アルルさんが一人で行かねばならないと聞き、動揺を隠せない。

「先程も言いましたが、勇気を試す試練です。1人でやりぬける勇気があるかを、神は見定めたいのです」
「うわぁ!出たよ…『神様が言うから1人で行け』ってか!」
う~ん…気持ちは解るけど、本当にムカツク言い方ね。
神官ちょっと青筋立ててる。

「………何と言われようと、神が決めた試練です!1人で行く勇気のない者に、世界が救えるとは思えません!勇気が無いのなら、この試練を受けるのはお止しなさい!」
「何だ?お前の言う神ってのは、バラモス贔屓なのか!?世界を救う為にバラモスを討伐する勇者の妨げにしかならない事をやる神!バラモス様ラブじゃねーか!」
あぁ!言われてみればそうね……でも、この世界の神様ってルビスちゃんでしょ?
今は囚われの身よねぇ?

「な!か、神を冒涜する事は許しませんよ!取り消しなさい!」
「ぶさけんなバーカ!冒涜してんのはお前だ!お前が『簡単にバラモスを倒しちゃダメって、神様が言ってたんですぅー』って言ってるようなもんだ!」
凄いなぁ~この人…他人を怒らせるのが抜群に上手い!
神官は今にも殴りかかりそうだわ。

「止めてください!」
お父さんと神官の素敵な雰囲気に、アルルさんが大声で終止符を打つ…でも、『私の為に2人が争わないで♥』とか言ったらイオナズンぶちかます!

「私は勇者です!この試練を受け、完遂して見せます!私は勇者アルルですから!」
やっぱり真面目っ子…お父さんと神官の間に割り込み、互いを落ち着かせてる。
ポピーお姉ちゃんなら言うだろうなぁ…

「き、危険だよ!1人で洞窟に入るなんて…そんな…もしアルルに何か遭ったら…」
過保護ねぇ…
アルルさんの両肩を掴み、涙目で心配するお兄ちゃん。
まぁ気持ちは解る…アルルさん弱いもんね。

「ティミー…大丈夫よ!私だってこの旅で強くなってるんですから!…勇者として、1人でブルーオーブを手に入れないとダメなの…この世界の勇者の私がやらなきゃダメなの!」
己を分かってないのか、責任感が強いからなのか…ちょっと分からないけど、一人で戦いに挑む覚悟のアルルさん。
死なれちゃうのは困るわね。

「アルルさん。コレ…持って行ってください」
私はグランバニアから勝手に持ち出したアイテムを差し出した。
「…これは?」
「はい。私がグランバニアから勝手に持ち出した貴重なアイテム『賢者の石』と『エルフのお守り』です…」
アルルさんはアイテムを受け取り、不思議そうに眺めてる。

「『賢者の石』は…ネクロゴンドでも使いましたけど、ベホマラーの効果があるアイテムで、こっちの『エルフのお守り』は敵の補助系魔法を効きにくくしてくれるんです!」
すっげーアイテムなんだゾ!
無くすなよ!

「ありがとうマリーちゃん!大事に使うね」
アルルさんは嬉しそうにアイテムをしまうと、笑顔で私にお礼を言ってきた。
「いえいえ…プレゼントするワケではございません!必ず返してください…此処でお帰りを待ってますから…絶対に返してくださいよ!」
アンタその内そんな物必要ないくらいの防具を手に入れるんだから、絶対に返せよ!パクるんじゃねーぞ!
「うん…きっと戻ってくるね!マリーちゃんにコレを返しに戻ってくるから!」



さて…
完全武装(現状で望める最高基準)で一人『地球のへそ』へと赴くアルルさん。
お兄ちゃんは彼女が出て行った扉を、何時までもジッと見つめている。
振られたら自殺しそうね…

「よし!アルルが戻ってくるまで時間があるけど、快く迎えたいからビアンカやウルフ達は此処で待機ね!」
お父さんだけがマイペースに行動している。
言われるまでもなく私達はここで待つつもりだけど…お父さんはどうすんの?

「…旦那はどうするんですか?」
「うん。僕は暇潰しに町へナンパにでも行ってくる!」
はぁ!?何を言っとるんだこの男は!?

「ティミーは一緒に来るだろ…何時だったか『ミルドちゃん』を口説き落とした時みたいにさ!」
お兄ちゃんが行くわけないだろ!
そんな事を言ってるとブチ切れ………『ミルドちゃん』?

「ティミーさんがリュカさんなんかとナンパに行くわけないでしょう!」
「いやウルフ君!落ち込んでいてもどうにもならないし、僕は父さんとナンパに行くよ!みんなはアルルを待ってあげててくれ」
なるほど…ミルドラースを落とした時の様に、一緒にアルルさんを助けようって事ね!

「ちょ…ティ、ティミーさん!!本気ですか!?」
お父さんと共に神殿を出て行くお兄ちゃん。
そんな彼を止めようと、ウルフが慌てて近付こうとする…
しかし私とお母さんに阻まれ、敢えなく2人を見送る事に…
ウルフは顔に憤りを纏って私を見つめている。
ごめんね…後で説明するから。



お父さんとお兄ちゃんが出て行ってから半日が経過した。
神殿側から軽食を戴いたが、それ以外は飲まず食わずで待ち続けている。
マジ腹減った!

「あっれぇ~!まだアルルは帰ってこないの?」
私達の沈黙と空腹を妨害するのは、無駄に明るい声で帰還したお父さんだ。
体中から女物の香水の匂いを漂わせ、待ち疲れた私達を鼻で笑う。

「リュカさん…今まで何してたんですか!?」
この状況に苛ついているウルフが、無駄と知りつつもキツイ口調でお父さんを咎めている。
「何って…ナンパだよ。あれ、言わなかったけ?」
うそ~ん…!?

「お父さん…本当にナンパをしてたの?」
お願い嘘だと言ってください。
私だけではない…お母さんですら冷たい瞳で睨んでる。

「い、いや~…その~…だ、だってそう言って出て行ったでしょ!最初っから伝えておいたじゃんか!何で今更そんな目で睨むの!?」
だって意味深な事を言って出て行ったじゃん!
アルルさんを助ける算段があると思うじゃん!

「貴方と一緒に出て行かれた方は、どうしましたか?…一緒に行動をしていたのではないのですか?」
私達全員でお父さんを睨み付けていると、神官が気になる事を質問してきた。
…そう言えばお兄ちゃんの姿がないわ?

「はぁ!?お前バカなの?僕達ナンパしに出かけたんだよ!目当ての女の子が居れば、別行動するに決まってるだろ!…それとも何か、3Pでも期待しちゃったのかな?神官のクセにイヤラシいなぁ…」
この場の誰もが神官の意見がまともだと思っているのだが、どういうワケか一番まともじゃない男の意見が正論に変わって行く……何でだ!?

「な、何と無礼かつ下品な物言い!私はただ、もう1人の行方が気になっただけだ!」
「知らねぇーよそんな事!僕はこの町に好みの女が居なかったから、アリアハンの愛人の元に行ってたんだ!アイツ…方向音痴のクセに『美女の匂いがする!』って、どっかに行っちゃたんだもん…」
そんな事するのはアンタだけだ!
でも…つー事は、どうにかアルルさんを助けに地球のへそに言ったのね。

「何と破廉恥な連中だ…」
ふん!お父さんに対しては否定しないけど、お兄ちゃんは違うもんね!
「今頃ティミーの奴、薄暗い場所で美女と一緒に良い汗かいてるんじゃね?自慢の愛剣を振り回してさ!あはははは…」
そんな事してねーよ!“真面目人間ギャートルズ”だぞ!




する事もなく、ただ時間だけが経過する…
辺りは暗闇に覆われ、日めくりカレンダーを1枚捲った頃、地球のへそへと通じる扉からアルルさんが姿を現した………彼氏を伴い。

「お帰りなさい、試練は………!!」
神官が事務的な口調で成果を確認しようとしたが、アルルさんに続いて現れたお兄ちゃんを見て絶句する。
…まぁ…当然よね。

勿論驚いているのは神官だけじゃない。
ウルフやカンダタは固まっている…
私とお母さんも納得はしているが、どうしてなのかが分からず微妙な気分。

「よう!どうだった?ブルーオーブは手に入った?」
原因を作ったお父さんは、空気を読まず気さくに話しかけてる。
「えぇ、バッチリ!」
アルルさんも場の雰囲気を無視して、明るく答える。
染まってきたわ…

「そっちの色男はどうだ?良い女をナンパ出来たのか?」
「ええ!美女の匂いを辿ったら、彼女に出会いました。最高に良い女です!」
うん。話の辻褄が合致する…
困ったわ…このパーティーの理性とも言える2人が、事もあろうに非常識星人寄りに染まってきた。
ゾーマの下まで辿り着けるかしら…

「じゃ、万事OKって事ね。…待ちくたびれて疲れたよ!宿屋に帰ろうぜ!」
「父さん…1つ困った事が…」
「どうした?」
「僕の度し難い方向音痴は、治らない物ですかねぇ?」
「う~ん…一晩寝れば治るんじゃね?」
「じゃぁ安心だ」
お父さんとお兄ちゃんが意味不明な会話を続けながら出て行こうと出口に向かう…

「ちょっと待ちなさい!!」
だが、そうは問屋が卸さないのが神官。
一人で行うはずの試練を二人で行った疑いに、猛然と立ち向かう勇気ある神官さん…
一般的な男(貴賎を問わず)であれば問題ない…尤も一般的な男に、こんな非常識な事は出来ないが…
だが今回は相手が悪い。
痛い目(心身ともに)を見ないうちに諦めるべきだ。

「こ…この試練は、勇者が1人で行う事に意味があるのです!にも関わらず、何故アナタは一緒に洞窟へ赴いていたのですか!?」
怒りのあまり甲高い声で詰め寄る神官。

「私は1人で試練をやり遂げました」
「僕は美女の匂いを求め彷徨った末に、直ぐそこで彼女と出会いました」
スゲー…言い切ったわ…もう殆どお父さんじゃん…
「何の問題も無いじゃん!」
そして神官の神経を更に逆撫でするのが本家!

「な、何を言っているのですか!貴方の息子さん…ティミーさんでしたね。ティミーさんは、地球のへそへと通じている、この扉から戻って来たのですよ!高く険しい絶壁に囲まれた、洞窟の方から帰って来たのですよ!」
「それが?…コイツ、すげー方向音痴なんだよね!きっと迷いに迷って、洞窟の方へ行っちゃったんだよ!」
そう言えば『らんま1/2』って漫画にも、そんな芸当をやってのける方向音痴が居たわね…
よし、今日からお兄ちゃんは“良牙”よ!

「迷った!?迷って行けるような所ではないのです!何かイカサマをしたに決まってます!そ、そんな勇気…私は認めませんよ!」
別にアンタに認められる必要ないし…
耳まで真っ赤に染め上げ怒りを露わにする神官を眺め、心の底からそう思う。

「黙れクズ!!『私は認めない』だと?この試練は、神が与えた試練だろ!お前の許可など必要ではない!それとも何か?お前が神なのか?」
いや、ホント、マジ…
お漏らししそうになる程ビックリな大声で激怒するお父さん!
この人を怒らせるなよ…マジで怖いんだから。

「わ、私は…」
耳まで真っ赤だった神官だが、今では死体より青ざめている。
「神が与えた試練なら、神が彼女の勇気を審査する!お前はただの門番だろ…偉そうに俺の子供達を批評するな!」
あ、ヤバイ…お父さんの一人称が“俺”になってる…
下手な事を言うのは止そう…



お父さんの怒りに触れ、震え上がってる神官をシカトし、私達は神殿から外へ出る。
怒ってるお父さんが怖くて誰も何も言わない中、ウルフが解明したい疑問をお兄ちゃんへと投げかける。

「ティミーさん…どんな方向音痴になれば、この絶壁を超えられるんですか?」
「何…父さんに勢い良く放り投げてもらえば簡単さ!」
大したこと無い様にサラッととんでもない事を言うお兄ちゃん。
絶壁と建物の境で他より低くなっている箇所指さし、戯けた様に説明する。

「よ、良く無事でしたね…着地はどうしたんですか?」
遺伝子のお陰で無駄に丈夫?
「壁の向こうは砂漠地帯でね…スクルトを重ねがけしてダメージを軽減した。…尤も、丁度モンスターの一団の上に落ちたから、ものっそい痛かったけどね」
“ものっそい”って…まるでお父さんじゃんか!

「どうしよう…リュカさんとティミーさんの区別が付かなくなってきた!」
「ちょ、ウルフ君…大変失礼な物言いだよ!」
あはははは、これでグランバニアは安泰ね!
「うん。流石は我が息子!」
お父さんはお兄ちゃんの肩を抱き、嬉しそうに笑っている。
非常識極まりないけど、本当に良い父親よね。



 
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