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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第7章 第5次イゼルローン攻略戦へ 中編 出陣前のひととき

 宇宙歴 792年 4月
 イゼルローン要塞攻略へ向けて作戦案が完成し、宇宙艦隊と地上部隊による同時最終演習が惑星シャンプール周辺星域で行われた。
 その大規模演習は無人衛星が多くあるシャンプール第3星域において、イゼルローン要塞を模した人口球体(と言っても要塞の4分の3以下のレプリカであるが)を浮かばせ、イゼルローン回廊と同じ幅同じ高さの宙域、同じ距離にある衛星を実際の戦場として行われた。
今回出撃する艦隊は
アレクサンドル・ビュコック中将指揮下の第9艦隊
シドニー・シトレ大将指揮下の第8艦隊
ドワイド・グリーンヒル中将指揮下の第4艦隊
そして、パエッタ中将指揮下の第2艦隊である。
今回の演習のアグレッサー艦隊は
第1,6,7艦隊およびハイネセン首都星防衛即応艦隊である。
パエッタ中将はアルレスハイムではいろいろとあったが、実はとても優秀な指揮官である。
士官学校卒業後は砲術士官、駆逐艦艦長、駆逐隊指揮官、駆逐群司令…と駆逐艦部隊指揮官として私がまだ2等兵であったあたりで名をはせていた。
その中でも特に際立ったのが彼が第111任務駆逐群指揮官としてフェルマー第8宙域で戦ったときである。ここで少し紹介しておこう。
彼は、そこに展開していた第9艦隊の前衛としてその宙域に展開していた。
その時に任務群の約3倍近い帝国軍に遭遇したものの、駆逐艦の本領である近接一撃離脱を駆使して実に2日にあたる激戦を繰り広げこれを撃破した。
それも、援軍なしで。
これにより准将に昇進している。
しかし、近年政治家との接近によってか責任問題、献金問題等のあらぬ噂が彼の周辺を飛び交っているのも事実である。

とにもかくにも演習は始まろうとしていた。
私たちローゼンリッター連隊も演習該当宙域に展開し私自身前日は第8艦隊旗艦クリシュナの中にいた。
というのも、特殊作戦課の中で最終確認会議等が行われていたからである。
また、私たちイゼルローン要塞内部制圧部隊は今回の演習では突入演習ができなかったので攻略部隊司令部にいるしかなかったのであった。
といっても、暇を持て余すくらいならということで同じく特殊作戦課の立案した作戦の中での「捕獲作戦」のアグレッサー部隊(演習対抗部隊)としての参加を私たち第3中隊全体で認めてもらった。

演習前日の1900時
私は第3中隊内での最終確認会議を終えてクリシュナのバーにいた。
丸テーブルに座っているのは第8艦隊第199空母打撃群第2空戦飛行中隊指揮官ステファン・クォーター大尉、旗艦戦艦クリシュナ第2砲塔指揮官リスナー・ウィリス中尉、同じくクリシュナ第9砲塔指揮官スーン・スールズカリッター中尉である。
リスナーは幹部養成所出だが、私と兵士訓練期間同期で残りの2人は私と士官学校同期で3人とも優秀な士官である。
自称情報通のステファンが口を開く
「聞いたか?ついこの間のイゼルローン方面即応艦隊でわれらが同期のカレン・モートン中尉のこと。」
私は
「知らないねー
あんまり聞いたことない。ついこの間エダがフェザーンに駐在武官付で派遣されたことくらいしか知らんなー」
スーンは
「もしかして、2期上のミッシェル少佐に振られたとか?」
リスナーも「わかんないですねー」
ステファンが紅茶をがぶ飲みしながら
「まったく、お前らは相変わらず情報に疎いな
実は、カレン中尉は明日2階級特進するらしいぞ。」
3人とも「は?」という感じであった
ステファンは
「戦死とかじゃなくて、どうやらイゼルローン宙域後方の補給線哨戒での小規模戦でミサイル艇5艇の指揮官を彼女はやっていたらしいんだがどうやら奇襲攻撃で敵の戦艦3隻を含む12隻を撃沈したんだって。」
私は彼女らしいな。なんて思わず思ってしまった。
「確かに、士官学校での戦術シュミレーターでも奇襲作戦を好んで使っていたよな。」とスーン。
「そういうお前は遠距離砲撃でちまちま戦力を削り取るのが好きだったよね。」と私。
リスナーは「私はビュコック中将のように半球体に展開して一点の集中砲火で分断、突入、確固撃破ですかね。」
「確かにそれもいいが、艦隊戦は艦載機・駆逐艦・ミサイル艇による近距離一撃離脱に限るかな。ただ、その確固撃破はいいね。」とステファン。
などなど、戦術の話から同期生の活躍の話までいろいろな話が飛び交った。
スーンが
「ステファン、ところで君ってなんで大尉になったんだっけ?」
するとステファンは少々苦そうな顔をしながら始めた。
「俺が少尉でまだ小隊長だったときの話だ。
俺の所属していた空母「アムルタート」の第1空戦飛行中隊はα88衛星群の補給線哨戒任務のために第99任務機動隊の空戦飛行隊として護衛空母「ケルティック」に派遣されていたんだ。
アルレスハイム星域に敵が侵入してからこの補給線にも帝国軍がうろちょろしていたんだ。
第1空戦飛行中隊指揮官であったマーク・キャンベル大尉は非常に優秀な指揮官だった。
俺は今でも尊敬している。
俺が初陣の時にも常に俺の隣を飛んで小隊の指揮をサポートしてくれた。
だいたい指揮が慣れてきたときに俺はワルキューレを2機撃墜した。
大尉はめちゃくちゃほめてくれたけど、その時の欠点もいろいろと教えてくれた。
とにかく教官としても指揮官としても最高の人だった。
あるとき、俺たちが哨戒飛行していた時だった。
偵察機のレーダー波に帝国軍の1個群程度の艦隊が写ったんだ。
もちろん勝ち目がないから本部へ連絡して撤退しようとした。
しかし、敵は我々の退路に2個ワルキューレ空戦飛行隊を配置して待ち構えていたんだ。
敵は相当我々に悩まされていたはずだ。
それで打った手がこれだったんだ。
敵の狙いは同盟軍の任務群じゃなくて我々空戦飛行中隊だったんだ。
激戦になった。
俺は最初の一撃目で1機を撃墜し、小隊でチーム戦術で小隊では7機俺自身2機を撃墜した。
しかし、敵は自分たちの何倍もいた。
結局、空戦が始まって20分後にはマーク大尉以下9機のスパルタニアンしか残ってなかったんだ。
それで、大尉が俺に
「士官で生き残ってるのは俺とおまえだけだ。
俺がここで最後まで食い止める。先に離脱しろ!」
と言ってきたのだ。
俺はもちろん抵抗した。
そうしたら、大尉は
「俺のスパルタニアンはもう持たん。
母艦までいけない。
先に行け!命令だ!」
と言って、そのまま通信を切られてしまった。
俺は残った自分を含めた8機のスパルタニアンをまとめて敵の追撃を振り切って小惑星群で、待機し敵をやり過ごした。
俺たちは空母に帰還したが、30機いた中隊がたったの8機。しかも、指揮官は士官学校出たての撃墜数もまだ4機の少尉なんて来た日には護衛される船団側としてもため息の嫌味の一つや二つが聞こえてきてもおかしくなかった。」
と言って、一回話を切ったステファンはウェイターの女性兵士に紅茶を頼んだ。
彼は、続ける
「俺が一人で空母の食堂にいると一人の中佐が入ってきた。
その中佐は第99任務機動隊の指揮官でエドウィン・フィッシャー中佐といった。
影の薄い人だったが、士官学校出ではなく下士官たたき上げの艦隊運営のベテラン中のベテランだった。
俺が、紅茶を一人で飲んでいると中佐は
「マーク大尉のことは残念だった。」
と話し始めて、現在の飛行中隊の現有戦力、戦力としての評価、敵に強襲された時の状況等を詳しく聞かれた。
俺は中佐に
「あの忌々しい敵の艦隊をつぶすことはできないのでしょうか?
マーク大尉の仇を打たせてください。」
すると中佐は俺の肩に手を置き
「その気持ちは痛いほどわかる。
だがな、少尉。今は耐えろ。」
とおっしゃった。
その時は、なんなんだ。
と思ったが、冷静に考えれば我々の空戦兵力や機動隊兵力から考えれば到底勝てる敵ではなかったのだ。」
と、ステファンは言った。
今から考えれば、あんなに物静かなフィッシャー中将がそんなことを言ったなんてあまりにも想像しにくいことであった。
ステファンは
「その2日後、俺は中隊長代理になりさらに、中尉に昇進した。
早く中尉に昇進したいなーなんて思ってたが、そんな昇進の仕方は到底受け入れられるものではなかった。
それから、5日間くらいは任務機動隊直掩任務を淡々とこなしていた。
しかし、いきなり転機は訪れた。
付近を航行していた味方の輸送艦が帝国軍の空戦飛行中隊によって拿捕されそうだとの情報を得て我々はその場に急行した。
スパルタニアンは8機。
10分間の高速飛行でその場についたところ、そこにはスパルタニアン3機が30機近いワルキューレと空戦をしており劣勢だったが、何とか保っていたのが確認された。
俺たちは、一撃離脱で天頂方面から強襲攻撃を仕掛けた。
その空中戦で俺は7機のワルキューレを撃墜し中隊としても17機を撃墜した。
しかし、その先に空中戦をしていた3機のスパルタニアンのパイロットはあの有名な第88独立空戦隊のパイロットたちだった。
彼らは3機で18機も撃墜していたんだ。
その後その3機は燃料補給のために母艦に戻ってたが、俺たちは撃ち漏らした2機のワルキューレを追って敵の空母を発見しようとした。
通信傍受のために無線の周波数をいじっていると、帝国軍のワルキューレのパイロットたちの会話が飛び込んできた。
それにより、敵は空母からの発進ではなくどうやら小惑星群に基地を設営していたらしくその基地と交信しているのがわかった。
おれはザムチェフスキー伍長とともに敵の生き残り2機を追撃し敵基地の発見を急いだ。
残りの6機はチェイス准尉に任せて味方艦艇の誘導に回した。
小惑星等の障害に隠れながら飛行すること実に1時間。
敵の小惑星群基地に到達した。
帝国軍は小惑星の表層を長方形状にくりぬき、同盟軍宇宙空母を逆さにした感じの露天式格納方でワルキューレを置いていた。
ザムチェフスキー伍長はもともと空戦隊出身ではなく対艦攻撃隊出身であったが、今回の任務で引き抜かれた同年齢のパイロットだった。
俺は伍長に
「あのワルキューレたちを一発で撃破できないかな?」
と、無理相談をしてみたところ、伍長は
「対艦攻撃隊の得意技ですが、
十字集中砲火対艦攻撃法っていうのがあります。
ビームを敵の格納庫の角からその対角線上にロックオンして連続掃射でやるやつです。」
聞いたことはあったが、それは対艦攻撃隊の十八番の攻撃方法で非常に難しいものであった。
しかし、味方の大型艦艇はこの狭い宙域に何隻も入ることができないのでかなりの苦戦が想像された。
俺は
「OK。やるしかないな。」
潜伏していた小惑星から離脱し、レーダーの利きが悪い天頂方向から襲いかかった。
対空砲火がどんどん打ちあがってきた。
十字砲火飛行ルートに入る。
機体に数発のビームが当たり、機体内に警報が鳴る。
もちろん無視した。
そして、ロックオン。10秒間の連続射撃。
その後は思いっきりスロットルを全開にして離脱。
伍長が
「わお!!」
と思いっきり大声をだした。
後ろを振り返ると
敵の格納庫は爆散していた。
どうやら燃料貯蔵庫に直撃したらしい。
2次、3次爆発が連続しておこる。
・・・・

まあ、これが俺が大尉に昇進したいきさつさ。
あんまり聞いてて気持ちのいい話じゃない。特に前半が」
と言ってまた紅茶を一気に飲み干す。
誰しも修羅場を潜り抜けて今があるのだ。
しかし、今後彼らに起きる修羅場をだれがこのとき想像しただろうか。
あのイゼルローン攻略戦という本当の悪夢を

その次の日、演習は開始された。

まずは艦隊戦からだった。
平衡追撃作戦の手順が何度も繰り返され攻撃側は何度も乱戦に持ち込もうとした。
さすがに、正規艦隊だけあってアグレッサー艦隊も強かった。
しかし、演習3日目。
第9艦隊が第1艦隊の側面に集中砲火(といっても、演習なのでレーザーをあてるだけであるが)を浴びせ、右翼側面から一気に崩れ始めた。
その後、一気に乱戦に持ち込み、われわれの出番である。
私たちはその時帝国軍の捕獲された高速戦艦の中でアグレッサー部隊として待機していた。
この作戦は特殊作戦課の特殊作戦コマンド出身のアレン・ケネス中尉が指揮する。
帝国軍の中は装飾が施され艦橋の戦術スクリーンの周りにも彫刻が施されている。
しかも、通路が碁盤の目のようになっているためライフルの類は使えない。
それでこそ、我々の本領が発揮できるのではあるが。
中尉の指揮する部隊は6個小隊。
これに対して私が指揮するのは1個中隊。
と言っても、我々はローゼンリッターだ。
1個連隊で1個師団に相当する戦力を持つと評価されている我々だ。

3日目の第9艦隊が作り出した乱戦状態から1時間後であった。
艦橋にいたところ、
オペレーターが
「左舷より強襲揚陸艦が接近!敵味方識別信号はレッド!敵です!」
私は、マイクを持ち
「各小隊に告ぐ。予定通りの配置につけ。」
私は、今回の作戦で敵を水際で撃破するのは不可能であるため艦内の奥深くまで引きずりこんで敵を撃破、殲滅することにした。
第4,3小隊は敵を分離させないように後退しながら戦い、遅滞行動をとる。
第1,2小隊は敵の包囲にかかり、第5小隊は我々の側面援護である。
言葉でいうのは簡単だが、地上戦でも艦内戦でも一番厳しいのは撤退戦。
ひきすぎても逆撃を食らうし、攻めすぎても包囲殲滅される。
難しいものである。
迎撃陣地に急いでいると、衝撃!
突入されようである。
マッケンジー中尉から
「敵は第9ブロックに侵入した模様」

「了解。予定通りに10分ごとに3ブロックひけ!」
中尉
「了解!」
どんな相手でも侮ってはいけない。
いくら自分たちに自信があるとは言ってもだ。
私は最終迎撃ポイントで戦術スクリーンを見ながら小隊への指揮を行っていた。
どの小隊もなかなかよくやっていた。
しかし、敵も特殊作戦コマンドだ。
なかなか押されてくれない。
戦線がこう着する。
10分経過
私は
「第4小隊、第3小隊ポイント3-2まで後退せよ!」
すると
「こちらニール少尉です!
リューカス少尉が、ドロップアウトされました!
現在、敵に押されています!
ポイント3-3までの撤退許可を!」
ショックだった。
リューカス少尉がやられるなんて…
私は
「ニール少尉!
まず、落ち着け! 深呼吸だ。」
少尉の深呼吸が聞こえる。
「よし、少尉。貴官は今から、第4,3小隊をまとめてポイント3-2まで後退しろ。
こちらから第1小隊を俺が率いていくからそこまで待ってろ。
貴官ならできる。問題ない。」
少尉は了解の返事を送ってきて通信を切った。
私は
「第1小隊!
俺に続け!第3,4小隊の救援に向かう!」
リューカスがやられるくらいの激戦だ。
第3、4小隊も大きく消耗してるに違いない。
敵に分散を許すと厄介なので側面攻撃で一気に戦線の縮小を考えざるを得なかった。
走ること3分。 ポイント3-2
ポイント3-2の側面に到達し、一気に敵の殲滅にかかる。
どうやら、敵は戦端の翼を伸ばすのを嫌ったらしく我々がいるところまでは敵がいなかった。
ケネス中尉は士官学校での後輩で優秀な指揮官だし、優秀な特殊部隊員だ。
しかし、この強襲揚陸作戦っていうのは豊富な地上戦経験がものをいうところが大いにあるといっても過言ではない。
この、側面攻撃もまたしかり。
第1小隊長ユースフ・シュタイン少尉にハンドサインで突入のゴーサインをおくる。
シュタイン少尉はトマホークを持って一気に駆けていった。
私もその後を追う。
私の後続には第1小隊員が続く。
本当は私が先頭を行きたかったんだが、シュタイン少尉は
「いつも中隊長が前でずるいんで、今回くらいは我慢してください。」
なんて言われてしまい、マッケンジー中尉も
「たまにはいいんじゃないんですか。」
なんて言ってくれちゃった。
まったく、どうしようもない奴らだな…
シュタイン少尉はバリケード越しにペイントライフルを連射する特殊作戦コマンド隊員にトマホークを上段から思いっきり振り下ろす。
相変わらず、容赦のないやつめ。なんて、思わず苦笑してしまう。
そういう私も、トマホークで面を打とうとした隊員の腹部を抜き胴でドロップアウト。
白兵戦になればこっちのものだった。
ライフルを連射する兵士が手前2mにいたが、我々にとって2mは目と鼻の先以下である。
トマホークで思いっきりライフルを振り落とし、下から腹部、肩へ向けて思いっきりトマホークを振り上げる。
特殊作戦コマンドチームはこれ以上の出血は無用と
ポイント3-1まで引き上げてしまった。
ニール少尉から報告を受けたところ、
第3、4小隊はドロップアウト合わせて7名。
重傷判定9名
中・軽傷判定3名であった。
結構やられていた。
ほとんどが射撃によるものでなかなか特殊作戦コマンドはやってくれる。
そろそろ、タイムリミットが来ている。
通常強襲揚陸作戦は突入から20分以内に撤退するのが筋である。
その時点で突入から18分が経過していた。
しかし、あと2分で何が起こるかわからないので第1、4小隊にポイント3-2の防御にあたらせた。
向こうはこちらの逆襲に対処するためにバリケードを張っているに違いなく、我われがいけばほぼ例外なく全滅するのは目に見えていた。
いきなりヘッドセットから
「こちら、機関銃小隊です。
穴倉に反応ありです。」
クレメンツ・マッケルティ少尉の冷静な声が聞こえてくる。
来たな。
やはりそっちが本攻か。
敵は通気口から侵入してきたのだ。
どおりで、ケネス中尉が前線にいないはずだ。
私はそのために銃撃戦ではわが中隊では右に出る者がいない機関銃小隊と特殊作戦歴の長いモレッティ・ハボック少尉の虎の子第2小隊にその迎撃のために待機させていたのだ。
艦橋を攻めるためには艦橋の隣にある電気制御室の通気口からの侵入が最適であった。
何分環境の天井は高すぎ、ロープ降下中は迎撃の的になってしまうため行うわけがなかったし、行われてもいいようにその通気口には模擬爆薬がセットされている。
「クレメンツ少尉、モレッティ少尉後は頼んだ。予定通りによろしく頼む」
両少尉は了解!と元気よく答えて通信を切った。
どうなるか楽しみだ。

10分後
私たちが艦橋につくころには、第2、機関銃小隊は通気口侵入チームを全滅させ捕虜を数名とった状態で待機していた。
ほぼ完勝といってもよかった。
しかし、中隊全体で11名のドロップアウト判定、10名の重傷判定、10名の中、軽傷判定が出たのはいささか痛かった。
我々が敵チームを全滅させた頃には艦隊戦も大方決着がついていた。
第1艦隊は半数が撃沈判定となり、壊滅。第6艦隊も全体の4分の1を失い要塞方面に押される。
この間、第8,2艦隊は混戦状態を作り出し並行追撃を行い要塞への接近を完遂した。
しかし、最後までしぶとく抵抗を続けていたのはハイネセン首都星防衛即応艦隊であった。
最後の最後までビュコック中将の第9艦隊に出血を強い、グリーンヒル中将の第4艦隊にもしぶとく対抗した。
しかし、その後駆逐艦とスパルタにアンによる近接攻撃側面を受け壊滅したが。
その攻撃を仕掛けたのが第2艦隊パエッタ中将であった。
名人芸ともいえる鮮やかさと絶妙なタイミングで駆逐艦攻撃を開始し、スパルタニアンによる攻撃を連動させていた。
無人艦艇突入作戦は極秘事項のため行われなかったが、平衡追撃作戦は成功した。
また、将官捕獲作戦も2つ失敗に終わったもののほかは大成功を収めた。

こうして全体演習は1週間で幕を閉じた。
そして、すぐに特殊作戦課のみならずありとあらゆる部署でAARつまり反省会がおこなわれた。
私はアグレッサー部隊として特殊作戦コマンドの戦い方の長所、短所を述べそれらに対する対処法の提案を行った。
AARは2日間にもおよびハイネセン帰還への帰路十分な暇つぶしになったし、かなり有意義に時間が過ごせた。
我々は4月中下旬にハイネセンに帰還した。
出撃は5日後の4月30日と定められた。
帰還したその足でニコールのもとへ向かう。
ハイネセン中心部のダンスホールで待ち合わせていた。
実に1か月ぶりに本人と会う。
無人タクシーを降りて、あたりを見渡す。
周囲は軍人やきれいなドレスに身を包んだ女性だらけだ。
彼女は多分軍服を着ているはずだと思い、女性で軍服を着ている人を探したがいない…
「エーリッヒ!」
と言われて後ろから抱きつかれる。
気づかなかった。
戦場だったらほぼ戦死だな
なんて思いながら、後ろを振り返ると質素だがきれいなブルーのドレスに身を包んだニコールがいた。
たわいもない話をしながら一緒に歩く。
出撃まで5日間。
イゼルローン攻略戦でできることはすべてやった。と思っていた時である。
あの脳裏に焼き付いていまだにとれない悪夢が起きるとも知らずに。
宇宙歴792年4月25日のことである。 
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