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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-

作者:迷い猫
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アインクラッド編
龍皇の遺産
  クエストに出掛けよう 01

 「ん……」

 設定しておいた時間に鳴り始めた起床アラームの音で目を覚ました僕は、纏わりつく眠気をどうにか振り払って布団から抜け出した。
 冬が間近に迫っているのか、今日の朝は久しぶりに寒い。 襲ってきた冷気に、僕の意識は否応なく覚醒してしまう。
 ぐっと身体を伸ばして、残っていた眠気を完全に消し飛ばしてから、僕がさっきまで寝ていたベッドに振り返ると、そのまま勢い良く布団を引き剥がした。

 そこには、身体を丸めてスヤスヤと穏やかな寝息を立てる少女がいる。
 冗談のように長い桜色の髪。 透き通るような白い肌。 無防備な寝顔はあどけなくて、毎日見ているのにドキドキしてしまう。

 彼女の名前はアマリ。 僕の相棒だ。

 これもいつものことだけど、その寝顔を見ていると、このまま寝かせておいてあげようかな、なんて思考が頭を掠める。 とは言え、そんな甘いことを言っていられないので、心を鬼にして肩を揺すった。
 あまり露骨に触るとシステムにハラスメント行為として認識されてしまうから、そこには細心以上の注意が必要だ。 もしもシステムがそう認識すると、警告メッセージがアマリに届いてしまう。 それ自体は今更なことだからどうでもいいとして、問題は寝ぼけたアマリがうっかりイエスボタンを押す可能性があることだろう。 そうなれば僕は1層の主街区、はじまりの街にある黒鉄宮の牢獄エリアに強制転移されることになる。
 思い出したくもないけど、前にそれで痛い目を見ている僕としては、その心配は割と切実だ。

 「おーい、アマリさーん。 朝ですよー」
 「ん、うにゃ……」
 「ほら、起きなさーい」
 「んー、ん……起きる、です」

 今日は比較的早く起きてくれたアマリは、ベッドの上でのっそりと身体を起こして大きな欠伸をした。 まだ覚醒していないまま僕を見上げると、すぐにだらしない笑顔を浮かべて僕に抱きついてくる。
 その行動もいつも通りなので、僕が慌てることはない。 アマリの小さな身体を受け止めると、そっと抱き締めた。

 「おはよう、アマリ」
 「うん、おはよーです」

 そして今日が始まる。








 ソードアート・オンライン。
 ログアウト不能のデスゲームと化したここは、全100層からなる浮遊城をその舞台としている。
 城の名はアインクラッド。
 各階層には次の層へと向かうタワー状のダンジョン、迷宮区があり、その迷宮区の最奥を守護するボスモンスターを倒すと次の層に行ける、と言う仕組みだ。
 ボスモンスターが倒されて2時間すれば下層の転移門から次の層に行くことも可能になるし、それを待たずとも誰かが次の層の転移門を有効化(アクティベート)した時点で転移が可能になる。
 そんな調子で100層に向かい、そこにいるであろう最終ボスを倒せばゲームクリア。 つまり、現実世界に帰れるのだ。

 とは言え、プレイヤー全員が解放のために危険なボスモンスターと戦っているわけではない。
 HPがゼロになった時点でアバターは四散し、現実のプレイヤーも死に至る。 おまけに蘇生手段も皆無の超ハード仕様なのだから、最前線で戦うプレイヤーが少数になるのは当然だ。
 いつの頃からか攻略組と呼ばれるようになった彼らは、幾つかのグループに分かれ、それぞれに戦っていた。
 僕とアマリも攻略組に名を連ねている。

 2024年10月。
 現在の最前線は74層。 残るフロアの数は26。 生存者は約6000人。
 それがアインクラッドの現状だった。









 「クエストですです?」
 「うん。 ハイレベルの素材が報酬らしいよ」

 和やかな雰囲気の朝食を食べながら、僕とアマリは今日の方針について話していた。
 クエストを受けつつフィールドや迷宮区でのレベリング兼マッピングが僕たちの基本方針だ。 クエストをクリアすれば戦闘に有用なアイテムが得られるし、そこまで多くはないにしても経験値が加算される。 とは言え、受けるクエストは討伐系がメインで、それは完全にレベリングのついででしかない。

 そこを踏まえて今回のクエスト。
 クエスト開始地点は70層にあるダンジョンの最奥。 そこにクエストNPCがいるそうだ。
 最前線から4層降りると言うことは、言うまでもなく攻略に直接の関係はないし、レベリングを目的にするにしても、やや物足りない感は否めない。 アマリが首を傾げるのも当然だろう。
 それでもクエスト報酬として素材が貰えると言う情報を聞いて、アマリはすぐに納得してくれた。

 僕もアマリも、武器はプレイヤーメイドだ。 知り合いのぼったくり鍛冶屋さんに依頼して作ってもらったわけだけど、それもそろそろ強化しないと最前線では通用しなくなってきている。
 僕たちは今まで使っていた武器をインゴットに戻して、それをメインにいくつかの素材を注ぎ込んで武器を作ってもらってきた。 現実的なプレイヤーには『何を馬鹿なことを』と笑われるだろうけど、それでも僕にとって武器は自分の分身で、そしてアマリにとってもそうなんだろうと思う。
 だからこそ、僕たちの武器を今以上に強化しようと思うと、それ相応の素材が必要になる。 そこにきての今回のクエストだ。

 僕が自分で集めた情報と、とある鼠の情報屋さんから仕入れた情報とを合わせて判断すれば、このクエスト報酬がレアな素材であることは間違いない。 僕たちにとっては願ってもないクエストなのだ。
 そして、僕にはそれとは別に、このクエストを受けたい理由がある。

 「正直なところ、今のままだと最前線はちょっときついでしょ? ボス戦までにはなんとかしないとだったろうし、この辺りが良い頃合いかなって。 えっと……ダメ、かな?」
 「んー、了解ですよー では、今日はそのクエストに挑戦しましょー」
 「うん。 じゃあ、準備しないとね」

 武器の限界に気付いていたアマリは、思いの外あっさりと了承してくれた。 それが嬉しくてにやけそうになる顔をなんとか制御する。
 幸い、アマリに気付かれなかったようで、いつもの口調で会話が進んだ。

 「それで、それはどんなクエストなのですか?」
 「ん、ああ、それがさ。 どうにもクリアした人がいないらしくって、どんなクエストかの情報はさっぱりなんだよね」
 「……それ、大丈夫ですです?」
 「大丈夫だよ。 誰もクリアできてないのは、クエストの発動条件が厳しくて、そもそも誰もクエストに挑戦できてないからみたいだし」

 誰もクリアできてないクエストなんて聞けば、それに危機感を抱くのは当然だけど、僕はそれなりの確信を持って大丈夫だと言える。

 「2人パーティー限定クエストみたいだからね。 だから当然、2人でクリアできる難易度に設定されてるだろうし、いくら70層と言っても、最前線より強いモンスターが出るとも思えない。 退路の確保は当然するけど、そこまで危なくはないよ」

 それに、と僕は笑って見せた。

 「それに、僕たちならどんな難関クエストだろうと余裕でしょ?」

 自信と信頼に満ちた僕に対する返答は、言葉ではなく笑みだった。
 普段の穏やかな笑みでも、苦笑でもない。 きっと僕が浮かべているであろう、ニヤリと言う笑み。
 それだけで返事としては十分過ぎた。

 「でも、それでも誰もクリアできてないなんて不思議ですねー。 コンビで行動してるパーティーは確かに珍しいですけど、私たちだけじゃないですよ?」
 「ああ、それはもう1個、かなり特殊な条件があるからだよ」
 「ですです?」
 「結婚してないとダメなんだってさ」 
 

 
後書き
 花々の更新を放ったらかしながら、新しいSAO二次を書き始めました。 どうも、迷い猫です。

 旋律はなんて言うかベタなSAO二次を目標にしています。
 つまりは主人公が俺TUEEEEEで、ヒロインとイチャラブで、原作キャラと色々な繋がりがあって、本家主人公である黒の剣士よりも強い、みたいな感じです。
 当然のようにユニークスキル持ちですし、当然のように原作をぶち壊しますし、当然のようにリアルでもハイスペックです。
 もっとも、私は捻くれ者なので、ベタな展開になりきらないところもあるでしょう。

 まあ、王道と邪道の中間地点よりもちょいと王道より、ですかね。 そこらへんの判断は極めて個人的なので、読者の皆さんがそう感じるかは保証できませんが。

 と言うわけで、旋律の奏者は始まったばかりですが、これからよろしくお願いします。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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