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真田十勇士

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巻ノ十四 大坂その十二

「田舎じゃ、しかしじゃ」
「それでもですな」
「西国を見たことを活かし」
「上田を賑やかにする」
「そうしていきますな」
「そうせねばな」 
 実にというのだ。
「やはり」
「それで殿」
 ここでだ、由利が幸村に言った。
「堺には千利休殿がおられましたな」
「あの茶人の」
「はい、あの御仁だけでなく茶自体が有名ですが」
「茶か。しかしな」
「高いと」
「うむ、拙者は飲んだことがあるが」
 それでもというのだ。
「ああした茶道の茶はな」
「相当に高く」
「飲むにしてもな」
 ここで幸村は十人全員を見て言った。
「我等全てが飲めるだけの銭を稼がなくてはな」
「あの、殿だけ飲まれては」
 海野は幸村の今の言葉に怪訝な顔で返した。
「我等は別に」
「いや、それは違う」
「違うといいますと」
「我等主従は常に共にいると約した、ならばな」
 それならというのだ。
「茶もじゃ」
「それもですか」
「そうじゃ、共に飲んでこそじゃ」
「そうでなければですか」
「ならぬ、だから堺で茶を飲もうと思えば」
 その時はというのだ。
「共に飲もうぞ」
「そうお考えですか」
「これまでもそうであったな」
 幸村は歩きつつ自身の家臣達に問うた。
「我等は寝食を共にしておるな」
「はい、確かに」
 望月が幸村の今の言葉に答えた。
「先程の鍋もそうでしたし」
「だからじゃ、茶にしてもな」
「共にですか」
「飲もうぞ。それに一人で飲む茶は美味くない」
 それはというのだ。
「やはり大勢で飲んでこそじゃ」
「茶道は畏まるものでは」
 清海は頭を掻きつつ幸村に問うた。
「そうでは」
「それでも大勢で飲んだ方がよかろう」
「一人で飲むよりは」
「だからじゃ、皆で飲もうぞ」
「それでは」
 清海も幸村の言葉に頷いた、そしてだった。
 幸村にだ、伊佐も言った。
「殿、では」
「堺に入ればな」
「茶をですな」
「皆で飲もうぞ。他にも色々と見て回ろう」
「堺といえば」
 根津が言うには。
「すっぽんが美味いとか」
「すっぽんがか」
「はい、そう聞いています」
「すっぽんは精がつくという」
 猿飛が根津に言った。
「よいのう」
「そうじゃな、身体は大事にせねばいかん」
 霧隠も頷く。
「すっぽんを食うこともよい」
「殿、ではすっぽんも食いましょう」
 猿飛は幸村にも言った。
「あちらも」
「そうじゃな、すっぽんは確かに精がつく」
 幸村も知っている、このことは。
「だからな」
「食うのもですな」
「よい、では皆で銭を稼ぎ」
 その芸でだ。
「それからすっぽんも茶も楽しもう」
「ですな、それでは」
「まずはです」
「堺に行きましょうぞ」
 一行は大坂を後にして今度は堺に向かうのだった。幸村の家臣達を探す度はそれだけで終わるものではなかった。


巻ノ十四   完


                          2015・7・9 
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