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エターナルトラベラー

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第六十話

どうにか最先端の迷宮区付近まで進出してきた俺とシリカ、クライン達。

今日はクラインとは離れてシリカと二人でモンスターを狩っている。

彼らと居るのは心地よいのだが、経験値配分がおいしくないし、何回か戦闘をこなせばあらかたパターンは絞れるから二人でも狩れる。

寄生しっぱなしはアレなので、彼らと同行するときの回復は一手に引き受けているので、実際は結構な出費である。

まあ、半分はクライン達に出して貰っている上に熟練度も上がるから文句はないのだけど。

クライン達は迷宮区でレベル上げをするべく中に入っていってしまったため、迷宮区の入り口付近でMob狩りをする。

え?迷宮区に何で行かないのか?

どうやらこの第一層の迷宮区はオーソドックスと言うか、ボックス型のエリアが連結され、狭い回廊なんかがあるダンジョンである。

そんな所にまだMMOゲームとしても経験の浅いシリカを連れて二人で潜るのは少々辛い。

もう少しレベル的にマージンを稼いでからだろう。

囲まれたら背面の壁に挟まれて逃げられず、回廊で挟まれて抜け出せずHPを削られ…

俺一人なら逃げる事も出来るかもしれないが、シリカと二人でそんな危険は冒しませんよ!

まあクラインも未踏破エリアには行かないって言ってたから大丈夫だろう。

狩りを続けると、どうやら今日の狩りは終わったのか4人組のPTが迷宮区から出てくる所だった。

その一団を何の気なしに眺めていると、なにか記憶に引っかかるものが。

うん?一人足りない?

「あれ?あのパーティー…朝は5人組…でしたよね?」

シリカがそう、最悪の展開を想像して声を震わせて言った。

もしかして迷宮区でHPを全損させたのかもしれない、そんな考えが頭をよぎった時、一団の中で気の弱そうなダガー使いの男性の話し声が聞こえてきた。

「な、なあっ!やっぱ戻ったほうが良くないか?いくら意見が合わなかったからと言ってあんな所で別れるべきじゃ無かったと思う…」

「じゃあオメェだけで戻れよ!オリャぜってい嫌だね」

恰幅の良い大剣使いがそう言い返す。

「そ、それは…でも彼女隠蔽のスキルは無いって…」

ダガー使いは次第に声を小さくして反論できなくなってしまった。

と、そこで聴覚の範囲を超えたため声も聞こえなくなってしまう。

迷宮区の中に取り残されるとか、死亡フラグだろっ!それっ!

…ちっ嫌な事を聞いてしまった。

…だけど俺には関係ないよ。

俺は人を殺した事もあるし、他人の死なんて割りとどうでも良いと考えるドライな人間だと思うし、全てを救える正義の味方では無い。

…無い…けど…

「今の話…もしかして中に置いて来たって事ですか!」

シリカが驚愕に目を見開く。

「どうしましょう…助けに行かないと。一人は危険ですよね?」

そりゃそうだ。

ソロなんて基本いつでも死が隣にある。

面倒だから、関係ないからと、シリカが居なかったら多分見捨てているんだけど…

「あーーーーーっくそっ!」

知らなければ悩む事も無いのにっ!

「シリカっ!かなり危険かもしれないけれど、助けに行く?」

「っはい!」

即答でした。


俺はイライラしながら迷宮区の潜っているクラインにメールを打つと迷宮内を駆ける。

アクティブモンスターだけ何とかいなしながら索敵スキルを頼りに駆けた。

迷宮区を駆け回ると索敵マップの片隅にプレイヤーキャラを現す光点と、それを囲むように点灯するMobの光点を発見した。

コレかっ!

俺は最短距離で駆けつける。

視界の先に5匹のコボルトに囲まれた少女を発見する。

その手に持った細剣を懸命に振り回し、コボルトへと攻撃している。

しかし、焦ったのか彼女はソードスキルを放ってしまった。

その攻撃で目の前の一匹を屠り、二匹目に大ダメージを与えたが、そこでスキルの発動が終わり硬直する。

囲まれたときのソードスキルは自殺行為だ。

「あ、危ない」

シリカが叫ぶ。

硬直している彼女にコボルトの攻撃が迫る。

一撃、二撃、三撃…

このゲーム、PTを組まないと相手のHPバーは見れないけれど、彼女の顔が蒼白に染まっていくのを見るともしかしたらレッド直前までダメージを受けているのかもしれない。

現実世界なら一足で縮められる距離が今この世界ではとても長い。

それでもAGIの許す限り懸命に走り…

御神流『射抜』

四撃目を入れる直前でどうにか俺は彼女の横合いからコボルトに一撃を入れることに成功する。

御神流で一番最長の射程を誇る突き技だ。

突き出した右手を返す勢いで左手の海賊刀を突き刺す。

するとコボルトのHPを全損させてポリゴンが爆散するが、それを確認するよりも速く俺は体を回転させて残りの3匹へと攻撃を繰り出す。

虎乱からの凪旋で残りの3匹を瞬殺する。

何とかその3匹も倒しつくし索敵範囲内に敵が居ない事を確認すると少女のほうへと振り返る。

外の世界の美醜が再現されているこの世界においてここまで整った顔立ちの少女はそれはもともと美人であるのだろう。

取り合えずアイテムストレージからポーションを取り出して目の前の少女に使用する。

「あ、ありがとうござ…あいたっ!」

少女の言葉をさえぎったのは俺の拳骨だった。

「ヒール」

ポーションを再度取り出し頭に押し当ててキーワードを唱える。

たちまちHPが回復した。

「アオさんっ!?」

俺の拳骨にシリカも戸惑う。目の前の少女は尚更だ。

「あ、あの…なぜわたしは殴られたのでしょう…」

「殴りたかったから」

「はぁっ!?あなたは初対面の人間を殴りたかったからって言う理由だけで殴るんですか!?」

いや、まあ本当はダンジョンでPTを抜けて一人で何やっているんだ!とか、複数の敵に単体用のソードスキルを使ってどうするんだ!とか、俺が来なければ死んでいたかもしれないんじゃないか?とか、まあ他にも色々言おうとしたのだけど、えらそうなSEKKYOUはしないと決めているので言葉を飲み込んだ挙句、取り合えず拳骨を落としておいた。

「いや、まあそれはいいでしょ」

「良くありませんっ!」

ウガーと吼える少女。

「それより、君はソロでこんな所で何しているんだ?逃げ場の少ないこう言ったダンジョンでソロは命取りだよ」

「それはあなたに関係ない事じゃないですかっ!」

「確かにね。とは言え俺は迷宮区に入る予定なんて無かった」

「はあ?じゃあ、あなたこそ何でこんな所に居るんですか?」

「迷宮区の入り口で狩りをしていたんだけど、朝入って行ったパーティーのメンバーが出てきたときには少なくなっているのが見えたからね、死んだのかと思っていたのだが、どうにも聞こえてきた声がね…気になったから駆けてきた」

「それは…」

俺の答えを聞いて黙り込む少女。

俺の剣幕にシリカも声を挟めない。

「んで?なんでそんな事になったんだ?」

俺の質問にとつとつと答える少女、名をアスナと言った。

迷宮攻略と経験値取得に執着しているアスナが今日の攻略を終えて帰ろうとしていたPTメンバーを引き止めたのが原因だそうだ。

意見の対立は次第に激化し、ついにはこんな迷宮の奥深くで別れる事態になったそうだ。

それを聞いての俺の意見はと言うと。

「…こいつバカだ…」

「なっ!?失礼ですね!」

だって、バカだろう。

そりが合わないメンバーだったのなら、こんな危ない所で別れるより一度戻って別PTで十全の準備で望む事が望ましい。

意見が対立した挙句、勢いでPT離脱なんてしていたら幾ら命があっても足りやしない。

そう答えるとアスナはさらに意気消沈した。

どうやら彼女はこのゲームに憤っているようで、ゲームクリアに燃える情熱で不安をかき消しているのだろうが、それが判断を鈍らせているようにも見える。

なんていうか、現実世界ならばいいとこのお嬢さんか学級委員長と言った感じだろうか。

「取り合えず、町までは一緒に行ってやる。その後は知らん」

「わたしはまだ経験値をっ…あつつっ…」

ゴチンっ

「ああ、またですか!?」

シリカが声を上げる。

取り合えずもう一発殴っとく。

「俺はあんたみたいな、どこか壊れた考え方をする奴は嫌いだけど、さすがに目の前で死なれるのは、ね。だから今日は帰るよ。シリカもいいよな」

「あ、はい」

俺のプレッシャーに屈したのか、アスナはコクンと頷いたあと、俺の後を付いてきた。

さて、帰るか。

あ、取り合えずクラインに見つけたってメールしないと。

彼は義理固いからメールが来るまでは探してくれているだろうしね。


side アスナ

その時、わたしは死を覚悟した。

今朝組んだ臨時パーティー。

本当は組む気なんて無かったし、彼らがわたしの後を勝手についてきただけだ。

それでも彼らと潜った迷宮区の攻略と経験値稼ぎ。

わたしはボスへの挑戦はしないまでも一層でも多くのエリアをマッピングしたかったし、もっとハイスピードで経験値が得れると考えていた。

けれど、実際はあまり進むことは無かった。

彼らは一層目での狩りを重点を置き、リポップを待ち、3つ位のエリアを行ったり来たりするだけだった。

わたしは焦った。

こんなんじゃいつになっても現実になんて帰れないと。

そうして口論になる。

するとどうしても行きたければ一人で行けばいいだろうという流れになってわたしはPTを抜けた。

そろそろこのゲームにも慣れてきて慢心もあっただろうし、敵も順調に倒せていたのが仇となった。

一層を独力で突破し第二層へと足を踏み入れたわたしは少ししてかなりのピンチに陥った。

このフロアに出てきたモンスターの数が今までのフロアよりも多いのだ。

しかも、フロアの中腹で戦っていたのだが、後ろでポップしたモンスターに挟まれ、逃げ道を完全に塞がれてしまう。

何とか残り五体まで減らしたけれど、そのときには既にわたしのHPは半分を切っていた。

このままではと焦ったわたしはソードスキルを目の前のコボルトに放った。

しかし、それは失敗だった。

手前の一匹は倒せたがスキル硬直時間がわたしを襲う。

迫るコボルトの攻撃にわたしのHPはレッドに突入した。

死ぬ。

後一撃、敵のコボルトの攻撃を受けたらこのゲームのアバターのHPが全損したら…現実世界のわたしの頭をおおっているナーヴギアから発せられる電波で脳を焼ききられて…

動け、動いてと祈った所でわたしの体は動かない。

もう駄目かと思った時、わたしの横合いから一筋の閃光がコボルトを襲った。

わたしはその時の光景を忘れないだろう。

彼が振るった二本の剣は瞬く間にコボルトを屠る。

後にわたしの最愛の人になる黒の剣士と言われたキリト君をしてもあの域には到達し得ない、長い年月で研鑽した美しさを感じた。

戦闘が終わると彼はわたしの元へと歩み寄りストレージからポーションを取り出すとわたしに押し当てて使用してくれた。

わたしは助けてくれた事とHPを回復して貰った事にお礼を言おうと口にした瞬間、言葉を言い切る前に頭部に衝撃が走り、目の前がチカチカ点灯したような錯覚に陥った。

いたい…

しかもしっかりHPが減ってるし…

なぜ拳骨を貰ったのか尋ねると、返ってきた答えは『殴りたかったから』とか、コレはわたし怒っていいよね?

その後、アホだのバカだの散々罵られたけど、言ってる事は尤もだったから言い返せなかったけど…

しかも、わたしは初めて面を向かって人から嫌いだって言われたかもしれない。

取り合えず町へ帰るから来いと誘った彼に、まだ経験値を稼ぎたいと言ったらまた拳骨を貰った。

後で冷静になって考えると、あの時引き返して本当に正解だったんだと思う。

これがわたしと彼、アイオリアとの初めての出会いだった。

side out


おせっかいを焼いた次の日。

俺は今日もクラインとは別に迷宮区手前でシリカと狩りをしようと町を出ようとして、昨日の少女に捕まった。

「結構遅いんですね。とっくに他のPTがフィールドに出てますよ」

「あ、アスナさんです」

シリカがアスナを発見してそう言った。

昨日はアレから隠蔽と索敵のスキルを上げようと結構遅くまでフィールドに出てたからね、これでも早いほうだ。

「えーっと?アスナだっけ。何でこんな所に?」

「あなたを待っていたの」

おおぅ…美少女の待っていたの発言。

普通なら嬉しい発言であるが、時と場合がそんな甘い想像を完全に否定する。

「なぜ?」

「あのっ!わたしに戦い方を教えてっ!」







断ったのだけど、フィールドに出ても付いてくる始末。

隠蔽スキルを駆使して距離を取ったはずなのに気が付いたら側に居る。

何コレ、ホラー?

隣で戦う彼女を見る。

足の運び、敵との距離の取り方、重心の乗せ方と、やはり素人だった。

それでも敵を倒せるのはシステムアシストとソードスキルによるところが大きい。

「アスナさん、嫌いなんですか?」

今の状況を見てシリカが俺に尋ねる。

「無謀と命知らずは側に居ると危険」

「そうなんですか…」

しかし、横目に見ていると危なっかしくて、つい声が出てしまう。

俺の注意を聞き、実践の中でまだまだ覚束ないまでも身につけようと努力する姿に結局俺が折れた。

「やっ!はぁっ!」

アスナが振るった細剣が目の前のゴブリンを屠る。

油断無く直ぐに距離を取り、横合いから切りかかった敵の攻撃を避ける。

すかさずカウンター気味にソードスキルを展開すると、その連撃で敵のゴブリンのHPが吹き飛んで爆散する。

「ふぅー」

アスナは戦闘が終わった事に安堵し、目を閉じて緊張を解いた。

一息つくアスナに激を飛ばす。

「敵を倒し終えたからといって油断しない!」

「え?でもっ」

敵はもう居ないと言いたいのだろう。

「フィールドに出たら気は抜いても油断はしない」

「ええ!?」

それは無理じゃない?みたいな顔をするアスナ。

「その二つは別の事だと言うことを忘れないでね」

集中力を長時間維持する事は長年訓練を積んできた俺でも5時間がいい所。

常人である彼らには出来て30分だろう。

だから、適度に緩める事は必須だが、程度を知れと言う事だ。

「アイオリアよぉ…それは無理なんじゃねぇか?普通」

隣に居たクラインがそう漏らすが、そんな事は無い。

「まぁ、出来ないかもね。だけど俺が言いたいのはいつも周囲の事に一定の注意を向ける事を怠るなって言う事だね」

「なるほどね」

なんでクラインが今ここに居るのか。

アスナに訓練をつけ始めると、途中で俺達の姿を見つけてやってきたクライン達も、代わる代わる常時一人位が俺達の所で一緒に訓練をしていて、今はクラインの番だと言う事だ。

他の皆はPTを組んでレベル上げをしている。

戦闘に関しては素人の彼らの、生き残るためには年下に指導を請う事も辞さない覚悟に俺は強く断る事もできず、もはや断る気力も無い俺はシリカとアスナの訓練のついでで良ければと了承してしまったため、ここ数日はずっと彼らの訓練をみている。

このゲーム、体力づくりというプロセスが一切必要なく、その分実技の指導に時間が割けるのだから上達も早い。

生き残るために必死な彼らはさらに早いだろう。

「そう言えばよぉ、どうやらボス攻略レイドパーティーの募集しているのは知っているか?」

クラインの言葉にピクリと耳を動かしたようだが、平常心を保ちつつ聞き耳を立てているアスナ。

「ボス部屋までのマッピングは終わったって事ですかね」

「だろうな」

「それで?クラインはどうするんです?参加するんですか?」

「……どうすれば良いかな」

珍しく歯切れが悪いクライン。

「そんなの参加すべきよっ!倒さなければクリアは無いんだから」

今まで会話に入ってこなかったアスナがたまらずそう捲くし立てた。

「………」
「………」

「何よ!あなた達もクリアを目指してレベル上げをるんでしょう?違う?」

アスナの糾弾。

「そうなんだがよぉ…」

「クラインが弱気になるのも分かるよ」

「どう言う事?」

「なあ、アスナ。アスナはさ、このゲームで一番大事なのは何だと思う?」

「えっと、レベルかな。レベルが上がれば強くなるし、死ににくくなる」

レベル制MMORPGでのそれは確かに重要だろう。だけど…

「情報と判断力」

「え?」

「デスゲームになったこの世界で一番必要な物」

アスナの顔がどういう事と問いたそうな顔をしている。

情報が足りてないんだ。だからクラインはうかつに判断が出来ない。そう言って言葉を続ける。

「まず、どのくらいレベルがあれば安全にボスを狩れる?」

「そんなの分からないわ。分かる物じゃない」

そうだね。

「じゃあ、ボスはどんな姿でどんな攻撃をしてくるのだろうか。これが分かるだけで生存確率は上がるよね」

「そうだね、でもその為にはボス攻略に行かなければならないじゃない」

「何の策も無しに連携すら出来ない即席のチームの大人数で?俺は嫌だよ。混乱は死を招く。冷静さを欠いた集団は全滅するだけだよ」

特にまだカリスマを持った指導者が出てきていないのなら尚更だ。

「じゃああなたはどうしたら良いと思うのよ!」

うーん。この場合は…

「小規模パーティーがボスにひと当てして撤退。情報を持ち帰ってから戦略を立てて大規模レイドでの攻略だね」

出来れば誰かがボスの攻撃を食らって貰えると被ダメージが分かるからなお良いね。

「でも危険だわ」

情報収集役が?

「そうだろうね。だけど、確実に被害は減る。危険だけど、情報が得られたら確実に死者は減るだろうね」

最悪は小規模パーティーでボスを打倒する事かな。

第一層のボスが一番弱いだろうから、ここでなるべく多くの人数を経験させるべきだ。

その経験から手段を画一化し、他チームとの連携の手段を構築出来なければ到底100層なんて登りきれまい。

「…そう、でもわたしは行くわ。…生きて帰れたら、続きをお願い」

そう言ってアスナは俺達から離れ、町へと戻っていった。

「アオさんっ!」

「あーあ、どうすんだよアイオリア。あんなに追い詰めるもんじゃねぇぜ?」

シリカとクラインからの糾弾。

「………」

「まぁいいや。今度のレイドはオレ達も参加する事にする。知り合ったからにゃ死なれても寝覚めがわりぃし」

お前はどうするんだ。そうクラインの目が語っていた。

「……まぁ、俺は直ぐに逃げられる位置で参加するよ。シリカは?」

「私も行きます」

まあレベル的には俺達と一緒だし、大丈夫だとは思うが…

混乱によって戦線が崩壊したら早々に見切りをつけて逃げるとクラインに宣言する。

足を引っ張られての死亡なんて受け入れられない。

だから卑怯と言われようが構わない。



シリカとクラインと共に勧誘があると言う広場へと到着した。

コロッセオか小劇場を思わせる造りの観客席のある広場に30人ほどのプレイヤーが座っている。

「結構いっぱい居ますね」

「そうかな?この世界の総人口に比べればかなり少ないでしょう」

おそらくここに集まった者が今現在ではトッププレイヤーであろう。

音頭を取るのは片手直剣使いの男だ。

男の装備は周りに見えるプレイヤーより一ランク上に感じる。

ここまでの装備の充実振りを考えるに彼は腕に自信があるβテスターではないだろうか。

失念していた。

クローズドβのテストプレイヤーの存在、それはこの低層においてはアドバンテージ足りえる。

彼らの内何人かはボス戦を経験したものも居るだろう。

ならば、とも思う。

今回の大型レイドの募集も慣れていたようだし、期待できるかもしれない。


期待通り、彼は一層のボスの攻略方法を知っていた。

彼の取り出した一冊の本。その本ははじまりの街で配布されている攻略本らしい。

それはβテスターからもたらされた情報を編纂し、プレイヤーに対して配布されている物らしい。

らしいと言うのははじまりの街を抜けて以来あの街には近寄ってなかったから知らなかったのだ。

その本に記された大一層のボスの攻略方法。

それは凄いアドバンテージだ。

攻略方法が有るからと斥候を出す訓練を積まなかった事がほんの階層を少し上がるだけで後悔する事となるのは別の話だ。

なぜならその情報が、死に戻りありきで集めた情報だと言う事を誰もが忘れようとしていたのだから。

結果だけ言えば、一層のボスは何人かの脱落者は出たが、比較的あっさりと攻略される事になる。

俺はシリカとコンビでフロアボスのお供Mobをシリカとスイッチしつつ、ソードスキルも駆使しながら引き付けている内にボスは攻略されていた。

ボスに果敢に挑んでいったアスナが印象的だった。

第二層が開放されると、アインクラッド中がどよめいた。

それはそうだ。

絶望の中に一筋の光が差し込んだ瞬間だったのだから。

第二層が開放されると直ぐに俺は第二層主街区のアイテムショップを回り、武器屋を除いて装備を一新するとクライン達と待ち合わせてフィールドに出る。

アスナとはボス戦以降会っていなかったのだが、主街区一帯のモンスターの行動をクライン達と一緒に把握し、シリカと一緒に二人で狩っているときにはひょっこりと現れて何食わぬ顔で合流していた。

結構きつい事を言ったような気がするのだけど、意外と図太いようである。

第一層で皆時間を掛けて限界までレベルを上げていたためか、第二層のMobは旨みが少なく攻略速度が第一層と比べるべくも無くハイスピードでプレイヤーが進撃している。

この調子なら結構早く迷宮区も到破されるのではなかろうか。

十日で第二層を突破し、第三層に取り掛かった攻略者達。

第三層はレベルアップに励むプレイヤーが多く、10日経っても攻略自体はそんなに進んでいない。

第三層の主街区から出てフィールドにシリカとアスナと一緒に出る。

このエリア、どうやら四足の動物がモンスターのモチーフになっているようで、先ほどから犬やら狼、猫なんかをアレンジしたようなモンスターにエンカウントしている。

「ちょとっ!アオ、あなたも戦いなさいよっ!」

そう言ってアスナは近くのネコ型のモンスターに切りかかっている。

「そうですよっ!あたし達だけに任せないでくださいっ!」

シリカも抗議の声を上げる。

「俺は猫と狐は斬らないと決めている」

犬や狼、大きなイタチなんかはちゃんと相手にしてるじゃないか。

特にイタチはいの一番に叩き切っているよ?

それに相手は一匹。

ここ辺りのモンスターは状態異常攻撃はしてこないようなので、二人で攻撃していれば油断しなければ大丈夫だろう。

一応索敵スキルで周りを警戒しているが、今のところモンスターを示す光点は目の前のそれ以外見当たらない。

「何?そのポリシー!そんなポリシー捨ててしまいなさい」

アスナがそう切って捨てたように言うが、そうは言っても、猫は俺には馴染み深いし、狐は久遠を思い出して、どうしても斬れないんだよ。

取り合えず、朝早くからアスナにつれ回されてまだ朝食を取っていなかった俺は出掛けに適当にショップで買った果物を取り出して齧る。

適度な酸味が口いっぱいに広がる。

名称は『キーウィの実』

どこと無くキウイフルーツを連想させる味だ。

果物を齧りながらアスナの戦闘を観戦していると、草むらを掻き分けて飛び出してきた一匹のネコ型モンスター。

瞬間的に抜刀して身構える。

その瞬間、手に持っていたキーウィの実がこぼれてしまったがしょうがない。

索敵スキルを行使していたのだが、接近するまでその存在を示す光点は見えなかった。

これはあのモンスターが俺の索敵スキルを上回る隠蔽スキルを持っていたと言う事か?

今まで隠蔽スキルもちのモンスターの情報は無かったので気を抜いていた所もあったかもしれない。

俺は反省して気を引き締める。

出現したそのモンスターはよく見ると今まで見たネコ型モンスターとは若干違うのが見て取れる。

全身を覆う体毛はネコにはあるまじき銀色の羽毛。

背中を見ると一対の翼が付いている。

尻尾は付け根から二本付いている。

容姿も変わっているが、一番変わっているのはエンカウントしたというのに敵意が見られない所か。

こちらを攻撃するわけでもなく、こちらの様子を伺っている。

すると突如としてそのモンスターは俺が落としたキーウィの実へと歩み寄り匂いを嗅いだ後かじりついた。

「何?腹が減ってただけ?」

キーウィの実を一つ食べ終わると、羽猫は俺の足元へと擦り寄ってくる。

索敵スキルの光点は、味方を表す色へと変わっている。

「えっと?これは…」

どうしたものかと困惑していると後ろからアスナに声を掛けられた。

「何?その子。モンスターでしょ?」

「かっ!かわいいですっ!」

シリカよ、相手は敵対モンスターだぞ…多分。

その声に驚いたのか、さっと俺の後ろへと身を隠す羽猫。

「よく分からん。俺が落っことしたキーウィの実を勝手に食べたかと思ったら、今度は懐いてきた」

「はぁ?」

うなーん

足元の羽猫がかわいく鳴いて、あたかも敵ではないとアピールしているようだった。

「モンスターテイミングね。街で誰かがモンスターを連れていたのを見たことがあるわ」

「そんな事も有るんですね」

アスナがそう結論付け、シリカが感心している。

そう言えば少し前、街でモンスターをテイムしたプレイヤーが、周りを囲まれていたのを見たことがあったっけか。

ごく稀に、所謂『仲間になりたそうにこちらを見ている』的なことが起こるらしい。

その時に好物の食べ物を与える等をすると仲間になる事があるようだった。

今回の場合は俺が落っことしたキーウィの実だろう。

つまり、謀らずともテイムに成功したって事か。

「それで、どうすんのその子。つれて帰るの?」

「む…うーむ…」

どうしようかと視線を向けると、すてるの?すてるの?と視線で訴えているように感じる。

「連れて帰りましょうっ!かわいいですし」

シリカよ…しかし、まぁ。

「連れて帰るよ。あんな目で見つめられちゃねぇ…」

「そうね…捨てられないわね」

「ですよねっ!」

アスナが同意し、シリカは喜色ばんだ。

俺のその言葉に羽猫は俺の肩に飛び乗った。

「よろしくな。クゥ」

「クゥ?」

「それってその子の名前?」

「変かな?」

「ううん。その子に似合ってるわ」

「ですね」

そうしてその日、俺はこの殺伐としたアインクラッドでの癒しを手に入れたのだった。



順調とは言い切れないだろうが、多少の被害を出しつつも、八層までのボスを何とか打ち倒し、今は九層。

「なんか今回はどことなく皆浮き足立ってない?」

と、アスナ。

9回目になったボス攻略レイドの作戦会議。

「そうですね、攻略に参加しない周りの人たちの雰囲気もいつもと違う気がします」

シリカも普段との違いを感じて萎縮している。

「そりゃそうだろ。βテストで開放されていたのは第八層のボスまでらしいから」

「そうなの?」

「そう言う噂をきいた」

第九層が開放されてから直ぐに流れ始めた噂である。

噂とは言っても、おそらく今回の事は真実だろう。

はじまりの街から出てこないβテスター経験者のプレイヤーなら、一日することもなく、また同じ境遇の奴らと話し込む時間は多くある。

その中で話題に出ても可笑しくないし、噂を訂正する話も聞かなかった。

実際、九層の攻略方法が攻略本に記載されてないのだから噂に信憑性を増した。

「つまり、今回はβテスターにしてみても初見と言う訳だ」

周りの喧騒が深まる。

まだこの頃にはギルドを設立しているプレイヤーは少なく、攻略組みと言われ始めたメンバーも、リアルの友達や、気の合うもの同士でPTを組んでいるのが殆ど。

そうなると、意思伝達の窓口は個人と言う事になり、意見を取りまとめる事が困難である。

その中で今までうまくボス攻略できたのは攻略方法がわかっていたからによる所が大きい。

初見で敵に当たるのは難しく、当然斥候をとなるのだが…

「それはあんたらが行けばいいじゃないか」

そう切り出したのは誰だったか。

斥候をと発言したβテスターらしきプレイヤーだが、誰がと言う段階で誰もが口を噤む。

誰も行きたがらないのは当然だ。

まだレベル的マージンが経験からどれほどあれば安全かか分からない現段階で誰が一番死ぬ確率が高そうな斥候など受けるものか。

そこで言いだしっぺのお前が行けと誰かが言ったわけだが、そこはやはり人間。恐怖が強いのか行きたがらない。

そうするともはやこの意見を纏める事は不可能。

後は数が多ければ安全だろうと言う集団心理が後押しして、結局皆で初見のボス攻略へと赴く事になった。

「アスナ。今回はやめたほうがいい」

アスナを止める。

浮き足立ったこの集団では被害が拡大するだけだ。

「………そうかもね。だけどあたしは行くわ」

そう言って決意を固めるアスナ。

「アスナさん…」

攻略への執念で突き動いている彼女はここで折れたら心が折れると言わんばかりのようだった。

「そうか。それじゃ、死ぬなよ」

「ええ!?アオさん!?」

「ええ。あたしは攻略するまでは絶対に死なない」

役割分担を決めるために再度集まる彼らを尻目にその集団から距離を取る。

距離を取る俺に追随するシリカが俺に話しかけた。

「良いんですか!?」

その声に答えるよりも早く、背後からクラインの声が掛かる。

「なんだ?アオは今回は参加しねぇのか?」

「あ、クラインさん」

シリカがクラインを認め、挨拶をしている。

それを待ってから本題を切り出す。

「クライン…今回は駄目そうだ。クラインも行かないほうがいいよ」

「…そうだな。周りを見入ると前回参加したソロプレイヤーがぞくぞくと抜けている。それも見えておめぇの意見も聞いてみようと探してたんだが…やはりか?」

「斥候は出すべきだった。重装備の(タンク)を2パーティー、最低10人ほどを。それをしないで初見でボス討伐、さらには今回は統制が取れてない。混乱による離脱を考えれば戦線が持つかどうかも危うい」

「そうか…そう言えばアスナの嬢ちゃんはどうした?」

無言で視線をプレイヤーの輪に向ける。

「…行くのか」

「止めたんだけどね」

「……やっぱ今回はオリャ出る事にするわ。ただし後方支援でだな。ピンチになったら彼女を担いで逃げてくらぁ」

そう言ってクラインは仲間のほうへと戻っていった。


結局このボスは攻略されたが、その戦いで三分の一が死亡すると言う、かつて無い惨事で終わる事になる。

アスナとクラインの仲間はどうにか一人も欠ける事は無かった事は幸いだったが、これで大型レイドの基本からちゃんと見直さないとコレ以降の攻略は難しいだろう。


第10層が開放されて三日が過ぎた。

二日間宿舎に引きこもっていたアスナだが、今朝フィールドにでる門を超えようとした所でつかまり、一緒にレベル上げにフィールドへとでることになる。

三日前、ボス攻略で多くの人がその命を散らした。

目の前で誰かが死ぬことを経験した事の無いアスナは、気持ちの整理を、モンスターを倒す事で誤魔化している。

御しきれない心情はその動きを鈍化させ、

「っあ!」

目の前の植物型のモンスター、見た目は切り株であるが、手が生えており、両手で持った斧を振りまわし、アスナが迂闊に放ったソードスキルをその斧で受け切ると反撃とばかりに斧を振るう。

ザシュッザシュッ

「っああ…」

「アスナさんっ!」

シリカからは遠い。

恐怖でさらに思考が麻痺し、硬直が終わっても動けずにいたアスナ。

「クゥ、こっちにウィンドブレス」

「なう!」

横合いにいたクゥにそう言うと、目の前の切り株お化けをクゥに任せてアスナに向かって駆ける。

威力はそれほど高くは無いが、クゥが放った空気の塊に押し倒されて切り株お化けはスタンする。

それを視界の端で確認しつつ、横合いから掻っ攫うようにアスナへタックルして諸共転がり、敵の攻撃をかわすと、直ぐに起き上がり、海賊刀で切り株お化けは斬り倒す。

「バカがっ!迂闊すぎる。そんなんじゃ死ぬよ」

「っごめんなさい」

アスナをその場に残すと直ぐに俺はクゥに任せた切り株お化けへと駆けつけ、止めを刺した。

切り株お化けを倒し終えると、もはや定位置になったのかクゥが俺の肩へと乗っかる。

重さ的な突っ込みはVRだと言う事で流して貰いたい。

6kgもある黄色い電気ねずみを肩に乗っけて走り回る事が出来る人間がいるのだ。突っ込んではいけないこの世の不思議の一つだ。

肩に乗ったクゥが擦り寄り、頑張ったんだからゴハンーと言っているようだったので、アイテムストレージから『マタービの実』を取り出して与えると、器用に両手で挟みカリカリかじるその姿に思わず「リスか!?猫だろう!?」と突っ込みたかったが、意気消沈のアスナを見るとそう言った雰囲気ではない。

アスナは近くにあった巨木に背を預けるように座り込むと、その両腕で膝を抱えるようにしてうずくまる。

そしてとつとつとたどたどしい声で心中を吐露する。

「あの…ね?アオ君はさ、人が…その…目の前でいっぱいの人が死んだことって…ある?」

あ、いや、何聞いているんだろうね、とすぐさま前言を撤回するアスナ。

「ああ、そんな事か」

「そんな…こと?…そんな事ってどういう事!?人が死んだんだよっ!それをっ!」

「うーん。ごめん、他人の死についての免疫はかなり昔に出来てるんだ」

「え?」
「へ?」

俺の回答にアスナは勿論、少し遠くで聞き耳を立てていたシリカも驚いたようだ。


トロールの棍棒で踏みつけられ、サソリに噛み砕かれ、任務だからと何の怨恨も無い人物を殺す。

そんな過去の人生の中で他人すべての死を悲しむなんて心はとうに枯れた。

自分の大切な者が死ねば悲しむだろうし、まだ助けられそうな者を見捨てるまでに人間壊れていないつもりだが、他人の死を悲しむ心は持ってない。

「慣れちゃいけない事だけど、囚われちゃだめだ。救えなかった後悔で自分が死んだらバカだろう」

「あなたは実際に目の前であんなに人が死んだ所を見てないからそんな事が言えるんだよっ!」

「…有るよ」

「っ…」

俺の告白に息を詰まらせるアスナ。

「人が死ぬのを見たくないなら攻略は諦めて街から出なければいい。攻略を続けるなら今日なんて比じゃないくらいの数の人が死ぬところを見ることになる」

この言葉で攻略をやめるならそれも彼女の選択だ。

さて、今日はもう駄目だろう。

アスナを引き連れて無理やりでも街に戻ったほうがよさそうだ。


次の日、フィールドへと出る門の前で俺を待ち構えていたアスナは一日考えたのだろう決意を口にする。

「これからもいっぱい目の前で人が死んでいくんだと思う。だけどわたしは、攻略を諦めない。昨日はゴメン、今日からまたよろしくね」

そう言った彼女の表情はようやくこの世界をほんのわずかでも受け入れたようだった。


アスナが立ち直ってから十日。

第九層のボス攻略の訃報はたちまち広がり、第十層の攻略はさらに遅れている。

そんなある日。

キィンっ

剣戟の音が響く。

目の前に迫る細剣を右手に持った海賊刀で防ぐ。

相手は俺の防御を突き破ろうと連撃。

細剣を巧みに操り、俺へと迫るアスナ。

俺とアスナは街中(安全圏内)で鍛冶屋でもどしたはずの海賊刀をすり減らしている。

目の前にはアスナが細剣を構え、こちらに向かって連続で突き出してきている。

何故こんな事になったのか。

切欠はそう、アスナの一言からだった。

「わたし、ギルドに入ろうと思う」

フィールドに出ようとした俺を呼び止めたアスナが発した言葉だ。

どうやらギルドの勧誘が有ったらしい。

どうやら攻略ギルドのようだと言う話だ。

「へぇ、良いんじゃないか?うん、それじゃ今までありがとう」

「え?意外にあっさりだね」

「そうか?」

俺は最初に言ったぞ、あんたは嫌いだって。

「…まあいいや、それで最後にお願いがあるの」

そうして告げられたお願いと言うのが、安全圏内での模擬戦だった。

見届け人はシリカ。

安全圏内でなら幾ら武器による攻撃がヒットしてもHPは1も減らない。

衝撃は来るが、死ぬことは無いので安心して攻撃できる。

アスナは俺から離れるに当たり、自分がどれくらい成長したのか見て欲しかったのかもしれない。

「ソードスキルは使わないの?」

「まさか。あなた相手に硬直時間のあるソードスキルなんて使えないわ」

その表情は真剣だ。

「そっか」

アスナの攻撃が鋭さを増す。

しかし…

キィン、キィン、ガリン

「あっ…」

アスナの振るった細剣を俺の海賊刀が弾き飛ばした。

ヒュルヒュルヒュル、ザッ

手元を離れ、回転して飛んでいった細剣が道端に刺さる。

それを見てアスナが降参する。

「だめ、あなた強すぎるわ。全然勝ち目が見えない」

「そりゃね。3歳から剣を振っているのだから、VRとは言えほんの数ヶ月ほどで抜かれる訳には行かないよ」

そうかもね、とアスナも同意する。

「ねえ、アオ君ってさ、今(VR)の方が身体能力落ちてるよね?」

「…どうして分かった?」

「うーん、何となくだけどね。ずっと見てきたから、体が思うように動かずにイライラしてるようだったもの。私なんかはレベルも上がった今のほうが現実よりは速く動けているんだけど…アオ君って現実だとどれくらい速く動けるの?」

「うーん、人には残像すら目に残らないくらいかな?」

「さすがにそれは嘘でしょう」

そうジト目で睨んでくるアスナ。

「さて、ね」

内の一族だと結構デフォルトなんだけどねぇ。

俺の言葉がはぐらかされていたと受け取った後、アスナは一度伸びをする。

「うーーーん、はぁっ」

その後姿勢を整えて俺に向き直る。

「今までありがとうございました!」

「うん、それじゃね」

「ちょっと待って!」
「ぐぇっ」

さて、と後ろを振り返った俺の襟元を今別れたアスナに掴まれた。

「フレンド登録おねがい」

なんとも最後は締まらない別れだったが、まぁ会えなくなるわけじゃないからね。
 
 

 
後書き
アニメ二話でアスナとキリトがPT組んでましたが、原作を見ると『圏内事件』が始めてだと書いてあったような?
アニメ放映以前に書いたこともあり、この回はアニメ準拠では無いかもしれません。 
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