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白鯨とクラーケン

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第三章

「貴様を倒す用意は出来ている」
「言うものだ、しかしだ」
「勝つのは、というのだな」
「そうだ、わしだ」
 モビーディッグはクラーケンをその目で見据えつつ答えた、マッコウクジラのその目で。
「それを言っておく」
「ふん、これまで何度もその台詞は聞いたが」 
 それでもとだ、クラーケンはモビーディッグに言葉を返した。
「それも最後だ」
「そうなるのは貴様だがな」
「ではそのことをな」
「今確かにしようぞ」
 こうお互いに言い合いだ、そのうえで。
 両者は互いに近寄りだ、激しい闘いに入った。モビーディッグがその巨大な口の中の牙でクラーケンを襲えば。
 クラーケンは十本の脚でモビーディッグを打つ、しかし。
 モビーディッグはびくともしない、そして激しく泳ぎつつだった。
 クラーケンに攻撃をし続ける、それを繰り返し。
 クラーケンも負けずと反撃する、やがて両者は絡み合い。
 海中で文字通りの殺し殺されるかの死闘になった、しかし。
 その中でだ、両者は。
 海面に出た、その巨獣同士の死闘がだ。
 丁渡その近くにいた船から確認された、その死闘を見てだ。
 イシュメールは仰天してだ、傍にいたダグーに言った。
「おい、見ろ」
「ああ、見ている」
 ダグーもだ、流石に驚きを隠せない顔だ。
「モビーディッグとクラーケンだな」
「両方共本当にいたんだな」
「しかもだ」
 それに加えてとだ、ダグーはイシュメールにさらに話した。
「闘っているな」
「ああ、マッコウクジラとダイオウイカの闘いは見たことがあるけれど」
「これはその比じゃないな」
「まるで化けものだ」
 これがイシュメールの偽らざる本音だった、見たうえでの。
「化けもの同士の闘いだ」
「凄いな」
「いかん、これは」 
 片足が義手、鯨骨で作られたそれである日に焼けた顔の男がここで言った。この船の船長であるジョージ=エイハブだ。
 エイjハブはその死闘を見てだ、船員達に言った。
「すぐにこの場を去るぞ」
「あの闘いに巻き込まれない為にですね」
「そうだ」
 その通りだとだ、エイハブはイシュメールに答えた。
「あれに巻き込まれてはひとたまりもない」
「それじゃあここは」
「取舵一杯だ」
 エイハブはすぐに指示を出した。
「そのうえで反転する、わかったな」
「わかりました」
 船員達も応えてだ、そのうえで。
 船はすぐに死闘の場を去った、しかし。
 両者の死闘は続いていた、そしてだった。
 海中深くに戻ってもそれは続いていた、死闘は丸一日続いたが。
 結局だ、決着はつかずにだった。
 モビーディッグもクラーケンもだ、離れて忌々しげに言い合った。
「残念だがな」
「そうだな、今回もな」
「引き分けだ」
「勝負はつかなかった」
 両方共このことを認めるしかなかった。
「ではな」
「次の機会だ」
「次に会った時は」
「貴様を倒す」
「それはこちらの台詞だ」
 こう話してだ、そのうえで。
 両者は別れた、そうしてだった。
 それぞれ周りの者達にだ、こう言った。 
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