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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1期/ケイ編
  K17 かないっこない“キミガスキ”


 崩壊したカ・ディンギル内部の深奥に、小日向ケイは大の字で倒れていた。

(ありえねえ…生きてるよ、俺…)

 生きてはいるが、体はボロボロで、立ち上がることはできそうにない。むしろこの怪我で生きている自分自身に賞賛を贈りたい。

 動けず横たわっているだけだったケイは、ふと、耳に異音を留めた。

(声が…聴こえる…? 未来の声、他にも、女の子がたくさん…リディアンの子たち、か…?)

 意識は緩やかに覚醒へ向かい、心臓が速く打ち始める。
 降り注ぐ、陽色の光の雪。ぼんやりしているケイは気づかない。

(みんな無事なのはよかったけど、未来の奴、すっかり強くなっちまって。これ、ここで俺が死んでたら絶対別の相手見つけてただろうな。100パー断言できる。うわ想像したらムカついてきた)

 動けないはずの手を、足を、動かす。起き上がる。立ち上がる。
 一歩を踏み出した。恋しい少女のもとへ帰るために。

 その瞬間、碧の光柱がケイを包んで立ち昇った。

「ん、だよ、これ……」

 纏うA・レンズのギアの形が変わった。一言で表すなら、バージョンアップした。

 今ならば未来たちのもとへ戻れる。
 思い、ケイは全力で地面の瓦礫を蹴り、上がった。






 未来は避難室の二段ベッドから出て、部屋のドアへ向かった。
 地上へ出るために。
 当然、弦十郎たち大人は止めた。だが、未来は止まらなかった。

「わたしは響が闇に呑まれないよう応援したいんですッ! 助けられるだけじゃなく、響の力になるって誓ったんですッ!」

 まさに踵を返し、ドアの前に立とうとする寸前。
 外からドアが蹴り開けられた。
 部屋に入ってきた男の姿を見て、未来は泣いてしまいそうになった。
 XDギアを纏い、精悍な面差しで優しく笑う、未来の義兄にして恋人――小日向ケイ。

「遅くなってごめんな。ただいま、未来」

 未来は込み上げる感情に任せてケイに飛びついた。ケイは未来を受け止めると、きつく抱き締めてくれた。

「ところで未来、どこ行こうとしてたんだ。外は危ないの知ってるだろ?」
「知ってるけど、わたし、響のとこに行きたい。スピーカー越しじゃなくて、わたし自身の声で響を応援したいの」
「やっぱ未来ならそう来る気がしてた」

 するとケイは目を細め、未来には聞こえない何かに集中するような様子をした。





 ケイは念話のチャンネルを翼とクリスに合わせた。

(風鳴、雪音、聴こえるか?)
(小日向! 無事だったか)
(何とか。二課の人たちも無事だ。それよりさっきの作戦。今から未来たちを連れて上を目指す。だから迷わずやっちまえ。響ちゃんが暴走したって、未来やみんなの声があれば、響ちゃんは自分を保てる)
(――承知した。チャンネルをオフにしてくれ。フィーネに聴こえてしまう)
(ああ。無茶はするなよ。風鳴も雪音も女の子なんだから)
((な…っ!))

 これ以上は大変なことになりそうだったので、ケイは急いで念話のチャンネルを閉じた。

「上の段取りOKです。俺が護衛に付きます。露払いくらいはできると思いますけど」
「これほど頼もしい露払いもあるまい。俺も行こう」

 弦十郎が立ち上がった。緒川も、藤尭と友里も、弓美と創世と詩織も。






 未来は大人組の案内で地上に繋がる階まで上がった。エレベーターと非常階段の併用だったため、さすがの元陸上部である未来も足に疲労が蓄積していた。

 道を塞ぐ瓦礫は、ケイがプリズムレーザーから撃つ碧の中粒子ビームで弾き飛ばして砕いてくれた。

(もうすぐリディアンの正面口!)

 だが、そこは今まで通ったどんな道よりも、瓦礫がびっしり積み上がっていた。

「そんな……」
「大丈夫だ。何とかする」

 ケイは地面に座って体を固定し、バイザーをかけてレバーを握った。

「後ろから離れといてください。反動で吹っ飛んだ俺とぶつかったら大ケガしますよ」

 未来は弓美たちと共に素直に隅に退避した。

 だが、そうしない大人もいた。
 緒川と藤尭だ。
 彼らはケイの背に手を当て、反動を少しでも殺そうとしてくれていた。

「……すいません、緒川さんも藤尭さんも」
「少しでも力になれるのなら」
「司令に負けちゃいられないからね」

 緒川と藤尭に背中を押さえてもらいながら、足を突っ張り、飛ばされないよう固定する。

「バウンドしろ、プリズムレーザー!!」

 ケイのレバーを引いた。砲門から碧の中粒子ビームが発射された。ケイはバイザーに映る透視映像を頼りに、ビームの勢いが死なないよう、ブームを壁に幾度も跳弾させて障害になる瓦礫だけを砕いて行った。

 光が目に痛いほどに差し込んだ。出口が開けたのだ。

「急いで! デュランダルを響ちゃんが掴む前にッ!」

 ケイが先頭を行き、弦十郎たち大人組が先に進み、未来たちはその後を追って、ついに外へ出た。





 空を舞う戦姫たちに驚く暇も与えられない。親友の手には、かつて彼女を暴れさせたという不吉な大剣が握られている。

「正念場だッ! 踏ん張り所だろうがッ!」

 弦十郎の叫びに気づいてか、全身を黒く飲まれていた響の顔がこちらに向いた。

「強く自分を意識してくださいッ!」
「昨日までの自分をッ!」
「これからなりたい自分をッ!」

 そこで黒と白が拮抗している響に、両脇から翼とクリスが寄り添った。

「あなたのお節介をッ!」
「あんたの人助けをッ!」
「今日はあたしたちがッ!」

 だがその声援こそが、弦十郎がベイバロンと呼んだ怪獣に同化したフィーネには琴線に触れたようで。

『姦しい! 黙らせてくれる!』

 触手が何本も未来たちへと向けられた。だが。

「――させねえって言ってんだろ」

 すばやくケイが未来たちの前に出た。
 バキンッ、とケイのプリズムレーザーが変形し、巨大なガンブレードの形を成した。
 ケイはガンブレードを袈裟切りに揮った。
 刀身から放たれた碧の大斬撃が、触手を全て焼き切った。

「未来!」
「響ぃいいいいいいいいいいッ!!」

 大声で呼んだ。ただそれだけ。それだけが、必ず親友に届くと信じていたから。

「ビッキー!」
「響!」
「立花さん!」

 重ねられる、彼女を呼ぶ声。立花響を呼び覚ます声。
 瞬間、禍々しさが消え、黄金の光柱が響たちから立ち上った。

『その力、何を束ねたッ!?』
「響き合うみんなの歌声がくれた――――シンフォギアでぇえええええええッ!!」

 振り下ろされた黄金の光柱は、ベイバロンを上から下へ切り裂いた。
 やがてベイバロンを襲う爆発が小規模なものから大規模なものに変わり、ついにベイバロンの全身は爆散した。 
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