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RSリベリオン・セイヴァ―

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第三話「RSリベリオン・セイヴァ―」

 
前書き
ようやくRSの説明です。細かいかどうかはわかりませんが…… 

 
「……」
暗い闇の中、俺はそこにいた。自分の体以外は何も見えない暗く寂し場所だった。
「ここは……」
辺りを見ても闇ばかりが広がる世界。長居するだけで虚しさに包まれてしまう。
『お前はダメな人間だ……』
「!?」
どこからか聞こえた声に俺は振り向いた。その声は、親父の声だった。
「親父……?」
いや、親父だけじゃない。
『どうして舞香だけが優秀なのかしら? 飛鳥なんて産むんじゃなかったわ……』
「お袋……」
そして、
『なんでアンタなんかがアタシの兄貴なんだろ? どうして、アンタなんかが生まれてきたの?』
「舞香……」
妹も俺を否定した。俺以外の家族すべてが、俺の存在を否定する。
『不良品め……』
『産むんじゃなかったわ……』
『いっそ死んじゃえ……』
その言葉が繰り返し俺の頭へ直接響いてくる。
「や、やめろ……!」
『お前に生きる資格はない……』
『あなたのような子はいらないわ?』
『早くここから居なくなってよ!』
「黙れ! 黙れぇー!!」
何度も響いてくる声に俺は苦しみながら叫び続けた。

ガバッ……
勢いよくベッドから起き上がった。先ほどの出来事は夢、それも悪夢だったのか……
「……!」
息を荒げ、汗だくになった額を片手で拭うと、カーテン越しから照らされる日差しへ顔を向けた。
やや眩しいものの、外の景色が見える。
「ここは、どこだ?」
最初に思いついたのが、自分が今居るこの場所だ。見知らぬ白い部屋に白いベッド、まるで病室のようだった。
「俺は……いったい?」
頭を抱えて、どうにか思いだそうとするも、まだ疲れが溜まっているせいか思いだせそうになかった。駄目だ、何も覚えていない。我武者羅にISの連中に突っ込んで、そうしたら気が付いた時には二本の刀を手にIS相手に大暴れして……まてよ?
「お、俺は……!?」
そう、徐々にあの一面を思いだした。俺が、二刀の刀を振り回して次々にISの女性たちを斬り殺していった……
「ひ、人を……殺したのか!?」
今思うと、ますます罪深さを抱いてしまう。俺は、人を殺してしまったのだ……
「……ッ!!」
両手で頭を抱えると、俺はとっさに苦しみだした。自分が初めてしてしまった罪深さに。
「お、俺は……!」
「お前が悪いんじゃねぇよ? テロ相手に情けなんかかける必要はねぇ……」
ある男の声に俺は振り向いた。いつ来たかわからないが、一人の男が隣に立っていた。
ワカメのようなひらひらした前髪にボンヤリとした目つき、どこかで見覚えのある男だが、よく覚えていない。
「……」
「奴らはISのテロ共だ。お前と弥生を殺そうとした悪党共だ。悪党に女が居ようが男が居ようが、そんなの関係ねぇ」
「テロ……?」
俺は首を傾げた。別に珍しい物じゃない。ただ、今は頭が混乱しているだけだ。
「ああ、それも厄介な相手だが、お前がRSを使ってくれたおかげでとりあえず、一安心できた。まずは、礼を言わせてくれ?」
「そんな……俺は、礼を言われることなんて……」
ふと、俺は男から視線をそらした。
男は、隣に置いてあるパイプ椅子に座った。
「仲間を救ってもらって本当に感謝している。本当に、ありがとう……」
「そんな……僕は大したことしていませんよ?」
照れくさそうに言う俺を見て、男は微笑んでこう言う。
「そう照れるなよ? あ、後で住所か電話番号を教えてくれ? とりあえず君の自宅へまでお送りしよう?」
「は、はい……」
しかし、俺は元気のない口調で発してしまった。それを、男は気に掛ける。
「ん、どうした……?」
「いえ、別に……」
「……」
男は、ひとまず間を開けてから喋りだした。
「何か、訳ありか?」
俺は、その問いに口では答えなかったが、わずかに頭で頷いた。
「他人とは言え、俺でよかったら話してみろよ? 解決しないにせよ、スッキリはするぜ?」
「……」
正直、他人に話すのはわずかに抵抗があった。だが、別に家族と言っても嫌っている存在だ。そんな奴らとの日常生活を触れられても嫌とは思わない。
しばらくしてから、俺はゆっくりと口を開けた。
「……俺、元から家族を嫌ってましたから」
俺の答えに、男は「そうか……」と、言わんばかりの顔をした。
「……しかし、どうしてまた?」
男にしてみたら、俺が家族を嫌うことに理解できなかったようだ。
「あ、いや……気に障ることを言ってしまった。すまない」
咄嗟に諦めた男だが、別にそこまで気にしていなかったため俺は彼に家庭でのことを話した。
「……家庭から、孤立しているんです。俺……」
そう俺は喋った。
「孤立?」
「俺は、エリア9に住んでいる住民でした。けど、俺だけはその中で一番出来が悪くて、両親や妹からはいつも冷たくあしらわれていて……」
「……」
男は、黙って俺の話を聞いていた。まるで、境遇は違えど、同類を見るような目で俺を宥めた。
そして、男はこう思った。
――こいつ、俺と同じ目をしてやがる。
境遇は違えど、同じ孤独を抱えているんだ。昔の自分となんとなく被る気がした男は、親しくこう語りかけた。
「……なぁ、『白騎士事件』って、知ってっか?」
「白騎士事件……あぁ、例のISを使った暴動事件でしょ?」
当時としてはあの状況下で被害件数が0件というのはどうも胡散臭く思えたが、それが影響でこんな歪んだ世界になってしまったのだ」
「それだがな、被害件数が0だなんてのは真っ赤な嘘さ?」
「……?」
俺は、男の顔を見上げた。男は構わず続ける。
「普通、あんな戦争沙汰みたいなことをしでかして被害0なんてナシだろ? 実際に目の前で人が死んだ光景を、俺は何度も目にしたことがある。それに俺の親父も……」
男は、次に自分の家族のことを話した。
「……親父は、空自のパイロットだった。だけど白騎士事件でスクランブルして、白騎士に撃ち落されて死んださ? お袋も、政府から口止めをされてからというもの、父親の無念に耐えきれずに自殺した。俺は後に祖父母の元へ預けられたが、それでも俺は常に孤独だった。女尊男卑っていうつまらない風習に押し流されて、いつしか俺は自分自身の存在感に疑問を持ち始めてしまった。だが、そんなある日、俺はRSという存在を知った」
「RS……」
先ほどから、彼が言葉に出すその用語は何の意味を表わしているのか、俺は気になって彼にその「RS」とやらのことについて尋ねた。
「すみません。その、「RS」とは何なんですか?」
「RSか? そういや、説明がまだだったな?」
男は立ち上がると、掌を俺に向かけ出して、何かを呟いた。
迅紅(じんく)、展開……」
その一言を発した途端に、男の掌から光と共に数メートルもの長い太刀が姿を現した。
赤い鞘に納められたその太刀は鮮やかに美しく見えた。
「か、刀!?」
俺は驚いて、まだ残る疲れなど吹き飛びそうになった。
「RS、通称リベリオン・セイヴァ―は、ISを一撃で倒すことのできる武器のことだ。剣や槍、斧などと言った近術武器の形をしているが、見た目とは裏肌にISを一撃で沈める威力を秘めている」
「……」
男の説明に、俺は半信半疑に聞いていた。普段なら信じられない漫画のような内容だが、現に俺は俺はその「RS」とやらを取り出してISと戦った。
「じゃあ、俺が使ったあの二本の刀も?」
「そうだ、RSだ。それも「新型」のな?」
「新型?」
「詳しいこと内容は言えないが、あれは特殊なRSだった」
「なんだか、とんでもないことやらかしちゃいました?」
俺は、またいつものように自分がしでかしたのかと恐る恐る尋ねた。
「いや……君があのRSを展開するまで、装着者は誰も居ないのかと思われていたが、現に居ることを知って、開発部門は大喜びだそうだ……」
「……あの、ひょっとして俺にそれを付けて何かしろってことですよね?」
不安になった俺は男にそう尋ねる。もちろん、図星であった。
「……まぁな?」
しかし、男は「……だが」と付け加えた。
「……これは、君自身で決めるといい。俺たちのことは考えないで、まずは自分の気持ちを伝えてくれ? 俺は、別に強要させる気などない。しばらく考えて、答えが出た時に、もう一度俺の元で答えを聞かせてくれないか?」
「……」
「しばらく休んでいくといい? あ、それともこの基地に泊まりながら答えを見つけ出すのも悪くないぞ?」
「ありがとうございます。でも、もう一度家へ戻ってもよろしいですか?」
俺は苦笑いしてそう返した。
「そうか……なら、そうしてくれ? まぁ、疲れが取れたらそこにあるナースコールを押してくれ?弥生が来てくれるだろう?」
と、男は俺に一枚の紙切れを渡した。
「そこに待ち合わせの場所が記されている。なに、エリア5の第三公園だ。場所はわかる?」
「はい、そこなら……」
そこなら、いつも散歩とかで欲で見ている場所だ。
「紙に書かれた通りの日付と時間帯に来れば俺は居る。あ、仮に忘れたり、紙を無くしたりしたら、お前のところへ直接来るから安心しろ?」
と、言いたいことを言って男は部屋を出て行った。
――何だったんだ……?
不思議な感じの人だと思いながら、俺はしばらく目を閉じて残った疲れを癒した。

「もうお体の具合は大丈夫なんですか?」
ベッドの隣に座る弥生は、俺の体調を気に掛けてくれていた。
「君も、肩の痛みは大丈夫?」
「ええ、すぐに手当てをしてもらいましたから、もう大丈夫です。でも……」
弥生はシュンとしてしまった。
「どうしたの?」
「九条さんが、この先どうお決めになるのか少し気になりまして……」
「あ、そうだな……?」
それは曖昧な感じだ。今の生活も嫌だし、だからといって新たに変えたところで、何か変化が起こるのかわからないし、不安だった。
そもそも、まだこの場所がどういうところなのか聞いていない。とりあえず、俺は弥生に振り向いた。
「天弓侍さん……貴方たちは、いったい何者なんですか?」
本来なら先ほどの男に尋ねるのがいいのだが、緊張もあってそんなに詳しく聞きこめなかった。
「……『リベリオンズ』。この歪んだ世界をただすために集い合ったレジスタンスの組織といったところです」
「リベリオンズ……?」
「正式には、「裏政府」がIS社会に対抗するために結成させた組織です」
「へぇ……裏政府って都市伝説とばかり思っていたけど、やっぱ本当実在したんだ?」
ネットでは少し前から話題になっていた話だ。しかし、それに関する情報やサイトは何者かによってすべて削除されたから、今ではそのページの観覧はできない。
「九条さんは、ご自宅へ帰宅されますか?」
「うん、一旦戻ってから決めないと……」
「そうですか、では……またお会いしましょう?」
と、弥生は俺にお辞儀すると振り返って行ってしまった。
「……」
俺は、彼女と共に過ごした山の中での記憶が嘘のように思えた。だが、女に縁のない俺に取って、いい思い出になったに違いない。
「帰るか……」

その後、俺は数人の男たちによって車に乗せられて自宅まで送り届けてもらった。
俺がいたあの場所は、表向きは無人島らしい。
「紙に書かれた通り、五日後までに待ち合わせの場所まで来てくれ? 誰にも怪しまれずに来るんだぞ? いいね?」
そう言うと、男たちは俺を降ろして車は差って行った。
「さてと……」
現実に引き戻され、俺は嫌な気分になって帰宅した。あれから、何日経ったのか? ある意味で俺に心配しているだろう?
「ただいま……」
俺は、靴を脱いで家に入った。またいつものようにトイレから出た父親とばったり会ったが、親父が何も告げずに俺をスルーした。
「た、ただいま……」
「……」
しかし、親父は黙ったままそのまま行ってしまう。
「待てよ……?」
「……?」
俺は呼び止めて、親父を振り向かせた。
「気にならないのかよ……?」
「何がだ?」
「俺、何日も帰ってこなかったんだぞ?」
「だから、どうした?」
「どうしたって……普通は聞いてきたり、怒ったりするんじゃないのか?」
「怒れば、お前は反抗するだろ? それに、私はもう何も言わん。好きにしろ……」
それだけ言うと、親父は行ってしまった。
「……」
俺がいない間、家族は俺に見向きもしなくなったようだ。ま、何日も家出をしたという形で受け止められていたんだ。心の底では勘当したのかもしれない。

自室に戻った俺は、ふて寝していた。

「……」
ベッドに横たわりながら、あの男が暮れた紙切れを開いた。
『五日後の金曜、メガロポリス・エリア5の第3公園の噴水付近で午後の6時までに来てくれ? 
もし、君が来ない場合は、直接俺が尋ねに向かう。それまでの間はゆっくりと考えてほしい』
――五日後か……
どちらを決めるかといわれたら、正直迷う。ここでの生活は嫌だ、だからといってリベリオンズとかいうヤバそうな組織はどういう存在なのか気になる、。下手すればテロリストなのかもしれない。
しかし、あの弥生という少女もそれに加担しているとは到底思えない。いや……きっと、俺に言った優しい慰めも、きっと俺を騙しているのかも……?
「……!」
考えれば考えるほど嫌になってくる。俺は起き上がり、ゲームでも気晴らしにしようとテレビのスイッチを付けようとした。
「飛鳥、お客さんだ。早く来なさい?」
ゲーム機に触れた途端、親父が俺を呼びだしてきた。俺に客とは考えにくいが、とりあえず一階へ降りて顔を出すことにした。
「はい……僕が、飛鳥ですけど?」
階段を降りて玄関に顔を出した。すると、そこには黒いスーツの男たちが立っていた。明らかに怪しすぎる。そして、何よりもそんな彼らと両親が何やら話し合っているのが気にかかった。
「な、何話してんだよ……?」
俺は問うと、親父は男たちから受け取った黒いトランクを抱えて、その中身を見せた。
そこには……札束がパンパンに敷き詰められていたのだ。
――か、金!?
「全部で3億あります。よろしいですか?」
スーツ男の一人がそう問うと、父親は満足げに頷いた。
「ええ……では、うちの愚息をよろしくお願いします」
「お任せください……」
と、もう一人の男がサングラス越しの目で俺を宥めた。
「!?」
俺は、何が何だかわからずに、両腕を男たちにつかまれて共に玄関を出てしまう。
「お、おい! 離せよ!? 親父! これは、どういうつもりだよ!?」
「お前を勘当する。よって、お前をある施設へ預けてもらうことにした。むしろ、ありがたく思え?」
「ざけんなっ! 要は俺を売ったんじゃねぇのか!?」
「子宝は、舞香だけで十分だ。お前には心底失望した。もう、お前は九条家の人間じゃない。今日から与えられるネームプレートの番号で名乗りなさい?」
「そ、そんな……お袋!? あんたも、親父と同じ考えなのか!?」
「飛鳥……」
しかし、御袋は俺から目を逸らした。
「御袋……母さん!?」
「母さんなんて呼ばないでちょうだい!!」
「……ッ!?」
「あなたのせいで……どれだけ私達のプライドが傷ついていると思っているの? もう、これ以上私たちを苦しめないで……」
その、理不尽な言葉に俺は今まで堪え続けてきた家族への怒りが爆発した。
「なんだよ……何でだよ!? 傷ついているのはこっちじゃないか!? 俺はお前たちの何なんだよ!? 俺も、こんな家に生まれてくるんじゃなかった……」
両親は、最後まで俺を哀れむ目で見ながら、強引に車へ乗せて連れ出されるのを黙って見届けた。

メガロポリス警視庁

凶悪犯罪を専門に取り締まる特捜部の部署にはキャスケットを被った一人の男しかいなかった。
年代は中年ほど、少々ビールっ腹が目立ってきた厳つい顔をした男である。
「ったく、休日の日ぐらい部屋で釣りかゴルフでもさせてくれりゃあいいのによぉ?」
そう呼び出されたことに愚痴をこぼしながら男は指示があるまで待ち続けた。
「多熊警部? こちらが今回のファイルです」
若い部下が、彼の元へ今回の事件に関する情報ファイルを持ち出してきた。
「ああ、そこに置いておいてくれ? このコーヒー飲んだら見るわ?」
「はい……あの、随分とご機嫌斜めのようですね?」
「全くだ! 久しぶりの休日に呼び出されちまうんだからよ? ああ……警察ってのも楽じゃないぜ?」
「そうですか……」
苦笑いしながら、部下はファイルを中年の男こと、多熊警部の机に置いて持ち場へ戻った。
「さて……」
コーヒーを飲み終えると、多熊はファイルを手に取って開いた。
「ISか……」
最近はISに関するいざこざが後を絶たない。彼とて、高慢ちきな女共のことで振り回されるのは心底飽き飽きしている。どうせ、男がISの女の大ゲンカして暴力沙汰に繋がったのだろう?
だが、今回の内容だけはいつも彼を呆れさせてきた暴力事件ではない。
「あぁ?」
内容によると、一人の少年がテロらしきISの集団を皆殺しにしたという、なんともふざけた話であった。
「何だ、こりゃ……」
事件の内容は実に信じがたい話だが、しかしこれは彼へ大いに興味を沸かせる内容となった。
「……ひょっとすると、いや……本当か?」
長年、抱いてきた彼の願望が再び湧き上がる。
「おい! 若いの?」
多熊は先ほどファイルを持ってきた部下を呼び止めた?」
「どうしたんですか? 血相書いて……」
「お、おい! この「九条飛鳥」っていうガキなんだが……この話って本当なのか?」
「ああ……偶然近くを通りかかった地元の老人が、目撃したそうですよ? なんだか半信半疑な内容ですけど……一様、一部始終をケータイで撮影したって言ってましたが、雑音が酷くて……何しろ肝心な映像が映っていなくって、聞き取れにくい音声しか残っていません。ですがそれを調べた結果、どうやらこの内容は本物に近いようなんです。音声の中に、例の若者の名前があったので……」
「……なぁ? その九条って若いのの尋問を、俺にさせてもらっても構わねぇか?」
焦りながら多熊は部下に頼み込んだ。
「え、警部がですか?」
「頼む!!」
必死で頼んでくる多熊に押されて、部下は首を縦に振った。
「わ、わかりました。では……お願いします」

「……」
何もかもがどうでもよくなった。俺は、頭の中が真っ白になる。車に揺らされながら左右を挟む男たちと共に向かうは、警察署であった。
どうして、警察署に行くんだろ? そうか、きっとRSでISの女性を殺したんだ。それがバレて殺人容疑で逮捕されたんだろう……じゃあ、この黒スーツの男たちは刑事達かな? ま、今はどうだっていいや……
警察署の尋問室で、俺は目の前の怖い顔をしたキャスケット帽を被った中年の男、おそらく刑事に怒鳴られながら問い詰められていた。それも、峠道でISを殺してことでいろいろと聞いてくる。
「本当のことを言え! お前は、あのときISの集団をどうやって殺した!?」
「そ、それは……急に刀が出てきて……」
「ふざけるなっ! 俺は、キサマがどうやってISを殺したのかと聞いている!? 仲間達が、どこからか潜んでいたんだろ?」
「違う、俺は……」
「まだ白を切るつもりか!?」
中年の男は、俺の胸ぐらを掴んでその怖い顔をアップで近づけてくる。中坊の頃、DQのゴミ共に絡まれたときの恐怖感がまた蘇ってきた。
「……」
俺は、怖くなってこれ以上口が出なかった。
「もういい……留置場にでも放り込んどけ?」
「ま、待ってくれ! 本当に刀が二本でてきて、それで……」
「ISとチャンバラごっこか? ふざけるな!!」
俺の言葉など耳にも入れず、中年の男はさらに苛立つと、容赦なく部下に命じて俺を留置場へ放り込んだ。
ガシャン! と、絶望的な音と共に俺は牢屋に入れられた……
「だ、出してくれ! 出せよ!?」
何度も鉄格子を握りって騒ぎ出した。だが、いずれ叫び疲れて膝が落ちた。そして、頭の中には絶望だけが広がっていた。
「出せよ……出してくれよ……?」
俺は静かにすすり泣いた。この後に起きる自分への償いが怖く感じた。果たして判決はどう下されるのだろうか? もし、テロに対して正当防衛で殺したというのなら、死刑だけは逃れられるかな? だけど、俺の話も聞かずに一方的に進めるあの中年の刑事だから、多分有罪扱いを受けるだろうな?

「ったく! 本当なのか? あのガキンチョがマジでISを倒したってのは?」
多熊は、飛鳥を留置場へ放り込んだ後、部署に戻って先ほどの若い部下に問い尋ねた。
「ええ、一様そうなっております。しかし、証拠がノイズの酷い音声だけですので、決定的な証拠はいまだ見つかっておりません」
「……」
「警部、お言葉ではありますが……相手はまだ犯人とは決まっていないんですから、下手して冤罪にだけはしないで下さいよ?」
よく正義感の強さゆえに感情的になる上司に警告する部下は、そんな多熊の机にコーヒーのおかわりを置いた。
「ああ、わかってらぁ……俺はただ、真実が知りたいだけなんだよ?」
と、コーヒーカップに口をつける多熊は、かつて失った女房と幼い娘の姿を思い浮かべる。
忘れたくても忘れられないあの忌まわしいISの暴動事件。いや、テロ事件のことを……
「くそっ……」
真実が遠ざかるのではないかと、彼は余計に痺れを切らしていた。
もし、男手もISに立ち向かう術があるというのなら、それを武器にこの歪んだ女尊男卑の社会を終わらせて、白騎士事件で起こった事実をつきだせれば、ISに加担した政治家たちや、そのISを取り締まる国際組織「IS委員会」へ鉄槌を下すことができる。
多熊にとって、この事件は嘘であっても今はわずかな小さい希望であった。

「出ろ……」
あれから二日が経ち、よれよれになった俺の元へ中年の刑事が現れて俺を釈放した。だが、彼は俺を牢屋から出した途端に懐へ拳銃を押し付けてきた。
「……今度こそ、本当のことを言ってもらおうか?」
「な、何すんだよ……」
刹那、俺は鈍い痛みと共に頬を銃身で殴られた。
「俺は気が短いんだ! 早く言わねぇと、その額に風穴を開けるぜ?」
「だ、だから何度も言っているじゃないか? 本当に刀が……」
「テメェ……どこまで俺をコケにすりゃあ気が住むんだ!?」
中年の刑事は気が狂ったかのように俺に銃を本気で向けた。
「や、やめてくれ!?」
「馬鹿にしやがって……俺はな? こんな「女尊男卑」のせいで全てを失った人間なんだ。何が、被害件数0だ? そのせいで、巻き添えをくらった女房と娘の無念が消えねぇ……」
感情的になる男は、涙目で訴えるかのように俺に叫んだ。そして、俺はそんな男にこう問う。
「オッサン……あんた、もしかして白騎士事件の被害者なのか?」
俺はそう恐る恐る尋ねた。
「だったら何だってんだ!?」
胸ぐらを掴んで感情的になる男に、俺はリベリオンズのあの男が言っていた白騎士事件の真相が事実だったのだと改めて思い知らされた。
「白騎士事件は被害件数がゼロ! そう言い返してぇんだろ!?」
すると、俺は静かにこう返した。
「……あんたは、今の自分を見てどう思うんだ?」
「何だとぉ?」
「こんな歪んだ社会を守って何が楽しいんだ!?」
「……!」
「俺の質問にも答えろよ!? こんな差別で世界中が悲しむ世の中を体張って守って、いったい何の遣り甲斐があるってんだ!?」
「……」
彼は、胸ぐらを掴む手をさらに強めるが、俺の急に黙って徐々に睨み付ける顔が和らいでいた。
「こんな社会を守るために飼い慣らされた犬を演じていいのかよ!?」
「う、うるせぇ! 若いオメェとは違って、俺にはこの道しかねぇんだ……」
「でも、俺に白騎士事件のことを話したり、力づくでも俺を尋問したことは何だったんだ!?」
「そ、それは……」
「あんたは……本当にこの社会で刑事を続けたいのか?」
「……」
中年男は、徐々に返す言葉を失っていく。
「……俺は、一人の警官だ。命令ならそれに従うまでの道具なんだ。一人の人間である前に一人の警官なんだよ?」
「そう、言い続けているうちは、たんなる操り人形だぜ……」
「黙れ! お前みたいな若僧に何がわかるってんだ!?」
「少なくとも、誰かの傲慢な支配に頭を下げてやるつもりはないね!?」
「このガキ……重ね重ねぇ……ん?」
そのとき、留置場の壁が爆発ともに粉々に吹き飛んで、そこから巨大な風穴ができた。
「何だ!?」
その、風穴から一人の男が片手に太刀を担いで現れる。
「よう? 待たせたな……」
それは、リベリオンズのあのワカメ前髪の男だった。
「あ、あんたは!?」
「心配になって早く来てみれば……この様だとはな?」
「よく、この位置がわかりましたね?」
「お前の服に発信機が取り付けられていたらしい、それを頼りに後をつけたまでさ? とりあえず、ここを脱出するぞ?」
「は、はい!」
俺が男の元へ駆け寄ろうとしたが、一発の銃声が耳に入った。
「ま、待ちやがれ……!」
「あ? 何だオッサン?」
ワカメ髪の男は太刀を向けて威嚇する。
「そいつはコッチの台詞だ! 行き成り殴りこんできやがって……」
「ケッ! 糞社会の飼い犬に言われたかねぇな? ま、テメェみたいな工場長野郎は、「犬」ってよりかは「ブタ」だな?」
「言いたいこと言いやがって!」
中年男は銃を向けた。しかし、途端に銃はバラバラにされていた。おそらくワカメ髪の男があの太刀の形をしたRSを用いて一瞬で切り刻んだんだろ?
「なっ……!?」
「じゃあな? 俺はテメェみたいな中年オヤジの雑魚を殺すほど暇じゃねぇんだ。飛鳥、こっちにつかまれ?」
「はい!」
俺は彼の肩につかまって壁にできた穴から共に脱出しようとした……が、ここは二階じゃねぇか!?
「ま、待ちやがれぇ!!」
「オッサン……」
俺は中年男に振り返った。
「……お前が言っていたことは本当なのか!?」
そう、真実を求めるかのように俺へ問い尋ねた。だが、俺は代わりにこう答える。
「オッサン……アンタには、本当の敵がいるんじゃないのか? 本当に裁くべき相手が」
「な、何だって……?」
「じゃあな?」
俺は絶叫と共に穴から飛び降りて脱出した。
「……」
中年の男こと、多熊はただ茫然と立っていた。
――本当の敵……?

「RSって、ISみたいに空が飛べるんですか!?」
今、俺はワカメ髪の男につかまって空中を飛行していた。
「RSは、装着者に飛行能力を与えることができる。ISを相手に戦うんだ。それなりの機能は整えとかないとな?」
男は、そう言うと俺にもう一度言った。
「……で? 経緯は知らないにせよ、もう決心はついたんじゃないか?」
「……」
俺は、その言葉に力強く頷いた。男は、それを見てフッと微笑む。
「そうか、そんじゃあよろしくな? っと、まだ自己紹介がなかったな?」
男は俺に名を告げた。
「俺は蒼真、宮凪蒼真だ。リベリオンズへようこそ? 九条飛鳥君」
 
 

 
後書き
予告

RSか……近術武器の形にしかみえないこの代物をどう使いこなせばいいんだ?
さらに、またあの怖い鬼刑事が現れて……

次回
「飛鳥の決意」
 
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