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真田十勇士

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巻ノ十三 豆腐屋の娘その八

「豆腐もよかったが」
「豆腐ではなく、ですか」
「他のことで、ですか」
「うむ。あの湯葉というものだが」
 幸村がここで言うのはこの食べもののことだった。
「あれは実に美味かった」
「湯葉は昔から都や比叡山にあったものでして」
 伊佐が幸村に話した、一行は今は宿で晩飯の後の一時を過ごしている。寝る前に。
「大豆から作る、所謂です」
「豆腐の仲間か」
「左様です」
「ああした食べものもあるのじゃな」
「はい、あとがんもどきもありましたが」
「あれも美味かった」
「あれも大豆で作りますが」
 そのがんもどきのこともだ、伊佐は幸村に話しあt。
「僧は肉は食べられませぬ」
「本来はな」
「はい、そうです」
「わしは違いますが」
 清海はその大きな口を開いて笑って言った。
「しかしです」
「本来はじゃな」
「そうです、しかし雁の味を忘れられず」
「出家してもか」
「それでその雁の味を再現したのがです」
「がんもどきか」
「そうなのです」
 伊佐は幸村に落ち着いた声でそのがんもどきのことを話した。
「それがあのがんもどきです」
「そうであったか」
「あとは揚げも美味かったですね」
「うむ、それもな」
 揚げについてもだ、幸村は述べた。
「よかった」
「はい、揚げは稲荷明神にも捧げますが」
「あの店の揚げは格別じゃった」
「都は元々豆腐とその料理が有名ですが」
「あの店はじゃな」
「その中でも特にです」 
 味がいいというのだ。
「私も口にしてです」
「よかったというのじゃな」
「まことに」
「そうじゃな。非常によい豆腐だった」
「はい、そしてその店を救えて」
「まことによかったな」
「殿も我等も善行を積めました」
 伊佐はこのことに満足していた、そしてだった。
 あらためてだ、幸村に言った。
「また殿のお人柄をさらに見せてもらいました」
「拙者のか」
「殿はまことの武士です」
 こう幸村に言うのだった。
「弱きを助け義を重んじられる」
「拙者はそうした者か」
「そのことと見せて頂きました」
「はい、まことにです」
「この度のことでも」
「殿を見せて頂きました」
「そのお心を」
 他の者達も言うのだった。
「ですからあらためてです」
「殿と共にです」
「道を歩ませて頂きます」
「そのことを誓わせて頂きます」
「そう言ってくれるか、ではこれからも頼むぞ」
 幸村は笑顔で頷いてだ、そしてだった。
 彼等にだ、その笑顔で言った。
「では今宵はな」
「酒ですか」
「いや、それはもう昼に飲んだ」
 由利に真面目に返した。
「酒は過ぎると毒、だからな」
「酒ではなく」
「もう休もう」
 寝ようというのだ。
「共にな」
「この部屋で、ですな」
「共に寝よう」
 これが幸村が今言うことだった。 
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