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真田十勇士

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巻ノ十三 豆腐屋の娘その二

「足りぬ、だからな」
「我等の銭もですな」
「必要なのですな」
「頼めるか、御主達が稼いだ銭で申し訳ないが」
 自分が稼いだ銭ではない、幸村もこのことはわかっている。
「しかしな」
「この娘御を助ける為」
「その為にですな」
「だからですな」
「ここは、ですな」
「御主達の銭も借りたい、後で必ず返す」
「いえ、それはお気遣いなく」
 すぐにだ、筧が幸村に答えた。
「この度我等が稼いでいる銭は我等全員のものではありませぬか」
「だからか」
「はい、それでどうして借りることになるのか」
 微笑んでの言葉である。
「我等全員の銭だというのに」
「だからか」
「お気遣いは無用です」
 こう幸村に言うのだった。
「それに我等は殿の為なら火の中水の中です」
「銭のことなぞお気になされますな」
「銭はまた稼げばいいもの」
「しかしこの娘御はそうはいきませぬ」
 こう話してだ、そしてだった。
 幸村にだ、全員が持っているだけの銭を差し出した。幸村は両手に抱えきれぬだけの実際に手の中から溢れ落ちるだけの銭を持って。
 そのうえでだ、男達に対して問うた。
「これだけあればよいか」
「多いわ」
「そこまでは必要ないぞ」
「我等は必要なだけあればよい」
「借金の分だけな」
「ふむ、そうか」
「これだけ貰う」
 男達の一人がこう言ってだ。
 そのうえで幸村の手から銭の七割程を貰った。それを仲間達と共に分けてそのうえでこう言ったのだった。
「これでよい」
「むしろ多い位じゃ」
「これだけ貰えればな」
「この娘のことはいいわ」
「もう売ることもない」
「ならよい」
 幸村は男達の言葉を聞いて頷いた。
「これでな」
「わし等はよいがだ」
 男達のうちの一人がだ、その幸村にいぶかしむ声で問うた。
「お武家殿達はよいのか」
「我等はか」
「かなりの銭を貰ったが」
「銭はまた稼げばいい」
 幸村は彼にもこう答えた、それもすぐに。
「だからいい」
「そう言うのか」
「うむ、しかし人はそうはいかぬ」
「だからか」
「これでよいのだ」
「そう言うのならいいがな、貴殿が」
 男もそれで納得した、そしてだった。
 男達は幸村にだ、あらためて言った。
「ではな」
「我等はこれでな」
「銭は貰ったしな」
「これでお別れじゃ」
 別れの言葉を告げてだった、その場を去った。幸村は男達の背を見送ってから家臣達にこうしたことを言った。
「分別のある者達でよかった」
「はい、人買いの中には性質の悪い者もおります」
 伊佐が幸村のその言葉に答えた。 
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