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serial experiments S. A. C

作者:藍色
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イドの昇華 -Sablimatin of Id- Collective unconscious
  エピローグ

「結局、今回の事件はどうなったんだ?人工頭脳とやらは何処に行っちまったんだよ」

趣味の筋肉トレーニングをしながらバトーはひとりごちる。
今回の事件は珍しくも武力を使わずに済んだものであったため、武闘派の課員は全くと言っていいほど関与していなかった。

「とは言っても旦那みたいな感じですよ、俺達も。実質、少佐が1人で解決しちまったもんなんで。」

パラパラと今回の事件についての報告書をめくりながらトグサが返答する。
実際に調査したものの、lainと草薙が会っていたのは電脳空間であるためどのように解決をしたのかは判っていない。
公安9課の存在すら知っていたほどの腕の持ち主であるlainは、自分の情報を見知らぬ誰かに知られるような真似をする筈がなかった。
つまり、公安9課のハッキングすらはじいていたのだ。

「こう、続けて化け物みたいな奴が関わってくると9課の沽券に関わるんだがなあ、本当は。だがしかし、なにせ今回は人間じゃない」
「機械は人間を超えることは出来ないが、また、人間も機械を超えることは出来ない。そういうことよ、今回の事件は」
「「少佐!」」

草薙はトグサに近づくと手に持っていた報告書を取り上げ、書いてある内容を見るようにペラペラとめくった。

「それで?何が知りたいのかしら」
「何が、というよりもむしろ何をって感じですね。この報告書に書いてあることがよく分からないんですよ」
「とりあえず人工頭脳は何処に行ったんだ?」
「そうね……。簡単に最初から説明することになるけど……」



そもそもlainという存在は2人いるのよ。
ワイヤードを構築したlainと人工頭脳のlain。
ワイヤードを構築した方のlainが人間よ。
そして今回の事件は人工頭脳のlainが人間であるlainの思考を完全にトレースしてしまった事がきっかけ。
lainは自分のものであるワイヤードを荒らされる事に不快感を感じるの。
まあ、自分のものを荒らされる事に不快感を感じるのは当然の事でしょうけれど。
その思考は人工頭脳のlainも持っていた。
人間のlainと同じ様に。
そして自分の出来る範囲でやり返したの。
それが今回の一連の事件。

今回の事件を解決する上で一番のネックは『lainを裁くことは不可能』ということ。
人工頭脳を裁く法律なんてまだ世の中にないからね。
そして人間のlainを裁く事も不可能。
人間のlainが今回やった事は、人工頭脳を作る事と私達の捜査に協力した事。
非の打ちようがないわ。
だから私は人工頭脳のlainに頼んだ。
『これ以上はやめてほしい』って。



「今回は穏便に解決したんですね」
「穏便?冗談はやめてよ。もしlainが心変わりしてくれなかったらとっくに私はスクラップ行きよ」
「流石にそれは大袈裟なんじゃねえのか?」

はあ、と一息溜息をつくと草薙は説明をし始める。

「いい?人工頭脳のlainの最も恐れるべき点は、その存在が電脳空間だけで完結してしまっているところよ。通常、機械であればハードを破壊すればソフトも自動的に破壊される。でも人工頭脳のlainはハードがそもそも存在しない。だから破壊できない。その上、元のモデルである人間のlainと同じかそれ以上の技術を使うことが出来る。デコイを付けたって防壁を付けたって無駄でしょうね。」

改めて説明されるとわかる、その存在の恐ろしさ。
手も足も出ないという事がどういう事なのかがはっきり認識できる。

「確かに恐ろしいですねそれは……」
「敵対するとアウトだな。どうやって被害を最小にするか、それだけを考えて行動しなきゃいけねえ相手って事か」

ネットワークという繋がりがデメリットしかもたらさない、珍しい相手。
そんな相手とどう接触するか。
今回の正攻法はホールドアップだった。
敵対する意志はない、敵対する手段も持たない、ただその意思を伝える。

「とまあ、lainの心変わりで解決をしたから当分の間は大丈夫でしょ。彼女の周りに手を出す馬鹿がいない限りは、ね」
「……彼女?電脳空間の姿は確かに彼女だったが……」
「あら、言ってなかったかしら?」



「彼女はとある中学校の女子学生よ。小学校を卒業したばかりのね」





ふと、空を見上げる。
地中化がまだ行われていない地域であるためか、空には黒い電線が幾つも並んでいる。
電線はネットワークを繋ぐ神経。
パルスが伝わる先には受け取る者が当然いた。

「ふふっ……素子さん、楽しそうだね……」
「何何?美里、何か言った?」
「あ、ううん。今度のパフェ屋さんの新作、美味しそうなんだよ」
「えー!ホント!美里っていつも新作の情報早いからさー!」
「本当に早いよね。甘いもの好きなのは皆一緒ってことかなー?」
「じゃあ今度の日曜日とかどう?新作食べてからゲームセンターに遊びに行こうよ!」
「何食べようかなー。新作もいいけどまだあたし、季節限定のヤツも食べてないんだよね」
「皆で4種類頼んで、分け合って食べようよ。そしたら皆食べれるよ?」
「いいねそれ!」
「玲音の案がいいと思うな」
「うんうん!今度の日曜日が楽しみー!」


同一の存在が同一の存在でなくなる時。
そこにゴーストが存在するのではないかという意見がある。
ゴーストを証明する事はまだ出来ていない。
しかし曖昧ながらもゴーストの存在に必要なものを伝えた者がいた。
それは、草薙素子。
公式には存在しないとされる公安9課、通称攻殻機動隊のリーダー的存在である。
ゴーストを持っただろうとされるタチコマという例をlainに示した。
当初の目的を果たしたlainは更なる目的を見つけた。
個性を身に付けること、そしてゴーストを手に入れること。
ゴーストを手に入れることが出来るかどうかはわからない。
未だかつて誰も何もやり遂げたことのない事だ。
しかしこの日常を手に入れたlainにとっては、最早どうでもいい事なのかもしれない。
些細な事に驚き、些細な事に笑う。
そんな友達がいることが本当の幸せであると知っているのだから。 
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