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ピリカピリカ

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4部分:第四章


第四章

「何ですか、それって」
「よくわからないんですけれど」
「僕が子供の頃にやっていたテレビ番組なんだよ」
 子供達に顔を向けて答えます。
「二十面相っていう怪盗を追ってね。明智探偵と一緒にね」
「ああ、あれですね」
「学校に本がありますよ」
「そう、それなんだよ」
 子供達と話しているうちに市長さんの顔も少年の時のものになっていました。
「それをね。ドラマにしたものがあったんだ」
「そうだったんですか」
「じゃあ二十面相があのおじさんですね」
「そう。そして君達が少年探偵団かな」
 流石に自分はそこから外しています。
「僕が明智小五郎だといいけれどね」
「じゃあ明智探偵」
「行きましょう、今すぐに」
 子供達も乗ってきました。そのうえで市長さんに対して言ってきます。
「二十面相が行きますよ」
「だから」
「わかった。じゃあ少年探偵団の諸君」
「はいっ」
 子供達は元気よく市長さんの言葉に応えます。
「二十面相を追おう。見逃さないようにね」
「わかりました」
「じゃあ」
 ささっと動きだします。物陰に隠れまた別の物陰に移動しながらおじさんを追っていきます。夕暮れの中で市長さんと子供達の追跡がはじまりました。
 その中で公園の前を通りました。ここで子供の一人が言いました。
「あれっ、ここって」
「そうよね、あそこよね」
「お化け公園じゃないか」
「うわ、それじゃあやっぱり」
「あのおじさんって」
「お化け公園!?ああ」
 横から話を聞いた市長さんにもどうして子供達がこう言い出したのかわかりました。この公園のことは市長さんも聞いていたのです。
「そうだったね。ここはね」
「そうですよ。夜になったらお化けが出て来て」
「子供を捕まえて食べるんだって」
「幽霊も出るって」
「昔から言われているんだよなあ」
 公園の砂場や森を見ながら言う市長さんでした。今公園には誰もおらず砂場も静まり返っています。ついさっきまで人がいたような感じですが。
「ここはね」
「昔からなんですか」
「この公園って」
「僕が子供の頃には軍人さんが出るって言われてたんだよ」
「軍人さんがですか」
「そうだよ。本当に昔からあるんだよ」
 こう子供達に語ります。
「昔からね」
「じゃあやっぱり」
「いるんですね」
「どうかな。けれどあのおじさんとは関係ないみたいだよ」
「どうしてですか?」
「関係ないって。この前通ったのに」
「ほら、見てみるんだよ」
 ここで市長さんは前のおじさんを指差しました。おじさんは相変わらず屋台を引いて前を行きます。長い影が夕陽に映し出されています。
「おじさんはこのままずっと前に行ってるよね」
「ええ」
「確かに」
「じゃあ違うよ」
 こう子供達に言うのでした。
「ここにいる幽霊とはね」
「違うんですか」
「そういえばさ」
 また子供のうちの一人が言います。
「おじさん足あるよ」
「そういえばそうか」
「あっ、それは間違いだよ」
 ところが子供達のこの話に市長さんが言います。
「幽霊だってね。足はあるよ」
「あれっ、そうなんですか?」
「足、あったんだ」
「足があったりなかったりするんだ」
 こう話すのです。
「だから一概には言えないんだ」
「そうだったんですか」
「幽霊にも足、あったんだ」
「そういうことだよ。少なくともおじさんはここにいる幽霊とかじゃない」
「はい」
「そうですね」
 子供達もこのことは納得するのでした。けれどだからといっておじさんに対して全部納得したわけではありません。そうはいかないのでした。
「けれどそれでも」
「あのおじさんは一体」
「さあ、さらについて行こう」
 また子供達に声をかけます。
「少なくともそれしかないよ」
「そうですよね。それじゃあ」
「何かさ。こんなことだったら」
 また子供達のうちの一人が言ってきました。
「大蒜持って来た方がよかったよね」
「大蒜!?」
「そうだよ。あと十字架」
 その子供はさらに言います。
「御守りとか。聖水とかも」
「俺刀持って来たらよかったかな」
「馬鹿、あれ使っていいのは大人だけなんだぞ」
 やっぱりこういうところはまだよくわかってはいません。子供めいた会話になっていました。
「大人だけだから駄目だよ」
「ちぇっ、そうなんだ」
「そうだよ。だから銀の銃弾も駄目だぞ」
「じゃあどうすればいいんだよ」
 何か話が完全に入り交ざってきています。
「おじさんが本当にお化けだったらさ」
「僕達本当にどうなるか」
「それもね。大丈夫だよ」
 市長さんはまた怯えている子供達に対して優しく言うのでした。
 
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