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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第104話 少年達は核心へ近づくようです


Side―――

ゴォオオォォォオオオオオオオォオォォオオオオオオオオオオオオオ!!
「ようこそ私の特別室へ、ネギ・スプリングフィールド君。」


扉が開け放たれた瞬間、周囲が燃え盛る街になる。幻術・阻害魔法の類を仕掛けられたかと

警戒したネギだが、その見慣れた街並みと石化した人々を見て、繋いだ冷静さの殆どが瓦解する。


「こ、こは…………!」

「ネギせんせーの、故郷の村…六年前の……!?」


驚愕するネギとのどかに対し、涼やかな嗤いを浮かべるクルトを見て千雨と和美は頷き合い、

唯一と言える戦闘力のネギを立ち直らせるべく、自分達が一番前に出る。


「チッ、随分いい趣味してんな総督さんよ。人を呼びつけといてトラウマ映像で精神攻撃たぁ

大人のやることじゃないと思うけどな。」

「フフフ、これはこれは手厳しい。ラカンさんのお気に入りのお姫様はまた剛毅で。」

「……どう、やって?どこから、こんな映像を……!?」


千雨の罵倒を聞き僅かに正気を取り戻したネギであったが依然激しく動揺し、漸く絞り出した

言葉も、全く余裕のない普遍的な質問だけだ。


「フッ。いやなに、テーマをハッキリさせておこうと思いましてね。

――君は答えを求めここに来た。故に私は君に問いましょう。君が知りたい"答え"は何ですか?」

「僕の知りたい、答え……?」


先程の嗤いから一転し、真摯とも取れる眼差しで問われたネギは思案してしまう。

欲する答えは分かっている。村の仇の正体、両親の行方。愁磨やナギと本当に並べる力を

手に入れる方法・・・しかしこれはクルトに聞く事ではない。『世界を終わらせる』と言う

フェイト達の目的。そして何よりも地球へ安全に確実に帰る方法。だがこれは目処が立っている。


「(―――僕は、何故ここに来た?最優先でないとしたら聞きたい事は山ほどある。

けれどそれは、今の僕にとっては、ただの知的好奇心の様なものじゃないか?いや・・・。)」

「"答え"が見つからないかね?ネギ・スプリングフィールド君。」

「ッ!」


あれほど答えを求めていた筈が、仲間の事を勘定に入れるとまるで必要の無い情報でしかない。

その上、そのどれもが本当に欲している"答え"でない事を認識させられ愕然とし、それを看破

されたネギは口を閉ざすしかない。


「自分一人では答えが出ない事もありますからね。では皆さんで考えて行きましょうか?

A、"魔法世界の秘密"?それともB、"悪の秘密組織の目的"?」

「てめ「それともC、"母の真の生き様"?いやいやそれともD、"父の行方"!?

大本命のE、"村を焼き払った犯人"!?いいえ違いますね、この中のどれでも無い!」

「貴方が僕の何を分かると言うんですか……!」

「いいや分かりますとも!」


投げかけられた糾弾にネギは激昂するが、更に激昂したクルトの返答に鼻白み止まる。


「君は自分で思っている程欲深くない。他人が思っている程無欲でも無い。

そう……君の願いはたった一つであり、それでいて全てでしょう!」

「ち、違う、僕は―――」

「君の願いは!」


必死に、その場の自分を含めた全員に言い聞かせるように、クルトはネギの心中を叫んだ。


「自分の!自分達の幸せを、日常を壊す何者かへの復讐だ!!」

「………!」

「気付いたでしょう?村を焼いた何者か!両親を連れ去った何者か!学園での日常!

生徒や、教師や、彼等との幸せな日常を取り戻す為に!そこへ両親を加える為に君は力を得た!

皆の為などと嘯くのはもうやめなさい!君は、君の掴みたい世界の為に力を得たのだ!」


遂に自分の指標を得て、それに向け進むべきネギは――膝を屈し、その場で項垂れる。

告げられた答えに比べあまりに動揺した様子のネギに、千雨達も動揺し駆け寄る。


「せ、せんせー!?しっかりしてください!」

「おいおいどんだけメンタル豆腐なんだよ!?あんたがしっかりしないでどうするよ!」

「おやおや……君の事を何も分かっていないのですね、お仲間さんは。

いや、君自身自分の内心を分かっていなかったのですから仕方ありませんか。」

「どういう……意味ですかね、提督さん?」


大げさな手振りで近寄るクルトに、千雨を先頭に、のどかと朝倉はアーティファクトを呼び出し

戦闘態勢を取る。無論、目の前のS級以上であろう達人との戦力差は心を読めたとしても歴然だ。

しかしクルトは自分の宣言に則り煽るような事を避け、振り返って後ろに数歩下がり、続ける。


「さて、ネギ君が何故そこまで動揺したか、ですか?簡単な話です。ネギ君は他人の為にしか

動けない優しい子なのですよ。逆に言えば……自分の為だけではそうなってしまう愚かな子だ。

まして、村人の為と、両親の為と、君達の為と。それだけを目標にして来た、と思い込んでいた

彼がそうなってしまうのは自明の理でしょう。」

「な、何を根拠にそんな事を!あんたがネギ君の何を分かるってのよ!」

「分かりますとも。彼の通っている道は、既に私が通った道なのですから。」


堂々と言ってのけるクルトに三人は可愛そうなものでも見る目を向け、ネギは縋るような、

奇異なモノを見る様な畏怖の眼で見る。四人に敵意以外の目を向けられ、クルトはどこか

恥ずかしげに目を背け頭を振る。


「……とまぁ、そんな事は置いておきましょう。さてネギ君、君は決めないといけない。」

「決める……?」

「私は君の心を"証明"しただけだ。君の"答え"はまだ出ていない。」


ネギを混乱させる事が目的だと思ったネギ達は、クルトの文言に目を見張る。

クルトがしたのは文字通り"証明"だけであり、肝心の"答え"・・・数学の問題文的に言えば

"X=αの時Y=βである"の部分、つまり"ネギ()の目的がαである時()がネギの

目標(β)か"が全て無い状態なのだ。それでは幾ら考えようと"解答"になる訳が無い。


「では一つずつ片付けましょうか。まずはα、ネギ君の目的。」

「僕の、目的……皆と、平和に過ごす事……。」

「ちょ、先生!なに素直に答えてんだよ!あいつの目的も分かんねぇだろうが!」

「……そして、君が(Y)どうすれば(β)目的を果たせるのか、ですが。

ここが今日の本題ですよ、ネギ君。さぁここで問題です!」


神妙な顔で説いていたと思えば、今度は手を広げ宣狂師のように嬉々と論ぜる。

幾度も0から10へ変じる様はまるで演劇でも見ているかのようで、三人は頭を抱えネギの周りに

付き、何も言わず動向を見守る事にしたようだ。


「君の敵はどれでしょう?A、"フェイト・アーウェルンクス"。B"魔王"、C"始りの魔法使い"!

成程、どれも君の真の敵に相応しい!そうであれば君の目的も単純であったでしょうがしかし、

……現実と言うのは複雑なモノです。」

「……知って、いるんですね?」


昏い目をしたネギの問いに、クルトは最大級の黒い笑みで応えた。


「えぇ、知っていますとも。君の日常を悉く壊して来た真犯人は……我々。

我々メガロメセンブリア元老院!我々が、全ての黒幕です。」

「「――ッ!?」」

「そんな!?だってメガロメセンブリアは……!」


"いどのえにっき"でクルトの思考を読み、それが真実だと確認したのどかが悲鳴を上げる。

怪しいと思っていたとは言え相手はこの世界を取り纏めている最高権力。それが幼い頃より

ネギの周囲で何かを目的に暗躍していたなどと、事情を知らずに考え得たのはネギのみ。


「なにも、不思議な事はありません。強固な守りがある筈の村に魔族の大軍を召喚できて、

色々な情報を秘匿し、世界樹のある学園に影響力を持つ。そんなのは………。」

「そんな事が出来るのは世界を実質的に管理・支配している我々だけです。

ふふふ、頭のいい君の事だ。この程度の事は考慮し
ゴッ!!

笑いをこらえる様に眼鏡に手をやり、ネギから一瞬目を離したその瞬間。

クルトの知覚さえ超える速度で間合いを詰め殴り飛ばすネギ。その目には最早全ての"仇"である

敵しか見えておらず、腕に渦巻く『闇き夜の型(アクトゥス・ノクティス・エレベアエ)』の紋章は目に見えて巨大

化する。

そして黒いもやを靡かせ、吹き飛んでいるクルトに追い付き足を掴み、何度も地面に叩き付け、

倒れたままの相手に更に攻撃を加えて行く。

ズドォン!!
「せんせー…!だめ、怒りで我を忘れてる!」

「ネギ君の中にある存在価値全部引っくり返したんだから、そりゃこうなるよ!

って、これ止めないとまずいんじゃ……!?」

「あたしらなんて近づいただけでミンチだぞ、せめて動きを止めねーと!」


ネギの危うさとクルトの命の危機を感じ間に入ろうとする三人だが、余波だけで立っているのが

やっとで、立ち入る隙が無い。そんな三人の危惧もどこ吹く風でクルトは嗤い、用意していた

防護壁で防御しながら、意識があるかも定かでないネギを煽る。

その怒りに呼応するように周囲から悪魔達が現れ、村に侵攻する。


「くくく、素晴らしい…!さぁ!君の敵はここに居ますよ!君の力はそんなものですか!?」
ガガガガガガガガガガガ!!
「ぐ、ガ、グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
「ぬ、ぐぁ……!」
バギャァン!

暴走したネギの猛攻に提督権限で用意した最高級の防護壁は容易く破壊され、持っていた

投げ刀で陣を張り防御する。予想以上のネギの潜在能力に追い込まれるクルトだったが、

ネギは追撃せずに蹲る。溢れ出る闇に限界が来たかと思われた瞬間、更に渦巻く影が全身に回り、

髪は靡く闇と同化し、腕と足は龍の様に変化し太く大きな尾の様なものが生える。


「そんな……!ページが真っ黒に染まってく!?」

「これが、君の……ククク、まさかここまでとは……!良いでしょう、来なさい!!

その復讐は君の正当な権利だ!その憎しみ、私が受けましょう!!」

【Guuuluooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!】
ドンッ!!

我慢も、精神も限界を突破したネギは四肢と尾を使い、獣の様に飛び出す。

"いどのえにっき"に現れたのは憎悪、絶望と憤怒、驚嘆憤怒郷愁侮蔑怨嗟焦燥恐怖後悔空虚――

ありとあらゆる負の感情が幾十幾百と重なり最後、一際大きく表れた・・・"殺意"。


「ダメっ、せんせー!!」
ゴッ!!

そして奇しくも、クルトとネギを結んだ直線状・・・映像で現れていた中型悪魔の拳が、

かつてナギを探し泣いていたネギに振り下ろされ――

ドンッ!!
「―――――――――――…………っ。」
ズシャァッ!

その拳をナギが受け止め、それを見たネギも、反射的に制動をかけ止まった。


「とう、さん……?」

「せんせー!!」「ネギ君!!」


ネギが止まった瞬間、危険を顧みずのどかと朝倉が両脇から腕を抱え動きを止めさせる。

先程までの膂力を鑑みれば無意味だが、僅かにとは言え意識を取り戻したネギはそれで

進行出来ず、理性と狂気に苦しむ。


「しっかりしなさいネギ君、これは罠だよ!」

「ネギせんせー負けないでください!せんせーはこんなコトの為にここに来たんですか!?

こんなの違う……こんなの皆や、私が大好きなせんせーじゃないです!」

「Urg、g……あ、ぐ―――――の、ど、か……さ…………「しっ……!」ん?」


二人の必死の叫びにネギは言葉を発せるほど意識を取り戻した。

・・・と同時に、自分の目の前でジャンプしながら今度は千雨が拳を振りかぶり、その手が

激しく光り輝いている事に気付き、冷や汗と共に完全に意識を取り戻すが・・・時遅し。


「かりせんかヴォケエエエエエエエエエエエエ!!」
ズバァァーーーーーン!!
「ギュブルァッ!?」
ゴッ!

光属性と思われる一撃を受けネギが地に埋もれ伏したと同時に、映像のナギも一撃。

目の前の魔族を全て消し去り、ネギに向き直る。


「馬鹿モンが!そりゃあたしらはあんたが味わって来た辛さなんて分かんねぇよ。

けどよ、あんたが目指したのはそんな姿になって仇を殺す事なのかよ!?違うだろ!!

あんたが今見てる先ってのは復讐だとかそんなつまんねぇ事じゃねえだろ!!」

『――そうか、ネギ。アーニャちゃんを守っているつもりか?』


そう言うとナギは小さい、けれど恐怖を忍て杖を構えるネギに歩み寄り、頭を撫でる。

千雨に叱責され呆然と立ち尽くす今のネギは、子供の時はその映像をしかと見る。


『大きくなったな……。そうだ、お前にこれをやろう。俺の"形見"だ。』

『お、とう、さん……?』


6年前は見られなかったフードの中――ナギが、自分の父があの時涙を流しているのを見た瞬間、

纏っていた闇が急速に掻き消えて行き、元の姿を取り戻す。


『悪ぃな、お前にはなにもしてやれなくて。こんな事言えた義理じゃねえが……元気に育て。

何だかんだあいつらも世話してくれる。だから……幸せにな!』

「しあ、わせ……に………?ぐ、ぅあ……!」

「せんせー!?」

「お、オイ大丈夫か!?やりすぎたか!?」


ナギが空へ消えるとネギが身体中が痛みを思い出し膝をつき、のどかと千雨が駆け寄る。

そして、二人の心配する声と共に、乾いた拍手が何度も部屋に響く。


「フフフ、お見事ですお嬢様方。いやはや、聞いていたとは言えまさか本当にこのような

記憶と愛の力だけで闇に堕ちた先から戻って来られるとは。……私を殺すところまで行って

くれれば、何をしようと戻っては来れなかったでしょうに。」

「ちょっと提督さん……あんた、言ってる事もやってる事も回りくどいし訳分かんないし

矛盾しまくってるんだけど………結局、何が目的なの?」

「目的……それも致し方ないのです。三様の命令に忠実でいようとしたらこうなってね。」


朝倉の問いに痛む体を引き起こして、クルトは再びネギ達の前に立ち指を鳴らす。

と、周囲の映像が六年前の村から、魔法世界を上から見下ろす・・・宇宙空間に変わる。


「ではあなた方にも分かり易い様説明して差し上げましょう。これが魔法世界(ムンドゥス・マギクス)

嘗て――とある世界を捨てた者達の楽園となる筈だった星です。」

「とある、世界?」

「ここではない、別次元にある世界。ネギ君はラカン氏から聞いた筈ですね?この星の起源を。

"彼等"……いえ、"彼女等"の計画を。」

「………詳しくは、聞いていませんが。」

「ど、どう言う事だよ先生?」


先程の流れを完全に無視し始まった壮大な話しに三人は頭に?マークを浮かべる。

その話を聞いていたのはネギのみ。それもラカンが愁磨に聞いた話を又聞きしただけだが、

状況を掴めていない仲間の為に、簡潔に話す。


「約400年前、異世界から渡って来た人物がこの世界を"創った"。その人物こそ……

完全なる世界(コズモエンテレケイア)』の主、"始りの魔法使い"『造物主』。」

「ぞっ……!?『造物主』って、あの映画に出て来た!?あいつがこの世界を創ったの!?」

「そう。そして"彼女等"は今もなお、計画の為に動いているのです。」


クルトが再び指を鳴らすと映像が変わり、今度は魔法世界の勢力が映し出される。

そして、遂にネギは世界の核心へと足を踏み入れる。


「最大限分かり易くお話ししましょう。『完全なる世界』の計画は"世界の改変"……

"今ある世界を無に帰し、新たに世界を創る事"です。」

Side out
 
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