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SNOW ROSE

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序章


 遥か昔より語り継がれる物語。
 舞台は、とある大陸の北にあるプレトリス王国。
 この国は下地にラッカという小さな国があったが、北皇暦六八三年に時の皇帝プレトリウスの手によって周囲の六つの国を陥落させ、現在ある規模に作り上げた大国である。
 その戦の際、今に伝わる出来事が起こった。

 ラッカの片隅にあった小さな村に、仲睦まじい男女がいた。だが、皇国が戦を始めるにあたり、男は戦いのために村を出なくてはならなくなった。女はそんな男を見送ることしか出来なかったが、互いに生きて再び逢うことを誓い合った。
 男が村を立ったのは、十月も終わりに近い晩秋のこと。この国では、もうすぐ雪の降る季節となる。
 そんな中、女は戦に赴いた男のために山の上にあった神の天幕まで登り、彼が無事帰還することを祈った。毎日それを続け、雪が降り始めても決して止めようとはしなかったのであった。
 それを見ていた村人達は、見るに見兼ねて女に止めるよう告げた。冬を越え、また新たな春がやってきてから再び始めれば良いではないかと。
 しかし、女は止めるどころか、雪の降りしきる山に登り、天幕まで行って祈ったのである。毎日、毎日…。
 そんなある日、女の祈りは病によって妨げられてしまう。医師が女を診た時には、もう手遅れであったという。
 病名は伝えられていない。未知の病だったとも言われている。
 女は医師から診てもらった半月後、男の名を呼びながら息を引き取ってしまったのであった。
 一方、男は女の死を知らぬまま、数年戦の中に身を投じ、手柄をあげて騎士の叙勲を受けた。これで愛しい人に逢いに行けると、男は暇を頂戴し、女の待っている村へと馬を走らせた。
 だが、山道で馬を走らせていた時、突然馬が何かに驚き、馬が暴れだして傍の谷へ馬もろとも転落してしまったのだ。男はそのまま亡くなってしまったが、引き上げられた際、男の躰からは薔薇の香りが漂っていたという。腐敗するどころか、その顔は眠っているかのようだったと伝えられている。
 男は“神に愛された者”だったのだと言われ、彼の遺体は村まで丁重に運ばれた。そして、愛しい人の傍らに葬られたのだった。
 その後、墓の周囲には雪のように真っ白な薔薇が咲き誇り、村では奇跡と囁かれた。雪の中でも枯れることがなかったからである。
 それ故、村人達はこの男女の墓を大切に守り、奇跡の物語を語り継いできたのであった。
 それから時が経ち、北皇暦から皇暦に替わり、それも六九四年で王暦となり、国も大きく変化した。
 しかし、一つだけ変わらずに語り継がれた物語があった。

―スノー・ローズ―

 死して一緒に住まうことの許された男女の物語。
 その話は、まるで神の憐れみを諭すような面持ちで語られることも多い傍ら、歌曲などの題材にも取り上げられ、広く親しまれた伝説になっているのである。
 だが、この話しには続きがあるのである。
 なぜ伝説となったのかは、後に語るとしよう。

 さあ、話しを始めるとしようか。
 これらの話しは、この恋人達の奇跡が織り成した物語と言っても良いだろう。



 
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