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真田十勇士

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巻ノ十一 猿飛佐助その八

「あの方は」
「天下ではなく甲斐と信濃だけを考えておられるが」
「それでもですか」
「天下人になれる資質はある」
「あの方も」
「そう思う、そして羽柴殿が柴田殿に勝てばやがて徳川家とぶつかる」
 幸村は先の先まで見ていた、その目は遠くまで見ているものだった。
「その時に我等がどうするか、それも見ようぞ」
「ですな、それがしが思いまするに」
 ここで言ったのは筧だった。
「真田家は羽柴家につくべきですな」
「天下人となりじゃな」
「はい、徳川家とぶつかるのなら」
「それがしもそう思う、しかし」
「その徳川家ともですな」
「全力でぶつかるものではなくある程度はな」
 どうするかというのだ、戦をしても。
「手を組むべきじゃ」
「左様ですか」
「徳川家が滅ぶのならともかくな」
「徳川は滅びませぬな」
 霧隠の目は鋭くなっている、彼もまた先を見ていた。
「羽柴家とぶつかっても」
「うむ、家康殿も勢力が強く家臣の方々が揃っている」
「だからですな」
「羽柴殿と戦になっても引けを取らず滅びぬ」
「そうなりますな」
「だとすれば徳川家と殺し合うまでになるのではなく」
 そうした全面衝突ではなく、というのだ。
「ある程度のところでな」
「手を結ぶべきですな」
「そうあるべきじゃ」
「拙者としてはやり合いたいですがな」
 戦好きの猿飛はこう考えていた。
「とことんまで」
「それは戦の場でのことじゃな」
「はい」
「しかし戦は戦の場だけでするものではない」
「と、いいますと」
「政の場でもするものじゃ」
 戦場だけでなくというのだ。
「むしろそこでするのが主じゃ」
「といいますと」
 猿飛は幸村の今の言葉に首を傾げさせるばかりだった。
「どういった戦でしょうか」
「まず政で国の力を養い兵を多くし」
 このことからだ、幸村は猿飛に話した。
「その兵を鍛え武具もよいのを揃え」
「手間がかかっていますな」
「兵糧も用意する、城は石垣を高くし堀は深く。城壁もしかとしてな」
「城を整えるのも戦のうちですか」
「無論じゃ、砦も増やし」
 さらに話す幸村だった。
「その砦全てに兵も置く、味方は増やし敵は出来るだけ少なく」
「そうしたことも戦ですか」
「そうじゃ、むしろ戦の場で戦わないで済んだら最良じゃ」
「いや、戦の場で戦わねば」
「そうじゃな」 
 猿飛だけでなく清海も言う、十人の中でも暴れるのが好きな者達がだ。
「戦ではないのでは」
「殿、そうでは」
「それが違う、戦場で百度戦い百度勝つ」
 百戦百勝、まさにそれである。
「これは最善ではないのじゃ」
「では最善は」
「戦わずに済むことですか」
「うむ、こちらが圧倒的に有利だとな」
 その場合はというのだ。
「相手は戦になる前に降るな」
「まあ最初から負けるとわかっていれば」
「そうそう挑む馬鹿者もおりませぬな」
 二人もこのことはわかった、二人にしても思慮がない訳ではないのだ。 
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