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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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追憶

 
前書き
就活がうまくいかなくて意気消沈していたら、遅れました。すみません。

それに……なんか難産でした。

はやて成長の回 

 
~~Side of はやて~~

「う……ん?」

「あ、主!? お目覚めですか!」

「シグナム……? ならここは……」

「はやてぇ~~!!」

「ヴィータ!? うわっぷ!」

目覚めて早々、我が家のロリ代表が突っ込んできた。幼子のように抱き着いてきた彼女の様子から、相当心配させてしまったんやろうな。見るとベッドの周りでは私の大事な騎士達が安堵の表情を浮かべて、微笑ましそうにしとった。

「ん~と、色々あるけどまず最初に、皆には心配かけてごめんなぁ」

「いえ、主が無事であるなら何よりです」

「そうよね、私だってはやてちゃんが無事に目を覚ましてくれてホッとしたもの」

ザフィーラとシャマルはそう言ってくれるが、やはり気を遣わせた事実から目を背ける訳にはいかない。それと、あれからどういう経緯があったのか、皆から懇切丁寧に説明してもらった。

まずここは聖王教会が経営する病院で、タンカーから私達を救出してくれたのは、なのはちゃんとリーゼさん達。それからファーヴニルが地球に向かっている報告が入り、目を覚ましたユーノ君によるとエレンさん達が地球に行かせまいとして他の世界に引き付けて戦ってくれとる。せやけどファーヴニルは封印するしか対処法が無いっちゅう訳で、封印方法が載っている本を探しに皆が行動を開始。それでクロノ君達は本の収集家らしいメガーヌさんに協力を要請しに行き、他の面子は無限書庫という本の宝庫がある本局へ行く方法を模索。それでフェイトちゃん達はアレクトロ社が開発した魔力無しでも動く転移装置を発見するも、本局に忍び込んでいたアンデッドが向こうからやってきたため交戦。彼女とアリシアちゃんの尽力によって辛うじてミッドにやって来たアンデッドは全滅させたものの、その中にいた凄まじい強敵と戦って無理をしたフェイトちゃんは、戦闘後に倒れてすぐに私と同じ病院に搬送された。それと今回の件で、本局から脱出してきた局員の中にアンデッドが紛れ込んでいないか一斉に確認した所、奇跡的にダークマターに侵された者はおらへんかったらしい。

「これが一昨日までの出来事よ」

「一昨日!? ということは私、丸1日寝過ごしたって事かいな!?」

「はい。恐らく受けたダメージが想定より大きかったのだと思われます。それで身体が休息を求めた結果、目覚めるまで時間がかかったのだと……」

シグナムの推測は恐らくその通りやと思う。いくらリンカーコアが強力でも、本来私は9歳の柔な身体をした、ただの子供。CQCをまともに喰らって骨折もせずに済んだだけ、怪我の具合としてはむしろマシな方やろうな。

「ところで、私が任務失敗したっちゅう事は……」

「はい、残念ながら……主はやては今回、騎士の階級の取得にはなりませんでした。カリムとシャッハもタンカーが襲われていた事は想定外で、初任務に遭遇した敵が強すぎたと聖王教会に弁論したものの、『事前情報に無い敵と遭遇しても、自力で対処出来ないのであれば騎士を名乗らせる訳にはいかない』などと反論され……」

「まぁ、妥当な意見やな。ちゃんと戦う手段はあったのに、こうして惨めに負けてるんやし。その人達の言う事も尤もやよ」

「け、けどよぉ……はやては初めてなのに一人で頑張ったじゃないか。なのにこんなのって……」

「頑張っても結果を出せなきゃ意味があらへんねん。社会とは……世の中とは、そういうもんや」

「主…………」

「……それよりシャマル、現状の話の続き、聞かせてくれへんか? 私ら色々出遅れとるわけやし、いい加減少しでも挽回せえへんとな」

「はやてちゃん……わかったわ。それじゃあ現在の進展状況についてだけど……」

まず、フェイトちゃんの活躍のおかげで本局への移動手段が手に入り、時間も惜しい事でなのはちゃん達は早速本局の無限書庫へ向かった。途中、本局内部で僅かに残存していたアンデッドの妨害が発生したものの、エナジーが使えるなのはちゃんによって本局にいたアンデッドの全てが駆逐される。魔法は使えなくとも一応の安全が確保された事で、ユーノ君主導、なのはちゃん護衛で一部の管理局員を含めた捜索チームが無限書庫の開拓、及びファーヴニルの封印方法の捜索を開始する。最初はゴミ屋敷にも匹敵する雑多さやったらしいけど、今ではある程度整頓されていて、資料を探すためのスペースは確保できたらしい。
一方で、メガーヌさんの協力を取り付ける事に成功したクロノ達は、彼女の書物庫から覇王について書かれた資料をとにかくしらみつぶしに探していた。それで今までに見つけたのは、古代ベルカ時代の人物概要も記された年代記、戦略指南書、武術教本、恋愛小説、昔の誰かが書いたらしい詩や、ポエム手帳にエトセトラ。……なんか後半に変な物が混じっとるけど、どれも貴重な資料である事には変わりない。しかし目的の物ではないため、皆あまり休まずに探し続けているらしい。

「なるほどなぁ。ひとまずミッドを襲ったアンデッドの脅威は何とかなって、今は封印方法の捜索にありったけの力を注いどるっちゅう訳やね。それでサルタナ閣下とエレンさん……ラジエルの状況はどうなっとるんや? やっぱり通信が繋がらへんから、知りようがないんか?」

「次元世界で主流の魔力通信や念話ではどうしようもないから、そうなるわ。せめて次元空間も通じる無線機でもあれば話は違ったのだけど……」

無線機かぁ……理由は知らんけど、成り行きでサバタ兄ちゃんが持っとる気がする。確かめようは無いけど。

「それにユーノさんの話によればリインフォースもあそこにいるらしいし、あの子大丈夫かしら?」

「へ、リインフォースはラジエルにおるん!? ……ま、まぁサバタ兄ちゃんと同じぐらいエレンさん達は強いし、ファーヴニルが相手でもラジエルの中におれば多分大丈夫やろ」

「ぶっちゃけ最前線にいるようなモンなのに、むしろ安全なのはどうかと思うけどなぁ」

ヴィータ……それは言ったらアカン。それやと管理局の総力よりもラジエルの方が強いって言ってるようなもんや。でもな~んか否定できないなぁ……。

ま、とにかくおおよその状況はわかった。そんな風に皆が大変な時の間、私は何も知らず寝てたってことか……。大変と言えば、ここに運び込まれたフェイトちゃんはどういう状態なんやろ?

「治療には私も参加したから知ってる事は知ってるけど……はやてちゃん、どうしても聞きたい?」

「聞きたい。友達を心配に思うんは当然や」

「じゃあ言うけど、覚悟して聞いてね。……フェイトちゃんはカートリッジを肉体の限界以上に使用し、更にその状態でトランス・ソルも使った事で、全身の至る所から出血してリンカーコアにも凄まじい量の負荷が溜まっているわ。治癒魔法で外傷は何とか塞いだけど、身体に残った見えないダメージを回復した訳じゃないし、リンカーコアの負荷はしばらく時間をおいて治す必要があるの。彼女の意識もまだ取り戻していないから、完治までかなり時間がかかるわ」

「かなりって、どれくらい?」

「ざっと見積もって……動けるまでなら早くて二ヶ月、長くて半年。それまでの間は絶対に戦闘はさせられないわ。でも運良く命に別状は無いから、大人しくしていればちゃんと治りますよ」

「……そっか。一応、無事に治るんやな……良かった」

大事な友達がちゃんと回復すると確認できたことで、とりあえず安心する。そして……途端に後悔の波が襲い掛かってきた。

「……クッ! どうして……どうして私はこんなに弱い……!」

「はやて……」

ベッドに叩き付けた私の拳は、ボフッと小さく音を立てるだけで、私の非力さを言外に示しているようだった。そんな私の顔をヴィータが辛そうに見てくるが、胸の内に漂う悔しさは、とめどなく私の口からあふれ出していった。

「私……何も出来へんかった。一人でもできるって……もう一人前だって証明しようとしたのに! それがちょっと敵を倒せたからって調子に乗って、挙句このざまや……! フェイトちゃんは激戦を潜り抜けて、なのはちゃんは本局の敵を片付けた後も無限書庫の探索を続けて……! なのに……なのに私はこんな所で! 情けない……みっともない……あられもない!」

こんなんじゃ駄目や。今の私では、皆の隣に立てない。皆の歩みに追い付けていない! サバタ兄ちゃんやエレンさん、フェイトちゃんとなのはちゃんのようにエナジーが使えなくとも、私は役に立てる、私なら何とか出来るって、そう思い込んでいた。
でも違った。今の私は全然役に立たない無力で貧弱な存在。もしここにサバタ兄ちゃんがいたとしても、彼にとって私はまだまだ庇護する対象……味方ではあるが、戦力には数えられない子供。隣で戦うどころか、守られるだけの非力な小娘。

そう……私は、弱者だ。だから……強くなれる力が欲しい。皆に並び立つ……いや、皆を守れる程の圧倒的な力が欲しい!!

「強くなりたい……! もっと……もっと……! そのためなら私は何だって……!」

「主……一ついいですか? 我らヴォルケンリッターはあなた様の命があれば、どのような敵であれ打ち倒す所存です。例えイモータルであろうが、絶対存在であろうが、一声命じて頂ければ必ずやその首級を捧げましょう」

「しかし……そんな私達はかつて、主はやてと兄様に出会うまでは悪夢に囚われていました。終わり無き戦いに縛られていた私達は、主達のおかげでその宿命から解放されたのです」

「はやてが見ず知らずのあたしらを温かく家族に迎えてくれた、その優しい心のおかげであたしらは救われたんだ。だからさ、はやてにはその心を失ってほしくねぇよ」

「私達を解放してくれたはやてちゃんが、今度は力にとらわれるなんて、そんなの悲し過ぎるわ。だからはやてちゃん、あなたが元来持っているはずの大切なモノまで見失わないで」

「大切なモノって言われても……優しさじゃあ、やっぱり強くなれへん。弱いままじゃ誰も守れへん……! 守れなきゃ意味が無いんや! だから……どうしても強くなりたいんよ……!」

皆の気持ちもわかるけど、今の私では何も守れない。例え心が黒く染まろうと、私は強くならなければならん。じゃないと、やっと取り戻した温もりが……奪われてしまう。そんなの絶対イヤや。そのためなら、何でもやってやる……!

「ありゃりゃ、ちょっと休憩ついでにヤガミの様子見に来たつもりが、どうも見過ごせない状態になっているみたいだね」

「あら、私はとっくの昔に想定していたわよ、ロッテ。実際、ヤガミの状況的にこうなる可能性は十分考えられたもの」

「うへぇ……また説教すんのぉ? こういう役回りしかしてない辺り、貧乏くじばっかり引いてるなぁ私ら」

「面倒だけど人生の先輩なんだから仕方ないわ。ま、今は先にしておくべき事があるでしょう?」

「あ、そうだった。封印方法はまだ見つかってないんだし、あまり悠長にはしてらんないからなぁ」

病室に唐突にやって来たリーゼ姉妹だが、話の内容的にどうやら本当に顔を見にきただけのようだ。しかしこれは好都合かもしれへん。

「リーゼロッテさん、リーゼアリアさん、折り入ってお願いがあります。私を鍛えてください!」

『却下』

「即答やと!? ど、どうしてですか……!」

「さっき言った様に、現状では時間も人手も封印方法の捜索に当たったり、治安維持のため出動したりしていて、あなた個人に構っていられる余裕は無いの。私達だって休憩が終わったらすぐにまた捜索を続行しなければならないんだから、強くなりたいなら自分でどうにかしなさい」

「大体鍛えようにも、私達はミッド式で、ヤガミはベルカ式。魔法は魔法でもジャンルが違うっての。それに教わるんなら皆が忙しい中でも、あんたのためにここに留まっていた守護騎士から教わった方がはるかにマシじゃね? 覚えたいのが魔法じゃなくて近接戦術とかなら尚更そっちの方がうってつけだし。古代ベルカには色んな武術があるから、騎士達も何か一つぐらいは覚えてるでしょ? つうか騎士達もさぁ、ヤガミが心配だったのもわかるけど、少しはこっちの手伝いぐらいしてもらいたかったよ」

「わ、私は……細々とした探し物は苦手だ」

「うむ……主を守る事ならともかくな……」

「じゃ、邪魔しちゃあ悪いと思って……」

「私は患者さん達の治療の手伝いはしてたわよ? ホラ、一応治癒術師だし」

「いや、あんたら……それ結局何もしてないって自分から認めてる事になるよ? 湖の騎士以外は、だけど」

「全く……全員そろってなっさけないわね。騎士達には戦う事と主を守る事、主には仲間の事と強くなる事しか頭に無いわけ? やれやれ……またいらない頭痛の種が増えそう」

リーゼロッテさんはがっくりと肩を落とし、リーゼアリアさんは深いため息をつき、頭に手を当てていた。苦労してるんやなぁ、二人とも。……いや、今回は私達も苦労させとる原因やから、私が言える事でもあらへんけど。

「……で、あんたが強くなりたいって考えた理由は察しが付くし、別に止めはしないけどさ。そもそも現状で魔導師の実力を上げても、絶対存在とイモータル相手に役に立つかはぶっちゃけ微妙だよ、ヤガミ?」

「それでも……それでも強くならなければ、私の大切な人達を守る事が出来へん! もう誰も失いたくないから、私は強くなりたいんや!」

「なんか未来で誰かが同じ事を言いそうな台詞ね。でも一朝一夕で強くなるのはどう考えてもねぇ……。というかヤガミ、そもそも優先順位を間違えてない? 今必要なのはあなたの成長より、この緊急事態を乗り越えるための鍵……すなわちファーヴニルの封印方法なのよ。それが見つからない=この世界が終わる、って事も理解してる?」

「それぐらいわかっとる……! でも……守れなきゃ意味が無いやんか!」

「まぁそうだね。確かにヤガミの言う通り、守れなかったら意味が無い。だから皆、必死なんだよ。必死で、ファーヴニルの封印方法を探しているんだよ。大切な人達を失わないためにね……。来るべき戦いのために実力を付ける事もそりゃあ大事だけど、切り札も無しに自分達の力だけで勝てるなんざ、誰も思っちゃいないさ」

「本局上層部の中には、残念な事にそれを認められない輩も少なからずいるだろうけど……彼らがどう言おうと結局戦うのは私達。そしてアンデッドやイモータルに効果的なエナジーが使えない以上、絶対存在との戦いに生き残るためには今の内に最善を尽くす必要がある。言っておくけど、無力感を抱いてるのはあなただけじゃない。この状況には皆、力不足を噛み締めている。かくいう私達だってそう……力さえあればって過去に何度も思ったし、今も思ってる。でもだからと言って、目的や優先順位を間違えてはいけない。この状況を打破するにはどうすれば良いのか、この選択は正しいのか、そうやって常に自分自身に問いかけるの」

「そして今、やらなければならない事と言うたら……」

絶対存在ファーヴニルの封印方法を見つけること。封印できなければ、いくら強くなろうが意味が無い……。反省した事を改善する時間が無いのは悔しくてもどかしいけど、鍛えてる場合やないってことか。

「……私、焦ってたんかな。冷静に考えたら人間相手ならともかく、あんな巨大な化け物相手に格闘戦を挑む方が危険やね。なんか下手に近づいたらプチッと潰されそうやし……皆、ガンバッ!」

「いや、はやて……そこで急に応援されてもさぁ、あたしらどう返せばいいんだ?」

「たとえ相手が山ほど大きかろうが、私は寄って斬るのみです、主」

「私は後方支援がメインだから良いけど……シグナムはともかくザフィーラ、あなた大丈夫なの?」

「なに、問題は無い。肩書きこそ盾の守護獣だが、守るばかりが俺の全てではない。鍛えた俺の拳は、山河をも撃ち砕いて見せる」

「あはは、皆やっぱり頼もしいなぁ……。まぁリーゼさん達に断られはしたけど、強さを手に入れるのは結局自分の努力次第。こうなったらちゃっちゃと全部終わらせて、シグナム達皆から近接向けの訓練を教わる事にするよ」

「主……わかりました。誠心誠意を以って主の訓練に助力いたします!」

変に責任を感じたのか、シグナムが敬礼しながらそう言ってきた。皆も何も言いはしなかったが、彼女と同じように緊張している。ひいきにしてくれたり、心配してくれてるのは嬉しいんやけど、強くなるために私の訓練を厳しくするのは多分彼女達には出来ないと思っとる。これだから皆に頼みづらかったんよ……。

「……ってか今更やけど、覇王クラウスは確か拳系男子なんやろ? それなのにあの巨大なファーヴニルと真っ向から戦って封印出来たって、古代ベルカの王様はどんだけ規格外やねん」

「あの時代は常識に喧嘩売ってる連中ばかりはびこっているとはいえ、規格外なのはせいぜい数人程度よ。ま、そもそも複数いる時点で何とも言えないけどね」

「う~ん……聖王や覇王と比べると、なんかヴォルケンリッターって実は大した事無いんじゃないかって思えてきたよ」

「む、それは心外だ。確かに私達はプログラムで出来た複製体だが、オリジナルとなった者への侮辱は流石に聞き捨てならないな」

「でもベルカの王様と比べられたら、見劣る気がするのはしょうがないわよ。能力的には全盛期リインフォース、プラスαみたいな人達だもの」

「でもさぁ、あんな怪獣みたいな化け物と殴り合おうと思う時点で、覇王もやる事が結構過激だよな」

「うむ。いくら俺が同じ古代ベルカの拳系男子でも、覇王のような能力までは備わっていない。もし覇王クラウスと手合わせできるのなら一武闘家として挑んでみたいが、功績を鑑みると勝てる気はしないな……」

ザフィーラが自虐気味にそう言うが、確かにその通りでもあった。覇王クラウスにすら勝てる実力があれば、ファーヴニルが相手でも臆する事は無い。しかし……まだ直接相まみえていないのに、私達はファーヴニルの圧倒的巨体から発せられる存在感だけで気圧されとる。これじゃあ戦う前に勝負が決まっとるもんや。何とかせなあかんなぁ……。

その後はリーゼ姉妹から今回の探索で発見された書物や、開拓領域の範囲がどこまで進んでいるかの説明をしてもらった。こうして目覚めた事で私達もこれから探索に繰り出されるため、その事前講習みたいなものをしてもらった訳や。ちなみにラジエルがファーヴニルと戦っているおかげで、次元空間内での魔力吸収がないため、使い魔の彼女達やプログラム体の守護騎士達が本局に行っても影響は出ないらしい。というか日をまたいでも戦い続けてるんか、あの人達。どんだけタフネスやねん……。
ひとまず明日の探索には私達も早速出るが、今日の所は安静にしておくように言われた。「今の内に休まないと、これからの激務に耐えられないわよ」ってリーゼアリアさんがからかい半分に脅し、「むしろ寝てたままの方が楽だったかもね~」とリーゼロッテさんは苦笑しながら激務の度合いを暗に示してきた。

「ひとまず無限書庫の探索をしてれば勝手に体力なり危機察知の勘なりはつくから、並行して戦闘技術の方を騎士達に学べば丁度良い感じに強くなれるわよ。あ、よく考えてみたらこれ良い教導訓練にもなるかもしれないわ」

「今後の新人教育の研修に、無限書庫の探索と整理整頓を入れるの? ん~言われてみれば確かに合理的かつ効率的かも。自力で資料探しが出来るようになるし、司書不足もある意味改善されるしね。コミュ力の構築に関しては、司書の仕事をこなしていく上で少しは培っていけるはずだから、色んな意味で都合も良さそうだよ」

「あはは……司書の仕事が訓練ですかぁ……」

管理局に入った新人がいきなり、司書やれって言われてポカンとする姿が目に浮かぶようや。ま、訓練になるかどうかは実際にやってみないとわからない。今は大人しく休んでおこう…………。





翌日、無限書庫で元気に挨拶した途端、鬼気迫る表情でユーノ君や司書の人達から調べた後の資料や本の後処理を押し付けられた。これまでサボってた分のしわ寄せがいっぺんに圧し掛かってきたかの如く、あくせくしながら大量の本を運びまくる私達の仕事を、昼休憩の時に話したらなのはちゃんは苦笑いしていた。

「にゃはは……はやてちゃんも災難なの」

「本を読むのは好きなんやけど……この仕事続けてたら運ぶのは嫌いになりそうや。ま、これまでのツケが回ってきたと考えれば、納得はいくんやけどね。それに私に足りない腕力を鍛えるにはちょうど良いし、疲れるけど否定的ではないなぁ」

「う~ん、でも運んでばっかりだと退屈じゃない? だから後で一緒に奥へ潜ってみようよ、ちょうどいい気分転換にもなると思うし」

「無限書庫の奥かぁ……面白そうやけど、ユーノ君が許可を出してくれたらな。ほら、勝手な行動しとったら私また怒られそうやもん」

「ユーノ君なら多分大丈夫じゃない? それに駄目でも、私が言ったら許可ぐらいすぐ出してくれるよ」

「へ? なんやなのはちゃん、私がおらんうちに何かあったんか?」

「ちょっとね。昨日、探索しながらユーノ君と色んな事を話してたの。ジュエルシード事件の時、私達は地球を守るために力を合わせはしたけど、お互いの事を知ろうとはしていなかったから。それですれ違いが酷くなる前に、心から分かり合おうとしたんだ」

「ほほう……? それでユーノ君とどんな話をしたん?」

「えっとね、好きな食べ物は何かとか、スクライアの集落はどんな所なのかとか、そういう話。まぁ、特に大した話はしてないけど、それでも久しぶりに色んな事を話せたから楽しかったの」

「微笑ましいなぁ、お二人さん。こんな状況なのに……いや、こんな状況だからこそか? ラブロマンスの芽生え、もっと近くで見守りたいわぁ♪」

「にゃ!? そ、そんなんじゃないってばもう、からかわないでよはやてちゃん!」

「あはは! やっぱいじると可愛いなぁ、なのはちゃんは♪」

でもここぞという時の彼女の芯の強さは、誰もが認める程だ。だからこそ、なのはちゃんは強い……。私には無い、確かな強さを持っている……。

「羨ましいなぁ……」

「へ? どうしたのはやてちゃん?」

「いや……何でもないよ」

「???」

きょとんと首を傾げるなのはちゃんやけど、彼女はそれでいいんやろうね。とりあえず思い立ったが吉日って感じで、休憩の間にユーノ君に探索をしてみたいと進言すると、案外あっさり許可をもらえた。どうも午前中に一生懸命本を整頓してくれたから、午後からは別の事を頼もうと思っていたらしい。向こうにとっても渡りに船やったって訳か。

そんな訳で無重力空間を浮遊しながら、私となのはちゃんの二人で無限書庫の奥へと足を踏み入れてみた。本棚や床、壁に天井と至る所に設置されたレーザーやトラップに気を付けながら探索の範囲を進めていき、見つけた資料を手当たり次第に調べる。しかし途中にある本からは、残念ながらめぼしい成果が得られなかった。それならもっと奥に行くしかないと思い、私はなのはちゃんに案内されるまま、関所のようにそびえ立つ門のような建造物の前にたどり着いた。

「これは碑文によると“追憶の門”って言うらしくてね。このまま通ろうとしても仕掛けが発動して、今いるこの位置まで転送させられちゃうの。一応転移に危険は無いみたいだけど、仕掛けを解除しないと先には進めないんだ」

「問答無用の通せんぼか。な~んかお宝の匂いがするで?」

「私達はトレジャーハンターじゃないんだけど……今は似たようなものかな」

「仕掛けの解除って誰がやっとるん?」

「ユーノ君。今は門のそばにあった碑文を徐々に解読して、手掛かりを探っているの。なんか前にも似たモノを見た事があるみたいで、その経験から慎重に進めているみたい」

「似たモノ?」

「確か“試練の門”だって。ニダヴェリールにあった仕掛けで、リインフォースさんが解除したみたいなの。でも解除出来たのは現地の人が色々協力してくれたからで、それにユーノ君も碑文の解読に手こずっていて、『彼女ならすぐ解読できたはずなのに……』って嘆いてるのを聞いた事があるんだ」

「う~ん、やっぱニダヴェリールに行ってるか行ってないかで、私達の間に認識の差が出とるなぁ。この事件の全ての渦中とも言える……でもファーヴニルによって滅んでしまった哀しき世界……」

「そして……マキナちゃんの故郷であり、先代闇の書事件の中心地」

「えっ!? なのはちゃん、それは一体どういう事や……? 私、ニダヴェリールがマキナちゃんの故郷だって事も、先代闇の書事件の中心地だって事も何も聞いとらんよ!?」

「あれ? はやてちゃん、知らなかったの? ユーノ君がニダヴェリールに向かったのは元々遺跡探索のためだったんだけど、行く時にマキナちゃんの故郷だって事を知ったサバタさんとリインフォースさんは彼女も連れて一緒に行ったんだ。しかも遺跡探索の拠点は偶然にもマキナちゃんの生まれ故郷で、奇跡的に生き残ってた昔の友達とも再会できた。……うん、再会……できたんだけどね……」

「……?」

「マキナちゃんの故郷は、ラタトスクに操られた管理局によって……全て燃やされたの。再建した家も、生き残ってた人達も、思い出の記録も全て、炎の中に消えてしまったんだ……」

「な!? なんちゅうことを……!!」

なのはちゃんからあまりに衝撃的な話を聞いた私は、色んな思考が頭の中を駆け巡って混乱してしまう。マキナちゃんの精神状態、ニダヴェリールの真実、サバタ兄ちゃんの心、管理局が引き起こした惨劇、生き残ってたはずの人達、ラタトスクの策謀、ファーヴニルの封印、思う所が多過ぎて思考がぐちゃぐちゃになる。

私は話を聞くだけでこれなのに……リインフォースは現場にいたんやったな。その苦しみや悲しみは私の想像を絶するものだと思う。特に先代絡みで……。

『―――――』

「え!? 追憶の門から光が……きゃっ!?」

「なのはちゃん! うわぁ!!?」

突然追憶の門から光の奔流が発生し、あまりの眩しさゆえ私達は反射的に手で目を覆った。そして流れ出した光は私達の身体を覆い尽くし……、一瞬の浮遊感を与える。

「く……一体なんやのもう……!」

「にゃ~、目がチカチカするのぉ~」

「なのはちゃん、大丈夫かいな?」

「何とか……はやてちゃんこそ無事?」

「全然ピンピンしとるよ。目は辛いけどな」

閃光で眩んだ眼が回復して目を開けると、私達は見知らぬ通路の上に立っていた。石造りで出来た、どこか寂しげな通路……。奥の方と言っても少し歩けば着く所に木製の古ぼけた扉があり、後ろの方は先が真っ暗で見えず、道が永遠に続いていそうだった。

「にしても、ここはどこや?」

「わ、わからない……でもどうしてだろう? なんかあの扉の向こうから闇の気配を感じる」

「闇の? ってちょい待ちぃ! つまりイモータルが近くにおるんか?」

「こんな所にイモータルがいたら、それはそれでびっくりだけど……多分」

「マジかぁ……勘弁してや……」

というかラタトスクの件だけでも手一杯やってのに、これ以上イモータルが増えたら流石に対処しきれへんわ。こうなったら事が大きくなる前に、私達で倒してしまうしかない。その意志を告げようとした寸前、なのはちゃんは私を励ますかのような笑顔で言ってきた。

「あの奥にイモータルがいるなら私が倒すよ。だから、はやてちゃんはここで待っててね」

「え……何を言うとるんや、なのはちゃん! 私も一緒に戦うよ!」

「大丈夫、エナジーなら私だって使えるもん。はやてちゃんが心配する必要は無い、皆を一人にしないためにも、私は生きて戦うって決めたんだ」

「そうやない! なのはちゃん、正直に教えて。私は……邪魔なんか? エナジーが使えない私は、余計な真似をするなって言いたいんか!?」

「ち、違う! 私ははやてちゃんを危険な目に遭わせたくないだけだよ! だってイモータルやアンデッドは魔法だけじゃ倒せない。エナジーを組み合わせないと、まともにダメージが与えられないんだよ!」

「んなのとっくの昔に知っとるわ! だから私が邪魔やって言うとるんやろ!? 私はフェイトちゃんとなのはちゃんのように強くない。魔導師としても、戦士としても、人間としても、私は二人に劣っとる! なのはちゃんだけやない、マキナちゃんにすら今の私は全く敵わない! こんな何も出来ない弱者なんか戦場に出てくるなって言いたいんやろ!?」

「そこまで言ってないよ! 単に私は、誰にも傷ついて欲しくないだけ! この前フェイトちゃんがアンデッドと戦って大怪我をして、凄く辛かった。大切な友達がいなくなるんじゃないかって、とても怖かった! だからもうあんな気持ちは味わいたくないの!」

「それはなのはちゃんの都合やろ! 私には私の都合がある、私かて家族や友達を失いとうない! そのために……皆を残酷な世界に奪われないために、私は戦うと決めた! なのになのはちゃんは私に戦うなって言ってきた! 私が決めた道を、なんで友達のはずのなのはちゃんが否定してくるん!?」

「友達だからだよ! 友達だから、守りたいんだよ!」

「それは私も同じ、なのはちゃんや皆を守りたい! その想いはなのはちゃんが私達に抱いてる気持ちとおんなじや! そう、おんなじやったのに……やっぱり……なのはちゃん達と違って私に力が無いから、最初から戦う資格が無いんやな……」

「は、はやてちゃん……」

「ええよ……どうせわかってたことやし。……行くなら行けばええ、もうワガママは言わへんから……」

「ワガママって……そんな自虐的な言い方しなくても……」

「慰めはいらん。全部事実なんやからな……」

無力さを噛み締めて俯いた私に、なのはちゃんはかける言葉が思い付かず、伸ばした手を途中で降ろしてしまう。彼女は暗い表情のまま扉の方へと歩いていき、扉を開ける前に一度私の様子を見てから入って行った。

「……あ~あ、何やってんやろ私。途中から頭に血が昇って、つい喧嘩してもうた。……はぁ……なのはちゃんをあんなに落ち込ませて……私、大馬鹿やな」

意地を向けるベクトルを思いっ切り間違えたな。友達を守るどころか、傷つけてどないすんねん。私が何のためにここにいるのか、根本的な部分を忘れたらあかんのに。

「後で……謝らないとな」

扉の方を向いた私は、その先で戦っているであろうなのはちゃんの事を思う。結局イモータルが相手やと、私は役立たずやなぁ……。これじゃあラタトスクと戦う以前の問題やん……。

「きゃぁあああああああっ!!!!」

「ッ!?」

悲鳴!? しかもこれは、なのはちゃんの……! ま、まさか!

嫌な予感を抱いた私は急いで通路の奥にある扉を開け、中へ飛び込む。そしてそこには信じられない光景が広がっていた。

「とうとう来てしまったのね……。あなたさえ来なければ……こんな事にはならなかったのに……。……さようなら、魔法少女」

赤いワンピースを着た哀しげな少女が、入ってきた私と……身体が一部石化しながら倒れているなのはちゃんの姿を見て、そう言ってきた。

「なのはちゃん!!」

「彼女にはここから退場してもらうわ……そして、あなたもすぐ同じになる……」

彼女が眼で合図を送ると、倒れているなのはちゃんを大人に匹敵するほど大きな鶏に近い見た目の鳥、コカトリスがどこかへ運んでいこうとする。

「ま、待て! なのはちゃんをどうするつもりや!! ……ッ!?」

あ、足に力が入らん!? まずい……強化魔法が切れた状態!

「暗黒物質は魔力を消失させる……あなたが自らの足にかけていた強化魔法が、その作用で消えたようね……」

「くっ……強化魔法無しだと、まだ激しい動きは出来そうにないか……! それでも……諦めてたまるかいな!」

それにコカトリスを追いかけようにも走れなければ追い付けない。飛行魔法もこの濃度の暗黒物質が漂っていては、制御が不安定になる。どうやらこの場をどうにかしてからじゃないと、なのはちゃんの所へ行けないな。

「……」

「そう睨まなくても、無力化した彼女にはもう何もしないわ。ただ……安全な場所に行ってもらうだけ……」

「そう言われても、イモータルの言う事なんか易々と信じられるか!」

「信じられなければ、それで構わない……。だけど、あなたには一つチャンスを与えましょう」

「チャンスやと?」

「……ここから尻尾を巻いて逃げなさい。エナジーが使えないのでは、闇の一族である私を倒す事は出来ない。合理的に考えて、あなたが戦うのは自殺行為だわ」

「……かもしれへんな。でもそれは聞き入れられへん! 友達を見捨てて、おめおめと逃げ帰れるか!」

「友を失い……それでもまだ戦うの?」

「失ってなんかおらん、まだ取り戻せる。だから戦うんや!!」

「いいわ……お次はあなたの番……。さあ、いらっしゃい……」

少女が浮遊して後ろに下がって舞台のような場所で身体が一瞬光り、その正体を私の前に晒してきた。神話にあるメデューサとバシリスクが混ざったような、髪の毛も蛇になっている巨大な緑色のヴァンパイア。初めて私のすぐ目の前で君臨したイモータルから発せられる、凄まじい威圧感を受けて私の頬を冷たい汗が流れていく。

「私はカーミラ……“死せる風運ぶ嘆きの魔女”。夜天の主……サバタ様の命を蝕む魔導師よ……。何も知らない愚かな少女よ……。その罪を……ここで贖うがいい!」

固そうな尻尾で彼女は地面を叩き、戦闘開始する……って、カーミラ? そ、それじゃあ彼女がヴァナルガンドをその身を以って封印した、サバタ兄ちゃんの想い人……!? そもそも石化能力を持っている時点で気付くべきやった……イモータルとして蘇った彼女が暗黒物質を宿していた事は明白や!
そしてここは追憶の門の仕掛けの中……“追憶”って単語から、彼女は本物に限りなく近い、しかし本物ではない幻だ。それなら私でも勝てる可能性はあるはず!

上からひし形の形状をした変な装置がいくつも降り注ぎ、困惑する私に対してカーミラは冷静に稲妻が走る石化弾を放ってくる。予想に反してその速度は緩慢なものだったため、避けるのは容易かった。……が。

「って、曲がった!?」

なんと、装置に当たった石化弾が直角に曲がって来たのだ。誘導弾ではないと高をくくっていた私はあわてて飛びのけるが、その時に身体がぶつかって別の装置が回転する。

「くっ……ショット!!」

避けてばかりいるわけにもいかないため、効かない可能性が高くとも装置の隙間を掻い潜って魔力ショットを連射する。だがやはり想定していた通りにダメージは通らず、蛇の滑らかな表皮に弾かれてしまう。というかこれ程高い防御力の前では、もし太陽銃があってもまともなダメージは与えられそうにないな。

何か有効手段は無いか……そう考えながらひたすら石化弾をかわしていく。だがカーミラは突然、全方位石化弾をコカトリス像のも含めて一斉に放ち、逃げ場を失くそうとしてきた。必死に当たらずに済む隙間を探し、何とか見つけたそこへ身を投げ込む。しかしそこには、石化弾の影に隠れた別の石化弾が飛来してきていた!

「しまった! うわっ!!」

足の状態も相まって咄嗟に動けなかった私は、見えなかった石化弾を左肩に受けてしまい、石がこびりついた被弾箇所から左腕まで石化してしまう。身体の一部が全く別の無機質な物体に成り代わった事で、重心のバランスが崩れて動けなくなる。

更にそこへ部屋全体を振動させる程の威力がある、尻尾の叩き付け攻撃が襲いかかり、叩きつけられる寸前に必死にもがいた私は、石となった左腕を引きずってギリギリ攻撃範囲から逃れる。しかし一旦尻尾をひっこめたカーミラは次の瞬間、パイルバンカーのように凄まじい速度で突き刺してきた。咄嗟に張ったシールドはガラスが割れる音を立てて容易く打ち破られ、私は後ろの壁と尻尾の間で押し潰されてしまう。

「ぐはっ!! やば……い……い、きが……!」

みぞおちに入ったせいで肺を圧迫されて呼吸が……! 身体が酸素を求めても、血液に供給する事が出来ない……! 酸欠の危機に陥った私だが、そうなる前にカーミラは尻尾を引っ込めて、再び舞台に姿を現した。それと同時に反射装置も降ってきたが、私は解放された肺に酸素を補給する事に意識が取られていた。

「ぜぇ……ぜぇ……。ま、まずい……向こうはノーダメージ、逆に私はもう満身創痍……これ、逆転出来るんかいな……」

「あなたは……自ら勝機を見逃している……。エナジーが使えなくとも、戦い方がある事に何も気付いていない……」

「そんなの……ある訳が……!」

「あなたの力は戦況を俯瞰して見れるようになって、初めて真価を発揮する。力とは何か……? 相手を滅するためのものと考えているのであれば、それは間違い……。さあ、考えなさい……この私を倒すには、どうすればいいのか!」

考える……? 考えただけで倒せるものなら、最初からそうしとる。……いや待て、私は……真剣に考えたのか……? 思い付かない理由をエナジーが無いからだと押し付けて、本当は思考停止に陥っていたのではないか?

……そうか、私は……間違っていたんやな……。勝つという事……それは自分の力で倒す事を意味しているんじゃない。仲間の力を有利な状況で使わせたり、相手の力を利用して反撃したり……色々ある。そうや……私には戦術がなくとも、戦略がある! なのはちゃん達は目の前の相手に集中しやすいけど、私は全ての敵や状況に意識を向けられる。これが……これこそが私の力! 皆に追い付くための、私だけの力!!

「どうやら……吹っ切れたみたいね」

「ああ……待たせたな。こっからは私のターンや!!」

「では……その言葉が真か否か、確かめさせてもらう!」

戦闘再開。今度はあの太陽ミラーという装置に当たった弾がどう動くのか、戦略眼で情報を集めていく。私のショットも当たれば直角に偏向するから、彼女の石化弾が当たる前に太陽ミラーの向きを変えたり、スプレッドで破壊したりして、上手く戦況を誘導していく。そしていくつもの太陽ミラーに反射されて、石化弾が思惑通り彼女の尻尾に直撃した瞬間、彼女はいかにも大ダメージを受けた様子で苦しんだ。

「よし、この調子や!」

「………」

その後も尻尾攻撃やコカトリスの参戦もあったが、戦略を交える事で全て対処が可能だった。そうして数回の石化弾返しがヒットした時、徐にカーミラは変身を解除、会った時の赤いワンピースの姿に戻った。同時に私の左肩の石化も解除され、元の血の通った身体に戻っていた。

「………もう……十分ね。あなたの力は、確かめさせてもらいました」

「え?」

「迷いは晴れましたか、八神はやて様?」

「あ、ああ……おかげで劣等感は吹っ切れたけど……、っ!? まさか……これまでのは演技やったん!? ってことは、あなた本物のカーミラさんなんか!?」

「すみません、どうしても見過ごせなかったので……差し出がましい事をさせていただきました」

「な、なんつぅか……世紀末世界の人間にはホンマかなわんなぁ……。ちゅうかヴァナルガンドと共に眠っとるはずのあなたが、どうやって……」

「この“追憶の門”は、過去の出来事を限りなく近い形で再現できる仕掛けが施されていましたが、解除するには魔女の力が必要だったのです。あなた方魔導師は魔女とは異なる存在なので、これまで誰も開ける事が出来ませんでした。しかしその分、仕掛けに魔女の力が伝わりやすいという事も意味するので、こうして澱みの世界から思念を送る事で無事作動させる事ができました。なのでここから戻った後は、門が通れるようになっていますよ」

「はぁ~そうなんか……、……あれ? じゃあなんで私の悩んでた事がわかったん?」

「ヴァナルガンドと共に眠りについてから、私にも色々ありまして……。簡単に言えば幽霊の話し相手が出来たと言いますか……その方から様々な現世の情報を教えてもらっています」

「まぁた幽霊かいな。アリシアちゃんの件と言い、病院の件と言い、そこらじゅうで幽霊自由に活動し過ぎやろ……。ん~とりあえずその幽霊から、私の事を聞いたって訳なんやな?」

「はい。そのおかげであなた方の心情も、私がいなくなってからサバタ様がどのように生きてきたのかも、全て把握しています」

「という事は、今サバタ兄ちゃんがどこにいるのかもわかっとるの?」

「はい……。そしてサバタ様の命がどれほど危うい状態なのか、それも把握しています」

「危うい? そういえばさっき、私の事を“サバタ様の命を蝕む者”って……。一体……どういう意味なんや?」

「……すみません、仕掛けが解除された事でこの空間の維持がこれ以上できないので、詳しく説明している時間がありません。急ぎで申し訳ありませんが後で高町なのは様にも、私から謝罪の意をお伝えしておいてくれませんか?」

「それは仕方ないから構わへんけど……、なんでわざわざこんな事をしてくれたん? ヴァナルガンドの思念に抗いながら、なんでそこまで私達のために尽くしてくれるん……?」

「サバタ様が守ろうとしている命を、希望を未来に繋ぐためです。私に出来るのはここまでですが、生きているあなた達はもっと多くの事ができます。今は出来なくても、いつか為し遂げられる……その可能性を、私も信じているのです」

「カーミラさん……」

「さあ、行きなさい。ここはあなた達のいるべき場所じゃない、あなた達が生きて未来を作る世界へ……お帰りなさい……」

そう言ってきたカーミラさんから優しい光が発せられ、私の視界を覆う。一瞬心地よい感覚を味わった後、再び目を開けると……私は門から光が出て来た時と同じ位置に立っていた。そして隣に視線を送れば、あの場所から席を外していたなのはちゃんも帰って来ていた。お互いに石化の痕跡は微塵も無い……、あの出来事が幻だったんじゃないかとも一瞬思えたが、彼女が眼を覚まして私の顔を見た時にとても悲しそうな表情を浮かべた事から、あれは本当にあった事だと改めて確信した。

それなら……まずやらないといけない事がある。

「は、はやてちゃん……その……」

「ごめんなさい」

「え!?」

「私……ムキになって、なのはちゃんに怒りをぶつけてしまった。なのはちゃんの気持ちも考えないで、自分の事ばかり言い過ぎた……ごめん」

「そ、そんな事無い……そんな事無いよ、はやてちゃん! 私もはやてちゃんの気持ちも全然考えないで、あんな事を言ってしまった。大切な人と一緒にいられない、力になれない辛さは私もよく知っていたのに! だからむしろ私が先に謝らないといけなかった……! なのに……なのに……!」

「なのはちゃん……こりゃお互い様、って奴やな。だから……さ? 仲直り……してくれる……? また……友達になってくれる?」

「私も……仲直りしたかった……!! ありがとう……私を許してくれて、ありがとう……はやてちゃん……!!」

「私もや……ありがとな、なのはちゃん……!」

こうして……私となのはちゃんは仲直りを果たす事ができ、更に彼女達に抱いていた劣等感はカーミラさんのおかげで、吹っ切れる事が出来た。カーミラさんの謝罪の事を伝えると、なのはちゃんも笑顔で許してくれた。そして……心優しい魔女さんのおせっかいは、円満に解決したのであった。

そう、表向きは。しかし私は……彼女が発した“サバタ様の命を蝕む者”という意味に、大きな不安を抱いていた。私は……皆に隠されている重要な事があるのかもしれない。シグナム達はなんか私と一緒に何も知らされてなさそうやから……リインフォースか、リーゼ姉妹に話を聞いてみよう。尋ねてもはぐらかされるかもしれないが、話してくれるようにお願いしてみるしかない。

 
 

 
後書き
カーミラ戦:ボクタイで4番目に戦う風のイモータル。伯爵やムスペルはちゃんと攻撃しないと倒せませんが、ガルムと彼女は仕掛けを上手く使えば太陽銃で攻撃しなくても倒せます。ちなみにガルムは氷ブロックをぶつけます。なお、彼女が知り合った幽霊は、世紀末世界の人間です。追憶の門に必要な魔女の力は、クロゼルグのでも可。

結局、はやてはエナジーが使えないままです。というか彼女は前線に出しにくいキャラなんですよね……。ちなみに今回の話がボケに走った場合、こうなります。



門から光が発し、私達の身体が飲み込まれる。そして目を開けると……、

謎の司会者「さあ始まりました! 一発芸で100人笑わせてみせましょう!! まず最初の参加者は~? 高町ぃ~、なのはぁ~!!」

なのは「え……い、一発芸って……」

はやて「100人って……マジかぁ……」

謎の司会者「さあさあ、時間も押してるので早く舞台に上がって下さい」

なのは「ふぇ、ふぇ~!?」

舞台上に立つ、同い年の魔法少女。ポツンと上から照明が注ぐ彼女に、会場にいた100人の目線が全て集中する。

なのは「(え……どうして私、こんな所にいるの? 何でこんな状況になってるの? ちょっと待ってよ、こんなたくさん人がいる前で一発芸やらなきゃいけないの? 無茶振りにも程があるよ、こういうのははやてちゃんの役割でしょ。でもここで何もしないってのはこの人達に悪いし……でもだからって一発芸って……しかも笑わせなきゃいけないって……教えて神様、私何か悪いことしましたか? もししてたなら謝ります、ですから助けて下さい! いや、ホント切実にお願いします!)」

はやて「(うわぁ……これは想像以上にキツイ。この空気の中で一発芸やれって、マジ地獄やん。しかも誰も笑わないなんて下手こいたら、恥ずかし過ぎて死ぬわぁ。来たら来たで私は何とかなるけど……頑張れなのはちゃん、私に出番を回さんといて~。ってかあの司会者誰や?)」

謎の司会者「(答えは神のみぞ知る)」


前半部分のはやての劣等感からの流れをぶち壊し過ぎてるので、ボツにしました。 
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