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英雄伝説~西風の絶剣~

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第8話 すれ違い

 
前書き
  

 
side:リィン


「ふわあ~……」


 昨日は何だか疲れて直に寝てしまった、そろそろ起きないと。


「んん……リィン」


 僕の隣で寝ていたフィーも起きたようだ。


「フィー、おはよう」
「ん、おはよう、リィン」


 まだ眠たいのか目をゴシゴシさせている、そんなに擦ったら目が傷ついちゃうよ。


「ほらフィー、しっかりして、外に出て顔を洗おう、ね?」
「……ん」


 僕はフィーを連れて外に出た。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



「ん……まだ眠い」


 着替えを終えた僕とフィーは外で朝食を食べていた。ってフィー、スープに顔つけそうになってるじゃないか。


「フィー、眠たいなら今日はお留守番しててもいいんだよ?」
「嫌、リィンと一緒に行く」


 フィーはギュッと僕の手を握る。しかしフィーと家族になってから何処に行くのも一緒だよね、まあ嬉しいからいいんだけど。


「お、朝から仲がいいな。リィン、フィー」


 あ、団長だ。


「おはよう、団長」
「……おはよう」
「ああ、おはよう、いやー昨日は飲みすぎたぜ。記憶が無いんだもんな、あはは」
「あははじゃないよ……姉さんやレオは介抱で大変だったみたいだよ」


 そのせいか姉さんやレオ以外の団員の皆はまだ寝ているみたいだ。


「分かってるさ、今日は俺達が皆の面倒をみるよ」
「そういえばレオがいないみたいだけど?」
「あいつは食料を取りに行ったぞ、今日にはレグラムを発つからな。魚とか獣肉を持って帰って乾燥させれば保存食になる、猟兵には必須だろう?」


 そうだね、一応缶詰とかもあるけど食料はあって困らないからね。


「所でお前ら今日はどうするんだ?」
「レグラムに行こうと思ってるんだけど駄目かな?」
「ん~まあいいぞ。お前はまだ顔までばれてないからな。でも注意はしろよ」
「うん、分かったよ団長」




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


side:ルトガー


 リィンとフィーがレグラムに向かい俺は自分のテントで明日から向かう仕事の内容を確認していた。


「ルトガー、ここにいたのね」
「マリアナ?」


 すると寝ていたはずのマリアナが入ってきた、もう起きたのか?


「おうマリアナ、もう休まなくていいのか?」
「ええ、もう大丈夫よ、それよりルトガー、リィンとフィー知らない?久しぶりにあの子達と遊んであげたいんだけど」
「ああ、二人ならレグラムに向かったぞ」
「あらそうなの、でも良かったの?」
「あん?」


 マリアナは何やら心配そうな表情を浮かべていた。


「昨日この街の領主が帰ってきたらしいわ。レグラムの領主はあの『光の剣匠』よ、リィンとフィーの顔が知れてないとはいえ心配だわ」
「ん~そうか……」


 光の剣匠か、個人的にはけっこう興味があるんだがな。


「もう貴方らしくないわね、二人が心配じゃないの?」
「心配してない訳じゃないけどよ、まあ案外バレても大丈夫じゃないか?」
「どうしてそう言えるの?」
「……まあ勘だよ」





ーーーーーーーーー

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ーーー



side:ラウラ


「ふふっ♪」


 剣の手入れをしながら私はリィンとフィーが来るのを心待ちにしながら待っていた。
 昨日見たリィンの剣技……未知の剣術に私の剣が通用するのかどうか今から楽しみだ。するとじいが部屋に入ってくる。


「失礼いたしますお嬢様、リィン様とフィー様が練武場にお見えになられました」


 おお、来てくれたか!私は早足で練武場に向かった。




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



「リィン、フィー、よく来てくれた」
「あ、ラウラ、昨日の約束通り仕合しに来たよ」
「やっほー、ラウラ。」


 私はリィンとフィーに挨拶をする。しかし本当に仲が良いのだな、今も手を繋いでいる。私は一人っ子だから兄妹の関係は少し羨ましく思う。


「それでリィン、まずはアルゼイド流の基本である素振りから始めないか?」
「そうだね、軽くウォーミングアップしたいと思っていたんだ」
「よし、では素振り1000回始めるぞ!」
「おおっ……って1000回!?」


 そして私とリィンは素振りを始めた。しかしこうやって年の近い者と剣を振るのは初めてだな。門下生の皆は年の離れた兄のようなものだった、だからリィンと共に剣を振るのは新鮮だ。


「ふふっ、こういうのもいいな」




ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


side:フィー


「ふふっこういうのもいいな」


 リィンとラウラ、何だか楽しそう…


 チクッ……


 ……まただ、リィンがわたし以外の女の子と楽しそうにしてるのを見てると胸が痛くなってくる…まるで自分の腕に針をチクチク刺されてるみたい。
 今日の朝も本当は眠かった、いつもなら眠いときは動きたくないのに、リィンがラウラと二人っきりで会うのが嫌だった。
 わたし、どうしたんだろう。モヤモヤする、こんな気持ちは初めてだ。


「リィンのバカ……」


 わたしがそんなことを考えていたら練武場に誰かが入ってきた、あの三人は昨日リィンに敵意を出していた子達だ。


『お姉さま~ッ!!』


 ふわー……ちょっと面倒な人達が来ちゃったね。わたしはあの三人が苦手だからめんどいなぁ……


「あら貴方は……」
「確かフィー様でしたね、おはよう御座いますわ」
「あーッ!昨日の失礼な娘ですわ!」


 あーあ、見つかっちゃった……


「朝からコケコケうるさい、静かにして」
「人を鶏みたいな扱いしないでくれます!?」


 ふふッ、クロエをからかうのは面白いかも。リィンを嫌ってるから余り好きじゃないけど。


「どうだリィン、身体も暖まってきただろう」
「うん、もう汗だくだよ」


 あ、リィンとラウラが戻ってきた。二人とも汗だくだね、本当に1000回も素振りしたのかな?


「あ、お姉さま~、おはよう御座います。今日も凛々しくて素敵ですわ」
「うむ、おはようクロエ、シンディ、セリア」
「やりましたわ!私が一番最初に名前を呼ばれましたわ!」
「いいえ、あえて大切な人を最後に呼ぶかもしれません」
「うう、私は真ん中だから何も言えませんわ…」


 ラウラに挨拶された三人はそれぞれ面白いリアクションを見せてくれた。まあラウラは唯名前を呼んだだけなんだろうけどね。


「あ、君達も来たんだ。おはよう」
「あら、おはよう御座いますリィン様」
「お姉さまに手は出してませんわよね?」
「手を出す?握手のことかな?」
「……出してないならいいですわ」


 シンディとセリアは昨日の試合で少しはリィンを認めてくれたのか普通に接している。まあラウラと話してると嫉妬の視線をリィンに送ってるけどね。


「………」
「えっと、おはようクロエさん」
「……おはよう御座いますわ」


 クロエは未だにリィンを認めていない。何かあると直にリィンを睨んでるし……


「リィン、そろそろ仕合を始めないか?」
「ああ、そうだね」


 あ、いよいよ始まる。リィンの強さは知ってるけどラウラも強そうだね、これはちょっと楽しみかも。


「あら、リィン様とお姉さまが仕合なさるみたいね」
「リィン様はフリッツ様にも勝ってますしこれはいい勝負になるんじゃないのでしょうか」
「二人とも何を言ってますの、お姉さまの圧勝に決まっていますわ!」
「仕合が始まるんだから静かにして、寸胴娘」
「だから寸胴じゃありませんわ!」


 そうこうしている内にリィンとラウラが台の上に立つ。


「リィン、こうしてそなたと剣を交えることを楽しみにしていたぞ」
「うん、僕も楽しみだったんだ、手加減は無しだからね」
「無論だ。フィー、すまぬが開始の合図をしてもらえぬだろうか?」
「ん、いいよ」


 わたしは台の真ん中に立ち合図の準備をする、既に二人は戦闘の構えに入っていた。


「ん……それでは、仕合……開始」


 わたしの掛け声と共にリィンが動きラウラの懐に潜り込み刀を振るった、でもラウラはそれを両手剣で弾き左からの斬撃をリィンに放つ。


「なんのッ!」


 リィンは斬撃を後ろにステップしてかわした。


「はああッ!」


 今度はラウラがリィンに攻め込む。右、左、下と様々な方向から斬撃を放つ、速度だけなら昨日見たフリッツっていう人より早いかも知れない。


「どうしたリィン、そなたの力はそんなものか!」
「まだまだこれからだよ」


 ラウラの攻撃をかわしながらリィンも反撃する。


「鉄砕刃!」


 ラウラが飛び上がり上空から重い一撃を放つ。


「時雨!」


 リィンはラウラから距離を取り素早い突きを放つ。


キィンッ、ガキィンッ、カァンッ!


 金属のぶつかり合う音が練武場に響き渡る。
 リィンとラウラは一歩も引かず剣を打ち合わせる、力ではラウラが勝っており鍔迫り合いや打ち合いではラウラの優勢だが速さではリィンが勝っておりラウラの攻撃後の隙をついて背後に回ったり速さでかく乱した戦法で戦っている、二人とも戦闘スタイルは全くの正反対で中々決着がつかない。


「やるなリィン、そろそろ決着をつけようじゃないか!」
「なら僕が出せる最高の技で勝負だ!」


 リィンとラウラが静かに剣を構える、リィンは居合いの構えを取りラウラは両手で剣を構える。


「ゆくぞ、奥義、洸刃乱舞!!」
「はぁぁぁ!焔の太刀!!」


 ラウラの両手剣が光を放ち渾身の一撃が放たれた、対するリィンも刀に炎を纏わせた一撃を放った。


ガァァァァァァンッ!!!


 二人の攻撃がぶつかり合い凄まじい衝撃が走る、どっちが勝ったの?
 わたしが目を開けるとリィンとラウラはそれぞれの武器を落としていた。


「……どうやらこの勝負」
「引き分け……みたいだね」


 二人の勝負は引き分けに終わった、どうやら技がぶつかった時の衝撃でお互い武器を落としてしまったようだ。


「とてもいい勝負でしたわ」
「お姉さまが勝つと思っていましたがあの殿方、本当にお強いのですね」


 シンディやセリアも二人の仕合に賞賛を送っている、でもクロエはきっとリィンを批判するんだろうな。わたしはそう思ってチラッとクロエを見るが……


「………」


 あれ、昨日はまぐれとか言っていたのに今日は何も言わないなんて変なの。


「どうしたの、昨日みたいに何か言わないの?」


 わたしはつい意地悪な質問をしてしまった。


「バカにしないでくれます?私はお姉さまの強さをよく理解しています、だからお姉さまと互角に戦ったあの殿方の実力は本物ですわ……認めたくはありませんが」


 ……何だか意外、けっこう素直なんだね。


「……それに」
「それに?」
「お姉さまは真剣勝負を大切になさるお方、そのお姉さまと全力で戦った方を私が貶したりなんてしたらお姉さまの事を汚すことにもなりますわ」
「昨日は言ってたのに?」
「あくまでお姉さまが戦った時の場合ですわ、それ以外に興味なんてありませんもの」
「……ふふっ」
「むっ、何が可笑しいのですか?」
「違う、貴方をバカにしたわけじゃない。ただ素直じゃないなと思って……それって遠まわしにリィンを認めたってことでしょ?」
「は、はぁ!?何を言ってますの!」


 だって結局はラウラと互角に戦える人=実力あると認めた、って事でしょ?なんだ、クロエって恥ずかしがり屋なんだ。


「バカな事を言わないで下さいますか!……ってその笑みを止めなさい!」
「ふふっ、ごめんね」


 クスクスと笑うわたしを見てクロエが起こるが、そんなクロエを見てわたしは更におかしくなって笑ってしまう。


「あれ、あの二人いつの間に仲良くなってるぞ?」
「仲のいいという事は良きことだな、うむ」
「あらあら、クロエったら楽しそうですね」
「本当ですね」



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


side:ラウラ


「久しぶりに良い仕合が出来た」


 仕合後私は汗を流すためにシャワーを浴びていた。リィンにも別室でシャワーを使ってもらっている。私はとても満足している、あのように満ち足りた仕合は生まれて初めてだった。


「父上は共に切磋琢磨できる好敵手がいれば更に強くなれるといっていた。リィンなら私の好敵手となってくれるだろうか」


 リィンの事は気に入っている、妹を大切にする優しい少年、それがリィンに対する私のイメージだ。フィーも兄を大切に思いやるいい妹だと思う。クロエとも打ち解けたようで何よりだ。


「そろそろ上がるか、客人を待たせるのは失礼だからな」


 私はシャワーを止めた。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「リィンとフィーはどこにいるのだろうか、待たせてしまったか?」


 私は二人を探して屋敷を歩いていた、使用人に聞いた所どうやらリィンとフィーは客室にいるらしい、使用人に礼を言って私は客室に向かった。暫く歩いているとリィンの声が聞こえてきた。


「ふむ、ここにいたのか」


 私はノックして中に入ろうとしたが……


「ん、くすぐったい」
「駄目だよフィー、ちゃんと髪を乾かさないと髪が痛んじゃうよ、せっかく綺麗な銀髪なんだからもっと気にしないと」
「リィンはわたしの髪、綺麗だと思う?」
「うん、とても綺麗だと思うよ」
「……ならこれからはもっと手入れに気をつける」
「それがいいよ」


 おっと、どうやらまだ身だしなみを整えている途中か、もしかするとリィンとフィーはいっしょにシャワーを浴びたのか?…まあ兄妹なら普通なのか?
 しかし本当に仲の良い兄妹なのだな、フィーは嫌がる素振りも見せずにリィンに身を任せておりリィンもフィーの髪を丁寧に拭いている。


「それにしても意外だった、リィンって戦うのは嫌ってると思ってた」
「……そうだね、今日みたいな仕合ならともかく命をかけた殺し合いは好きじゃない」


 殺し合い……?私はリィンの言葉に耳を疑った。まさか命の掛け合いもしていたのか、私と同じ年で……


「でも戦わなくちゃ何も守れない、大切な人を守るために僕は剣を手にしたんだ」
「リィン……」


ギュッ


 その時フィーがリィンの頭をそっと抱きしめた。まるで壊れ物を扱うように優しく包み込むように……


「フィー……?」
「わたしはリィンみたいに戦うことは出来ない、でも少しでもリィンの支えになりたい。だからリィンもわたしに甘えてほしい…頼ってほしいの」
「フィー、ありがとう」


 リィンはフィーの手を握りフィーも微笑みながらリィンを撫でる。


 うむむ、何やら入りにくい雰囲気だ。ここは一旦時間を空けるか、私は部屋を後にしようと……






 


 

「本当に頼ってよ?『猟兵』の仕事は危険だから、貴方に何かあったらわたしは壊れちゃうから……」

 








 



 ……えっ?今フィーは何と言ったのだ?『猟兵』……リィンとフィーが?どういう事なのだ?


 ガタンッ!


「あれ、今何か音が……ラウラ!?」
「……ッ!」


 しまった、動揺して音を立ててしまった……!


「ラウラ、もしかして今の話を聞いていたのか?」
「すまない、立ち聞きなどして……だがどういうことなのだ、リィン。そなたは猟兵なのか?」


 嘘であってほしい、さっきのは私の聞き間違い……違うと言ってくれ、リィン!












「…………ごめんラウラ、僕は猟兵なんだ」








 !?……そんな……リィンが猟兵……私がもっとも嫌う猟兵だと……!



「そなた、そなた達は私を騙していたのか……?」
「いや、それは違……」
「何が違うのだ!そなたは私に自分は旅人だと言ったではないか!」
「……っ」


 思考が安定しなくて頭がグルグルと回るような感覚だ。


「滑稽だったろうな、ずっと私を騙して心の中で笑っていたのだろう?」
「違うラウラ、リィンはそんな事……」
「だが事実だろう!疚しい事がなかったら真実を話したはずだ!」
「それは……」


 もう自分が何を言ってるのかも分からない、唯心のモヤモヤを無くしたくて叫んでいる。


「もうよい……もうそなた達など信用できぬ!」
「あ、ラウラ!」


 私はいても立ってもいられなくなりその場から逃げ出した。






 
 

 
後書き
ラウラって最初自分の正義を譲らない性格だったからリィンが剣に真剣になってないと思い失望したりフィーが元猟兵と知ってギクシャクしたりしちゃってたし……そこから成長していくのがラウラなんですよね。
  
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