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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第5章 汝平和を欲さば戦に備えよ
  第39話 エロは世界を救う

 
前書き
未完成版ではあまりにも恰好がつかないので、完全版を投稿させていただきました。
後半部分だけ読めば大丈夫です。 

 
「一誠、もう怪我は大丈夫?」

「心配し過ぎですよ部長、この通りぴんぴんしてます」

 心配するリアス・グレモリーをよそに、笑顔で大丈夫だという兵藤一誠あった。どこまでも白い部屋は、病室だったが、ただの病室ではない。まるでホテルのスイートルームのような広さと豪華さを極めた部屋だった。
 見舞いに訪れた一誠の両親などあまりの光景に卒倒しそうになったほどだ。これは、サーゼクス・ルシファーの純粋な好意によるものであり、妹のリアスを救ってくれた一誠への心からの感謝の現れだった。

咸卦法(かんかほう)だっけ? 八神さんに聞いたけれど、究極技法(アルテマアート)と呼ばれるほどの相当高度な技らしいね。それを土壇場で成功するなんて、『物語の主人公みたいだ』って彼女はあきれていたよ」

 木場が言う通り、一誠は咸卦法(かんかほう)に一度も成功したことがなかった。それを土壇場で成功させたのだ。木場は素直に一誠を称賛していた。と、同時につい数か月前まで全くの素人だった人間が、自らに匹敵――いや、むしろ凌駕するほどの実力をつけたことに戦慄していた。

「愛の力ですね」

 茶化すように子猫が発言すると、真っ赤になって恥じらってしまう二人。そんな二人をみて、リア充爆発しろ、と彼女が思っても致し方ない。それくらい初々しく、相思相愛であることがまるわかりなカップルだった。
 もともと距離が近づいていたが、ここにきて一気に距離が縮まった。サーゼクス公認の下、晴れて付き合うことになったのだ。これまで積極的なアプローチはリアスが行っていたのにも関わらず、告白は意外にも一誠からだった。
 
 曰く、部長を失いそうになって初めて、部長が自分にとって、どれほど大きな存在だったかを痛感したから、らしい。リアスがそのときの様子をのろけまくっていたため、周囲は砂糖を吐きそうな表情をしていた。
 しかし、ドライグや八神はやて曰く、兵藤一誠は才能が皆無であり、歴代最低の赤龍帝である、と断言していた。
 では、なぜこれほどまでの実力を得たのか。その絡繰りは、八神はやてにあった。

「一誠、もう二度と無茶しないって約束して。はやても言っていたわ、あなたの修行は精神が死んでもおかしくなかったって、もう血濡れの貴方を見るのは御免よ」

「すみません、それは約束できません部長」

「一誠!」

「部長や大切な人たちを守るには力がどうしても必要なんです。白龍皇――ヴァーリと戦ってつくづく実感しました」

 お熱いわねえ、とげんなりした顔を見せた朱乃は、どんな修行だったのか尋ねた。リアスにしか一誠は打ち明けていなかったのだ。死ぬほど心配していたリアスのことを思えば、とてつもなく過酷な修行だとは分かる。しかし、なぜ自分たちに隠れて修行していたのか。

「それについては申し訳ありません。幻想空間(ファンタズマゴリア)が修行の正体です」

「合宿でお世話になった、八神先輩の魔法ですね。確かに辛い修行でしたが、それだけであんなに強くなれるんでしょうか?」

「100年」

「え?」

「100年よ。幻想空間内で一誠が修行をした時間」

 絶句する一同。なんと一誠は精神世界で100年間ひたすら修行したというのだ。驚愕の顔を浮かべる仲間をみて照れたように笑う一誠。できれば隠しておきたかったな、と思う。

「それなら、僕たちも誘ってほしかったな。兵藤君ばかり強くなってずるいよ」

 半分冗談、半分本気といった面持ちで、木場は一誠に言った。けれども、それはできない、とリアスが断言した。

「副作用があるのよ。何のリスクもなく力を得られるわけないでしょ」

「当然ですね。けれども、どのような副作用なんですか?」

「えっと、それは――」

 リアスは、朱乃の問いに躊躇したような様子をみせる。

「それは?」

「エロスよ」

「は?」

「だ・か・ら! エロ、煩悩を代償としたのよ」

 あんまりな答えに一同は沈黙した。一誠は苦笑いしながら、だから教えたくなかったんだよな、とつぶやいた。また、俺の場合は、溢れるエロパワーとそれを制御する神器(先代たちの協力)をもっていたから出来たことであり、他の人間は命を削ることになる。とてもまねすることはできない、と付け加えた。
 そんな一誠をみて、はやて曰く、いまの一誠は仙人もかくやといった状態だそうよ、とリアスが衝撃的な発言をする。アーシアを除いて、一誠の変態振りを知っている人間からすれば、驚愕の事実だった。
 朱乃など、頬をつねってこれは夢ではないのですね、と混乱している。

「じゃ、じゃあ、上級悪魔になってハーレムを作る夢はあきらめたんですか?」

 確認するように子猫が問う。

「そうだな。いまの俺は部長だけで十分だ」

「気持ちは嬉しいけれど、別に他の女がいても構わないわよ? 力をもった悪魔が複数の女性を侍らせるのは当然だもの。特に、一誠のような素敵な男の子ならなおさらね」

「部長……」

「一誠……」

 あー、また始まった、といった顔をしながらも、仕方がないな、と苦笑を浮かべつつ、いちゃいちゃする仲間を見守るグレモリー眷属一同なのであった。
 ちなみに、八神家はお見舞いの品を渡すと、とっとと帰ってしまった。何やら用事があるらしいが、気乗りしていないようだった。はやては、仙人状態の一誠をみて、今後幻想空間の使用が禁止を宣言している。
 これ以上グレモリー眷属を強化しないための措置であるが、彼女たちはそれを知らない。ただし、例外が一人いるが。





「曹操のちょっといいとこ見てみたいー!」

 そこは、親睦会という名の合コン会場だった。正直気乗りしないが、協力関係にある以上、交流が必要なのも確かだった。
 ただ、だからといって楽しめるかと言われれば否だ。英雄派の幹部と八神家の親睦会、というのが当初の予定だったはずが、大人のジュース(アルコールじゃないよ!)が出てきてから流れが変わった。その結果が――

「はい、のんでのんでのんでー!」

「うおっ、曹操本当に一気しやがった」

「これ結構果汁(度数)高いのに」

「どうりゃ~、はやて、俺のかちりゃ~」

 飲み比べなんてしてないんだがね。しかし、曹操は今日やけに絡んでくるな。大人のジュースの飲み比べで負けたのは事実。罰ゲームは何だっけ? 禍の団に参加した動機? それならいい魔法がある。
 皆をボクの記憶の世界に誘おうじゃないか。このときボクは酔っていたのだろう。だから、ボクの最大の秘密を明かしてしまった。酔ってたとはいえ迂闊にすぎる。やっちまったぜZE。

幻想空間(ファンタズマゴリア)!」
「……!?」





 俺は完全に酔いから覚めていた。はやてが見せてくれた彼女の過去の幻影。彼女の強さの源……そして、彼女の存在意義。何の救いもない少女の物語だった。

 母はいないが、大好きな父との平穏な生活。はやての記憶の場面が移り変わっていく。そのどれもが父との思い出だった。というか、父親の姿しかない。父子家庭だから当然とはいえ、ちょっと父親のこと好きすぎじゃないか?
 
ファザコンってやつね。とジャンヌが妙に納得していたようだった。そうだったな。彼女も父を堕天使に殺されたのだったか。なにか感じ入るものがあったのだろう。
 小学校に入学したが、孤立してしまったはやては、ますます父親に依存するようになる。くそっ、俺がその場にいれば、はやてと仲良くなって……幼馴染とか最高のシチュエーションじゃないか!

 場面が変わる。9歳の誕生日を翌日に控えた夜、事件は起こった。はぐれ悪魔の襲撃だ。だが、はやての父があっさり倒す。凄腕のエクソシストと聞いていたが想像以上に強い。ヘラクレスが、目を見開いている。

 確か、六式だったか。(ににしえ)のエクソシストによって開発されたという天使陣営秘伝の秘術だ。人間でありながら、人外と戦えるようになる脅威の技術。それだけに、習得は困難を極める。ただ、開発者は「海賊王に俺はなる!」といって泳げないくせに海に出ようとした変人だったらしい。強かったそうだが。

 そして、悲劇が起こった。偶然(・・)駒王町に来ていた魔王サーゼクス・ルシファーが、勘付いたのだ。その後は、娘を守るためにはやての父は戦いを挑むが敗れ、ジュエルシードという名の神器――いやロストロギアといったか――の力に目覚めたはやては、仇討ちをしようとするも、経験豊富な魔王相手に勝てるわけがなかった。

 そこで本来なら終わるはずだった。が、奇跡は起こった。消滅の魔力を浴びて消滅しようとした瞬間、ジュエルシードが発動する。そして、青い光に包まれたはやての、最期の願いを叶えたのだ。歪められた願いを。
 
 復讐に拘る理由の一端を見た気がした。ロストロギアという神器のようなものであるジュエルシードとやらが宿っているらしい。そして、ジュエルシードの力を使うたびに、そこに宿った怨念に浸食されていくことも。
はやての慟哭が、断末魔の声が耳にこびりついて離れない。ずきり、と心が痛む。俺は、妹を守れなかった。けれども、今度こそは間違えない。
 俺は君を救いたい……何か方法を考えねば。リインフォースとの相談を思い出す。
 
 はやて、きみのためなら死ねる。





 リインフォースは黙って見物していた。主が主になった原点。忌々しい。既に知っていても、忌々しい記憶だ。結局、自分たちは、はやての父を救うことができなかった。忌々しいサーゼクス・ルシファーを打ち漏らしたことも。
 飄々としているように見えて、はやての心は壊れている。最愛の父を奪われた時から、変わらず傷を負い続けている。もちろん、自分たちが寄り添うことで、心のスキマを埋めようとしているし、それは半ば成功しているといってよい。

けれども、あの世界のはやてを救うことも、いまのはやてを救うこともできなかった。本当ならば、はやての復讐を止めるべきなのだろう。だが、それはできない。ジュエルシードの奇跡の産物である八神家は、本質的に復讐を望んでいるのだから。

 理性では理解していても、感情が納得してくれないのだ。だから、自分たちにできることは、はやての意志に従い、忠誠を誓うことのみ。自分たちでは、はやてを止めることはできない。

 しかし、希望はある。英雄派に所属して、希望をみたのだ。決意を秘めた目をした曹操という少年を見やる。彼から受けた相談を、思い出しながら、フッとシニカルな笑みを浮かべた。彼ならばあるいは――リインフォースは、奇跡を願った。 
 

 
後書き
・きみのためなら死ねる
セガのゲーム。OPテーマが印象的。

・はやての過去
このあたりは次の章で詳しく。結構鬱展開ですが、ハッピーエンドにするつもりです。 
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