手の平の中

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　手の平の中
　細長い白い顔に愛らしい蒲鉾に少し似た形の黒目の瞳、赤い程よい厚さの唇に黒のロングヘア、そして小柄な身体。　
　逢坂真礼は顔は可愛い。しかし。
　友人達からはだ、よく面と向かってこう言われた。
「あんたちょっとね」
「性格悪いわよ」
「何ていうかね」
「弟の涼真君こき使い過ぎ」
「あと彼氏の太洸君も」
「二人共何なのよ」
「奴隷レベルじゃない」
「奴隷って？」
　だが真礼はだ、そう言われてもだ。
　笑ってだ、こう言うのだった。
「私暴力とか振るわないわよ」
「ただお願いしてるだけっていうのね」
「意地悪じゃなくて」
「そう言うのね」
「お願いだけって」
「そうよ、何が欲しいか何が食べたいのか」
　真礼はあどけない表情でいつも答えた。
「そう言ってるだけよ、涼真ちゃんにも太洸君にもね」
「つまり我儘言って」
「おねだりして」
「そしてよね」
「そのうえでなのよね」
「二人をっていうのね」
「だから二人共ね」
　その涼真も太洸もというのだ。
「別にね、私無理強いしてないから」
「自分からって言うのよね」
「何でもしてくれる」
「そうだっていうのね」
「そうよ、私は本当にね」
　それこそとというのだ。
「何もしていないから」
「やれやれね」
「あんた悪魔よ」
「弟さんも彼氏も操って」
「まさに手玉に取って自分の言う通りにしてもらう」
「小悪魔よ」
　友人達はこう真礼に言うがだ、当の真礼は何もしていないという顔で答えるばかりだった。だがそれでもだった。
　当の涼真はだ、笑って言うのだった。
「姉ちゃんの言うことならな」
「何でもするってか」
「そう言うんだな」
「当たり前だろ、姉ちゃんなんだぞ」
　彼は自分の友人達に明るく言った、黒く量の多い髪を右から左に分けていて一重の明るい目にだ。細面で顎の方がより細くなっている口元がいつも笑っている顔立ちだ。眉もしっかりしていて背は一八五ある。
「俺が何でもしないとな」
「駄目なのかよ」
「お姉さんのお願いは」
「何でも聞いてか」
「してあげるのか」
「させてもらうんだよ、姉ちゃんいつも俺に優しくてさ」
　弟として姉のことを話した。
「勉強だって教えてくれて、お陰で高校だってな」
「ああ、この高校に入られた」
「八条高校にか」
「姉さんと同じ学校に入られた」
「そう言うんだな」
「そうだよ、全部な」
　それこそというのだ。
「姉ちゃんのお陰だよ」
「だから姉さんのお願いはか」
「何でも聞くのか」
「言うことだってか」
「そうなんだな」
「姉ちゃんの言うことに間違いはないさ」
　涼真は目をきらきらとさせて自分の友人達に言い切った。