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黒母衣

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第一章

                        黒母衣
 佐々成政は織田家において勇将としてだけでなく主である信長への忠義でも知られていた。
 とかく信長を第一に考え絶対の忠義を見せていた、だが。
 世では、その佐々についていぶかしんで言う者もいた。
「何故あそこまで忠義を尽くされるのか」
「少しわからぬな」
「そうじゃな」
 その忠義の強さについて言われるのだった。
「上総之介様は大層厳しい方じゃ」
「非常に気が短いぞ」
「とかくせっかちでな」
「お怒りになることの多い方じゃ」
「その上総之介様にお仕えする」
「尋常なことではないが」
 しかしというのだ。
「佐々殿はかなりの忠義の者」
「織田家の中でもな」
「その忠義は随一」
「何故あの様な恐ろしい方にあそこまで忠義を払われるのか」
「わからぬ」
「怒らせれば半端ではなく殴られる」
「羽柴殿なぞ瞼が開けられぬまでに殴られたことがあったぞ」
 勿論信長を怒らせてだ、そうしたこともあったというのだ。
「下手なことを言って手打ちになった方も多い」
「それで何故じゃ」
「何故あの方に忠義を払われる」
「あそこまで強くな」
「絶対と言っていいまでではないか」
「佐々殿のあの忠義」
「全く以てわからぬ」
 こうしたことをだ、多くの者が話していた。だが。
 当の佐々はだ、人のそうした話を聞いて笑って言うのだった。
「ははは、それは殿をよく知らぬからじゃ」
「よくそう申されますが」
 彼と親しい茶人がだ、その佐々に問うた。
「実際に上総之介様は」
「怖い方じゃというのじゃな」
「すぐにお怒りになられますが」
 その怒りがというのだ。
「まさに雷です」
「ははは、雷が落ちた様か」
「物凄く怖いではありませぬか」
「いやいや、殿のお怒りはじゃ」
 佐々も信長の怒りのことは知っている、だがそれでもというのだ。
「無闇やたらではないぞ」
「お怒りになれられるべき時にですか」
「お怒りになられる方じゃ」
「では普段は」
「よく笑っておられるではないか」
 こうその茶人に言うのだった。
「無闇な殺生もせぬしよき政をしておるな」
「確かに。ご領地で上総之介様は恐れられてはいますが」
「悪口はないであろう」
「税は重くなく民の為に細かいところまで政をされて」
「国は豊かになっておるな」
「はい」
 確かにとだ、茶人も答えた。
「そのことは」
「殿はそうした方じゃ。無体はされぬしじゃ」
 そしてというのだ。
「理不尽な裁きもされぬ」
「厳しくとも」
「そうじゃ、よき政をされる方なのじゃ、それに」
「それにとは」
「わしは何じゃ」
 佐々はここで茶人に彼自身のことを問うた。
「わしはどういった者じゃ」
「内蔵助殿ご自身ですか」
「そうじゃ、黒母衣衆から出たしがない武家の出じゃな」
「ご自身でそう言われますか」
「権六殿とは違う」
 柴田勝家、織田家きっての重臣である彼とはというのだ。 
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