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真田十勇士

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巻の十 霧隠才蔵その三

「人目につかぬ様に動くにあっても」
「虚無僧はよいと」
「旅芸人や雲水と色々ありますが」
 旅の時に化ける姿はというのだ。
「その中でも虚無僧はよいもの」
「顔を隠すには」
「だからと思いましたが」
「ふむ、しかしそれがしが何故宿にいたと」
「匂いです」
「匂い」
「はい、もっと言えば気配です」
 そこから感じたというのだ。
「貴殿は旅をしていても今は人目を避けて遊びたい気配」
「この様に茶を飲んで」
「そうしたことをして旅の途中に立ち寄った町を楽しみたい」
「大津の町をですか」
「そう感じましたが」
「だから虚無僧の姿になりですな」
「娘達を避けていると」
 虚無僧の姿で顔を隠してだとだ、虚無僧自身が言って来た。
「そう言われるのですな」
「違いますか」
「ははは、面白い読みですな」
 虚無僧は幸村の問いに答えず笑って返した。その顔を隠している傘が動いていた。
「それはまた」
「違いますか」
「ではそれがしの顔を見たいと」
「そうは申しません」
 幸村は虚無僧の問いににこりともせず答えた。
「こうした時に隠しているものを見る趣味はありませぬ」
「こうした時はですか」
「時と場合によってはそうですが」
「ではその時とは」
「家を、それ以上に主と天下を守る時に」
 それがそうした時だというのだ。
「隠されているものを暴くこともしますが」
「ご自身の望みの為にはですか」
「人の隠しているものを見るつもりはありませぬ」
「人の心等には」
「人の心は傷があるもの、その傷は時として深く痛むもの」
 こうも言うのだった。
「それ故に」
「ご自身の望みではですか」
「そうしたものは探りませぬ」
「だからそれがしの顔も」
「覗くつもりもありませぬ」
「ですか、わかりました」
 虚無僧は幸村のその言葉に頷いた。
 そしてだ、こうも言ったのだった。
「貴殿というお人が」
「拙者がですか」
「まだお若いですが出来た方ですな」
「お褒め頂き何よりです」
「そこまで出来てわかっておられるなら」
 それならとだ、虚無僧は幸村にさらに言った。
「それがしのこともおわかりですな」
「その身の動き、忍ですな」
 ここでもだ、幸村はにこりともせずに言った。
「そうですな」
「そのこともおわかりですか」
「剣もお得意ですな、それも相当に」
「そこまでおわかりとは」
「今はどうされていますか」
「伊賀の里が前右府殿に攻められる前からそれぞれの家を転々としていましたが」
 虚無僧は幸村にここではじめて己のことを話した。
「今は何処も」
「仕えてはおらぬと」
「仕える、もっと言えば雇ってくれる家をです」
「探しておられますか」
「天下は前右府様がおられなくなりどうなるかわからなくなりました」
 これまでは天下統一は間違いないと思われていた、信長によって。 
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