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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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26部分:第二十六章


第二十六章

「今は止めておくわ。闇には相応しくないから」
「そう。それでは」
「さて、では何かしら」
 死美人に対して返した言葉であった。
「私のその技はね。何かしら」
「わかりにくいわね。けれど答えはある」
「そうよ。答えのない問題を出すというのも無粋なことよ」
 だから好きではないというのだ。それが沙耶香の考えであった。
「非常にね」
「だとすると」
「そう、何かしら」
 闇が迫って来る。その中でも悠然として語ってみせる沙耶香であった。
「それはね。一体何かしら」
「わからないわね。けれど」
「けれど?」
「もうすぐわかることね」
 闇は今にも沙耶香を覆おうとしている。彼女にしても使わなければならない状況であるからだ。
「それもね」
「そうね。この闇を払わなくてはならないのは確かね」
「ではすぐにわかるわ」
 それはわかっているというのである。
「どちらにしろね」
「では今見られるかしら」
「ええ、今よ」
 その今だというのであった。
「今それがわかるわ」
「ではそれは」
「これよ」
 一言であった。
 沙耶香のその右手に鞭が宿った。その鞭は。
 紅のものだった。紅蓮である。だがそれは炎ではない。激しい音を立てて光を放つそれはだ。炎とはまた違った存在である。それを出してみせたのである。
「さて、これだと思ったかしら」
「いえ、思わなかったわ」
 死美人は己の予測が外れてもだ。それでも悠然としていた。そしてそのうえで言ってみせるのである。
「雷だったというのね」
「私の雷は紅なのよ」
「そうだというのね。炎は黒く氷は青く」
「そして雷は紅よ」
 それが沙耶香の使うものであった。その色は決して通常にあるものではない。魔性のものである。沙耶香が使うのに相応しいと言えば相応しいものである。
「それがこれよ」
「雷の鞭なのね」
「そう。そして」
 今度はその鞭を持つ右手を一閃させた。そうしてであった。
 闇を打ち払う。雷はまるでそれ自体が意識があるように動きだ。主に迫る闇を全て払ったのであった。
 それで闇は全て払われてしまった。雷で全て払ったのである。
「私の闇を。全て」
「言った筈ね。闇は光を使わなくても払えるものなのよ」
「雷は光でなくとも光に近いものを持っているからなのね」
「己から輝きを放つ。そして光よりもさらに激しいものよ」
 音を立てて辺りに火花を散らしていることからそれもわかるのだった。
「この雷が見せているようにね」
「闇は払われたわね」
 死美人はそれを確かめた。だがそれだけではなかった。
 そのうえでだ。また言うのであった。
「けれど。これで終わりではないわ」
「まだあるのね」
「そうよ。貴女はさっき花と言ったわね」
「ええ」
 死美人の言葉に対してこくりと頷いてみせた。今先程自分で言っている言葉だからそれはよく覚えていた。しかし沙耶香はそれだけを考えているのではなかった。
「言ったわ」
「そうね。そして私もね」
「使えるというのね」
「そうよ。ほら」
 言いながらであった。その足元に花々を出してきたのだった。
 見たこともない花だった。少なくとも鏡の向こうにある花ではない。どれも異様な、紅くそれでいて毒々しさの中に美しさを見せている花達である。形は誘惑する様に妖しい形をしておりそのうえで咲き誇っていた。死美人の足元にだ。
 
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