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ウスニイ=ハブチャール

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第五章

「こんな立派な服うちにあったんだな」
「ああ、秘蔵だ」
「うちのか」
「式の時だけのな」
 様々な色で彩られ多くの宝石で飾られたその服がというのだ。
「昔からあるな」
「昔ってまさか」
「チンギス様の頃からのな」
「うちはそんなに古い家なんだな」
「そうかもな、とにかくな」
「こうした服もか」
「あるんだ」
 昔からだ、持っているというのだ。
「こうした時だけに出しているんだ」
「そうか、じゃあな」
「行って来い」
 ジェベは笑って孫の背中を押した。
「そしてあの娘を見て来い」
「ホグニもか」
「御前の奥さんをな、凄いぞ」
「そういえば凄い服だって言ってたな」
「これ以上はないまでに凄い服だ」
「そうなんだな」
「それを見て来い」
 孫に優しい声で言う。
「是非な」
「よし、じゃあな」 
 ジュチは祖父の言葉に微笑んで頷いてだ、そしてだった。
 ゲルを出た、するとそこに両家の面々がいて。その真ん中にホグニがいたがジュチはその彼女を見て思わず絶句した。
 キャップ型の頭への飾りを被っていてだ、その飾りにはさらに銀のみらびやかな細工が両脇に飾られていて。
 髪は羊の脂で固め羊の角や鷲の翼を思わせる左右に張り出して曲げた形で整えていてあ、そこに銀のリングを左右に四つずつ付けて端には金細工がある。そのリングと細工には銀や金だけでなく珊瑚やトルコ石、真珠等豪奢な宝石を幾つも飾っている。
 服は赤地にだ、スカートのところは円の中に草模様が入り黒と黄色、赤とオレンジも奇麗な色彩を見せており端は淡い黄色に濃い黄色、緑に紺でイスラムのアラベスクを思わせる奇麗な模様が刺繍されている。重ね穿きしているスカートは紅で靴はオレンジに緑の線が入っているこれまた実に豪奢なものである。
 上着は赤とオレンジ、それに黄色で奇麗な刺繍が入り模様も見事なものだ。襟のと胸は金糸で刺繍を入れて飾っている。
 そしてその刺繍の上にだ、頭と同じく珊瑚やトルコ石、真珠と銀で胸全体を覆った宝玉達の飾りを付けている。袖のところは薄紫でこの色もいい。
 そのあまりにも見事な服を見てだ、彼は絶句の後で言った。
「この服は」
「わし等ハルハ族の盛装だ」
「こんな服あるんだな」
「驚いたか」
「ボルテ様みたいだ」
 チンギス=ハーンの皇后だった彼女の名前をだ、ジュチは出した。
「本当にな」
「ははは、そう思うか」
「実際な、特に髪型とそこの飾りがな」
「あの輪で頭を止めているんだがな」
「髪の毛をか」
「羊の脂で固めてな」
 そのうえでというのだ。
「そうしているんだ」
「そうか、あの輪でか」
「ウスニイ=ハブチャールといってな」
「それがあの飾りの名前か」
「そうだ」
 まさにその通りだとだ、ジェベは答えた。
「それで銀を飾っている被ってるのはな」
「あれは何ていうんだ?」
「トルゴイン=ボールトだ」
「それがあの帽子の名前か」
「どっちも凄いだろ」
「色々な宝石とか銀とか金も沢山あってな」
「あっちの家も古い家でな」
 そのホグニの家もというのだ。
「ああした服があるんだ」
「それでこうした時にか」
「着るんだ」
「そうなんだな」
「ああ、そうだよ」
 こう孫に話した。
「凄い服だろ」
「あんな服があるなんてな」
「本当に驚いたな」
「凄いな」
「何しろわし等はモンゴルだ」
 モンゴル人であることもだ、ジェベは笑って言った。
「かつてはこの大陸の殆どを制覇したな」
「草原の民だからか」
「ああしたものを持っているんだ」
「そういうことか」
「そうだ、凄いだろう」
「まるで夢みたいだ」
「しかし夢じゃない」
 確かな声でだ、ジェベはジュチに告げた。
「そのことはわかっておくんだ」
「わかったよ、じゃあな」
「行って来い」
 その結婚式にだ、ジュチは孫をあらためて送り出した。そしてだった。
 ジュチはそのこれ以上はないまでに着飾ったホグニのところに来て微笑んでだった、そのうえで言った。
「これからな」
「二人で」
 ホグニも笑顔で応えた、そして草原の中で式を挙げてだった。羊肉と馬乳から作った乳製品や酒を楽しんでからだった。二人でゲルに入って二人の生活をはじめた。


ウスニイ=ハブチャール   完


                         2015・8・27 
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