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ウスニイ=ハブチャール

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第一章

                 ウスニイ=ハブチャール
 モンゴル民族といえば何といっても草原、そしてかつて世界を席巻したモンゴル帝国だ。だがそれはもう遥か昔のことでだ。
 今は静かな国だ、ウランバートルという首都はあるがだ。
 その他は草原だ、都市は広い国に殆どない。その街で住む人は多くなってきているがまだ草原で昔ながらの生活をする人は多い。
 その草原の中、ゲルで暮らし羊と犬それに馬に乗る生活を送りながらだった。そのモンゴルの多数派民族にあたるハルハ族の青年ジュチは一緒に住む祖父にこんなことを尋ねた。丁度両親は遠くに出て今はいない。
「なあ、俺達ってずっと草原で暮らしてるんだよな」
「昔からな」 
 祖父のジェベは孫の問いに静かに答えた、ゲルの中央で羊の糞を焼いてそれで暖を取り彼と共に茶を飲みつつ。
「こうしてな」
「そうだよな」
「最近街で住むモンゴル人もいるけれどな」
「増えてるんだよな、そうした人」
「そうだよ」
 馬の乳を入れた茶を飲みつつだ。ジェベjはジュチに答えた。
「一応な」
「それでもか」
「ああ、こうしてな」
「俺達はずっとか」
「チンギス様の前からな」
「あれだろ、匈奴っていった頃からな」
「ここでこうして暮らしているんだよ」
「草原で羊を飼って暮らしてるか」
「多分昔はわし等のご先祖様もな」
 ジェベはジュチにこうも言った。
「チンギス様に従ってな」
「あちこち攻めてか」
「色々巡ってたんだろうな」
「中国も攻めてか」
「ロシアだってトルコだってな」
 そうした国々もというのだ。
「攻めて征服していたんだよ」
「昔はそうしていたんだな」
「そうだよ」
 昔は、というのだ。
「ご先祖様はな」
「けれど俺達はか」
「今じゃ静かにさ」
「羊と一緒か」
「ああ、嫌か?」
「嫌も何も俺だって生まれた時からここにいるからな」
 その草原にだ。
「馬に乗って羊を見てな」
「馬の乳飲んで肉を食ってな」
「そうして暮らしてるからな」 
 だからだというのだ。
「何も思わないさ」
「そうか」
「街の暮らしは知らないさ、けれど聞く限りだと」
「面白いとはか」
「思わないんだよ、俺はな」
 こう祖父に答えるのだった。
「別にな」
「そうか、御前は昔ながらのモンゴル人だな」
「昔ながらで駄目か?」
「いや」
 祖父は孫のその言葉に首を横に振って答えた。
「別にな」
「そうか、別にか」
「それはそれでいい」
「昔ながらも生活でもか」
「他は知らんがわし等はモンゴル人だ」
「モンゴル人だとか」
「やっぱりここで暮らすものだ」
 この草原でというのだ。
「羊を見て馬に乗ってな」
「そうしてだな」
「ああ、こうしてな」
 まさにというのだ。 
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