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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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Extra Edition編
  第160話 Debriefing vol.4


 それは、キリトが現実世界に帰って暫くしてから。
 ……否、キリトは現実世界に帰ってから直ぐに、探し続けた。

 満足に動けない身体を引きずって。それはあの時の約束を果たす為、最愛の恋人であるアスナを探す為、親友のリュウキ、アスナの妹のレイナ、あの世界で共に戦ってきた戦友達皆を探す為に、奔走し続けた。今日、目の前で話を聞いている男 菊岡の手を借りアスナの元にたどり着く事は出来た。

 ……だが、本当の意味で彼女に会う事は叶わなかった。

 何故なら、彼女は眠ったままだったから。あの世界から、解放されなかったのだろうか、彼女はその美しい姿のままで眠り続けていたのだ。その傍らにはレイナの姿もあった。キリトと再会した時、レイナは涙を流した。目に光が強く宿った。

 そう、奇跡は起きる。

 それを強く、強く信じる事が出来たんだ。絶対に彼も無事だと。この世界の何処かで帰ってきてくれているんだと。2人は強く信じる事が出来たんだ。そして、アスナもきっと直ぐに目を覚ましてくれる……と。

 でも、それでも、現実は甘くない。

 彼の事……、リュウキの事を探す日々が続いた。でも、どうしても彼の事だけは判らなかった。……大人たちの力をもってしても、不可能だと言われた。日に日に、無力感が見にまとわりついてくる。
そして、アスナもまだ眠り続けている。

 彼女を前に、キリトは涙を流した。

 自分は何も出来ない、と。戻ってきて、弱虫になったと。

『……アスナとリュウキ……ずっと2人に支えられ続けたんだな…』

 そう強く思ってしまった。
 自分1人では何も出来ない無力な子供だと嘆いてしまった。

 でも、レイナは首を横に振って否定をしてくれた。弱っていた自分を支えてくれたのが、彼女だった。

 丁度彼女もアスナの病室に来ていて、……いや 殆ど毎日のようにアスナの元に来ていたんだ。レイナも、キリトの様に毎晩の様に毎日の様に涙を流し続けている。

 最愛の人と親愛の人。

 両方を同時に失ってしまったも同然だったからだ。

 レイナの事を、自分の事よりも心配するキリト。……レイナは自分以上に苦しんでいるから、キリトは心配していたんだ。
 だけど、レイナははっきりと答えた。

『まだ……お姉ちゃんも、リュウキ……隼人君も、大丈夫なんです。私は諦めませんよ』

 そう言って、強く頷いた。
 頑張らないと、2人に合うことが出来ないんじゃないか、と。まだ、目元は赤くなっているけれど、決して諦めないと言う決意がその表情に現れていた。

 キリトはレイナからも、力を貰えたんだ。だからこそ、自分自身も絶対に諦めないと言う気持ちを改めて強く持つ事が出来たんだ。


 決意を胸に、前へと歩いている2人に暗雲が立ち込める。

 それは、あの男……須郷の存在だった。

 須郷は、キリトの事を快くは思っていなかった。当然だろう。
 キリトとアスナの関係があの世界ではどう言うモノだったのかを知っているからだ。

 そして、この世界での自分とアスナの関係の事もある。アスナを利用しているという事をキリトに伝え、そして来るなと言う事も伝えた。

 ……キリトは、そんな事聞くつもりはなかったのだが、再び無力感が襲ってくる。

――……もし、リュウキだったら……アイツだったら、絶対に糸口を見つけ出しているだろう。でも、自分は仮初の勇者。勇者たる資質を持ち合わせてなんかいない。

 だから……この時のキリトは嘆くしか出来なかったんだ。





「……それは随分と辛い想いをしたね。キリト君。……この時、キリト君は須郷の事は怪しいと思わなかったのかい?」
「……正直、アスナとリュウキの事で頭がいっぱいでしたよ。憎しみを持っていたと言っても そんなものは二の次。2人の事しか考えられなかった。レイナの事もあるから」
「……」

 キリトの言葉を聞いて、改めて深く感謝をしたかった、そして同時に謝罪をしたかった。でも、何度言ってもキリトは、『良いよ』と応えるんだ。『お互い様だと』

 それは、解放されて……、あの世界で、2年間と言う長き旅を仲間たちと終えたリュウキとしての隼人が解放されたその時から、ずっと言い続けたんだ。

 キリトにしてみれば、もう恥ずかしいから、と言う思いもあるだろう。

 状況が状況だったから、しつこい!!とは思ってない様だ。それでも、何度でも言いたい。その想いがリュウキにはあった。

「この時のリュウキ君は、どうだったんだい?」

 正直、それは地雷だとキリトは思った。この時の事、記憶がないとは言え、後悔をずっとリュウキはしていたんだから。でも、そこは菊岡。ストレートに聞いていた。……だが、言葉を濁すよりはマシだとも思えていた。リュウキはゆっくりと口を開く。

「……オレは、キリトの葛藤も知らず、ただ呑気にリハビリを続けてましたよ。……じい、綺堂さんからは 事故で寝たきりだった。だから、身体を動かす為にリハビリをしなければならない、と聞いていた。……なんの疑いもなかったから」

 そうは言ったが、綺堂がとった行動にはなんの落ち度もない。時折、原因不明の頭痛も起きている。その原因が、あの世界に、SAOにあるのだとしたら……、虚実をしてでも、思い出させるのを止めたかった。少なくとも、落ち着くまでは。

「……綺堂氏の判断は、間違っていたと思うかい?」

 菊岡はリュウキにそう聞いた。随分と意地悪な質問だ。そんな事、思える筈がないから。爺やは自分の身体の事を想って、そう言ってくれたんだから。キリトの事を知って、正直……思うところはあったけれど、ずっと信頼をし続けた爺やだから。
 だから、リュウキは直ぐに頷いた。

「……キリトやレイナには悪いが……な」
「勿論オレも同じだ。……目の前でリュウキが倒れたんだ。そんな場面はもうみたくないよ」

 キリトはそう言って苦笑いをしていた。



 現実世界で、リュウキに瓜二つの男に出会って、驚いた。

 出会ったばかりの頃は、本当に驚いて、思わず何度も凝視したから。視線に気付いても不思議じゃない程あからさまに。

 気を落ち着かせて次の日。

 キリトは、同じジムにいたから、思い切って声をかけたんだ。そして、話していくうちにリュウキじゃないか?と思える事がいくつかあった。名前が《隼人》、《竜崎 隼人》だと言う事が判って。

 そして、詳しく訊こうとした時に……彼が倒れたんだ。

「あんな場面、レイナに見せなくて本当に良かったよ。アスナが眠っているのに、リュウキまで目の前で倒れたとなったら、レイナもまで倒れかねないからな」

 キリトはそう言って苦笑いをしていた。

「……それは確かに嫌だな。記憶が無い頃の自分とは言え、ゾッとするよ」

 リュウキは、頭にその映像を思い浮かべながらそう返した。

『もしも、自分がレイナの立場ならどうだろうか?』

 決まっている。まず間違いなく、彼女を探す為に奔走するだろう。そして、出会えて……倒れたりしたら?

 考えるだけでも、怖いんだ。



「さて、と。それで、キリト君。教えてくれないかい?現実世界では須郷は我々に尻尾を一切掴ませなかった。教えてくれないかい?キリト君。……君はどうやって須郷の企みに気づいたんだい?」

 菊岡は、改めてキリトに聞く。あの研究は秘密裏に行われていたモノだ。全てが明らかになる時には、もう手遅れ……と言った段階にまでいっても不思議ではなかった。だが、いち学生であるキリトが気づいた事のカラクリに強い興味があったのだ。

「……気づいちゃいませんでしたよ。最初は」

 キリトは当時の事を思い出しながら語った。



 アスナが眠り続けていたあの時。



 いつも通りアスナの病室に来ていたキリト。アスナやレイナの父親である結城彰三氏に紹介されたのは、一緒に入ってきた須郷だった。第一印象こそ、人の良さそうな印象だった。

 だが、目を見た瞬間、その印象は薄くなり。そして、話をして更にその当初の印象は消え失せた。アーガスが解散した今、レクトプログレスがSAOサーバーを維持していると言う事実を聴かされた。そして……、須郷が眠っているアスナを利用しようとしている事も。

『……止めて!』

 レイナが入ってきたのは、須郷がアスナの唇に須郷の指が近づけていた時だ。手も持った花を、急いで近くの台座に起き、須郷の前に立つレイナ。

『……こんな時に、お姉ちゃんに変な事をするのは止めて』

 レイナも恋人がいない今、毎日が辛く苦しい時だった。それはキリトにも同じ事が言える。だけど、レイナは毅然とした態度で、須郷に正面から向かったのだ。須郷は直ぐに手を上げた。

『いやだなぁ、玲奈君。僕が明日奈に何かする筈無いじゃないか。……結婚をするとは言え、意識の無い彼女に手を出すつもりは無いよ。……ちゃんと還ってきたら、還ってこられたら、その時までさ』

 言動こそは、真面目ぶってはいるが、嫌な笑みはレイナの前ですら崩すことはない。娘に甘いのが父親と言う事もあり、この件、結婚に関してはレイナは頑なに反対だった。

『姉の意志がはっきりするまでは』と。

 だが、結局須郷が、維持していると言う事実。そして いつその命の灯火が消え失せるか判らない状態。そこを巧みにつけこんだ須郷に軍配が上がったのだ。

『……あぁ、そうそう。玲奈君』

 須郷は、再び口を開く。その表情は先ほどとやや違う。不快感が拭えない表情だが、どこか強ばっている。

『君が探して欲しいと、彰三さんに言っていた彼の事だけどね……』

 須郷の発した言葉を全て聞いて……レイナの表情は一変することになった。あの男の言葉だと、信じていない。それでも、彼女の心に傷を残す事になってしまったのだ。キリト自身も、彼女の事を支えようとしていたが……、彼もまた、同じ心境だったから、上手く出来なかった。





 そして、一連の出来事を聞いていた菊岡は改めて、キリトに聞いた。

「その時は、須郷の事が怪しいと思わなかったのかい? キリト君」
「……もう、アスナの事で頭がいっぱいだったんです。それに、レイナの事も」
「………」

 キリトの話を聞いてリュウキは改めて、あの男に対する憎悪が芽生えかねなかった。自分の事を死んだと生じたのは、別に大した問題じゃない。それに、満足に調査をしたかどうかも判らないからだ。自分の情報は決して漏れる事はない。爺やに見ていて貰ったからだ。

 思ったのは、勿論レイナを傷つけたと言う所のみ。

 ずっと、帰りを待っていてくれた彼女を嘲笑う様にしていた事のみだった。
 今は裁判中であり、そして 全てに決着をつけてはいるものの……、どうしても沸き上がってくる怒りを感じずにはいられなかった。

「後にオレが得たアスナの情報は、アスナによく似たアバターの画像だけだった」

 それは、エギルから寄せられたモノ。あるゲーム内で撮られたスクリーンショットだった。

「……そ、その情報だけで、ALOに乗り込んだというわけかい?」

 キリトの言葉を聴いて、菊岡はやや驚きの表情をしていた。

 アバターと言うものは、基本的に自由自在にその姿、形を作る事が出来る。特殊なケースにおいて、あの世界SAOでは現実世界の自分が使われたが、それは先ほどにも言ったとおり特殊なケースだ。今後も、アバターと言うものは任意に応じて変わっていくだろうとも思える。

 ……つまり、その情報だけでは動機としては弱いと客観的に思ってしまったのだ。

「1%でも、可能性があれば……、だよな?」

 横で聞いていたリュウキはそう言っていた。きっと、自分であっても同じ事をするだろう。草の根を分けてでも、どんな事だってする筈だから。

 キリトは、リュウキの言葉に頷いた。

「勿論だ。……少しでも可能性があるのなら、どんなことだってした。……あの機械だって、な」

 キリトの答えに、菊岡は戦慄を覚えた。
 あのSAO事件があり、生還した生存者達に共通して言えるのは、脳裏に刻まれた大小なり恐怖だ。全員が同じとは言わないが、あのナーヴギアだけは、同じだった。当然だろう、自分をデス・ゲームに誘った悪夢の機械なのだから。その機械を、再び手に取って使ったキリトに驚いたのだ。

「……あんな目に合った癖に、またあの世界にきたな、ってダイヴした当初は……思ってましたけどね」
「……そうだな。オレ達を閉じ込めた世界だったから。……でも、それ以上の感情も持ち合わせているだろ?」
「ああ」

 キリトの言葉の意味、それは当事者であるリュウキには勿論判る。無事に生還を果たしたとは言え、あの場所は平和な日本の一般人が行き着く様な場所ではない。そんな生き死にの世界に突然入り込んでしまったんだから。

「成る程……ね。ああ、そうだった。リュウキ君もALOをプレイしていたんだろう?君はどういった経緯でゲームをしていたんだい?」
「……」

 菊岡にそう聞かれリュウキは、少し申し訳ない表情をキリトに向けたキリトも大体わかった様で、軽く頷いた。

「……ただの子供の感情、感性。だから、ですよ」
「え?」
「新しいゲームが発売された。それも、フルダイヴでのMMORPG。……ゲーム好きな子供には堪らないジャンルですよ。……当時は、SAO時代の記憶も全く無かったから、と言えばそうですが」

 リュウキは、そう答えた。

 仕事関係の中にはゲームの事も当然ながら含まれていた。だが、それ以上にリュウキはゲーム大好き少年だ。……そしてトップクラスの実力者。そんな彼がその賑わっているALOに興味を示さない訳がない。

「成る程。でもそれは仕方がないと言うものじゃないか。当時の君としたら。全く記憶がなかったんだろう? 一部分だけ、とは言っていても、綺堂氏も気遣っていたはずだし」
「……まるっきり全部忘れてた、と言う訳ではないですよ。キリトと再会した時にも、兆候がありましたし。それに……」

 リュウキは、腕を組み視線を下へと向けた。

「オレの家にも、あの機械が。……ナーヴギアが勿論ありましたから。それを見て……、更に頭に現れた。……ノイズの様なものが響いたかと思ったら、鮮明に浮かんだんです。……まるで、他人のプレイを、他人の世界を見ていた様な感覚でしたが」

 苦笑いをしながらそういった。
 ナーヴギアは、当初は落ち着いた所で、記憶回復の切欠にも、と言う事で時期を見てから、綺堂がリュウキに見せる筈だった。だが、リュウキはそれを見つけた。早い段階で。
 脳に刺激を与えてしまい、再び痛みが襲っていたけれど、リュウキは何とか持ち直した。あのナーヴギアに入ったメモリを手に持って。



 そして、話は《ALO》の世界。


 2人は再びあの世界で出会った。姿形を変えて……、再び巡りあったのだった。

 突如、空から突き落とされたかと思えば、戦闘場面に遭遇したのだ。1人の女の子を複数が襲うと言うあまりみたくない光景が広がっていた。

「ああ、その世界で出会った彼女、リーファ……だったかな?その子が君の妹さんだったんだね?」
「ええ……、まさかオレもスグ……、妹にゲームの中で出会うとは思ってもいませんでしたよ」
「兄妹だから、と言えばオレは納得するけどな。キリトの妹なら。……でも、以前は体育会系と聞いていたから、やはりそうでもないか……な?」

 キリトの事を考えたら、その妹であるリーファ、直葉がゲームをしていたって別に不思議じゃない。似た者同士、と言う事だってあるし、家族だったらその可能性も高いだろう。……だけど、以前SAOの中でキリトから聞いていたのは、剣道をしている体育会系の少女だと言う事。
 それを改めて頭にいれて考えたら……、そうでもなかった。













~学校専用プール~



 場面は華やかな舞台に戻る。昼食休憩の後、直葉はアスナの指導の元、しっかりと練習を重ねた。元々剣道をしていると言う事もあり、体力面はまるで問題ない直葉だったから、ちょっとしたコツを覚えたら、そこからは早いものだ。

 直葉は、ビート板を両手でしっかりと握り、息継ぎも繰り返して、足もしっかりとバタ足で蹴って……。

 なんと25m全て自力で泳ぎ切ったのだ。

 苦手だと言っていた、プール内でも浮き輪を常備していた彼女を考えたら物凄い成果だ。

「すごーい! 25m泳げる様になりましたねっ!」
「息継ぎもちゃんと出来てるじゃなぁい!」
「それに、ほんとに凄いよ! スピードだって、手を使ってないのに、すっごく早いし! ふふ、リュウキ君やキリト君が驚く顔が目に浮かぶねー!」
「だね? 直葉ちゃん。やっぱり運動神経が抜群なんだよ」

 4人の賛辞の言葉を次々と貰って、直葉はテレ笑いを浮かべて頭を掻いていた。

「ありがとうございます!」

 これも皆のおかげだから、と頭を下げた。
 そして、頭を上げたら、丁度学校の校舎が目に入った。丁度、あの辺でキリトが……2人がカウンセリングを受けているのだろうか?と思ったら視線が釘付けになってしまう。

 そして、勿論!リズはその視線に気付いた。

「あっれー? もしかして、お兄ちゃんがいないと寂しい?」

 まさかの一言に、思わず直葉はビート板を離した。手をのせていたから、やや沈んでいたビート板は勢いよく飛び出し、そして流れていく。

「そそ、そんなんじゃないですっ! ……ただ、遅いなぁって思っただけで」

 慌てて否定する直葉を見て、シリカは目を輝かせながらいった。

「直葉さんとキリトさんって、すっごく仲が良いですよね?」

 その言葉を聞いて、リズも繋げた。

「ま、ここにも負けてない姉妹がいますけどねー? 妹&姉相思相愛だもんねー?」

 ニヤニヤと笑いながらそう言うリズ。

「そうでした! 私、一人っ子だから、とても羨ましいですよ!」

 シリカもそう繋げた。
 アスナもレイナもやや照れた笑いを浮かべた。確かに2人とも互いの事が好き……変な意味ではなくて、親愛と言う意味では間違いない。キリトと直葉も同じだろう、と直葉の方を見たら。

「あ、でも私……お兄ちゃんがナーヴギアに、SAOに夢中になってプレイしてて……、SAOに閉じ込められる前までは、あまり仲は良くなかったの。……でも、お兄ちゃんが夢中になってるVRMMOがどんなものか知りたくて、あたしもALOをプレイして……、今ではあたしも立派なゲーマーです」

 最初の方。
 キリトと仲があまりよくないと言っていた時は、表情は俯いていたけれど、最後には笑顔を見せてくれていた。打ち解けあったんだろうという事は想像するのは簡単だった。一体何が原因なのかは聴いていないけれど、今の2人を見ていたら、そんな事はどうだっていいから。

「でもお姉ちゃん。私たちに似てるよね? お兄ちゃんがしてるゲームが気になって、って事ではさ?」

 レイナは、直葉の話を聞いてそういう。
 ナーヴギア自体は兄が用意したものであり、発売以前から兄が興奮したように言っていたのは今でも覚えているから。そして、アスナも頷いた。

「そうだね。レイは前に気にしてるって言ってたけど、私も凄く気になってたんだからね? SAOにも仮想世界にも」
「あ……うん」

 レイナは、自分が姉を誘わなければ、と強く、ずっと思っていた事はある。でも、アスナはそれを否定した。誘ってくれなかったら、会えていないから。大切な人達にも、皆にもあえてないから。
 だからそんな事を考えないでと以前から言っていたんだ。

 そのこともあったけれど、アスナもこのナーヴギアやSAOについては知っている。それを見て興味も勿論あったから。

「やっぱり、良いですねー! 兄妹、姉妹。とても 羨ましいですよー」
「んじゃあ、キリトの事、『お兄ちゃん』って呼ばせてもらったら? 向こうで」
「うぇぇ!?? り、リズさんっ! わ、わたしは真面目な話、してるんですっ!! ……(そ、それはそれで……)///」

 リズとシリカは笑いながらそう言い合っていた。そんな時だ。

「えっと、確か直葉ちゃんが、キリト君やリュウキ……えっと、ドラゴ、君だったのかな? 2人を世界樹にまで案内してくれたんだよね?」

 レイナが思い出した様にそう聞いていた。視線は次第に直葉の方へと集まる。アスナもそのことは聞きたかったから。

「はい。そうです。……でも、最初はキリト君の事はお兄ちゃんだって知らなくて。ドラゴ君はなんだか不思議で見た事ない姿してて……、驚きが同時に2つも来て、困惑してました。……あ、キリト君に関してはとても失礼な人だなーっ! って思っちゃいましたよ」

 直葉は笑いながらそういう。あの世界で 出会って過ごして……色々と感じたから。
時折見せる表情も、最初はなんなのか判らなかった。

「……ドラゴ君に向けてる表情と視線も、皆が珍しいから向けてるそんなのじゃなくって、なんだか深い様なものもみせていた気がしました。……今思えば、お兄ちゃんは判っていたのかもしれませんね? ドラゴ君の事」

 直葉はそう答えて、そして空を見上げた。
 こことは違う、あの世界の空の下での事を思い出しながら。

「ほっほー、なら キリトとリュウキって通じ合ってるんだねー? ……だいじょーぶ? アスナ、レイ。2人とも 油断してると、互いに取られちゃうかもしれないわよー?」

 リズがここぞとばかりに、そういう。レイナは慌てて。

「そそ、そんな事あるわけないよっ! って言うか、キリト君とリュウキ君がそんなかんけーになる訳ないじゃんっ!」
「えー? そんなかんけーってなに? かんけーって??」
「こーら! リズもレイをからかわないの。レイも簡単にのせられないの。リズの言葉に!」

 即座にシャットアウトをしたアスナ。ここは、姉の貫禄……と言うものだろう。

 こんなに可愛く慌てる妹がいたら、しっかり者になってしまうのも不思議ではないだろう。でも、アスナもたまに……事、キリトに関してはアレな時もあるけれど。




 そして、再び直葉の話に戻る。

「突然空から降ってきたのが、ドラゴ君。つまり、リュウキ君で その後に続く様に来たのがお兄ちゃんでした。そして、色々とあって一緒に行動していたんですけど……、途中でドラゴ君とは別れて行動する事になって」
「え? そうなの??」

 直葉の言葉を聞いてレイナが困惑した。2人で、姉を、そして自分を助けに来てくれたのだ。なのに、別々だったのか?と。

「そうですよ。何かする事があるー、とかなんとかって言ってました」

 直葉は思い出す様にそう答えた。確かにあの時はどこか上の空だったと記憶している。何処か遠い所を見ている様な感じもしていた。

「する事、ねぇ……」
「ええ、リュウキさんですから……」

 リズとシリカは、ややげんなりとしながらそう呟く。
 本人がいないから一概には言えないが……多分 リュウキはSAO時代の事、つまりはレイナの事を微かに覚えているんだと思えた。舞台が違うとは言え、全てが始まったのは、仮想空間なのだから、そこに何かがあると……思ったんだろうと推察。
 つまり、勝手な想像だが、強ち的外れでもなさそうだから、ちょっと羨ましいやらなんやらで、意気消沈しかけてしまったのだ。

「でも、2人と一緒にいて、本当に退屈はしなかったですね。あんなにワクワクしたのは、空を初めて飛んだあの時以来でした」

 直葉はニコリと笑いながらそう答えた。それだけ、惹きつける何かを2人が持っていたんだ。……ここにいる全員がそれには納得していた。

「それにおもしろいのは、街を歩いていた時でー、リュウキ君が気づいたら、シルフの女の子達に囲まれちゃってて、あわあわしてた所ですかね? 今まで、何事もクールだったのに、綻んで……っ」
 
 直葉は、そこまで言うと……はっとして 口を噤んだ。レイナの表情が、変わったから。

「……むーー。それ、ほんと?」

 直葉は、口を噤んだのだけど、既に遅し。レイナは 思いっきり頬を膨らませていたから。

「むっふふ~、やっぱその世界に言ってもやりますなぁ? あの男は」
「……リュウキさんですからねー。そこもやっぱり」
「う~~……」
「キリト君は何も無かったよね??」

 違う方向へと進みそうになってしまって直葉はやや後悔をする。でも、やっぱりレイナの事が可愛く見えて仕方ない。

「大丈夫ですよ、レイナさん。あの後リュウキ君の顔が隠れる様にスカーフをプレゼントして、しっかりと顔を覆ってましたから。囲まれたり~は、殆どなかったと思います」
「そ、そっかー……。ん?? 殆どって事は少しはあったの??」
「ぁ……、えっと数人程は……」

 レイナが思い出した数人の内の1人、大部分を占めるのはあのシルフの大魔法使いの少女の事だ。色々と素直じゃない所があるから 簡単にはパーティを組んだり出来なかったけれど、リュウキと出会ってから、彼女は変わったと思える。

 自分のことをあまり話さないあの子がリュウキとの出会いの事を話してくれたんだから。



 シルフの大魔法使い(マギステル・マギ)の異名を持つ少女の名は《リタ》
 大魔法使いと呼ばれる所以は、彼女の高い魔法スキル、そして様々な種類の魔法を操る事が出来る所からそう呼ばれているのだ。

 シルフであれば、風の系譜の魔法を覚えやすく対極に位置する地の魔法は覚えづらい。

 ……と言うのが一般であり、基本的には自身の種族が得意とする魔法以外は全て容易に覚えにくいのだ。スキルが貯まるのが異様に遅かったり、要求されるポイントが高かったりとする。だが、彼女は研究と称し、魔法を研究。その常識を覆すが如くの速度で魔法を覚えていったのだ。

 そして、殆どの魔法を知って、覚えた。と思っていた時だ。

 彼女があの男に出会ったのは。

『……んー? ……おっ? 何あれ?? プレイヤー……?』

 空を優雅に飛ぶ妖精の姿を見た。別にこの空に妖精が飛んでいたとしても何ら不思議ではない。ここは所謂ファンタジーな世界なのだから。でも、その容姿が、身に纏う輝きが気になったのだ。だから、彼女は追いかけた。……途中で面倒な小坊主に出会った様だが、軽く炎で一蹴して。

 ルグルー回廊と言う洞窟ダンジョン前で、漸く追いつく事が出来た。

 初めこそ、警戒をしていたんだと思う。でも、リタはそれ以上に彼の魔法が気になっていたから、そんな相手の警戒心なんか考えてもいなかった。

『街でアンタの事見て、気になったのよ。一体何者なの?……この私でも知らない魔法を使っちゃって! さっきの極大魔法みたいなの、使ったのもアンタでしょ? それ、目印に来たら案の定だったんだもの!』

 会うなり、リタは興奮気味にそう聞いた。追いつく数秒前。この男が使ったあの大爆発を見て、更に探究心を刺激させられたのだ。勢いのあまり、思わずのけぞってしまっていたけれど、おかまいなしだ。



「へぇ……、リタちゃんってそんな一面もあったんだね?クールさでは、リュウキくん以上だ、って思ってたんだけど」

 話を聞いててアスナは、そう言っていた。勿論リタとは面識はある。新生アインクラッドの攻略組の1人だからだ。彼女の魔法はとても頼りになるし、魔法隊の中心と言えるプレイヤーだから。……本人はめんどくさそうにしているが、満更でもない様子だった。

「甘い甘いアスナ。リタとは何度かあたしも話したけど……、ありゃ 典型的なツンデレキャラよ! ツンデレ。ツンツンしてて、デレた時なんか、とっても可愛くなりそうな気がするじゃない? ……ね? レイ?」
「うう~~~、りゅっ、りゅーきくんは浮気なんかしないもんっ……」

 いつも通りレイナは、ぐすっとデフォ涙をみせていた。あまりやりすぎると流石に可哀想だから、リズはとりあえず話を進める。

「あっはっは! 妬かない妬かないレイ。この時のリュウキは記憶、ちょっとあれだったんでしょ? なら仕方ないじゃん? 許してやんなさいって」
「うーー! リズさんが楽しんでたんだよ~!」
「レイナさんが可愛いから……」
「も、もうっ/// 聞こえてるよっ! シリカちゃんのほーが可愛いよっ! あの猫耳なんか、癖になりそうだもんっ! 可愛くって!」
「はぅっ! す、すっごい変な感じがするから あまり触るのは……」

「「あ……はははは」」

 予想以上に盛り上がってる所を見て、やや苦笑いをしているのは、アスナと直葉だ。リュウキやキリトの話題だと、本当に話が弾む。多分今はアスナは 離れてみてるポジションだけど、話題がキリトなら、きっとレイナがいるポジがアスナ。本当に似た者姉妹なのだから、容易に想像がつくのだ。



 直葉の思い出話は続く。


「リュウキくんとは別れて行動をしてたんですけど…… とんでもない再会をしたんですよ」

 ……苦笑いをしながら、頭を掻く直葉。


 あの光景は多分、二度と忘れられないだろう。まさかの大怪獣、大決戦に立ち会ったのだから。その上、厄災・天変地異までが起きてしまって……。
 リュウキと出会ってから、驚く事が減る。と言っていたリズの言葉は正し入んだということはもう既に身に染みていた。

 それは、ルグルー回廊の奥、再奥にある鉱山都市の入口に設置されている橋の上での戦いの事。キリトとリーファは、サラマンダーの部隊に包囲されていたのだ。
 追尾魔法であるトレーサーをつけられて、かなりに緻密に計算され、配備された完璧な戦法で襲ってきたのだ。たった2人相手に?と思えたが、キリトの実力の高さは、恐らくあの時のランス部隊の隊長……つまり、初めてこの世界に2人が降り立った時、瞬く間に屠ったサラマンダーの部隊を蹴散らした時に、知られてしまったのだ。
 だから、この陣形できたんだと思われる。
 この後のケットシーとシルフの会談を潰す為にも、万が一の可能性も摘み取らなければならないから。

 その数の暴力とはよく言ったもので、いくら強大な力を持っているキリトとは言え、あの壁を含めた前衛と魔法部隊の後衛、バランスよく揃ったパーティ相手には成す術もなくやられてしまいそうになった。キリトの凄まじい物理攻撃力を知った上での戦法だから。

 その時、直葉は……リーファは諦めようと言った。

『また、何時間かかけてここまで戻ってくればいい。また、奪われたアイテムも買えばいい』

 リーファは、そう言っていたんだ。

 その返答は……。キリトの言葉も忘れられない。

『オレが生きている間はパーティメンバーを殺させやしない。それだけは絶対嫌だ!』

 その言葉を聴いて、そのキリトの瞳を見て……リーファはここが仮想世界だということを忘れてしまったのだ。懸命に生存の道を探ろうとする意志を目の当たりにして……。それはこれまで出会ったどんなプレイヤーにも持ち得なかった代物だった。

――……彼にとっては ゲームであっても、遊びじゃないんだ。

 直葉は、この時強くそう思ったのだ。


 そして、その後。

 ナビゲーション・ピクシーであるユイの助力もあり、キリトが使用したスプリガンの魔法。幻影の魔法を使い、その姿を変えた。

 キリトの面影は消え失せ、のっそりと黒い影が頭をあげる。山羊の様に長く伸びた頭部、そして湾曲した太い角。漆黒の肌に包まれたその巨躯。悪魔、と言う形容しか浮かばなかった。

 圧倒的な悪魔の力。轟き渡る雄叫び。

 サラマンダー達の戦意を根こそぎ奪い去り、そして瞬く間に殲滅したのだ。

 リーファはあまりの衝撃映像に呆然としていたが……まだしなければならない事はある。

『あ、キリト君! そいつは生かしといて!』

 と慌ててそういった。
 なぜ、自分達が狙われるのか……?そして目的はなんなのか?生き残りに聞きたい事は山ほどあるのだから。

 リーファの傍らで、ユイがニコニコと笑いながら戦闘を見ていて、ちょっと呑気だな~と思ってしまったのは仕方がない。

 あんな恐怖シーンとも言える場面をこんな可愛い子が喜々として見ていたのだから。

 だが、本当の恐怖シーンはここからだった。


「それでですねー……。巨大な悪魔になったお兄ちゃん。すっごく強かったんですけどー……まさか、その悪魔に、たった1人で挑んできたプレイヤーがいたんです」

 呆れた様な表情をしながら、そう言う直葉。そして、話を聞いていた皆大体察した様だ。
 一体誰が、そんな十人以上の高レベル……完全スキル性だから、熟練プレイヤーを屠った漆黒の悪魔に、単独で……ソロ向かっていく様な人は2人位しか知らない。内の1人がキリトだから、もう答えは決まったも同然だ。

「リュウキ君、だね」
「そうですね……」
「間違いなく」
「似たようなの……、合ったしね」

 皆が示し合わせてそう言っていた。直葉も、2,3秒もかからずに答えた皆を見て、苦笑いをしながら頷いた。

「そうですよ……。最初は驚いたけど、あのキリト君なら、1人くらい~とも思ってました。でもでも、ところがどっこい と言う感じですかね……? ルグルーの前の橋の上で大戦争が起こっちゃって……、ユイちゃんと一緒に特撮の怪獣映画でも見てる気分でした」

 直葉はそう言いながら、思い返した。
 キリトは、その巨体からは信じられない速度で動き、攻撃を加えるが相手も負けてはいない。凄まじい攻防。
 一合打ち合う度に、まるで落雷でも落ちた如く轟音が洞窟内に響き渡っていた。そして、それ以上に驚くのが、その速度。かなり遠くで観戦……見ていたのにも関わらず、それでも一体何が起きてるのか判らない程だった。
 それは、ユイでも視認しかねる程だったのだ。

 当初こそは唖然と、楽観的な部分もあったけれど、それは数秒間だけだ。今はパーティだし、キリトが守ってくれた様に、自分も守りたい、死なせたくない。と強く思っていたリーファ。
 だから、ユイと共に助けに行こうとしたのだ。

 そこで遭遇……じゃなく、見舞われたのがあの隕石流星群だった。



「洞窟内なのに、隕石が落ちてきて……、とっても大変でした……。《飛行クエスト》~なぁんてものがあったら、多分超高難易度だと思います……。ユイちゃんがついていてくれてなかったら、ちゅどーん! って吹き飛ばされちゃってたと思うので……」

 あははは、と笑いながらそう言う直葉。
 直葉は、空中戦闘(エアレイド)のスペシャリストと言ってもいい。このメンバーの中で間違いなく一番の使い手だ。そんな彼女がそこまで言うのだから……、相当なものだったのだろう、と思っていた。

「それは……なかなか出来ない経験だねー。したくないけど」
「わ、わたしもです……。ま、まともに空中戦闘出来る様になっても……いやですね……」
「あはは……私も辞退するよー。クリア出来ないよ」
「怖いもの見たさに一度くらいは、とも思うけど、リーファちゃん、直葉ちゃんがそこまで言うんだからねー。私もちょっと無理かな」

 ユイがいたとしても、それに反応し、行動が出来る。翅を操る術に長けていなければ、クリアは不可能だから。

「あはは……、なんだか沢山話しましたけど……、よく考えたら、たった3日で世界樹まで行きましたから、かなりの強行ツアーでしたね」

 直葉は、そう言って笑った。かなり、濃い体験だけど。時間にしたらそこまでは経ってないから。アスナとレイナは、その言葉を聞いて、言わなきゃならないことがあると、直葉の方を見た。

「ありがとう、直葉ちゃん」
「私も―……ありがとう」

 そう、直葉がキリトやリュウキと共に来てくれてなければ、今自分はここにいないかもしれない。……そして、リュウキもまた、戻ってきていないかもしれない。感謝してもしきれないのだ。

「いえ! お礼なんて……あたしもすっごく楽しかったですから。キリト君やリュウキ君との旅。気難しいリタとも沢山話が出来てー、アリシャとも仲良くなれて……、色々と大変だったんだけど、本当に楽しかったんです」

 直葉は本当に……本当にそう思った。
 ゲームと現実を一緒にしたくないと言う想いは強くあったのに、ローテアウト、つまり順番にログアウトをして、休憩する時間。現実に戻ってきた間にも、胸の高鳴り。ワクワク感が止まらなかった。キリトへの特別な想いも……多分、この時にはもう既に芽吹いていたのかもしれないから。


「それで? 一緒に冒険してみて、2人の印象はどうだったの? キリトはーお兄ちゃんだって、最初は知らなかったでしょ?」

 皆はプールサイドの日陰で休憩をしていた。そこで、リズがそう聞いたのだ。たった3日とは言え、あの2人と一緒にいたのだから。これまでの話でもあったように……、驚きの連続だったから、どう感じたのかを聞いてみたかった。

「えっと、キリト君、お兄ちゃんの最初の印象は、とにかく早い。でしたね。リュウキ君も早いと言うのは当てはまりますが……それ以上に、魔法を使う為に必要な詠唱文。それを初めてとは思えない程使いこなしていて……なんて言ったら良いのか……業のリュウキ君に、速度のキリト君。ですかね。ただ……それ以上にひとつひとつの戦闘に、対する真剣さ。それがだれとも違ってました」

 思い返すのは、サラマンダー達との一戦。そして、大怪獣大決戦。

 ALO No.1、2を争うプレイヤーとのタッグマッチ。

 世界樹のグランド・クエストの戦い。

 沢山ある戦いの記憶。
 
 どの思い出を覗いても……、2人の真剣さは伝わるんだ。

 それに、シルフとケットシーが襲われる場面になった所での話もそうだ。2人とも世界樹の上に行きたい。あの上に目的のものがあると言っていた。

 とても大切な何かがある、と言う事はリタもリーファも判ったから、だから進めた。

『自分達を切って、サラマンダー達につけ』と。

 でも、首を縦には決して振らなかった。リュウキは、怒っていたんだ。

『見縊るな。……オレが自分の利の為に、仲間の手を切る男だと、思っていたのか?リタは』

 リタとリュウキがパーティを少ない時間だけど、組んでいた。だから、リュウキは怒っていたんだろう。……そんな事をする男に見えたのか?と。

 リタは反論はしていたけれど、やはり歯切れは悪かった。何時もの毒舌は息を潜めている。5割強減、程だったのだ。

 そんな選択をする様な男じゃないと、何処か、自分の中では判っていたから。

 キリトも同じだった。リュウキが怒っていたから、キリトは逆に微笑みすら浮かべて、穏やかな表情で諭すように。


『オレも、自分の目で見て、感じて、それでシルフ族のリーファや、リタ、そして……ドラゴの事だって、好きになったんだ。友達にだってなりたいと思ってる。……ドラゴもいったけど、オレも自分の利益の為だけで、相手を切る様な真似はしない、絶対に』

 そんな2人の言葉を聞いたから、リタは、リーファは強く思ったんだ。




「だから……、どんな相手と戦っても、お兄ちゃんと、キリト君とリュウキ君は決して逃げたりしない。絶対に負けたりしない、って信じてました」

 そう、それがALO最強のプレイヤー。サラマンダーのユージーン将軍、ジェイド副将軍であっても。
 どんなに強い相手であっても、2人は……絶対に逃げたりはしない。最後の最後まで戦い抜く。そして、勝ってくれると。

「多分……リタもおんなじだったと思います。あの子は、感情を素直に出したりしませんが。とっても穏やかになってましたから」

 4人の戦い。
A 
 LO始まって以来の頂上対決と言っていいだろう。

 見る者の全てを魅了する剣技。そして、見る者の全てを驚愕させる魔法。剣と魔が融合したその戦いは今でも目に焼き付いているから。

「ふーん。兄妹仲が良いのは結構だけど……、禁断の恋は、お姉さんちょっと心配だなぁ……?」

リズがニヤ~っと、どこが心配なんだ?と思える様な笑みを浮かべながら直葉に言っていた。

「……ななっっ!! 何言ってるんですかっっ!! そそ、そんな事ないですよっ!!」

 あの時の戦いを、目に焼き付けた戦いを思い浮かべていた直葉は、まさかの言葉に驚きながら反論をしていた

「リズさん? からかっちゃ駄目だよー!」
「レイも大丈夫なの~? リタとリュウキのこと、改めて聴いてると~……ちょ~っと怪しい気配、しだしたんだけど??」
「うぇっ?? そ、そんな事、ないもんっ!! リタさんとはお友達だし! リュウキ君は……リュウキ君とリタさんはお友達だもんっ!」
「あっはっは~! そーだったかな~?」
「んもーー! リズさんっ!」
「はやく練習しましょうっ! 続きですっ!!」

 直葉は、何とか話題をレイナの方に変えてくれたから、良かった、と思っていた。だけど、いつまた矛先が変わるとも判らないから、直ぐに練習のことを言った。十分休憩はとったんだから。もう練習をしないと。

「ま、そーね! 再開しますかー!」
「そうだね。ほーら? レイも行くよー。大丈夫だって。リュウキくんだもん」
「ぅ……ぅん」
「……あははは。(でも、良いなぁレイナさん。本当にリュウキさんに想われてるから)……贅沢過ぎです」
「ん? どうしたの? シリカちゃん」
「ええ?? 何でもないですよっ! わ、私も泳ぎますからっ!」

 皆はプールへと戻っていった。

 直葉は、あの時のことを思い返す。相手が兄だという事実。それは、好きになる前に、キリトの事が好きになる前に知りたかったと……思った。

 自分の感情のままに、思ってもない事を、感情の全てを兄にぶつけてしまったんだ。もう、合わせる顔なんてない、そう思った。

 でも、背中を押してくれたのは……、嗚咽を漏らしていた自分に立ち上がる活力をくれたのが、仲間達の言葉だった。

 確かに、想いは実らないだろう。それでも、傍に居続ける事は出来るから。


 
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