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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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現実世界
  第152話 追憶のアインクラッド・リズベット編


~エギルの店 ダイシー・カフェ~



場面は現代、現実世界のエギルの店に戻る。

 シリカは、少し顔を赤くさせているけど、何処か、ドヤ顔もその表情には含まれている様だ。……恐らく、酔っ払っているから できるのだろうけれど。

「おーおー、リュウキはやっぱりよぉ! ……おい エギル、スピリタス(それ)寄越せ!」
「却下だ。……15万でなら手を打つ! 値切り交渉は 一切受け付けん!」
「15っ!? 法外過ぎるだろっ!! 現実(ここ)でもぼったくりバーか!!」
「良いもの安く提供する、現実(リアル)でも仮想世界(ヴァーチャル)でも、変わらん! それがオレのモットーだ。これが最安値だ!」

 クラインは、とりあえずバーボンを 《ぐいっ!》と一気飲みしながらそう言う。
 ……クラインも飲み方を見れば、そして 表情をみれば、それなりに飲んできているんだと思えるが……、それでもスピリタスだけは渡すわけにはいかないと思った様だ。
 急アル中になっても困るし、何より潰れたら面倒だからだ。

 そして、そんな話を聞いていた者達は、何処か複雑な心境の者だっている。


「む~……りゅーきくんっ!」


 レイナは勿論その1人だ。…でも、何処かでは勿論判っていた。流石に結婚をしてからは、殆どずっと行動をしているから、そういった事はあまり無いって思える。だけど、リュウキにはその手のことには計算がまるで無い。下心がまるでないから、彼は当たり前の様にいう。
 どんな歯の浮くような言葉でも、まるで、朝の挨拶をする様に普通に言うんだ。だから、皆が……。

「りゅーきく~んっ! 聴いてるの~?」

 レイナは、リュウキの顔を覗き込む。
 まだ、その顔は赤く……そして、目は閉じてあげたから まわってる? かどうかは判らない。でも、目が覚めるのは当分先だと言う事は判る。

「ぅぅん……」

 時折聞こえてくる寝言、と言うか唸り声と言うか……、それも何処となく可愛い。でも、シリカの話を聞いて複雑なのは複雑だ。だから、レイナは腹いせにリュウキの頬を抓ったり、つついたりして遊んでいた。時折、ちょこっと歪む顔が、これまた可愛いんだ。

「む~、こ、これくらいの代償は当然なんだからねっ?」

 レイナは、聞こえていないであろうリュウキにそう言っていた。ちょっと照れてしまっている様で、頬を赤くさせていた。……それは、1%以下のジュースのせいだけではないだろう。



「へーへー、まぁ~、リューキならありそーよね? あ、キリトもかな?」

 リズは、訝しむ様な表情をしていたけど、『この男ならあり得る!』 と判断した様だ。そして、矛先をキリトに変えた。

 それを聞いたキリトは、思わず ぎょっ! としていた。

「ひ、人聞き悪いこと言うなよ、リズ!」
「へへ~ん! あたしゃ、あんたに剣折られた事だってあるし? 囁かな仕返しってやつよ~?」
「う゛……、た、確かにそんな事もあったけど、結果おーらいじゃないのか……」

 キリトは項垂れてしまっている。
 アスナは、キリトの方をじぃ~っと見ていた。リズの方にも、顔を向けて見ている。
『く・わ・し・く』と言っている様だけど、その圧力もなんのその。

 だって、テンションハイだから。

「じゃ~あたしは、少し趣向を変えましょ~。もち、リュウキもいるけど、メインはキリトの話っ!」
「おお~~、それ、聞きたいですねぇ!」
「あ、私も聞きたいっ!(……りゅーき君から矛先を……っ)」
「へへっ、変なことは言うなよっ!? ってか、何言うつもりだっ!?」

 キリトが抗議をしている様だが……、それは阻まれた。アスナの笑顔?にだ。

「私も聞いてみたいなぁ~? キリト君の事ぉ~。だから、キリト君も黙って聞いてみようよう。……楽しい思い出かもしれないよ?」
「あ……はい。黙ってます……」

 その凶悪……っと、失礼。そのアスナの笑顔を前にして、キリトは何も言えなかった。

 と言うか、いつの間にか、思い出話にみんなで花咲かせている様だった。













~追憶のアインクラッド 第48層・リンダース リズベット武具店 リズベット Memories~




 その場所の外観の第一印象は、多分皆同じ事を言うだろう。
 それ程までに象徴的なもの、それは 巨大な水車。緩やかに回転し、独特なリズムを奏で、音を出す心地よい空間。その奏でる音は、外だけじゃなく工房の中も満たしてくれる。

「……ま、慣れるまで大変だった、って言うのもあったけどねぇ」

 リズベット武具店の店主事、リズベットは窓から外を、大きな水車を眺めながらそう呟いていた。
 この奏でる音、リズムは勿論全自動であり、ON/OFF機能なんてものはない。山から流れてくる透き通る様な川の水がその大きな水車を回す。それは 昼夜問わずだ。だから、眠る時……、水車の音が聞こえてくる。

 心地よい~って、最初の方は思ってたけど、だんだん、日を重ねる毎に、ちょっとうるさいかも……とも思ってしまった事もあるのだ。

 だが、自分の全てをかけて、この倍率の高い場所をおさえたのだから、後悔などは微塵もなかった。
……あるハズも無い。

「よしっ、とこんなもんかな……」

 リズは、新たな剣を作り上げた所で手を止める。そして、アイテムストレージ一覧を確認。

――……まだ、鉱石類は滅茶苦茶ある。

 金属、インゴットもまだまだ在庫が切れる事はない。流石に《クリスタライト・インゴット》には限りがあるが、それ以外はまだまだ在中だ。

「ほんっと、あいつは、無茶苦茶なんだから」

 リズは、呆れながらも、ほくほくな店事情に、ニコりと笑ってそう言っていた。そんな時だ。

〝からんころん……〟

 と、店内に鈴の音が響き渡る。それは誰かが入店した証だ。

「よしっ!」

 リズは、備え付けてある大きな鏡の前で、笑顔をチェック。接客の第一は笑顔だから。

 リズは笑顔を確認すると、勢いよく扉を開けた。

「いらっしゃいませ! リズベット武具店へようこそ!」

 と、お腹の底から大きな声で。そして、店内を見渡して……、誰が来ているのか直ぐに判った。

「あら、キリトじゃん。いらっしゃーい」

 来ていたのは、黒の剣士キリト。
 そういえば最近はここに来るのはご無沙汰だったな、と思った。

「やぁ、リズ。今日はメンテを頼みたくてさ。実は、結構早めに来てたんだけど……」

 キリトは苦笑いをしていた。キリト曰く、客が物凄く多いから、少し外で待っていた、との事だ。どんどん人は入っていく……、出て行くが、入っていくから中々途切れる事がない。あまり、多い場所には、と正直思っていた。だが、ここで客足が落ち着いたようだった。そこを見計らって、突入! したのだ。

「ははぁ、相変わらずアンタも、相当恥ずかしがり屋さんみたいね~? これが攻略組のトッププレイヤーの姿とはね~♪」
「う、うるさいな、良いだろ? 別に……」
「まぁ、そうね。それに、上には上は勿論いるし?」

 リズが思い浮かべるのは、もう1人のトッププレイヤーの姿。恥ずかしがり屋、と言う意味ではキリト以上は勿論いる。……本人は否定するけれど、正直バレバレだ。あれで、隠している……とは思えない。

「あ~……まぁ、な。そう言われたそうだ」
「でも、だからって安心しちゃダメよ~? あんたも大概なんだから」
「うぐ……」

 そう言われてしまえばグウの音も出ないのはキリトだった。

「あはは! じょーだんじょーだん! さ、見せて」

 リズは、手を差し出した。別に直接渡す訳じゃなく、店のウインドウから送り込むのだが……、そうしてしまうのは仕様だ。ここは限りなくリアルな世界。もう、1年以上もこの世界で暮らしているから。

 キリトは頷くと剣を渡した。

 ダークリパルサーとエリュシデータの2つを。

「ふ~ん。マメに来てくれてるから、耐久度は問題ないみたいだけどね……、でも 一応メンテナンスの料金は変わらないけど良い?」
「ああ、問題ないよ」

 色々と交渉をしている間に、また客足が増えていった。店内に2人のプレイヤーが増える。なのに……、キリトは爆弾発言をしてしまう。

「大事な装備がポッキリと折れてしまうかもって考えたら定期メンテナンスなんて安いもんさ! HAHAHAHA!」

 周囲がどよっ!!っと動揺していた。それはそうだ。戦いの最中だったり、迷宮区、ダンジョンの真っ只中だったりした時に、自身の装備が壊れたりしたら? ……文字通り死活問題だろう。
 だからこそ、周囲もどよめいたのだ。リズにとってみれば、トラウマ以外の何でもない。

「あたしの作った剣がちょっとやそっと、そう簡単に折れるわけないでしょ!! 思い出させないで!!」
「へへ~ん。リズ……お前リュウキに色々と吹き込んでるだろ? だから、そのお返しだ!」
「むっ……」

 リズはしかめっ面をしていた。確かに、リズはリュウキに愚痴る事が多い。別にそう言う意図があった訳ではないが……。


――……あたしの剣が軽すぎってクレームつけたり。
――……雪山は寒いのが当たり前なのに、精神力の違い~とか言われたり。


 等々だ。それを聞いたリュウキは、キリトに同じような事を言ったのだ。事、ここの世界でのプレイにおいて、キリトにそこまで言える様な者は、正直あまりいないだろう。
 キリトの腕は超一流だからだ。だけど、その中でも苦言を言える者がいたとしたら……?あの白銀の勇者しかいない。

 だから、結局リズにとってはしてやったりだったのだ。

「へー、そんなのキリトがリュウキに負けなきゃいいだけじゃんっ! あたしはあたしで頑張ってんのー!」
「うぐっ……」

 完全に自分よりも上だと思ってしまっている相手を越えよう!と思うのは当然の事だ。届かない事はない。何れは……と思っている。だが、それ以上に憧れだって持っているのだ。常に前を歩いてもらい……目標であってもらいたい、と。

 そんなこんなしてる時、新たな客が入ってきた。

 以前の武器の発注者だ。

 キリトは、メンテナンスは頼んだから、一先ず後ろに下がった。

「あ、こんにちは! いらっしゃいませ!」
「この間、作成を頼んだ装備のことだけど……」
「ああ、それなら完成してますので、持ってきますね。暫くお待ちください」

 さっきまでの遊び顔は息を潜め、完全に仕事モードに突入している様だ。リズの顔は真剣で、それでいて笑顔だった。

 その後も対応は続く。

 外で待っていた意味がない、とキリトはおもってしまうほどに、客足は途絶えることがない。

「あ、はい! その件ですね……」
「はいっ! こちらの方が宜しいかと!」
「えっとですね……、今の相場はこの辺りになっております」

 対応は続いていく。キリトは、店に備え付けられているベンチに座りながら、リズの仕事ぶりを見ていた。

 そして。

「ありがとうございました! またよろしくお願いしまーす!」

 一応、今の最後客を見送り、人はキリトのみとなった。

「随分と繁盛してるな?」
「そりゃそーね? なんたって、ここ最近は仕入れも良いし、あたしの腕だって上がっちゃってるし!」
「……なる程、それにアルゴも似たような事言ってるしなぁ」

 キリトは察した。
 あの男と組めば、本当に有名タレントを抱き込んだも同然になる様だ。だから、売上が低迷することも無い。情報屋と武具店、ジャンルが違うからこそ、どちらに偏る様な事も無いだろう。

「ん? アルゴ??」
「いや、こっちの話だよ」
「情報屋にウチの宣伝してくれるの~? そりゃ忙しくなりそうだけど、嬉しいねぇ」
「……生憎。アルゴは知ってるよ。此処の事」
「な~んだ。そうだったんだ」

 アルゴがリズの店の事を知らない訳はない。ここアインクラッド内において、リズを超える鍛冶職人はまずいない。鍛冶スキルを極めていて、その上、マスターメイサーとも来れば、更に尚更だ。
 バックについてるスポンサーもでかいからと言うのも勿論あるだろう。お得意様の中には、血盟騎士団の副団長、副団長補佐の2人までいるから、本当に大したものなのだ。でも、そこまでになるのに、費やした時間と努力はリズが頑張り抜いた結果だ。

「ま、この店を構えるのだって、並大抵じゃない努力をしたつもりだし、トッププレイヤーが複数指名する程の有能スミスではあるつもり。慢心じゃなくっ、常にそれくらいにならなきゃって意識し続けてる結果かもね。志は、目標は、常に高くっ! 日々これ精進! ってね」
「そうだな。……見ていてよく判るよ。それに同い年くらいの女の子がこんなにも頼りにされているのなんて、いい刺激になるよ。勿論、リズの腕だって信用してるしな?」

 リズはその言葉が何よりも嬉しかった。沢山のプレイヤーに頼まれて武器を作成し、そして感謝されること、それも勿論嬉しい。でも、目の前の男性に言われるそれはまた一段階違ったのだ。

「ふふん! まっかせーなさーい! 現実世界じゃ、こんな華奢な女の子がハンマー振るう事なんて無いだろうしねー! 終わるその瞬間まで、頑張ったげるわよ!」

 リズは、腕をブンブンと振り回しながらそう答える。……自分は最前線を戦えるだけの技能も能力も無い。だけど、自分の武器なら、きっと彼等を、皆を守ってくれる。だからこそ、リズはそう決めていたのだ。キリトはその思いも勿論判っている。
 ……判っているが、ついつい言ってしまう事があるのだ。

「確かに……、これだけの腕前の鍛冶屋なら、相当マッチョだよな? リズ。腕なんかひと周りもふた周りもあって、肩幅も凄くて、腹筋田の字は当たり前!」

 キリトは、ニヤニヤとしながら、想像する。想像上に浮かぶリズの姿を見て更に笑いを誘っていた。

「ちょっと! いちいち想像しないでよっ!(……それに、それって女の子としてどうなのよ)」

 ちょっとキリトのその言葉を聞いて凹んでしまう。女子力……と言う意味では、自分はダメダメだと言う事を自覚しちゃってるからだ。だけど、キリトの話はここで終わりではなかった。

「オレも、……オレ達もリズみたいに努力して、必ずこの世界をクリアしてみせるよ」

 キリトの言う達と言うのは、誰を差しているのだろうか。攻略組の皆?それとも……アスナ?……若しくはリュウキ?それは判らない。キリトも考えて言った訳じゃない。
 リズは、嬉しかった。

「……うん。そうなるようにあたしも頑張るよ」

 思うのはあの時の事。
 キリトに恋をして、そして想い人がいる事知り、涙を流したあの日の事。あの日の約束。キリトに言った。

『お願い。……キリトがこの世界を終わらせて。それまではあたし……頑張れるから』

 そう、言ったんだ。

――……あの時の約束、覚えてくれてるんだね……。

 リズは嬉しかった。

 そして、工房の奥へと戻っていく。

 キリトに渡された剣をメンテナンスしていく。〝かぁん、かぁん〟と言う、ハンマーの独特な音を一定のリズムを奏でられてる。

 キリトは、その音をベンチに座ったまま……それを聞いていた。

(――……なんだか、心地いいリズ……ム……)

 眠気を誘うメロディーの様に脳裏に刷り込まれる。



――……そして、次第にキリトの意識は闇の中へと消えていった。



 そして、更に数十分後。
 全てを終えたのか、リズは慌ててキリトの元へと戻ってきていた。

「見て見て! キリト! これなら、100層のBOSSだってまっぷたつなんだからっ! メンテボーナスもついちゃったみたいっ! あたしのスキル、これって上限超えたんじゃないかってデキ――って、あれ?」

 工房から店内へと続く扉を開けた時に目に入ったキリトの姿。備え付けられたベンチ……、いやソファーにもたれ掛かりながら、口をわずかに開け、瞼を閉じている。一定のリズムの吐息をだしながら……。

「キリトー、出来たよー、起きろーー」

 リズは、キリトの身体を揺さぶったり、頬をぐにぃ と伸ばしたりしているが、全く起きる気配は無かった。

「駄目だコリャ、完全にスイッチOFFにしてる。……ふぅ」

 リズは改めて、キリトの寝顔を眺めた。いつものそれより、遥かに幼く感じる寝顔。生意気なっ!と思う事がある表情もするくせに、今は全くの無防備。

「……今はこんな間抜け面してるのに、最前線で戦ってるんだもんね……」

 頬を何度か突く。そのぷにぷにの肌は、まるで女の子なんじゃないか?と思える程柔らかく心地よい弾力だ。

「……あたしも、なんだか今日は……頑張りすぎちゃっ……たか……な……」

 キリトの寝顔を見ていると……、どうしても誘われる。誘われるままに……、リズも意識を手放した。

 そして、その更に数十分後。

 リズベット武具店の前に来ている者がいた。

「ん、メッセージを送ったが返ってこないな。……この時間帯だったらいつもは大丈夫だった筈だが」

 店の扉を見ていると、まだ《OPEN》の状態だった。明かりもついている。だから、扉に手を掛け、開いたのだ。

「リズ。今日は何かあったの……か?」

 部屋に入ると、そこに飛び込んできたのは、リズとキリトの姿。店内のソファーに腰を掛け、そのまま眠ってしまっていた。心地よさそうに……。

「……これなら仕方ないな。……本当に気持ち良さそうだ。キリトもリズも」

 それを見たら、自分もそう思ってしまう。生憎、スペースはふたり分程しかないから、男は、リュウキは楽しめそうに無いが……。そう、リズベット武具店に来ていたのはリュウキだ。……スペースがあったとしても、リュウキはそんな事、しないと思うけど。

「やれやれ……」

 リュウキは、メニューウインドウからアイテムストレージ一覧を呼び出した。そして、アイテム分けしている一覧の中で種類別に分けている日用品欄までスライドさせた。その内の、1つを選びクリックしてオブジェクト化した。

 それは、大きめの毛布。

 とあるダンジョンで入手した珍しいアイテム。宝箱に入っていた物だ。一体何に使うのか?って思ったが、一度使ってみれば、この包まれている暖かさは、心地よい眠りを演出してくれるものだ。

「ん……」
「ぁ……」

 毛布を掛けた所で、2人は何か違和感が、かけられた事でそれを感じた様でそっと吐息を漏らしたが、直ぐに元の寝顔に戻る。……心地良さそうにしていた。

「一応、見ておくか。……キリトがいるし、大事無いとは思うが」

 完全にOFFにしている状態のキリト。……安心出来る空間だから、と言う理由があるだろう。本当に危険な事があれば、恐らく目を覚ますだろう、と思うが万が一もある。リズの店は人気店と言う理由も大きいだろう。

 だからリュウキは、リズベット武具店に備え付けられている椅子に座った。そして、店内に並べてある武具を確認する。

「これだけの物を作るとは、な。流石はリズと言ったところだ」

 そう思っていた。

 (コル)と一緒にあの鉱石やインゴットを提供したが、それが正解だったと言える。ここまで、腕の良い鍛冶職人に加工されるのなら本望だ。それに、この場所を貸してもらえている事自体、感謝してもしきれない事だから。


 そして、待つ事1時間強。

 まず先に目を覚ましたのはキリトだった。

「ふぁぁ……寝てたのか……ん? あれ?」

 寝ていた事は、理解出来た。……が、いつの間にか掛けられている毛布を見て多少戸惑った様だ。

「リズかな、って、あ」

 リズが掛けてくれたと思ったが……、当のリズは隣で寝息を立てている事に気づいた。随分と深い眠りの様だ。

「……ああ、オレが頼んで、出来たのにオレが寝てしまってたからか。なんだか……悪いことしたな」
「……全くだ」
「っっ!!」

 突然後ろから、声が聞こえた。
 キリトはその声に思わず反応して、身構えてしまった。

「はぁ…、おはよう。良く眠れたか?と言ってもまだ夜10時程だが」
「あ、リュウキ……か」

 誰がいるのか判ったキリトは、とりあえず安心した様だ。

「随分とうっかりしてるようだな、キリト。ここは寝る為の施設じゃないぞ。武具屋だ武具屋」
「あー……いや、こう、ついな。心地いいリズムだったから」
「水車の音、ハンマーで金属素材(インゴット)を打ち付ける音……か、まぁ 否定はしないが」
「そうだったな、リュウキ。結構リズの所に出入りしてるみたいだし。……レイナは大丈夫なのか?」
「ん?? 何がだ?」
「あぁ……」

 この男は、基本的には変わらないなぁ、とキリトは思わず思ってしまっていた。性格と云々というものは一朝一夕で変わるものではない。だが、それでも随分と穏やかになったのは事実だろう。だからこそ、当初は自分以上にソロ、上等!だったこの男が結婚までしているのだから。
 ……レイナの情熱に負けたか、とは思える。かくいう自分も他人のことは言えないが……。

「ああ、成る程。大丈夫だ。ここに来る事はレイナには伝えているから、心配はかけてないと思うぞ。メッセージも入れたしな」
「あーうん、そうだなー」

 そう言う事じゃなくて、女の子のトコに頻繁にきてていいのか?って事だ。頻繁……と言う程来てる訳じゃなさそうだが、レイナの事を考えたら、やきもちを妬かれそうだと思える。
 ……本当に似た者姉妹だ。相手がリズだから、と言うのもあるだろうけれど、今回の件でリズに色々とからかわれたりしそうだ。

「はぁ、さてとオレも起きないとな。……リズに礼を言っておかない……と……」

 キリトは身体を起こしたその時だ。メッセージが入っていることに気がついた。

 ……差出人は。

「ん? どうした?」

 キリトの顔がどんどん青くなっていくのがよくわかった。やや、大げさな感じがするが、そこはシステム仕様。細かな感情を読み取って、それをデータ化、表情へと表した様だ。
 だからこそ、よく判る。何か拙いことがあったと言う事が。

「わ、忘れてた……、今日、アスナと約束があった事……」

 顔を青ざめてそう言うキリト。どうやら、約束を盛大にすっぽかしてしまった様だ。アスナのメッセージだが、キリトがみれば文面からどれだけ怒っているか判るらしい。

「はぁ……、なら さっさと行って謝ってこい。それはキリトが悪い」
「ぅ……そ、そうだが。でも、リズに……」
「リズにはオレが言っておいてやるよ。まだ起きそうにない様だし。……ここの店のシステムを操ることが出来るのは店主であるリズだけだ、このまま放っておくのも良いとは言えないだろ?」

 リズが操作しない以上、店はOPENのままの様だ。勿論、開店閉店を自動設定に出来るのだが、以前からリュウキが来る時間帯が結構遅めだったり、と斑だった。だから、時間設定を自動から手動にしたとの事だった。……詰まる所、自分のせいだと言う所もあるのだ。

「す、すまん! りゅーき!! 恩にきるっ!」
「良いから良いから。……アスナに宜しくな」

 何度か頭を下げた後、キリトは、閃光顔負けの速度で、店から出て行った。どうやら、それを見るとよく判る。結構な時間、オーバーしてしまったという事が。





 そして、その更に数十分後。

「ん……ん~……、あ、あれ?」

 リズがもぞもぞと動き出した、と思いきやパチッ!と目を開けていた。どうやら、本人も眠るつもりは無かった様だ。だって、まだ店営業しているから。

「あ、ああっ!! し、しまった!! ご、ごめんっ! キリトっ! あたしも寝ちゃっt「落ち着け」わぷっ!」

 リズは慌ててバタバタと、起き上がろうとしていた時に、清々しいカウンターだ。リズは、頭を撫でられた。目をパチクリさせながら、目の前の本人が誰なのかを確認する。さっきまでは、キリトが居た筈……だが、いつの間にか変わっている。

「えっ! りゅっ! リュウキ!? な、なんでここに??」
「なんでって、一応メッセージは送った筈なんだがな。まぁ返信は無かったけど」

 リュウキはやれやれと、ため息をしながら、リズの頭を離した。そして、その後直ぐに経緯を一通り説明した。キリトは、アスナから連絡があって出て、その際にリズに礼の言葉はリュウキが承った。

 そして、思うのは今回の事。

「客が来ない時間帯とはいえ……、あんまり無防備な事はしない方が良いぞ? キリトがいて、安心はするかもしれないがな」
「ぅ……そ、そうよね。気をつけるわ。ありがと、リュウキ」

 リズは、若干だが仄かに表情を赤らめながら礼を言っていた。寝顔を、キリトだけならまだしも、リュウキにも見られてしまったのだから。一応、乙女として……恥ずかしい、と言う事だろう。

「………なんで一応なのよっ!」
「ん? どうかしたか?」
「い、いや、何でも無いわ。」
「?」

 とりあえず、リズのツッコミについては、スルーする。天の声にツッコミを入れる事程不毛な事は無いのだから……。 

 リズは、この時自分にかけられた毛布の事に気づいた。触って感触を確かめる。それは、初めて感じる感触で、どう言えば良いだろうか。マシュマロの様にふんわりとしていて、軽いのに 肌触りもサラサラ、ツヤツヤしている。使った事は無いがシルクの毛布の様なイメージが頭の中に浮かんできた。
良い香りもする。

「これ……リュウキが?」
「ああ、室内だし大丈夫だとは思ったんだが 一応、な」
「あ、ぅ……ありがと」
「いや、構わない。リズには世話になっているからな。レイナとの事もそうだし。まだ足りないくらいだよ。……こっちこそ、色々とありがとう」

 そう言ってリュウキは笑っていた。キリトの笑顔とはまた一味違う笑み。あどけない笑みは、安らぎを与えてくれる様だった。

「なな、何言ってんのよ! 前にも言ったけど、あたしの方がリュウキから沢山もらってんのよ? この店が繁盛してるのだって、ぶっちゃけ、リュウキの素材のおかげだし! 感謝してるのはあたしの方だって!」
「……なら、オレも何度でも言うが、オレにとってはそれ以上の物がある、って事なんだ。リズの工房にはな。……だが、感謝されたんだ。オレも素直に受け取っておくよ」

 ……リズは、その笑顔を見てどうしても思ってしまう。そう、あの姉妹についてだ。

 姉のアスナはキリト。
 妹のレイナはリュウキ。

 本当に羨ましい。何度、そう思った事かもう判らない。

 でも……それでも。この世界に囚われてる筈なのに……、キリトの事もあったりしたのに。まだまだ諦めてないとは言え、失恋をしてしまっているというのに。

 皆と知り合えてから、心安らぐ時間が多い。

 この世界に来た当初を考えたら、間違いなく。だから、リズは強く思った。

(……あたしは幸せ者なんだわ。好きな人ができて、最高の友達にも恵まれて……)

 例え、第2ラウンドをして報われなくても、自分が過ごしたこの時は何にも変えられない宝物なんだ。リズは、そう思って笑う。
 すると、どうやらリュウキには、何か聞こえていた様で。

「ん、どうした?」

 そう聞いていた。リズは、その問に笑顔で答える。

「いーえ、何でも無いわ。さ、今日はどうするの? また 色々としてくの?」
「ああ、頼むよ」
「OKOK! ん? そう言えば、ちゃ~んと、レイには言ってるの? ここに来ること」
「ん、勿論」
「そーぉ。……ふふふ」

 リズは、何処かいやらしく笑い始めた。この表情は、何度か見た事がある。

「……悪巧みしてる顔だな、それ」
「へ?」
「程々にしてくれよ? レイナがあたふたして、可愛いと言うのはオレも同感だが」
「あー、そうだったわね? リュウキはSだったっけ? レイにきーてるわよ?」
「……別に喜びを感じてる訳じゃないぞ?」
「あっはは! でも、すっごい楽しんでるじゃん?」
「リズ程じゃない」
「あはは! 同じだって! 今の状況、記録結晶で撮ってレイに送っちゃう?」
「……勘弁してくれないか?」
「それは、流石にじょーだんじょーだん! ……リュウキ」

 リズは突然、真剣な表情になった。さっきまで楽しそうに、笑っていたのに。

「レイの事、ちゃーんと支えてあげてよ? ……あの子、リュウキがいないとダメなんだからね? レイだって、リュウキが一番なんだからね」
「っ……///」

 リズの言葉を聞いて赤くなるリュウキ。時々、リズもレイナをからかって遊んでいる様な事があるけれど、本当に好きなのだ。レイナも、アスナも。

「さっ! 今日も白銀様のハンマー捌きを見せてもらおうかなっ!」
「っ! そ、その呼び方はヤメてくれ」
「イイじゃんイイじゃん! ほーら、行こっ? たまにはレイだけじゃなくって、あたしの相手もしなさいって!」
「はいはい。判ったよ」

 リズは、リュウキを連れて工房へと向かう。その表情は、とても笑顔で、まるで開いた花の様だった。少し、大胆な発言をしちゃったけど、リュウキはいつもの様に受け答えしていたから、少し複雑なリズだ。



 ……実を言うと、この頃からリュウキを見る目が少しずつ変化していくのだった。





 
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