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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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九十 天才VS秀才

「先に行かせて良かったのか?」

鬱蒼とした森と森の狭間。一面に広がる緑の海がざわめいている。
さざ波に靡く草叢の中、全体的に白い二人の少年が対峙していた。

「よく言う。最初からそのつもりだったのだろう?」
涼しい顔で問うた君麻呂に、ネジが眉を顰める。

ネジの返答を耳にして、君麻呂はふっと口許に笑みを浮かべた。双眸を閉ざして笑うその様は、一見無防備に見えて隙が無い。


君麻呂の言う通り、シカマル・キバ・いの達三人にネジは先へ行くよう促した。
リーダーであり司令塔でもあるシカマルを始め、サスケを追うのにキバの嗅覚は必要不可欠。
また、当初いのが指摘した、相手の人数より心の数が多い訳に関してもまだ判明出来ていないので、彼女も必要だ。
以上がネジ一人残った理由である。

尚且つ、未だ来ない波風ナルやヒナタの事も気掛かりだ。だからこそ、ネジは彼女達を助けに行ける地点での戦闘を望んだのである。
それがたとえ、音忍の中で最も強い相手だとしても。


「どうやら…追い忍の中で一番強いのは君のようだね」
「その言葉、そのまま返すぞ」
考えていた内容と全く同じ事を逆に告げられ、ネジは苦笑した。おもむろに手を掲げる。

独特の構えを取った相手の言動を君麻呂は静かに見遣った。自然体のまま、特に何も身構えず、悠然とネジの出方を待つ。
ざり、と足下の砂が音を立てた。


まずは様子見。
一気に君麻呂の許へ迫ったネジ。素早い突きが君麻呂を襲う。
その攻撃を優雅にかわし、君麻呂は眼を細めた。
普通の体術で勝負を仕掛けてきたネジに、「舐められたものだ」と嘆息する。

だが直後、彼は相手の掌底が普通の突きではない事に気づいた。
(この独特の動き…それにこの『眼』。なるほど、これが【柔拳】か…)

以前中忍第三試験の予選にて、日向一族同士の試合を観戦していた君麻呂。
宗家であるヒナタを容赦なく再起不能にした目の前の人物を彼はまじまじと見遣った。

予選の際は、運命や宿命という言葉に何もかもを諦め、酷く冷めた眼をしていたネジ。それが今や打って変わって、何処か吹っ切れたような眼差しで君麻呂を真っ直ぐ見据えている。
あの時とは真逆で、諦めという単語すら彼の瞳の奥には一縷も見受けられない。


「中忍試験時よりは、随分マシな眼になったな」
「……おかげさまで」
ぽつり、とした君麻呂の呟きを拾って、ネジは苦く笑った。

波風ナルとの対戦前の惨めな自分自身を思い出し、若干顔を顰める。そんな気まずげな思い出を吹っ切るように、彼は突きを更に高速で繰り出した。
連続の【柔拳】。ネジの怒涛の攻撃は、しかしながら無駄の無い動きで次々とかわされる。

(攻撃が当たらない…。身のこなしが上手すぎる…っ)
(変わった拳法だな。それに驚くほど柔軟……面白い)

互いに互いを心中賞賛する。
攻撃の手を休めぬネジ。回避し続ける君麻呂。
冷静な者同士、相手の動向を窺いつつも戦闘は引き続く。
鋭い手刀で何度突いても風を切る音がして、ネジの瞳に若干焦りの色が生まれる。

君麻呂は以前中忍試験に参加していた。故に当然、ネジの日向一族としての能力を知っている。対して予選試合を棄権した君麻呂の能力をネジは知らない。
つまりこの時点でネジが圧倒的に不利なのだ。焦燥に駆られるのも無理はない。


不意に、長い着物の裾を翻して、君麻呂が地を蹴った。同様に跳躍したネジが手刀を突こうとする。
だが次の瞬間、ネジは反射的に手を引っ込めた。
(なんだ…!?)

何か鋭利な物で斬られ掛けたネジは、着地すると同時に距離を取った。敵を注視する。
目前の君麻呂は寸前と変わらぬ佇まいだ。しかしながらよく見ると、長い裾に隠れて何か白いモノがちらちら垣間見える。
「こちらが君の力を知っているのに、君が僕の能力を知らないのはフェアじゃないからね」

焦りの色に目敏く気づいたのか、君麻呂は長い裾に隠れていたモノを露にさせる。何か白い鋭利なモノが掌から生えている様をネジにわざわざ見せてやってから、君麻呂はソレを引っ込めた。

普通の手に戻すや否や、自らの着物を少し肌蹴させる。ネジの怪訝な視線を受けながら、彼は露出した左肩に手を伸ばした。途端、ネジの眼が大きく見開く。

拳と同じ、何か白いモノが左肩の皮膚を突き破って現れる。それはネジの知る限り、一つしか無かった。
「……っ、骨…ッ!?」


痛みを感じないのか、己の骨を引き出す君麻呂は無表情だ。とうとう左肩の骨を丸ごと一本引き抜くと、彼はソレをまるで刀のように掲げてみせた。
「これが僕の血継限界」

刀に見立てた骨が白く輝く。自身の能力をわざと暴露した当の本人は、「さて、それじゃあ」と実に涼しげな顔でネジを促した。

「続けようか」












もうすぐ森を抜ける。

前方から射し込む陽の光が徐々に大きくなってゆくのに気づいて、三人は何度目かの背後確認をした。やはり誰も追い駆けて来ない事実に落胆の息をつく。

日向ネジ・日向ヒナタ、そして波風ナル。残された三人の安否を気遣っていた彼らは、その瞬間、大きく飛退いた。
爆音が谺する。
「トラップ…!?」

今更仕掛けられていた罠に、シカマルは眉を顰めた。飛び散る木材の破片を腕で庇いながら、キバといのの無事を眼の端で確認する。
そしてすぐさま、突然のトラップ発動にシカマルは周囲を警戒した。

おかしい。追跡者の存在を敵はとうの昔に把握していた。だからもしトラップを仕掛けるとしたら、序盤の段階で仕掛けるはずだ。
しかしながら今の今まで木ノ葉からの追っ手が来ていると知っていながら、罠など何一つ無かった。それが今になって仕掛けられている。
この意味が指し示す答えは…―――。

(今更警戒したのか?相手さんの身に何か起こったか、それともこちらの人数が敵の数を上回ったか…)

おそらく後者であろう。情報による音忍の数は五人。その内一人は先にサスケを引き連れて国境へ向かっている。そして最初、シカマル達が実際に眼にした敵の数は四人だ。
(いのによれば、もう一人誰かが潜んでいる可能性もあるが…)

相手の精神に触れたいのは、四人いるはずの敵から五つの心を感じ取った。故にそれを考慮したとしても、残る敵の数がこちらより少ないのは明白。シカマル達のほうに分がある。

「シカマル、待って!!」
思考の渦に囚われていたシカマルは、いのの声にハッと顔を上げた。
見れば、赤丸がトラップの爆発で倒れた大木の下敷きになっている。大きな怪我はしていないようだが、大木から脱け出せない状況に陥っているのが見て取れた。

「赤丸っ!」
真っ先に赤丸を救い出そうと飛び出すキバ。いのもキバに続いて赤丸を助けようと移動する。
シカマルもまた、二人と一匹の許へ向かおうとしたその時。

誰かがすぐ傍を通り過ぎてゆくのを感じた。


「キバ、いの!!」
即座に注意を呼び掛ける。赤丸を助けようと大木の傍で身を屈めていた二人がシカマルの声に振り仰いだ。さっと青褪める。

キバといのの前へ躍り出たのは、追い駆けていた音忍最後の一人…左近。


追っていた対象が逆にこちらを待ち構えていた事に、シカマルはチッと舌打ちした。キバ達を助けようと、立っていた木の枝を蹴る。
刹那、シカマルの視界をドドド…と巨大な大木が遮った。


立て続けに倒れた木々が行く手を遮る。再び発動したトラップに、そこでようやくシカマルは悟った。敵の思惑を。

「よお…相変わらずしけた顔してんな。このへなちょこやろーが」

不意に、聞いた事のある声がシカマルの耳朶を打った。
中忍試験以来のその声音に、シカマルは自身の失態に顔を顰める。
(狙いはこちらの戦力分断か…ッ)


内心悪態を吐くシカマルの視線の先。
サスケと共に国境へ先に向かっていたはずの多由也が口許に笛を据えて佇んでいた。














身を翻す。 

ネジの胴体を蹴って空中で回転。着地様に斬りつける。
斬られる寸前、身を捻ったネジの掌底が君麻呂の足下を狙う。

それを跳躍する事で回避。ふわりと再び君麻呂が宙に浮いた瞬間、ネジは構えた。着地点目掛け、地を蹴る。

それを見越していた君麻呂が手許の骨をくるりと反転させる。落下寸前、刀に見立てたその骨を地面に向かって突き立てる。自らの骨の上に降り立つ事で、ネジの柔拳の被害を避ける。

たんっと軽く跳躍したネジが上段蹴りを放った。骨刀の上に器用に佇む君麻呂の頭部目掛けての攻撃。その蹴りを、首を僅かに傾げて君麻呂はかわした。蹴り足を掴む。

足を捕らえられたにも拘らず、逆にその状況を利用したネジがぐっと間合いを詰めた。サイドからの突きを察した君麻呂がぱっと手を放す。急に自由となった片足を軸足にして、ネジが回し蹴りを放った。

それを仰け反る事で避けた君麻呂がかわし様に骨刀を地面から引っこ抜く。長い着物の裾を翻しながら、ネジから間合いを取る。


当初と同じ立ち位置で、両者はお互いを睨み据えた。
双方の動きはまるで無駄が無く、戦闘と言うより何処か優雅な舞に見える。どちらもまだまだ余力を残しており、今はまだ小手調べ。
((さて、どうするか…))

天才同士の闘いはまだ始まったばかり。















生き埋めになった次郎坊。

もはや姿すら見えぬ敵が埋まった地面をナルは悲痛な顔で見つめていた。印を解き、地中の影分身達が皆掻き消えたのを確認する。
悲しげな顔で暫し佇んでいた彼女は、やがて振り切るように地を蹴った。

シカマル達の後を追い駆ける。
倒れ伏した木々や押し潰された草花がナルの後ろ姿を見送っていた。



次郎坊の術の名残か、荒々しく露出する土。
誰もいなくなったその場で、ややあって、ボコリ、と音がした。

 
 

 
後書き
大変お待たせしました!
さて今回の話ですが…せっかくの天才同士の闘いなのに、イマイチな気がします…(泣)
そもそも原作におけるこの『サスケ奪回編』、書くつもりなかったので…急遽行き当たりばったりで書いてる次第です。

短いですが、一か月に一話は絶対更新する!!という想いで書いたので、すみませんがご了承願います!
タイトルですが、どちらが天才でどちらが秀才かは皆さまの判断にお任せします。正直、天才vs天才より語呂が良かっただけです…すみません!(汗)
次回もよろしくお願いします!! 
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