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僕のお母さんは冥界の女王さまです。

作者:LAW
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拝啓我が姉妹よ。そなたの愛し子は大きくなったぞ。

 
前書き
遅くなりましたが頑張って更新。
 

 
「久しいな、神殺しよ。妾はあなたと再会できて喜ばしく思う」

少女らしい可愛らしい声がイタリア以来の再会を古風な言い回しで告げる。
アンナさんの運転て連れられたのは正史編纂委員会に用意させた千葉県習志野市の海辺の土地。
対峙するのは薄手のセーターとミニスカート、黒いニーソックスと青いニット帽を着込んだ銀髪の少女。
彼女こそがゴルゴネイオンを求めて日本に到来した“まつろわぬ女神”。
ギリシャ神話における神々の王、ゼウスの娘にして、オリュンポス十二神の一角、アテナ。
智慧と戦いの女神。
俺でもその名前ぐらいは知っている彼女。

「俺は喜ばしくない。俺たちを含めてあんたたちは平和に暮らしている人間を巻き込んで、いらん騒ぎを引き起こすだけだからな。何もしないならまだしも、一般人にとってはハッキリ云って、迷惑だ」

そんな彼女には“一般人”の総意を伝える。

「エピメテエスの申し子にしては、良識ある発言だ。あなたは珍しい神殺しだな」

彼女はかすかに目を細め、言う。あまり好戦的には見えないが、安心できないのが神々だ。奴等の思考や行動は人間の基準では予測できない。

「まずは名乗ろうか。妾はアテナの名を所有する神である。以後、見知りおくがいい」

「名前ならこの国でも有名だぜ?争い事じゃなけりゃサインが欲しいくらいだ」

「でば、あなたの名を聞かねばな。色紙にはあなたの名前宛にサインを書かねばなるまい」

「嫌みをピッチャーライナーで返す、だと!?」

彼女の返答に思わず戦慄したが気を取り直して。再び彼女を見つめ直す。

「それを抜きにしてもあなたの名を聞きたい。古の“蛇”を賭けて対決する我らなれば、互いの名を知らずに済ませる訳にもいくまい」

「できれば、あんたとは戦いたくないんだけどな」

「あなたは古き帝都よりゴルゴネイオンを持ち去った。魔術師どもに請われての行いであろう? いかなる理由であれアレを妾より遠ざける者は、何者であれ妾の敵だ」

「確かにあんな災いの種を、知らずにここまで持って来ちまったのは確かだな。そういうことなら俺はあんたの敵なんだろうさ」

「さあ聞かせてもらおうか、あなたの名を」

「今代八番目のカンピオーネ、草薙護堂。こっちは俺の騎士、エリカ・ブランデッリ」



ルカに言われ俺は一般人であることを諦めた、エリカが俺の騎士となることを認めた。

「草薙護堂。耳慣れぬ、異邦の男らしき名だな。覚えておこう」

アテナはエリカの名前を聞き流していり。俺の騎士である彼女を無視するのは少しばかりしゃくに触るが。神に対してはそんな礼儀もとめるだけ無駄だろう。

傍らでは、エリカが少しずつ距離を取っているのが分かる。俺たちの邪魔にならないように。
周囲は編纂委員会に用意させた場所ともあって全く人がいない。それどころか遠くに聴こえるはずの都会の喧騒も聞こえない。これは神の想念、ただ願うだけで人間に影響を及ぼすその力。
アテナがここにいる限り、この辺りは永久に無人のままだろう。神はそこに現れるだけで、人間の行動や心を狂わせる。
ほとんどの神は地上を徘徊したりしない。ごく稀に出現する例外が“まつろわぬ神”なのだ。

「さて、草薙護堂よ」

重ねてアテナが問うてくる。

「ゴルゴネイオンは何処にある?」

「あのなぁ、俺が大人しくおしえるとおもうか?」

 思わぬよ、とアテナはふてきな笑みを浮かべる。
合わせて云った。
闘神としてのアテナは敵と認め、戦え。
智慧の女神としては警告を発していると。
アテナはフクロウと似た瞳を細める。

「故に、まずは問う。妾はアテナ、闘争と智慧の女神。和もするもよし、争うもよし。さあ、あなたの答えをーー」

「できれば和を取りたいんだけどな」

俺たちが戦えば少なからず被害が伴う。
認めたくなかったが、自分より小さなカンピオーネは既にその覚悟を持っていた。
そんな姿をみたら認めない訳にはいかないだろう。

「悪いが断るよ」

俺は一般人一般人である事を諦めた。

「ゴルゴネイオンを渡すわけにはいかない」

エリカが俺の騎士であることを認めた。

「逆に諦めて出ていってくれないか? あんたの智慧の警告どうり。この国に手を出すならタダじゃ済まさないぞ」

そして、俺はカンピオーネである事を受け入れた。

「すまぬな。草薙護堂よ、あなたは神殺しにしては善良な男だ。闘士としては度し難く、王としてはまだ愚かしい。だがそれは未来の英雄としての一つの器なのやもしれぬ。あなたの行く末を見られぬのは残念だがーーー許せ」

アテナが目の前にいた。
その細く幼い両腕を首に絡ませて、彼女はつま先立ちになって桜色の唇を俺の騎士団唇に押し付けていた。

ーーーしまった!!


我が求むるはゴルゴネイオン。諦めよ。あなたの息吹を、あなたの命を妾は強奪する。暗き地の底、冷たき冥府へと旅立つがよい





冷たい呪力と共にその唇から流し込まれてきたのは“死”。
薄れゆく意識の中、エリカの叫びを聞いた俺は己の神力を高ぶらせた。
このまま死ぬ訳にはいかない。俺が不甲斐ないせいでエリカが無謀な特攻を掛けたのにやすやすと死ぬわけにはいかない。



ーーー我は最強にして、全ての勝利を掴む者なり。

ーーー立ちふさがる全ての敵を打ち破らん! あらゆる障碍を打ち砕かん!!

 聖句を念じイメージするのはウルスラグナ第八の化身“雄羊”

権能の発動を感じた俺は意識を手放す瞬間アテナから引き剥がすように吹き荒れた風を感じた。




すまん。少しの間だけ頼む。


任されました護堂お兄さん。



















「・・・・・これは驚いた」

草薙護堂に死の接吻を施した直後、妾を引き剥がすように吹き荒れた暴風。
それは草薙護堂をかすめとると騎士というヘルメスの弟子をも包み込み。逆巻く風となって妾から離れた場所に二人を移動させていた。

「まさかこの国にもう一人神殺しがいようとは」

後に風は妾の前に舞い戻るとその勢いを弱めていく。

「護堂お兄さんとは協定を結んでますからね」

竜巻の中から姿を現したのは草薙護堂よりも若い童。
黄金色の髪を靡かせるその神殺しはにこやかな笑顔で妾を見据える。

「申し訳ありませんセフィーネ王。我が君が回復なされるまで今しばらくお願いいたします!」

「わかりました」

ヘルメスの弟子が己の主を連れて離れていく。
あの口振りから蘇生の権能があるのだろうが、気にすることなく妾の意識は目の前の童に向けていた。

「お久しぶりです叔母上。最後にお会いしたのは頂の宮殿以来でしょうか?」

「妾はあなたのような神殺しを身内に知らぬな」

知らぬと云ったが妾はその顔に親近感を覚え、同時に罪悪感も感じた。

「覚えていないのも無理はありませんね。僕がお会いしたのはまだ一才にも満たない頃で母に連れられた時ですから」

 では、改めて自己紹介をと云った後に神殺しはにこやかに云った。

「僕はルカ・セフィーネ。冥王ハデスと女王ペルセポネの息子で貴女の甥です。以後、お見知りおきを」

直後脳裏に甦る記憶。いつだったか妾と腹違いの姉妹、コレーが人間の赤子を連れて頂の宮殿、オリュンポスへとやってきた。
ペルセポネとコレー、季節により変わる二つの名を持つ女神に他の神々は何を考えているのかと叱った。だが彼女を比護した神がいた。彼女の母、デメテルであった。
デメテルは娘に会えない季節があることも嘆いていたが娘に子供が産まれないことも嘆いていた。そんな中連れてきた人間の赤子。コレーはその赤子の母となると告げた。かくなる妾もその赤子に見惚れた。それほどまでに愛くるしかったのだ。
それからは1日も経たないうちにオリュンポス十二神はその赤子に陥落。あの父、ゼウスでさえその赤子の前では形無しだったのだ。
問題は妾達女神である。ヘラ、アテナ、アルテミス、アフロディーテ、ヘスティアの五柱の女神はその赤子を己の子とせんが為に動いた。連れ去ろうとする神、力で奪おうとする神、隠そうとする神、コレーを上回る母性で誘惑する神。様々な魔の手が伸びたがすべてコレーとデメテルの手によって阻止。またコレーから離れただけで泣き出したので女神達は諦めてしまった。
最終的には甥や孫、弟分として可愛がるという形に収まったのだが。

「そうか、あなたはルカだったか。冷たく当たってしまい申し訳ない事をした」

妾は顔の筋肉がだらしなく緩んだのを感じた。

「叔父上はご健勝か?コレーは達者か? まさか、ルカが神殺しとなっておるとはこの世は何が起こるか分からぬものだな。だがしかし、妾はルカに会えて嬉しい」

「僕も叔母上に会えて嬉しいです」

ルカの顔に陰りが見えた。

「どうやらお二方とは久しく会ってはおらぬようだな。その神殺しの力も妾が知る気配をしている。今は深くは聞かぬ。正直認めたくはないがルカが神殺しとして前にいるということはそういうことなのであろう?」

「はい、叔母上に真なるアテナになられてはたくさんの人がその天寿を全うすることなく父のもとへ招かれることとなるでしょう。それを冥界に属する僕にとっても、カンピオーネである僕としても見過ごす事はできません。どうかお願いです。ゴルゴネイオンを諦めてください」

「できぬと云ったら?」

「叔母上を倒します」

「よい、妾に歯向かう事を許す。可愛らしい甥が確たる意思を持って妾の前に立ちふさがるのだ。叔母として全力で迎えよう」

手に巨大な鎌が現れる。呼応するかのようにおびただしいかずの我が僕である梟と蛇が姿を現した。

「我が名はアテナ。参られよ、神殺しにして冥界の皇子たる我が甥よ!」

幾多の蛇と梟がルカ目掛け襲いかかる。

「立ち込める暗雲、速駆ける疾風、逆巻け、我が命じたままに!!」

ルカが聖句を告げると同時に夕凪時だった空が黒い暗雲に包まれた。直後ルカを守るように吹き荒れた暴風は竜巻となり、我が配下達を吹き飛ばした。

「真に神殺しなのだな!」

「風よ!!」

 風が動きを変えた。まるで蛇のようにうねりをあげて襲い掛かってくる。

「その権能の正体見破ったり! ルカが葬ったのは冥王ハデスの配下にして虹の女神の姉妹である風の四姉妹」

それを軽々と避けてルカへと斬りかかる。

「アロエー、オーキュペテー、ケライノー、ポタルゲー! かの四姉妹が後に古の怪物と呼ばれるつむじ風と竜巻を司る女神であり、ルカが簒奪した権能の正体!!」

「流石博識ですね叔母上! 怪物の方の名前じゃなくてそっちの名前をだすなんて! 彼女達、すっごくマイナーなんですけど!!」


「そう誉めるでない。誉めても妾の愛情と加護と信託と接吻ぐらいしかでぬぞ?」

「結構でますね!?」

「可愛い甥を前にして出し惜しむような妾ではない。ーーそれよりも歯を食いしばれ、少し響くぞ」

ルカ目掛け降り下ろした鎌は風の壁によって阻まれた。だがすかさずルカの腹に蹴りをはなった。

「カハッ!?」

空気を吐き出すかねようにルカは妾に蹴り飛ばされた。
追撃をかけようとするがそれはるかの影から飛び出したある獣によって妨げられる。

「流石冥界の皇子! お父上が従えておるならよもやとは思ったがやはりか!!」

その獣は三つある首の一つで鎌に食らい付き己の主を守った。

「地獄の侯爵にして冥界の番人、その意、我が命に応えよ!!」

その獣の名はケルベロス。地獄の侯爵にして、冥界の番犬。冥府より出流魂に襲いかかる冥王ハデスの忠実な僕である。

「冥府に属する妾も罪人と見なしたか!!」

「ケルベロスは僕のお願いを聞いてくれてるだけです!!」

「番犬を連れ出しては叔父上が怒るのではないのか!?」

「問題ありません。了承済みです!!」

ルカの竜巻に冥界の番犬。この事からルカが格闘を得意としないのは分かった。
だが、いささか分が悪い。
全力で迎え撃つとは云った妾だが正直、可愛い甥相手に全力など出せる筈がない。
あとはルカから感じられる見覚えのありすぎる気配が妾に接近戦を躊躇させていた。
あぁ、あれほど可愛かったルカが妾に死の緊張感を味合わせてくる。コレーよ、あなたの愛し子は大きく、逞しく、そして力強く育っているぞ。

「此れほどまでに逞しく育っているとは妾は嬉しいぞ! 妾の婿にしてもいいくらいだ!!」

「あ、すみません。僕にはもう妃がいます」














なん・・・だと。








 
 

 
後書き

アテナ様絶句。
ひかりさんピンチ 
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