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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第二十四話

 教室は静まりかえった……。
 佐藤先生は大きく息を吸い込むと話し始める。

「立入禁止になっている廃校舎の事はみんな知っているだろう? 実は昨日の晩、正確には夕方なんだがあそこで火災が発生した。うん、知ってる人もいるかもしれない。いや……まあ朝からあんな状況じゃ知らない方が無理かも知れないけど……、な。放課後だったけどそれほど遅い時間じゃなかったから誰かが気付いてもおかしくなかったんだけど、不思議なことに発見者は誰もいなかった。火災報知器も鳴らなかったらしい」
 そう言って、今度はため息をつく。
 
 誰も言葉には出さないけど、気付いてはいるはず。
 夕方なら生徒達もまだ学校にたくさんいたし、先生だって残っていた。火事が起きて気付かないはずがないんだ。確かに廃校舎ということから、他の校舎から離れた林の中にあるけど、火事になれば煙が上がるし、夜になれば炎が見えない訳がない。そして学校のエリア内にあるから各種警備システムにカヴァーされているから、システムが火災という警報を鳴らさないはずがないんだよ。
 でも人の眼人の耳、機械の眼・耳は寄生根の封絶という施術により完全に目を逸らさせられていたんだ。だから誰も知らない、システムにも記録が残っていないということなんだろう。

「消防の人の話だと、校舎3階の教室の一つがめちゃめちゃになり、1階の教室の一部が爆発したように窓が吹き飛ばされていた。それはかなり酷いモノだったそうだ」
 教室の端から端へと視線を送り、再び佐藤教員が語る。
「そして、……。みんな心して聞いてくれ。
 クラスの日向寧々さんが、焼け跡から発見された。残念ながら変わり果てた姿で発見されたんだ」

 悲鳴が教室に響く。女子生徒の誰かが悲鳴を上げたんだろう。続けてすすり泣くような声。

「そして、さらに悲しい事だが、クラスは違うが同じ学年の如月流星君も違う場所で遺体で発見されている」
 先生の語った事実が教室の生徒達の心を貫く。
 まずは衝撃が貫き、遅れて疑問と悲しみが襲ってくるんだ。
 先ほどの悲鳴に続いて疑問の声を上げる者、泣き出す者。悲しみは伝播し、教室中にすすり泣く声が響いた。

「ウソ、どうして? 」

「なんで寧々ちゃんが死んじゃうの? そんなの信じられない。先生、ウソだと言って下さい」

「どうして日向があんなところにいたんだ」

「ありえねー何でなんだよ」

 様々な疑問がを口々に生徒が言う。

「詳細は先生にもよくわかっていないんだ。私が知っている事はすべて話した。それ以上は本当に知らないし、わからないんだ。現在、警察と消防で詳細については調査中とのことです。皆さん落ち着いて下さい。……それと事務連絡です。皆さんショックでしょうけど事実は事実として受け止めて下さい。今後、警察や消防の人が学校内を調査のために行き来します。また皆さんに話を聞きたいと言ってくるかも知れません。その場合は、知っていることを包み隠さず正直に話してくれるようお願いします。これは校長よりの指示であることも伝えておきます。先生が新たに情報を入手したらすぐに皆さんとご家族の方にはお伝えします。……以上です」
 そういって話を打ち切った。

 佐藤先生も実際の所、すべて真実を知らされてはいないんだろう。
 あとは、ごくごく事務的な話が少しあっただけでだった。一つだけ明確に指示されたこと、それは《廃校舎には絶対に近づかないこと》だった。

 休み時間になると、クラスの話題は廃校舎の火事、いや事件の話で持ちきりだった。……火事というよりは、日向寧々と如月流星の死因についてだったけど。
 俺は席を立ち教室の外へと出た。
 女の子達が悲しむ姿や、無遠慮に寧々と如月の関係についてあれこれと話題にしているのを見たくも聞きたくも無かったからだ。
 俺が無力だったせいで日向寧々を死なせてしまった。その事実が俺を苦しめる。
 昨日まではすぐそばにあったものの不存在。その喪失感。
 ただ、悲しい。

「柊君……」
 背後から声をかけられた。
 そこには紫音が立っていた。

「ちょっといい? 」
 そういうとさっさと歩き始める。俺は仕方なく彼女の後をついて行った。
 屋上までの階段を上がる間、会話はなかった。

 屋上には誰もいなかった。

「日向さんが亡くなったのはとても悲しいことだわ。そして、柊君にとっては私が思っている以上に辛いことだと思う。とても仲が良かったもんね。でも……」

「でも、何だい? 」

「よくはわかないんだけど、柊君は何か他にも原因があってより辛そうにしているように見えたから」
 ズバリと言い当てられている。俺は悟られないように、動揺を押し隠したけど果たして?
「クラスメートが死んだんだから、落ち込まないわけないよ」

「そうね。友達が亡くなったらショックを受けるのは当たり前だもんね。ほとんど話したことのない私だって、凄いショックだもん。……でも、柊君からはそれ以上の苦しみ悲しみが見えてくるの。私の気のせいかもしれないけど、小さいときからずっと一緒だったからあなたのことは他の誰よりわかっているつもり」

 やはり付き合いが長い分、俺のことをよく知ってる。何が原因かはわからないだろうけど、俺の感情をなんとなく理解してしまっているんだ。
俺は思わず今の俺の置かれた状況を紫音に打ち明けてしまいそうになる。
 でもそれはできないんだ。彼女まで巻き込んでしまうわけにはいかないから。

「……日向は漆多とつきあい始めたばかりだったんだ。いきなり彼女を失ってしまったあいつのことを思うとなんだかどうしようもない気持ちになるんだよ。あいつになんて声をかけたらいいのかって。おまけにさっきの先生の話じゃ、あいつにとってとても耐えられない噂が出ているみたいだし」

 言ったことに偽りは無いけど、本心じゃない。俺は幼馴染の紫音にも気持ちを偽っている……。
 少し上目遣いに俺を見る紫音。
「そう。そうね、確かに。友達の事を思うと辛くなるわね。……漆多君はもっと辛い立場にあるんだものね。彼を慰めてあげられるのは多分、あなたしかいないと思う。でも無理をしないでね。柊君はいつも無理して無理を重ねてパンクしちゃうんだから。自分だけで抱え込まないで、何かあったら私に相談してね。柊君は一人じゃないんだからね」

「ああ、ありがとう。うん、何かあったら紫音に相談するよ」

 紫音は俺が何かを知っていて隠していることをなんとなく感づいているみたいだ。でもそのことについては聞いては来なかった。あえて聞かなかったんだ。それを聞いたら俺が返事に困ってしまうのがわかったから聞かなかったんだ。
 いつも俺のことを気にかけてくれてたから、今回もそうなんだろうな。少し安心する。
 紫音はいつでも俺の見方になってくれたんだよな。
「柊君、絶対の約束だよ。困ったら私に相談して。私がなんとかするから」
 そういって微笑むと彼女は階段を下りていった。

 
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