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真田十勇士

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巻ノ八 三好伊佐入道その八

「本人次第か」
「わし等がどう言っても」
「さて、ではな」
「どうしたものか」 
 根津と望月も難しい顔になっていた。
「ここは会うべきだが」
「強く言っても仕方ないのう」
「無理強いしてもな」
 海野は伊佐を無理に家臣にしてもと言った。
「忠義なぞ持てぬしな」
「殿、拙僧からも弟に話しますが」
 清海は幸村に話した。
「しかし」
「それでもじゃな」
「殿も無理には言われませぬな」
「そのつもりはない」
 幸村は清海にすぐに答えた。
「そうしたことをしてもな」
「忠義はありませぬな」
「人の心は他の者がどうこうしてもどうしようもない」
 これが幸村の考えだ、人は無理強いをしても心からどうこう出来るものではないという考えなのである。
「その者の心を見せてな」
「心と心ですな」
「それでその者の心を得るのじゃ」
「それで伊佐もですな」
「御主の弟殿次第じゃ」
 その伊佐がどうするかというのだ。
「山を出て拙者の家臣になってくれるならよし」
「まだ山に残ると言えば」
「それまでじゃ」
「左様ですか」
「しかしまずは会おう」
 そこからだというのだ。
「そこから決まる」
「伊佐は寺の裏の滝のところにおります」
 僧侶が幸村に話した。
「そこで滝に打たれております」
「ううむ、相変わらず修行に精を出しておるのう」
 清海は弟の修行のことを聞いて唸った。
「流石じゃ」
「伊佐はいつも誰よりも早く起き修行と学問に励んでおります」
 その通りだとだ、僧侶も話す。
「至って真面目で穏やかな者です」
「そこも変わらんのう」
「座禅もよくしております、そして今は」
 滝に打たれているというのだ。
「ではそちらに行かれますな」
「はい」
 幸村は僧侶に心地よいまでにはっきりした声で答えた。
「そうさせてもらいます」
「さすれば」
 僧侶は自ら案内を申し出てだった。
 実際に一行をその滝のところまで案内した、すると。 
 清海程ではないが大柄で逞しい身体をした僧侶が褌だけになって激しい勢いの滝に打たれつつ手を合わせて瞑目していた。若く穏やかな顔立ちをしていてだった。眉と口元は清海に似てしっかりとしたものである。
 その彼を見てだ、清海は幸村に言った。
「あの者がです」
「御主の弟殿じゃな」
「伊佐です」
 まさにその彼だというのだ。
「普段から修行に明け暮れていまして」
「今もあの様にじゃな」
「こちらの方が申された通りです」
 案内をしてくれた僧侶を見つつの言葉だ。
「まさに」
「そうなのじゃな」
「はい、それでは今から」
「伊佐、よいか」
 ここでだ、僧侶は幸村達の話を聞いてだった。
 そのうえでだ、その滝に打たれている僧侶に声をかけたのだった。
「御主に会いたいという方が来られている」
「拙僧に。おや兄上」
 僧侶は目を開いてすぐに自分の視界に清海がいるのを見て言った。
 そしてだ、滝から出て身体を拭いて僧衣を着てだった。あらためて清海に言ったのだった。 
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