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龍が如く‐未来想う者たち‐

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秋山 駿
第一章 崩壊する生活
  第六話 力の差


秋山の言葉に、そこにいる殆どの人が困惑した。
中でも1番驚いていたのは、喜瀬組の組員だった。
谷村は眉間にしわを寄せて、黙ったまま何かを考え込んでいる。

対する喜瀬は一切答えを言わないが、にんまりと笑うあの反応は間違いない。
桐生一馬は、生きている。

だがそれだと、何故田宮が殺されたのか。
どうして、桐生の死の報道がされたのか。
知れば知るほど、さらに謎が露わになっていく。
しかし今は、それどころじゃない。
澤村遥は、目の前の建物にいるのだ。


「喜瀬ぇぇっ!!」


秋山は声を荒げ、喜瀬に殴りかかった。
だが喜瀬にそれが通じる訳もなく、片手でそれを受け止められる。
体格差があり簡単に通用するとは思えなかったが、ここで引くわけにはいかなかった。


「悪いけど、通してもらうよ。」
「ほぅ、極道相手にそんな事できるのか?」
「やるしかねぇだろっ!!」


掴まれた手を軸に回転し、にたついた顔めがけて蹴りを入れようとした。
寸前の所で避けられたが、さっきまで余裕そうに笑っていた喜瀬の表情が少し曇る。

掴まれた手が解放され勢いよく飛び退くと、すぐに息を整えようと深呼吸する。
ひと呼吸置いてふと隣を見ると、臨戦態勢を取る谷村の姿がそこにあった。


「え?ちょっと谷村さん、何をしてるんです?」
「秋山さんを止めたって無駄でしょう。それならヤクザにボコられないように、俺が手を貸しますよ」
「さすが警察」
「俺は秋山さんほど、命知らずなバカじゃありませんよ」


拳を並べる2人を見た喜瀬は、再び高笑いをあげた。


「はっはっはっ!!面白いぞ!!まとめて捻りつぶしてやる」
「それじゃあ、遠慮なくいくぞ!!」


話し終えると同時に走り出し、喜瀬の足めがけて水平蹴りを入れる。
谷村はその後から走り出し、避けようと飛び上がった喜瀬の懐に潜り込んだ。
だが谷村の拳を出す前に、喜瀬の拳が顔面に飛びかかる。

しかし、そんなものだけでは怯まない。
両手を使い拳を受け流した谷村は、右膝をみぞおちに1発お見舞いした。
その隙に秋山は、先程外した顔面に蹴りを直撃させる。

だけど、喜瀬は笑っていた。
無邪気な子供の様な、恐ろしい笑みをうかべて。
その姿に、思わず鳥肌が立つ。


「軽いな、軽すぎる」
「秋山さん、全然効いてないみたいっすよ」
「硬すぎるよコイツ!!」


恐怖に震える秋山の胸ぐらが掴まれ、一気に側まで引き寄せられる。
目の前には喜瀬の笑顔、頭ではマズイ事態だと分かっていても体が一切動かない。


「まずは、お前からだ」
「秋山さん!!」


思い切り振りかぶった拳は、秋山の顔面に振りおろされた。
目の前が一瞬で真っ暗になり、次に見えたのは自分の口から吐き出された鮮血。
赤く染まる視界に何とか喜瀬を捉えるも、その姿は醜く歪む。
耳鳴りが止まない、谷村は何か叫んでいるのだろうか。
そんな中喜瀬は、無慈悲に拳を振り上げていた。


「ちぃっ!!」


間に割り込んだ谷村が攻撃を受け流そうと、その拳を受け止める。
しかし拳は想定外の重みを持ち、受け流そうと出した腕はおろかその体ごと後ろへと吹き飛ばされた。
それと同時に秋山も、膝から崩れ落ちる。
圧倒的な、力の差。
飛ばされた後すぐに起き上がった谷村の口から、「化け物かよ」という言葉が漏れる。

何とかなるなんて甘かった。
軽率な考えに、谷村まで巻き込んで。
秋山は何とか体を動かし、喜瀬を睨む。
だが上手く動かせない体に腹が立ち、拳を地面に打ちつけた。

遥は目の前、神室町ヒルズにいる事はわかっている。
しかし伸ばされた手が、遥に届かない。
目の前にそびえ立つ獣のような闘争本能を持つ喜瀬は、恍惚の表情を浮かべ2人を見下していた。
周りにいた喜瀬の組員も、怯えた表情で震えている。


「何をしてるっ!!」


怒号のような、誰かの声が突然飛んでくる。
ガラリと、空気が変わった気がした。
声のした方に視線を移すと、そこに立っていたのはスーツの男。


……大吾だった。


「喜瀬、こんな所にいたのか」
「6代目、お疲れ様です」
「何をしている。とっくに、合流時間過ぎているぞ」
「ちょっと遊んでただけじゃないですか、6代目も堅いなぁ」


さっきまでの喜瀬の覇気はどこかに消え、あっけらかんとした顔に戻っている。
喜瀬が2人から離れると、入れ違いで大吾が近付いてくる。


「夜、ミレニアムタワー屋上でお待ちしております」


そう秋山に告げ、そのまま喜瀬と共に去っていった。
去っていく背中が見えなくなるまで見届けた後、谷村の肩を借りボロボロの身のままスカイファイナンスへと戻る。 
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