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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第八十三話

 先日、あのガンゲイル・オンラインの最強プレイヤー決定戦、バレット・オブ・バレッツ――こと《BoB》の予選が終了し、決勝戦を遂に当日に迎えた日曜日。予選の各ブロックの準優勝者まで決勝戦には進めるということで、予選ではリーベに敗北した自分も、何とか決勝戦には出場は出来る。キリトにシノンも揃って決勝戦に駒を進めたらしく、あとは《死銃》を見つけるのみ……リーベに、恐らくはあの灰マントの男とも、決勝戦で決着をつけることになる。

 開始は20時。それまで特に用事もなく、鍛錬かキリトと連絡や相談、一足早くGGOにログインしての下準備、リーベやあの灰マントを探す――など、用事がないならないなりに様々なすることがあるのだが、それらの予定は一瞬にして全てキャンセルされた。

『あ、もしもし翔希? 今日さ、ちょっと会える? バイトもあるだろうから、10時くらいにどっか喫茶店でさ!』

 ――という里香からの留守電が、知らない間に表示されていたために。

「翔希! こっちこっち――」

 まだまだ寒い日が続く中、急ぎ防寒具を準備して身だしなみを整えた後、待ち合わせ時間の五分前に到着する。大型のショッピングモールの一角にある喫茶店、そこにはやはり既に里香がいて、こちらに向かって手を振ってくる……が。ふと、俺の顔を見て少し動きを止める。

「……どうした?」

「う、ううん。何でもない。それより、行きましょ!」

 そう言いながら、里香は俺の手を握って走りだす。少なくない人を器用にもかき分けながら、こちらに笑いかけてどこかに向かっていく。

「お、おい? 喫茶店で話があるんじゃなかったのか?」

「それはあと! どっか遊びに行きましょ!」

「分かったから走るの止めろって……!」

 心臓に悪いというか危ないというか。里香はちょっと不満げな表情をしながらも、俺の言葉に従って走るのを止めると、代わりに俺の後ろに移動していく。右手は繋いだまま、先程とは逆に、俺が里香をエスコートしているような状態となる……見た目だけは。

「エスコートは男の子の仕事よね?」

「はいはい。じゃあ……」

 早くも完全に里香のペースだが……まあ、たまにはこういうのも悪くない……たまには、というよりは、普段からこんな調子な気がしないでもないけれど。つい癖で髪の毛をクシャクシャにしながら、見上げてくる彼女の期待に応えるために、ショッピングモールを見渡していく。

「確か……階段の上にゲームセンターがあったっけ?」

 キリトが好きそうな、VRゲーム以前のレトロゲームが集まったゲームセンター。以前何回か里香と対戦してみたことがあるが、反射神経のみを競うようなものでなければ、大体が俺の連戦連敗だった。モグラ叩きのみなら俺の全勝なのだが、女子に得意分野に入るモグラ叩きで勝ったところで、誇るどころかかなり空しい。

「ふっふーん。まぁた連敗記録伸ばしたいの?」

「言ってろ、今日は勝つ」

 そんな根拠のない自信を漲らせながら、里香とともに階段を上っていくと、記憶通りに寂れたゲームセンターがある。自動ドアを開けるとともに慣れない音が解き放たれ、少々うるさいと思ってしまうが、ここはそういう場所なのだから、と我慢する。

「まずは何で翔希をボコボコにしようかしら~……って、何かしらアレ」

「ん?」

 何やら物騒なことを言っている里香の視線を追ってみると、確かに見慣れない物がゲームセンターの中に鎮座していた。大型の箱型の機械のようで、一つだけ中に入るためであろう入り口がある。少なくともレトロゲームではないその外見に興味を惹かれ、俺と里香はその箱型の機械へと向かっていく。

「《Dead and Dead》……?」

 そのゲームの名前か、少し人が並んでいる筐体には、そんな物騒な名前がデカデカと掲示されていた。

「あ、雑誌で見たことあるわよ、これ! 確か……完全現実、とかいう」

「へぇ……」

 完全現実。様々な意味で自分たちに縁がある、あの仮想世界とは違うゲームなのだろうか。それ以上の情報は里香も知らないらしく、結局興味を惹かれた俺たちは、これも何かの縁だと行列に並ぶことにした。休日とはいえ時間もまだ早く、行列とはいえあまり人の数は多くない。……並んでいる人間に、男女二人組が多いのは気になるところであるが。

「んー……今調べ直してもいいんだけど。ま、事前情報なし、ってのも悪くないでしょ」

 里香がそう宣言しながらスマホをしまい込み、ワクワクした表情で順番を今か今かと待っていた。……この行列に待たされている間に、今日はどうしたのか聞くつもりだったが――その楽しそうな表情に免じて、今はやめておく。

「そういえば、ALOの方はどうだ?」

 代わりにふと思いついたのが、やはり俺とキリトがいなくなったALOのこと。いなくなった、とはいっても数日間のことで、それをわざわざ聞くとなると……なんだか自意識過剰なようだが。主に里香と行く約束があったにもかかわらず、今回の死銃事件を優先してすっぽかした、新しいクエストのことは気になっていた。

「ああ、新しいクエストなら珪子に直葉と行ってきたわよ? 誰かさんが約束すっぽかしてくれましたからねー」

「うっ……」

 ジトー、という擬音が相応しいような目線に、俺はたまらず目を背ける。その間に里香は悠々とスマホを取り出すと、俺と違って慣れた手つきでスマホを操作していた。

「でも、そのクエストで新しい友達が出来たの。はいこれ、スクショ」

 《アミュスフィア》から撮った写真をスマホに移していたらしく、里香が嬉しそうにスマホをこちらに見せてくる。それを屈んでのぞき込むと、そこには――

「……ボロボロだな、服」

 服……というより、防具自体の耐久度を下げる攻撃でも連続で喰らったのか、服がボロボロな三人組がそこにはいた。リズもリーファもシリカも、特に街とクエストで着る服を替えたりしないタイプなので、これでは日常生活も不便だろうと邪推してしまう。

「そこじゃないわよ! 変なとこ見ないの!」

「いや、だってこれ……キリトか?」

 つい現実逃避して関係ないところに目をつけてしまったが、その写真にはありえないことに……キリトがいた。リズに無理やり写真のセンターにされているキリトは、キリト本人とは細部や装備は違うのだが、全体的なパーツがとても似ていて、何より彼の代名詞たる《二刀流》を装備していた……まあ、キリトは最近二刀流を見せてはいないのだが。キリトの変装かイメチェンといっても通りそうだが、あいにくキリトは当日GGOの方にログインしていた。

「やっぱり、ぱっと見似てるわよねぇ。《クロ》って名前で……その、SAO生還者ですって」

 ――SAO生還者。少し言い辛そうにした里香の口から、まさかの言葉が漏れでていた。……まさか自分たち以外にも、好き好んでVRMMORPGに再び関わっている者がいようとは。

「それで、キリトに憧れてそんな格好してるんですって。……ちなみに女の子よ。しかも、可愛いの!」

「女性キャラ? これでか?」

 ……最後の、いかにも重要そうな注釈は無視することにすると、そのキリトのようなアバターを見て少し驚く。それと同時にGGOでの自身の花魁のようなアバターと、キリトのいかにも女子といったアバターを思い出し、少しショックを受けるというオマケ付きで。

「うん。会った時、口調まで男っぽくしてたからビックリしちゃったわよ。中は可愛い女の子だったけど」

「中って……リアルで会ったのか?」

「会ってないけど……強いて言うなら、乙女の勘、かしらね」

 何故かドヤ顔をしてくる里香を横目にしつつ、俺は行列の進み具合を確認する。行列自体は順調に進んでいて、何も問題はないが……黒い筐体からは反響して男女の悲鳴が聞こえてきて、中で何が起こっているのか想像もつかない。

「……何かしらね、今の悲鳴」

 どうやら里香にも聞こえていたらしく、不審げにその黒い筐体を眺めていた。このゲームセンターの歓声の中、反響があるにせよここまで聞こえてくるとは、はっきり言って異常である。

「次の方、どうぞー」

 知らず知らずのうちに身構えていた俺たちは、店員のその声でハッとなるが、自分たちに向けられた声ではなかったらしい。自分たちの前に並んでいたカップルが、目の前の黒い筐体へと入っていく……すなわち、次は俺たちの番だった。

「翔希翔希! あれ見て、アレ!」

 得もしれぬ感覚に俺が戦慄していると、里香が俺の服を引っ張ってきた。何があった、と里香の方を見ると、そこには……このゲーム《Dead and Dead》の説明が記載されていた。恐らく、本来ならばこの看板で説明しているつもりが、行列で意味をなしていないのだろう。里香と共にゴクリとつばを飲み込みながら、そのゲームの説明を読み解いていく。

 ――曰わく、この改装より一階層上を丸々セットにした、完全現実ガンシューティングだという。参加者は、バイオハザードが起きた病室――という設定の階層――を、はびこるゾンビ達――もちろんAI制御のCGで作られた者――をレーザーガンで退治しながら、ボス敵を倒し病院から脱出することでクリア、というゲームだそうだ。


 ……なるほど。完全現実という触れ込みも《Dead and Dead》という物騒な名前も、それぞれ頷けるゲームだった。もっと古風に言うならば、来場者参加型お化け屋敷、か。終了後のあるお楽しみも込みで、カップルが多いのも納得だった。

「……こんな真っ昼間からホラゲーなんて聞いてないわよー……」

 ぼやく里香にこんな物騒な名前のゲームに並んでおいて今更だ、と言おうとしたが……並ぼうと言ったのはどちらだったか。もしかしたら自分かもしれないので黙っておくと、もう一つ向こうのドアから先程のカップルが飛び出してきていた。どうやら、命からがら何とか脱出出来たらしい。

「次の方、どうぞー」

 ……それからしばし、店員の指示で俺たちはその黒い筐体に入っていく。中はどうなっているのかと思っていると、案外明るい部屋がそこで俺たちを待っていた。

「ブリーフィングルーム、みたいね」

 里香の言った通り、そこはブリーフィングルーム――作戦会議室のようで、まだゾンビが現れる病院ではないらしい。俺たちが入ってくるのと同時に、ブリーフィングルームに備え付けられていたテレビに警察の男が映り、作戦会議という名のゲームの説明に入っていく。さっき黒い筐体の前で見たことと大体同じだったので、特に聞くこともなく聞き飛ばしていると、最後にテレビに映っていた警察の男が、気になることを言って電源が切られた。

『ベテラン刑事のお前が、ニュービーの可愛い子ちゃんをしっかり守ってやるんだぞ』

「多分これよ、翔希」

 ニュービーの意味は、かのALO事件の時に言われたこともあって覚えたが――しかし今でも、どうして新人のことを《ニュービー》と呼ぶのかは分からないが――はて、どういうことだろうか……と、考えていると、里香が俺の目の前の机に二つの装備を置く。ベテラン刑事装備と新人装備――なるほど、二人でこれらをロールプレイするように出来ているらしい。

「里香、ガンアクションの経験とか」

「専門外よ。作る方はともかく……ちょっと銃って中身気になるわよね……」

 ゲームの名前と同等に物騒なことを言っている里香に苦笑いしつつ、俺は率先してベテラン刑事装備を装着していく。コートの代わりにジャケットを――このジャケットをゾンビに触られるとポイントが減るそうだ――装備すると、見るからに玩具のような銃をチェックする。

「へぇ、何だか様になってるじゃない。……ガンアクション、経験あるの?」

 ――何故か里香のその質問からは、先程までとは違う『重み』が感じられた。まるであのデスゲームの中で、幾度か交わした死に対しての問答のような……

「……今のバイトが、まさにガンアクションのゲームなんだ」

 真実を語っているとはとても言えないが、嘘はついていない、我ながら卑怯で曖昧で残酷な返答。出来るだけ平静を装って出したその返答に、里香は一瞬だけ――見落としてしまいそうなほんの一瞬だけ、その表情に影を落とした。

「それなら、いーい練習になるじゃない。頼りにしてるわよ?」

 しかし、それも本当に一瞬だけ。まるで俺の気のせいだったかのように、里香は新人用の装備を着込みながら、朗らかに笑いかけてくる。ならばこちらも……気づかなかった振りをして。

「ニュービーの可愛い子をしっかり守るのが仕事だからな」

 『可愛い子』を強調しながら――本当に自分でも似合わないクサいセリフを吐くと、照れくさそうに髪の毛をクシャクシャにしつつ、失言だったと病院フロアへの入口に向かっていく。そうしていると、手に温かい感覚を感じ、里香の気配をかなり近い場所に感じた。

「不意打ち、ありがとね。……それじゃ、行きましょ!」

 こうして、ブリーフィングルームから病院フロアへの扉を開けると、遂に完全現実ガンシューティング《Dead and Dead》が幕開けとなった。まずは病院フロアに改装されている、次の階層への階段が目の前にあったが……もうゲームは始まっているんだ、とばかりに、そこから雰囲気作りは始まっていた。

「やっぱ暗いわね……」

 夜の学校と並び、人間の恐怖という根源的な感覚にダイレクトに攻撃してくる、廃墟となった病院という環境。流石に俺も里香も虚勢は張っているものの恐ろしく、どうしてもその歩幅は小さくなってしまう。そんな人間の恐怖に誘われるように、その化け物たちはそれを餌としようと向かってくる。

『ウゥゥゥ――――』

 それらしい雄叫びをあげながら、物陰からゆっくりとゾンビが一体現れる。ゾンビらしくその動作は緩慢で、これならば自分でも当てられる――と、銃を構えたところで。

「そこ!」

 今までベテラン刑事の後ろに隠れていた新人が、ゾンビを見るなりすぐさまその銃を構え、ゾンビにヘッドショットをかましてみせた。頭部を一撃で撃ち抜かれたゾンビは、その緩慢な動作を止めてピクリとも動かなくなる。

「…………」

「ふぅ……どうしたの翔希?」

「いや……何でもない」

 西部劇のように、銃の銃口に息を吹きかけている里香に――もちろん煙などでていないので、特に意味はないが――何とも言えない感情を抱いていると、そんな俺の妙な視線に感づいたのか、里香はこちらに向けてニヤリと笑っていた。……彼女が可能な限り出来るだけあくどい感じで。

「なぁに? もしかして、女の子には背中でガクガク震えて貰ってた方が良かった?」

 ……そんなことを言っている里香の背後から、ゆっくりとゾンビが歩いてきていた。器用にも足音を消しているからか、里香はそのゾンビに気づいている様子はなく、楽しげな様子でこちらを追求してくる。

「お生憎様。ま、こういうところで可愛いらしい悲鳴を聞きたいなら、明日奈の方が適に……なに? 後ろ? ってキャァァァァッ!」

 さらにとつとつと語っている里香に対し、何も言わず静かに彼女の背後を指さすと、振り向いた瞬間に目の前にいたゾンビに可愛らしい悲鳴をあげてくれる。……とはいえ、流石に目の前で襲われるというのは目覚めが悪いので、接近するゾンビに向かって素早くレーザーガンを放つ……と。

「……外した」

「どぉうやったらこんの距離で外すのよぉ!」

 里香の悲鳴交じりの文句にせっつかれて、ベテラン刑事装備役のレーザーガンは素早くエネルギーの再装填を完了すると、今度はさらに接近していたおかげでようやく当たる。そのままレーザーガンを連射すると、何とか里香に食らいつく前にゾンビは倒れ伏した。

「大丈夫か、里香」

 腰を抜かしたのか、へたり込んでいた里香に手を貸して立たせようとすると、下から物凄く睨まれた。涙目になりながらこちらを見る里香の唇がもごもごと動いており、どんな罵倒な言葉を俺にぶつけようか、唇自体が思案しているように感じられた。

「……バカ」

 たっぷりと時間をかけて里香が絞り出した言葉は、そんなだった一言。里香にそっぽを向かれながらも、こちらの手をしっかりと握り返してきたのを確認すると、思いっきり引っ張って無理やり立たせた。

「……あんた、ぜっっったい来てたの気づいたでしょ!?」

 そっぽを向いた瞬間に素早く目をゴシゴシと擦り、里香から恨めしい視線がこちらに向けられる。今度はこちらがそっぽを向きたいところだったが、そうもいかない雰囲気と威圧感が彼女からは発せられていた。……何やら、オーラのようなものまで感じられる。

「悪い悪い、つい、ほら……な」


「な、じゃ、な、い!」

 残念ながら弁解は意味をなさないらしい。里香はさらに俺への追求を進めていくが、その頬の赤みから、照れ隠しかと思えば可愛いものだ。そんなようなことを考えながら里香の話をスルーしていると、どうやら聞いていないことに気づかれたらしく、里香が放っているオーラがさらに強くなっていく。

「あーんーたー……」

 ――とりあえず怒り心頭の里香に、どうやってゾンビに囲まれていることを知らせるか、というのが急務だろうか。それとも、里香の発するオーラに耐えられないのか、俺たちに攻撃してこないゾンビたちに礼を言うのが先だろうか……?


「……酷い目にあったわね……」

「ああ……」

 そんなこんなでゾンビの群れから命からがら逃げだし、なんだかんだでボスを撃ち倒して病院から脱出した俺たちは、再びブリーフィングルームに戻ってきていた。音に誘われておびき寄せられたゾンビに囲まれたり、ついついCGだということを忘れて蹴りを入れようとしてしまったり、色々あったが何とかクリアできたらしい。……もちろん、クリアした時のポイントは散々だったが。

「で、これが結果か」

 ブリーフィングルームでジャケットやレーザーガンを脱いでいくと、俺たちの前に二枚の紙がテレビ画面から排出された。その紙に記されているのは、このゲームのクリアポイントと、その二人組の相性を点数としたものと、プレイヤーの性格診断……だ、そうだ。全くもって余計なお世話だったが、カップルが多かったのはこういう理由か。

「ほら」

「ん。ありがと」

 里香の性格診断が書かれた紙を彼女に渡し、もちろん自分の分はこちらに持ってくる。確かに余計なお世話以上の何者でもないのだが、里香との……彼女との相性と言われて、気にならないと言えば嘘になる。まず視界に映ったのは、先程までテレビにも映っていた、見る影もない壊滅的なクリア時の評価ポイント。

 そして次に、ゲームを通して集計した相性を数値化した、という数値が――

「「……72点……」」

 ――残念そうな感じの声色のセリフが、俺と里香が一字一句同じように重なった。もちろん百点満点中の計算なのだが、低いわけではないのだが高いわけでもない、要するに絶妙に微妙な数値が表示されていた。

「微妙だな……」

「微妙ね……」

 ……顔を見合わせてその微妙な点数を確かめ合うが、やはり72点のまま変わらない。どことなく不満が残らないわけでもないが、これ以上何かに文句を言っていても仕方がない。……いや、ゲーム内では喧嘩して逃げていただけなので、むしろ高い点数なのだろうか、これは。

 ……それはともかく。その紙に書いてある三つ目の事項、ゲームでの行動からの性格診断。血液型性格診断と同じくらいの信用度だが、とりあえず読んでみると――

「……リズはどんな性格だって?」

「えーっと……あ、とりあえず出なきゃ!」

 同様に自身の性格診断を苦い顔で眺めていた里香にも聞いてみるが、自分たちの後にもまだまだ長い行列がいたにもかかわらず、このブリーフィングルームに長居をしすぎた。里香の言葉でそれに気づくと、黒いゲーム機から早足で出ていく。入れ替わりで店員が中に入っていき、設備の点検などをするようだ――というのを横目に眺めながら、俺たちはゲームセンターの喧騒に戻ってきた。

「次はどうする?」

「いやー、ちょっと疲れちゃったわね……喫茶店に戻らない?」

 ――その里香の提案に、そういえば里香から話がある……と言われて、呼び出されていたことを思いだす。

「……そうだな。ちょっと疲れ――ってどうした?」

「あ……ううん、何でもない。あのゲームにさ、同い年くらいの女の子が、一人で入って行ったように見えてさ」

 ゲームセンターの出口に向かいながら、里香は俺たちが今までプレイしていたゲーム――《Dead and Dead》を指差していた。あのカップル用のゲームに、里香くらいの年の女の子が入っていった、という。あまりそういったジャンルのゲームではない……というか、一人でも出来なくはないらしいが、そもそも二人用なわけだが。

「気のせいじゃないか? 先に一人入ってたとか」

「うーん……」

 それでも里香は納得いかない様子ではあったが、特にその彼女と知り合いだった、という訳でもなく。少し気にしているようだったが、結局はゲームセンターから出て行った。

 ゲームセンターのすぐ前にある階段を下りていくと、待ち合わせ場所でもあった喫茶店はすぐに到着する。そこで俺は、彼女から何を話されるのか……そう考えながら、ゲームで手に入れた紙をもう一度見返した。

『周りやパートナーをよく見ているが、自分のことを見ていない』――要約するとこんなことを。お前に何が分かるんだ、余計なお世話だ、などなど言いたくはなるが……まあ、そこそこ的を射ていた、のだろうか……

 
 

 
後書き
ガンアクション(カット)

 今回二人が行ったゲームセンターは、SAOのアニメが始まる前にあったドラマCD、《キリトの受難》のシノンパートであったゲームです。この話でGGOの本戦にまで行く予定だったのですが、何か書いてるうちにはてさて。メインヒロインがDEBANに飢えてるからですかね……
 
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