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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第134話 真実へ……

 
前書き

 

 

 静けさを取り戻したシルフとケットシーの会談場。

 そこで、今回の発端、その元凶である者の事をリーファは伝えた。一部は憶測ではあるが、殆ど間違いない事を伝える。そして、確かめる方法も簡単だろう。

「……この手の悪党は、想定外の事態に陥れば直ぐにボロを出す。シルフとケットシーの会談が終了し、同盟となれば……」
「ああ。そうだな。アイツはポーカーフェイスって訳じゃなさそうだった」

 ドラゴがそう言うとキリトは同意していた。ドラゴ自身は、あの男……シグルドに会ってはいないが話を聞く限りでは、大体推察が出来たのだ。

「……その通り、だな。成る程」

 両腕を組み、サクヤは眉を小さく細めながら頷いた。

「ま、あたしはここ最近は特にあのキザっぽいバカを見るのも嫌だったし? 別に驚きゃしないでしょ? サクヤ」
「……リタの言う通りだ。ここ何ヶ月かは、シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいるのは私も感じていた。……だが、独裁者と見られるのを恐れ、合議制にこだわるあまり、彼を要職に置き続けてしまったんだ……」
「やーサクヤちゃんは人気者だからネー。辛いところだヨねー」

 うんうんと頷いているケットシー領主のアリシャ。……因みに彼女はサクヤ以上の単独長期政権を維持している。ここから判るとおり、完全に自分のことを棚に上げて頷いているのだ。

「でも、なんで? 苛立ち……?」

 リーファはその心理が判らなかった。……リーファが判らないのは仕方がない。彼女は、ただ……自分の翅でどこまでも、高く……高く……飛んでいきたい。それが彼女のこの世界での最大の欲求だったから。

「……アイツの求めてるものが、アンタとはまるで違うのよ。リーファ」

 心底くだらなさそうに、言うリタ。リタの欲求は、知識欲だ。魔道と言う未知の知識を知りたい、解き明かしたい、使いこなしたいと言うものだった。そして、彼女はそう言うシグルドの様な人間を現実世界でも見てきているからこそ、直ぐに悟ることができたのだ。

「……彼には許せなかったのだろうな。戦力的にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況が」

 サクヤも静かに口を開いた。この場の誰よりもシグルドと言う人物と近く接していたからこそ、その言葉には説得力もある。

「シグルドは、パワー志向の男だからな。キャラクターの数知的能力だけではなく、プレイヤーとしての権力をも深く求めていた……。ゆえに、サラマンダーがグランド。クエストを達成して、アルヴヘイムの空を支配し、己はそれを地上から見上げるという未来図は許せなかったのだろう」

 心情的には納得出来ないその志向だが、別に不思議ではないし、強ち誤りでもない。歴史が物語っているものだから。誰かの上にたちたい、それが他者を、仲間を陥れるものであったとしても、凡ゆる手段を厭わない。……支配欲と言う欲求は、大なり小なりではあるが、人間の用いる物だから。

「で、でも。だからって、なんでサラマンダーのスパイなんか……?」
「もうすぐ導入される《アップデート5.0》の話を聞いてるか?ついに《転生システム》が実装されると言う噂があるんだ」
「あ……じゃあ……」
「……成る程ね。餌付けされた。って事でしょうね」

 リーファは理解したようだ。そして、シグルドの背後にいたものを、推察した。

「モーティマーに乗せられたんだろうな。状況から考えるに、転生と言うものは気軽に出来るものではない。恐らくは、膨大な金が必要なのだろう。……冷酷なモーティマーが約束を履行したかどうかは怪しいところだがな」
「………」

 リーファは複雑な心境でこの世界の空を眺めた。アルフに生まれ変わって、いつまでもこの空を飛んでいたい。それは、リーファの夢でもあったのだ。その後押しもあったからこそ、条件付きでとは言え、シグルドのパーティにも入り、稼ぎ、上納してきた。……仮に、仮に今回の様な事態が、キリトやドラゴが現れなくて、今だシグルドのパーティに所属していたとしたら?

 彼が言っていた『後悔するぞ』という言葉の真意。

 それは、恐らくリーファを転生に誘おうとしたんだろう。

 もし、そうなったとしたら……? そこまで考えていた時、リーファの頭に軽い衝撃が走った。

「アンタがそんな事をするわけないでしょ。バカね」

 その衝撃の正体は、リタ。彼女が、その頭を軽く叩いたのだった。幾らゲームでとは言え、この世界は現実に限りなく誓い仮想世界だ。仲間を裏切り、信頼している者を死に追いやり、貶める。そんな人道に外れた事をする様な彼女ではない。とリタは言いたかった様だ。

「あ、ありがとね」
「……ふん、調子が狂うのよ。そんな顔されたら」

 リタは、ふいっと顔を背けた。その彼女を見てサクヤも笑う。……以前より、ずっと距離が近くなった、と強く感じ、嬉しくも思っていた。

「それにしても」

 ここまで黙って聞いていたキリトが口を開く。

「プレイヤーの欲を試す陰険なゲームなんだな? ALOって。パッケージに騙されたぜ」

 そう言い、苦笑いした。

「デザイナーは、嫌な性格してるに違いないぜ。絶対」
「ふふ……、全くだ」

 サクヤも笑みで応じた。皆が苦笑いをする最中、1人だけは反応が違う。

「……欲を試す、か」

 じっと……深く表情を沈めながら考える。

「……言い得て妙。って事か? あれが本当なのだとしたら」

 嫌悪感さえも覚える。あの情報……と言ってもただのシステム上に示された文であり、虫食い状態にもなっていた。その証拠を得たわけでも見たわけでもないから、一概には言えない。……が、彼には深い深い因縁がある。

 その根は……限りなく深い。


「ドラゴさん……?」

 そんな時。皆が軽く笑っていた時、1人だけ感情が違うと、敏感に反応したのはユイだった。今では、プライベート・ピクシーとしての彼女だが、元々は、メンタル・カウンセリングが本職だった。それ故に、イチ早く気がついた様だ。ユイは、キリトの肩にのっていたが、その小さな翅を広げて飛び、ドラゴの肩にのる。

「どうか、したのですか?」
「……ん? 何がだ?」
「その……、何だか怖い顔、してました」
「っ……」

 ドラゴは、自分としてはそこまで顔に出した覚えが無いと思っていたが、どうやら、この少女……ユイには見透かされていた様で驚いていた。だが、直ぐに笑みを見せると。

「悪い……。怒ってるわけじゃないよ。……が、あまり良い話じゃないだろ? 今回の事。だから、少し不快に思っていた様だ」
「そうですか……」

 ユイは心配した表情をしていたが……、笑ったドラゴを見て一先ず安心したように、笑みを返した。それだけではない、と正直思っていたが、ドラゴは柔らかい笑みを出して、ユイの頭を軽く撫でてくれている。その感触は、あの世界。キリトやアスナ、……そして レイナ、リュウキにしてもらった抱擁に近い程、安心出来るし心地よい。
 だから、ユイも笑顔になったのだった。








~シルフ領スイルベーン~


 そこはシルフの領主館。
 通常であれば、領主が座るべき場所に、ある男が座っていた。まるで、我が物の様に脚を組み、ワインを片手に翡翠の机の上に乗せていた。その顔には、笑みさえも見える。
 丁度、グラス内のワインも少なくなってきたその時だった。

『シグルド』

 突如、声が聞こえてきた。その声に反応した男……、シグルドは、まるでバネ仕掛けの如く飛び起き、突如、目の前に設置された鏡の中に視線を移動させる。

 闇魔法の1つである通信魔法の《月光鏡》だ。

 そこにいたのは、凛と佇まう1人の女性。よく知っている人物。

「サ……サクヤ……っ!?」

 まるで、幽霊でも見たかのような表情をしたシグルドを見て、サクヤは優雅に軽く微笑むと。

「ああ、そうだ。……残念ながらまだ生きている」

 サクヤは、淡々と応えた。《残念》という部分を強調して。そう、彼女は全てを知ったのだ。今回のシルフ・ケットシーの会談における襲撃事件の真相を。真の黒幕を。

「なぜ……、いや、か、会談は……?」

『有り得ない』
 その顔からそう言っている様に見える、そう思っている事を読み取る事などは造作もなかった。それ程まで、あからさまに動揺しているのだから。

「無事に終わりそうだ。条約の調印はこれからだがな。……そうそう、予期せぬ来客があったぞ」
「き、客……?」
「ユージーン将軍が君に宜しくと言っていた。……エスに宜しくとな」
「なっ……!?」

 シグルドは今日一番の驚愕に見舞われていたようだった。剛毅に整った顔がみるみる内に、蒼白になる。言葉を探すかのように瞳をキョロキョロと動かし――、そして、その視線の先にいた人物に目を向ける。リーファ、そしてキリト、リタだ。

 そして、キリトの隣にいたドラゴも見た。

 なぜ、リーファとキリトの2人とリタがいるのか、そして あの男の事はよくわからないが、自身の計画を崩したのは、こいつらだ、と直感的に理解したようだ。

「リ……」

 状況を理解すると同時に、鼻筋にシワを寄せ、猛々しく歯を剥き出す。

「……無能なトカゲどもめ……。で……? どうする気だ、サクヤ? 懲罰金か? 執政部から追い出すか? だがな、軍務を預かるオレが居なければお前の政権だって……」

 今回の一件の重さがそんなに軽いわけ無いのが判っていないのだろうか?シグルドは、強きの姿勢を崩さなかった。サクヤは、そんなシグルドをみても表情を全く変える事なく、言葉を続ける。

「いや、シルフでいる事が耐えられない、と言うのなら その望みを叶えてやることにした」
「な、なに……?」

 サクヤが優雅な動作で左手を降ると、領主専用の巨大なシステムメニューが出現した。無数のウインドウが階層をなし、光の六角中を作り出している。1枚のタブを引っ張り出し、素早く指を走らせる。

 そして、その数秒後。

 シグルドの眼前に青いメッセージウインドウが出現した。それに眼を走らせたシグルドが、血相を変えて立ち上がった。

「貴様ッ……! 正気か!? このオレを、このオレを追放するだと……!?」
「そうだ。レネゲイドとして、中立域を彷徨え。いずれそこにも新たな楽しみが見つかる事を祈っている」
「う、訴えるぞ! 権力の不当行使でGMに訴えてやる!!」

 最後の悪足掻き、というものだろうか。惨めなものだな、と後ろで控えていたドラゴはため息を吐いていた。その足掻きにサクヤは、動じる様子もなく。

「好きにしろ。……さらばだ、シグルド」

 最後に、指先でタブに触れた。それと同時に鏡の中から、シグルドのその姿が掻き消えた。シルフ領を追放され、アルンを除くどこかの中立都市にランダムに転送されたのだ。金色の鏡は、しばらく無人となった部屋を移していたが、やがてその表面が波打ったかと思えば、儚い金属音を立てて、砕け散った。

「……サクヤ」

 再び静寂が訪れても眉根を深く寄せたままのサクヤの心中を慮って、リーファはそっと声をかけた。サクヤは、左手を振り、システムメニューを消去すると、吐息混じりの笑みを浮かべた。

「……私の判断が間違っていたのか、正しかったのかは、次の領主投票で問われるだろう。……ともかく、礼を言うよ、リーファ、リタ。……執政部への参加を頑なに拒み続けてた君達が救援にきてくれたのはとても嬉しい。それに、アリシャ。シルフの内紛のせいで、危険にさらしてしまってすまなかったな」
「いやいや、生きてれば、結果おーらいだヨ? いーものもたっくさん見れたしネ!」

 アリシャは、今回の主役と言ってもいい、2人、云わばダブル主人公の2人を見ながらそう言った。
その呑気なケットシー領主の声に続いて、リーファも同じく口を開く。

「そう、あたしは何もしてないもの、お礼なら、この2人にどうぞ!」
「……だ、だから、あたしは、アンタの慌てる顔見に来ただけだって言ってんのに……ゴニョゴニョ」

 リーファは、2人の方を指差して笑顔で言う反面、リタはそっぽ向きながらなにやらブツブツと、言っていた。そんなリタを見てからかいたい衝動に苛まれるサクヤだったが、とにもかくにも、今は最大級の今回の疑問を優先させた。

「そうだった、そう言えば、君たちは一体……」

 2人とは先ほどまで、スムーズに話をしてきた。軽い談笑から、この世界についても。……が、冷静に考えたら2人の事はまるで知らないのだ。
 ただ、恐ろしく腕が立つという事実以外は。

 横に並んだサクヤとアリシャは改めて疑問符を浮かべた。アリシャは比較的キリトの方が近かったから。

「ねェ、君。君は確かスプリガンとウンディーネの大使。って言ってたけど、それホントなの?」

 好奇心の表現なのだろう。猫妖精に相応しい長く細い尻尾をゆらゆらさせながらアリシャは聞いた。
キリトは右手を腰に当て、そして胸をはって答える。

「勿論。大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション!」
「……なぜ胸を張る?」

 キリトの宣言にため息を吐きながら苦言を言うのがドラゴだ。……が、領主の2人は反応が違った。

「なっ――……」

 嘘である可能性は考慮してなかったわけではない。ただ、ここまで堂々と嘘というとは思ってもいなかったのだ。だからこそ、2人は、がくんと口を開けて、絶句をした。

「……無茶な男だな。あの場面でそんな大法螺を吹くとは」
「手札は揃ってるからな!強ちそうでもなかったさ。あ~、手札がなかったとしても、掛金をとりあえずレイズのが信条だから、結局する事は変わらないか」
「手札って、オレだけだろ?どこが揃ってる、だよ」

 軽く頭を叩くドラゴ。今度はキリトが、がくんっと頭を落とすが。

「良いじゃないか。お前だって乗っただろ?」
「あー……、ま、そうだな」

 そう言われれば、その博打に乗った自分もいる。……が、何処かで確信はしていたのだ。この男と、キリトとであったら、まるで問題ない、と。 ドラゴは、心配の『し』の字も感じてなかったのだ。

 楽しそうに絡む2人を見て、アリシャは我慢ができなくなったのか。にゃははは、と猫語?の大笑いが響く。

「――おーうそつきくんにしては、キミ……随分強いネ? それに、キミも! 知ってる? あの2人……ユージーン将軍と、ジェイド副将だけど、ALOの中でもトップ3に入る腕前だったんだヨ。そんな2人のタッグなんて、無理げーも良いトコなのに、勝っちゃうなんて。んん? そう言えば、キミはスプリガンとウンディーネ両種族の秘密兵器、最終兵器、って言ってたケドそのへんはどーなの?」

 アリシャは、キリトを覗き込むのを止めて、そのすぐ傍らにいるドラゴを見た。ドラゴは、軽く笑うと、キリトを親指でさし。

「勿論、コイツの大嘘だ。言葉を借りるなら、ブラフで、ハッタリ。ネゴシエーションと言うヤツ……だろ?」
「にゃーっはっはっは!」

 2人して、同じように言うからますます面白い。

「ま、まぁそれはそうだろうとは思っていた。だが、その姿は気になるな。……秘密兵器だ最終兵器だ、と言ってくれていても、信じられるよ。あの魔法もそうだしな」

 サクヤはそう返した。先ほどの戦い……両者共に凄まじいものを感じたが、衝撃で言えば、ドラゴの魔法もそうだった。彼の身体能力……、ジェイドを圧倒したその速度にも勿論目を見張るものがあったのだが、それをもあっさりと吹き飛ばしてしまうかのような衝撃があの魔法だ。

「ん……、正直。訊かれてもオレが困るんだがな……」
「ん? それはどういう……」
「あー、またあたしが教えてあげる。無料(タダ)じゃないわよ?」
「……ふふ、そうだな」

 サクヤの疑問解消に名乗りをあげるのが、リタだった。その言葉にサクヤも笑みを浮かべる。……随分と心を開いてくれている彼女を見て、こんな場所でなければ、自分の胸に抱きしめてしまいたいとさえ思っていた。

「あー笑った笑った! キミは後でサクヤちゃんに聞くとして~。んで、キミはスプリガンだし、判るよネ~。ひょっとして、キミも秘密で最終兵器だったりする?」
「まさか。その称号はコイツだけのものなのさっ! オレはしがない流しの用心棒!」
「……んな称号いらん」
「ぷぷっ! にゃはははは!!」

 随分と対照的な2人だ。が、相性は抜群なのだろうか、見ていて面白い。ひとしきり笑ったアリシャは、キリトとドラゴの両首に腕を回した。身長が低く設定されているケットシーだから、宙に浮いて脚をぷらぷらとさせる。

「フリーだったらサ? キミ達、ケットシー領で傭兵、やらない? 3食おやつに昼寝付き、だヨ?」
「なな、っ!」
「……はぁ?」

 リーファと、リタは思わずピキっと……、正直リタは、つられて……と言うのが正しいかもしれない。思わず、リタも同じようにひきつらせてしまったようだ。そして、勿論それを簡単に許すわけもないのがサクヤ。

「おいおい、ルー。抜けがけはよくないぞ」

 その小さな身体をヒョイとつまみ上げると。変わりにサクヤが2人の間に入る。いつもの二割増の艶っぽい声を出しながら2人の腕を絡みとる。

「ふふ……両手に花の逆だな。彼らは、元々シルフの救援に来たのだから、優先交渉権はこちらにあると思うな」

 サクヤは、そう言うと、2人の顔を交互に見る。

「私も2人同時に興味が沸く。と言うのは初めての事だな、しかし。……どうかな? 礼も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも……」

 リーファは、そんなサクヤを見て更にこめかみまでもひきつる。2人は更に続けて……、『ずるい!色仕掛け反対っ!』『人の事、言えた義理か。密着すぎだ!』と言い争いが始まっていた。つまり、早く行かないと……。

「……さっさと取り戻さないと、2人のどっちかに盗られるわよ」
「っっ!!」

 思っていた事を、ぼそっ!と後ろからそう言われて,リーファは飛び上がりそうに成る程動揺しが……、言った相手を見て、即座に反撃をした。

「り、リタだって! ドラゴくんがっ……!!」
「……何言ってるか、意味わかんないし。それに」

 リタは、別に~と言った仕草を見せ、指をさした。

「アイツの顔みてよ。キリトは満更でもなさそうな、緩んだ顔だけど、あいつは?」
「へ……?」

 リーファは、リタに言われるがまま、2人の顔を見比べた。キリトは、リタの言う通り、困ったような顔はしているものの、顔は赤くさせて、鼻の下を伸ばしてるよーな、気さえする。
 ……が、ドラゴはどうだ?

『ん。……今はする事があるからな。別の機会にして貰えないか?』

 と言わんばかりの顔。
 なんとも思ってなさそう……。あれだけ密着してると言うのに、まるで男と言うものの反応をみせていない。……サクヤやアリシャにしては、プライドに触ると言うものだろう。

「う~~……」
「で、どうすんの?」

 リタの言葉に弾かれたように動くリーファ。そして、キリトの腕をぎゅっと引っ張り。

「ダメっ! キリトくんは、あたし、あたしのっ……!?」

 と、サクヤとアリシャにそう言う。その言葉に、4人は振り返って、リーファの顔を見た。

「え、ええっと……、その……あ、あたしの……」

 適当に、理由を取り繕うとしたが、まるで出てこず、しどろもどろになっていた。

「へ~。なら、ドラゴくんのほーは良いんダ?」

 アリシャは、にやっと笑って、反対側から、ドラゴの腕を取った。それを聞いたドラゴはと言うと。

「ん。今はする事があるからな。別の機会にしてもらえないか?」

 ……想像の通りのセリフ。一言一句想像した通り。流石のアリシャも乾いた、引きつった笑みを見せていた……。

「はぁ、超鈍感だって事。バカっぽい……」

 リタは、思った通り、と言わんばかりにため息を吐いていた。

「はは……、お言葉は有難いんですが、すみません。オレは彼女に中央まで連れて行ってもらう約束をしてるんです」

 キリトも苦笑いをしながらそう言っていた。

「ほう、それは残念だ。……2人ともとはな」

 サクヤは、いつも心の底は覗かせない。……が、今回ばかりは本当に残念そうに言っていた。それ程、魅力があると思ったんだろう。そう、色々な意味で。

――……シグルドと言う男の一件があったと言うのも大きなウエイトを占めているのかもしれない。

 頼りになる男達だと思ったから。

「アルンに行くのか? リーファとリタは。物見遊山か? それとも……」
「リタは、違うと思うけど、私は領地を出るつもりだった。だった、だけどね。でも、いつになるか分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」
「……ま、100% シグルドのバカが悪いって事。アンタを……サクヤを裏切るなんて事、リーファがするわけないでしょ」

 リタはそう言って、そして そっぽ向いた。

「……ふふ。そう、か。ありがとうリタ。それに、リーファも。ほっとしたよ」

 サクヤは、柔らかい笑みをみせて、リタとリーファに言っていた。シルフの領主になる以前からの付き合いのある2人だから、だろう。

「必ず戻ってきてくれよ、リーファ――彼らと一緒にな」
「あっ、なら途中でウチにも寄ってネ?大歓迎するヨー!」

 二領主ともに頭を下げる。サクヤは、右手を胸に当てて、優美に状態を傾け、アリシャは深々と頭を下げて、その象徴的な耳をぺたんと倒す動作で其々一礼した。
 そして、顔を上げたサクヤが改めて言った。

「――今回は、本当にありがとう。リーファ、リタ、キリト君、ドラゴ君。私たちが討たれていたらサラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。…何か礼をしたいが……」
「あー、いや、そんな……」
「……オレは自分の信念に従ったまでだよ」
「そ、そう! オレもこういう性分でね。リーファにしろリタにしろ、見捨てたくなかったんだ」
「キリトくん……、格好悪いよ? 後で、のっかって言い直すなんて」
「うぐっ……」

 キリトは慌ててドラゴと同じように言うが……、後出しだから、やっぱり格好はつかないだろう。リーファにそれを指摘されて、項垂れてしまっていた。

「礼してくれるって言ってんだから。……これを利用しない手はないって思うわよ」

 リタが2人にそう言う。
 2人とも頭に「?」が浮かんでいる様だったから、『仕様がないな……』『やれやれ……』と言わんばかりにため息を吐く。リーファは、気づいたようで、サクヤとアリシャの2人に向き直った。

「……そうね。サクヤ――アリシャさん。今度の同盟って、世界樹攻略のため、なんでしょ?」
「ああ、まぁ――……究極的にはな。二種族の共同で世界樹に挑み、双方ともアルフになる事が出来ればそれで良し。片方だけなら、次のグランド・クエストも協力してクリアする。……と言うのが、今回の条約の骨子だが」

 そう、皆がサクヤやアリシャのような考えを持つことが出来れば、クリアが出来る可能性はあったのだ。……だが、キリトが言ったように、人間の欲を試す陰険さがこのゲームの根幹には潜んでいる様なのだ。だからこそ、1年たってもクリアが出来ていないのだ。


 ドラゴは、ふと上を眺めた。この空。広大な空の上を……。



(……或いは、世界樹に行かせたくない理由があるのかもしれないな。……あの上に)



 ドラゴは、サクヤの言葉を聞いてそう考える。全てがあの空の上にまで立ち上っている巨大な樹木の上に有る筈だ。

 ここはアルブヘイム……妖精の国。

 そして、その上にいるのは妖精王オベイロン。王に謁見し、永遠の翅を手に入れる。

 その夢の中に、ぼやけている夢の中で何が行われているのか。……それを知らなければならない。

(……オレは。オレ達には)

 ドラゴは、自身の右胸にそっと触れた。


 その時だ。





『……キ君。リュウ■君。……助けて……っ……リュ■キ君っ』





「……っっ!!?」




 急に胸を締め付けられるような感覚に見舞われた。虫食い状態だった、単語の殆どが現れてきた。

 そう、間違いなく……この声の主は……、彼女は自身に助けを求めてきている事が。大切な人が、助けを求めていると言う事が。



「……ドラゴ、さん?」
「っ!あ、ああ」



 そんな時だ。……不意に声をかけられた様だ。

「本当に……大丈夫、ですか……?」
「……ユイ」
「その、私でよければ、相談に乗りますから。話せれたら……で構わないです。ドラゴさんのプライバシーと言う事もありますから」

 声をかけたのは、ユイだった。この場で……、突然感情が不安定になったのはドラゴだけだった。

 何故、そうなのか……、それがユイにはどうしても判らなかった。今は、サラマンダーの襲撃も撃退でき、そして シルフもケットシーも助ける事が出来た。皆に笑顔が戻ってきた。襲撃前、とは比べ物にならない程に安堵感に包まれているんだ。いや、サラマンダーの人達と戦った後、話を判ってもらった事も踏まえて、皆が……安心して、そして笑顔になっていた。 
 4人の戦いに魅せられて、……サラマンダー達も含めて、皆笑顔になっていた。

『――……なのに、どうして……?』

 メンタル・カウンセリングのプログラムが組まれていたユイ。……プログラム、そう言うのは好まないけれど、それらの経験から考えても判らなかったんだ。

「……ありがとう。ユイ」
「っ……」

 ドラゴは、優しく微笑んだ。そして。

「ユイには、オレについて……、何か思う所があるんだよな?」
「えっ……?」
「……話す必要があるか。全部」

 ドラゴは、そう思った。何処か……、ユイが意味深に言葉を選びながら話している事には勘付いていた。それが、自身の記憶に関わっている可能性も、否定出来ないと考えだしたんだ。

 そして、ドラゴは、サクヤ達の方を見た。どうやら、リーファ達と話をしている様だ。途中から、意識が散漫になってしまっているから、あちらに集中しなければならないだろう。大切な事だから……。

「落ち着いたら……話すよ。だから、少し待っててくれるか?」
「あ……はい。判りました。……話して頂ける事が、……わ、私はとても、とても嬉しいです……っ」

 ユイの瞳から、涙が流れていた。ずっと、心の中に秘めていた事。それが明らかになると思ったから。



 ドラゴは、ユイの頭を人差し指で撫でると……、キリトの方へと向かった。


「悪い。……ちょっと後ろで話してた。どう言う結論になったんだ?」
「ん? ああ……、グランド・クエストに参加させてもらえないか? ってリーファとリタが言ってくれて、でも 今は時間が掛かるって事で、その資金の足しにでも、ってな?」

 キリトは、袋を軽く持ち上げてそう言う。ドラゴも納得したようだ。

「成る程。……ん、そうだな。ならオレも一口乗ろう」

 ドラゴも指を振り、メニューウインドウを呼び出した。手早く操って、キリト同様に大きな革袋をオブジェクト化した。その大きさは、キリトと同じくらいのもの。

 2人から、差し出された袋を受け取ろう……と、したアリシャだったが。その袋を2つ、受け取ろうとした瞬間。

“どっしゃぁっ!!”
「うにゃあっ!!??」

 その袋は、かなりの重さだったのか……、重みでアリシャは、押しつぶされる様に倒れてしまったのだ。

「っとと」
「だ、大丈夫か?」

 素早くドラゴとキリトは、アリシャを救出……。金のプールで泳いでみたい……っとか、あったけど、金に押しつぶされて、死んでしまうのは、あまりいいものじゃないという事を理解した。

「どうしたんだ? ルー」
「さ、サクヤちゃんっ!て、手伝って、これ、これ凄いヨ!!」

 気合を入れ直して、必死に袋を持つが……、あまりの重さに身動きが取りづらくなってしまっている。サクヤは、首をかしげ、その袋の中身を確認した。リーファも同じく何が入っているのか?気になった様で、確認すると……絶句する。

「うわぁ……」
「十万ユルドミスリル貨……っ?」
「こ、これ全部、この2つの袋全部ダヨッ!!」

 もう、これ以上驚かない、と思っていた3人だったが、その決意を一蹴された気分だった。唯一リタだけは、驚かない様子だった。『ああ、なんか納得』と言った様子だ。

「……こ、これだけを稼ぐのは、地下にあるヨツンヘイムで邪神クラスをキャンプ狩りでもしない限り、不可能だと思うがな……?」
「ふーん、あの隕石でも撃ちまくったんじゃないの? 邪神でも、あんなの撃たれたらたまったものじゃないでしょ」

 やっぱり、リタは魔法事ではちょっぴり悔しいから、ややトゲがある発言だった。が、それだったら……とか、思ってしまうサクヤ。2人だったら、してしまっても不思議ではない。と結論をしたようだ。

「だ、だが、構わないのか? ……これ、各種族の何処の土地でも買える。それこそ一等地にちょっとした城が建つ金額だぞ?」
「ああ、オレは構わない。もう必要ないからな」
「……同じく」

 2人とも、なんの執着もない。と言った様子だった。スプリガン達は大丈夫なのか?とも思えるが……、彼がいう以上は問題ないのだろう。フェンリルと言う種族については、判らないが。

「……これだけあれば、もう大丈夫かもダヨ。装備を人数分買ったり、揃えたりって言う時間の方がかかりそうってものダヨ」
「そうだな。ログイン者達に直ぐに通達しよう。大至急装備を揃えて、準備ができたら直ぐに連絡をさせてもらうよ」

 サクヤの言葉を聞いて、キリト、ドラゴは頷いた。

 改めて……サクヤとアリシャは袋の中身を見た。軽く苦笑いし。

「正直、この金額を持ち歩いてフィールドをうろつくのはぞっとしないな……、マンダー連中の気が変わる前に、ケットシー領に引っ込むことにしよう」
「……ダネ? これの3割はキツいよ。風・猫妖精経済に大打撃どころか、破産も良い所ダヨ! 領主の会談の続きは帰ってからだネ?」

 領主たちは頷き合うと、部下たちに合図する。たちまち、簡易的に設置された会談場を片付ける。

「何から何までせわになったな。……君たちの希望を最優先にする事を約束するよ」
「……最優先って。大丈夫なのか?」
「ふふ、そこは領主権限を発動でもするさ」
「うわっ、権力の不当行使ってやつだ!」
「……ふふふ。私は、キリトくんやドラゴくんの為なら、それも厭わないと言う事だ」
「にゃはは! ドーカンだネ! ほんとにありがとネー! 皆っ!」

 最後の最後まで、陽気に話をし……そして、この嵐の様な事件の幕引きと共に、二領主達はこの場を去っていった。


 その後、アルンまで飛ぶ事になる。ユイは、ドラゴとの話の事をキリトに伝えた。勿論、それはドラゴの了承を得ての事だった。

 ……当初にあった違和感が薄れ、本当に仲間として接していたキリト。

 だけど、ユイ同様に心の底にはその想いはあった。その全てが明らかになる。……真実へと。

 キリトはこの時、何処かで確信していたんだ。



 ただ……、その後。



 晴れた靄の代わりに……新たな靄が、……問題が。それも最悪の問題が生まれたのだった。 
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