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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第128話 激闘の予感



それは、コンソールから、竜の谷から離れ……古森の中を歩いている時の事。
因みに、翅の滞空制限のせいで、飛べなくなり、翅休めも兼ねた歩き(ウォーク)である。

「それで?」
「ん?」
「『ん?』じゃないわよ! ちょっと、さっき、教えてくれるって言ったじゃない!」
「……誰が言ったんだよ。……オレは『知らない方が良い』としか言ってない。教えるなんて、一言も言ってないぞ?」
「んなっ!?」

 こんな感じのやり取りが、かれこれ10分以上続いている。
 リタはと言うと、さっき小っ恥ずかしいセリフを言ってしまった事の羞恥心を吹き飛ばす様に、疑問のあるあのコンソールの中身を聞こうとしたのだが、ドラゴは特にこれといって何も言わない。
ただ、はっきりとは判らないとだけだった。……全ては世界樹の上に行かないと判らないと。

「あ~んな顔してたんだから、わかんないって言ったって、絶対何かあったんでしょ?? 教えなさいよ! ALO(ここ)で変な事してるんなら、あたし達だって無関係じゃないでしょ!?」
「……馬鹿言うなって。今ここで、プレイしてるプレイヤーに何かしようものなら、あっという間にメディアを伝って広がる。アーガスの二の舞になるだろう?……そんな事、絶対にしない。経営者なら」
「む……、ま、まぁそうだろうけど」

 リタは、それについては納得していた。
 以前のあの何千もの死者を出した日本の歴史上でも極めて大きな事件となった《SAO事件》の事がある。如何に、根強い人気があるとは言っても、根も乾かぬ内に、何かをしようものなら、どういうことになるかは火を見るより明らかだろう。

 SAOをサービス、運営していたアーガス社は開発費や被害者への補償で莫大な負債を抱えて解散した。その後処理、SAOサーバーの維持管理としてこのALOを運営している《レクト》に委託されたのだ。

「そ、それじゃあ、記憶がどーとか言ってたのは、どーなったのよ? なんでこの世界にドラゴの記憶が転がってるの? ……電脳世界の住人だったりすんの? あんた」
「……それについては違うとだけ言っておく。オレ自身も判らない所が多くてな。……これも、あの上に行かないと判らないみたいなんだ」
「はぁ、今の 冗談のつもりだったんだけど、真顔で返されたら……」

 リタは、ため息を吐きながらそう言っていた。そして、後もう少しで、ルグルー回廊だという所で。

「……わかったわよ。……全部判ったら、そして、あんたが話せるなら、教えなさいよ? ……無理にはもう聞かないから」
「……ああ。判った」

 ドラゴは、きょとんとしながら、リタを見た。
 当然、リタはその表情になる理由がいまいち判らない。だから、訝しんでしまうのも無理はない。

「……なによ、その顔は」

 リタは、反射的に聞いていた。

「ん、いやに素直だな、と思って。探究心を抑えられるんだな? リタって」
「う、うるさいわね! それに、あったりまえでしょ! ……だってデリケートな問題みたいだし。あまりにイレギュラーな事が多かったから、つい聞いちゃったのよ。……あたしが、この世界で最も興味があるのは魔法、なんだから」
「そうか……」

リタは、変わった人だけど、やっぱり悪い人じゃない、改めてそう感じたドラゴだった。
 当初とキャラが変わってる様な気もするが……本人が言うように、色々と驚きが多かったから、仕方ないのだろう。

 ……それにしても、パーティを組む事に不思議と抵抗が無かったは、悪い人じゃない、と思ったからなのだろうか? 当初は勝手について行く、と言われただけだったんだけど。


 ドラゴは、リタに聞きたい事があった。

「リタは、なんでそんなに魔法にこだわるんだ?」
「え?」
「だってそうだろう? この世界での最大の魅力、最大の売りは空を飛べる事。……リーファにも言われたが、それは間違いないと思ったんだがな。リタは、魔法の方が好きそうだからな」
「………」

 リタは、それを聞いて少し難しい表情を作った。そして、ドラゴの方を向いて。

「まぁ、確かにドラゴの言うとおりね。飛ぶ事も良い。……確かに良いわ」

 リタはそれを認めつつ、話を続ける。

「それでも、あたしがALOで惹かれたのは魔法だったって事。……この世界で魔法を主としてる魔法部隊って言うのは、一応あるけど、絶対に後衛って固定されてる現状。……だから、あたしは何処ででも、戦える魔法使いを目指してる。魔法は、きっと自分を裏切らない。頑張れば頑張っただけ、応えてくれる。そう信じてる」

 リタは、そう言い切っていた。
 ここはゲーム、仮想世界。平たく言えば遊びの世界。大多数のプレイヤーはそう言うだろう。

 ……だけど、真に迫るものを感じた。

 きっと、リタにとって、この世界は自分にとってのもう1つの現実なのかもしれない。……ゲームではなく。

「成る程」

 ドラゴは、頷いた。
 はっきりとした理由は、リタは言っていなかったが、それで十分だった。飛ぶ事、飛べた事よりも魔法。どちらも、この世界が生まれた事で初めて出来る様になったのだから。


 例のシステムコンソールで得た情報。
 それは、ここで……この世界で、少なくとも、あの世界樹の内部に行かない限り、言うつもりはドラゴには毛頭無かった。純粋にこの世界でプレイしている者にとって、良いものではない、と思ったからだ。

『この空をずっと飛んでいたい……』

 そう思う妖精達に無粋な事を言いたくはない。
 例え、あの情報が全て本物で、本当だったとしても、今を楽しんでる妖精達には関係が無い事だから。

 自分の胸の中に強く、強く秘めていれば良いとドラゴは思っていた。
 現在プレイしている者達にも危害が加えられる様であれば、話は別だと思えるが、アミュスフィアの安全性、そしてあの事件の影響もあり、それはほぼ無いと言っていいだろうから。


――……全ては世界樹の上で。







~中立域 古森~


 それは、ほぼ同時刻。
 キリト達は、長時間プレイもあった為、少しの間ローテアウト……、リーファと交代でログアウト休憩をとっていた。この場所は、ホームタウンではなく、中立域。その為、即座にログアウトは出来ないのだ。故に、その無防備になっているアバターを守る、それがローテアウトである。

「……アイツはどうしてるかな」

 今はリーファが現実世界へと戻り休息を取っている。キリトは、この世界の空を眺めていた。考えるのは、アスナの事、そして親友のリュウキ、隼人の事。……そして、この世界で出会ったあの男。

「ドラゴさん、の事ですか? パパ」
「……ああ、オレは一緒に行くと何処かで当たり前の様に思ってた。……ドラゴがあの男なら、尚更な。……でもやっぱり違ったみたいだ」

 キリトは悲しそうな表情でユイを見つめた後、再びこの世界の空を見上げた。

 高く……高く……広がっているその世界を。


「パパ……」

 ユイも同様だった。
 あのIDコードは間違いなくリュウキのものだった。……そして、それだけではない。雰囲気や、言動も何処か彼を思わせるものばかりだったんだ。そして、自分の事をキリトの娘だと言ってくれていた。
 ……ただのプライベート・ピクシー、ナビゲート・ピクシーと思っているのなら、そう表現はしないだろう。
 でも……そう言ってくれた。ユイにとっては、優しくて、そして大好きな兄であり、キリトにとってはかけがえのない親友。


 でも、それでも……。

「……大丈夫だ。必ず見つけてみせるさ。ママも、お兄さんもな?」

 キリトは、にこりと笑うとユイの頭を指先で撫でた。言葉にすることで、自分を奮い立たせたかった。希望を持てて、それが奪われた時の落胆は計り知れない。……現に今がそうだった。
 今は、アスナがこの世界にいると言う可能性が高い事もあり、まだ平静だったけれど。もし、そうじゃなかったら……。

「……はい。パパ。レイナお姉さんも待ってるんですよね? お兄さんの事」
「ん? ……ああ。レイナともしっかり約束をしてきたよ。必ず見つけるってな?」
「……私も、頑張ります。また、また、皆と一緒に過ごしたいですから」
「そうだな……」

 ユイの言葉にキリトは、深く頷いた。それは、あの朱い空の下で約束をした事だ。


――アスナを助けるまで、約束を果たすまで、自分の戦いは終わらない。


 キリトは改めて……心に深く決意を刻み込んでいた。


 そして、暫くして。

「お待たせ! モンスターは出なかった?」

 リーファが休憩から戻ってきた。
 キリトは軽く手を上げて答えると、『次は自分が落ちる番だな?』と言って態勢に入った。

「じゃあ、護衛よろしくな」
「……うん、いってらっしゃい」

 何処となく、悲しそうな雰囲気を出しているキリトを見て少し思うところがあるリーファ。人を探しているとも言っていた、それも簡単な問題じゃないとも。そして……。

(……ドラゴ君とも何かあるのかな?)

 リーファはそこも気になっていた。2人と知り合ったのは、殆ど同じタイミングだった。でも、その会話はまるでずっと以前から知り合っている様な、そんな感じもした。

「でもまぁ、フレ登録もしたし……、またいつでも会えるよね。流石にログアウトしてたら無理だけど」
「ドラゴさんのことですか? リーファさん」
「わぁっ!?」

 リーファが独り言を言っていた所に話に入ってきた、小妖精を見て思わずリーファは仰天していた。

「あ、あなた、ご主人様がいなくても動けるの??」

 普通であれば、ご主人……即ち、キリトが所有しているピクシーである以上は、彼のメモリ内に存在しているものだ。だから、一度ログアウトをしてしまえば、ピクシーも専用のカテゴリーに収納される、と推察していたんだ。

 そして、当のユイはと言うと、胸を張って頷いた。当然!といった顔で。

「そりゃそうですよ! 私は私ですから。それと、ご主人様じゃなくて、パパです」
「そういえば……なんであなたはキリト君の事、パパって呼ぶの? もしかして……その、彼がそう設定したの?」

 リーファの反応が正しいだろう。自身の事を見れば簡単に父と娘だと言う風に受け入れにくい。だから、ドラゴの反応が……ユイにとって嬉しく、そして同時に悲しくもあったのだ。ユイは、軽く首を振って答える。

「パパは、……パパ達は、私を助けてくれたんです。オレの子供だ、って言ってくれたんです。ですから、パパなんです」
「そ、そう……(ん?達?)」

 リーファはやはり事情は飲み込めない。
 そして、その複数を指す言葉にも気になったが、そもそもよく理解できてなかったので、軽く流していた。

「……パパのこと、好きなの?」

 リーファは何気なくそう訊ねた。すると、ユイは真剣な表情でまっすぐに見つめ返す。

「……リーファさん。好きってどういうことなんでしょう?」
「っ……ど、どうって」

 聞いておいて、どうかと思うが……思わず口ごもってしまうリーファ。
 
 しばらく考えてから、ぽつりと答えた。

「好き……好き……、それはいつでも一緒にいたい。……一緒にいると、どきどきわくわくする。……そんな感じかな……」

 リーファの脳裏に浮かぶのは現実世界でのこと。浮かぶのは、リーファではなく直葉。そして、その隣にいるのは和人。
 その笑顔が過ぎった。ずっと、想っていた事だった。

――…でも、何故だろうか。すぐ隣で瞼を閉じ、俯いているアバターの横顔と重なって見えた。

 でも、直ぐにはっとし、視線を逸らす。……そして、息を呑んだ。ずっと、心に隠してきた思慕、それがキリトにも感じる、感じてしまっているんだから。
 それを見たユイは、首をかしげた。

「どうしたんですか、リーファさん?」

 その言葉に、一気に顔が紅潮して、そして動揺してしまったのは言うまでもないだろう。

 ……その後キリトもまるで狙ったかのようなタイミングで起き上がった為、思わず文字通り飛び上がってしまうリーファだった。





~ルグルー回廊前~



 更に数分後。
 2人は洞窟の前にまでたどり着いた。その洞窟は殆ど垂直に切り立った一枚岩の中央に四角い穴が開いている。入り口は十分な広さであり、入り口周囲の壁は不気味な怪物の彫刻で飾られていた。

「……この洞窟、名前はあるの?」

 キリトがそう聞くと、リーファは頷きながら答える。

「ここは《ルグルー回廊》っていう名前。えっと、確かルグルーってのが鉱山都市の名前かな」
「ふうん……、そう言えば昔の、とあるファンタジー映画にこんな展開があったなぁ……」

 ニヤリと笑うキリトの顔を横目で睨むリーファ。それは、恐らく古典ファンタジー小説を映画化したものの事だろう。リーファは……直葉は和人のえやに数年前にでた愛蔵版のボックスがあったので、勝手に借りて観ていたのだ。

「……知ってるわよ。山越で地下鉱山を通ると、でっかい悪魔に襲われるんでしょ? でも、ごあいにく様、ここに悪魔型モンスターは出ませんから」
「なーんだ、そりゃ残念」
「ふーん、確か最初にお姫様を助けた役~とか言ってたけど、そっちもごあいにく様、この辺りのモンスターだったら、あたしも切り飛ばしてあげるから、ファンタジーみたいな展開にはならないわよ。でも、そんなに愉しみなら、ぜ~んぶキリト君にお任せしますけど?」

 そう言うと、そっぽ向いてリーファはすたすたと先へと進む。キリトは軽く笑うとリーファに続いた。

「そう言えばさ? キリト君は魔法のスキルはあげてるの?」
「あー、まあ種族の初期設定のやつだけなら……、使ったことはあんまりないけど……」
「ふーん。えっと、スプリガンの魔法ならここ洞窟だし、得意分野よ。風魔法よりもずっとね?」
「へー……って、実体験が篭ってるみたいな口ぶりだな? オレ以外にもスプリガンの誰かが仲間だったのか?」

キリトは、リーファにそう聞いた。彼女のいう感じから、実際にその魔法を体験したかの様に聞こえたのだ。リーファはそれを聞いて、首を横に振った。

「いーや。友達……仲間に1人いてね。魔法の専門家って言える程の魔法使いがね?」
「……シルフでか?」
「うん。確かに別種族の魔法は習得しにくいし、時間もかかるし……困難なんだけど、その子は、大体の魔法は体現してたわね……。殆ど全種族の」
「……そりゃ、凄いな。初心者のオレでも判るぞ? なんとなく、その大変さが」

キリトは、苦笑いをしていた。この世界の魔法は、云わばあの世界で言うソードスキルと同義だ。それをあげる事の大変さは、あの世界で2年も体験しているから身にしみているから。

「そりゃそうよ。習得するのは勿論そうだけど、詠唱文を覚えるのだってすっっっごく大変なのよ?」
「へぇ……、なぁ? ユイ。スプリガンの魔法、何か判る?」

興味があるようで、キリトはユイにそう聞いていた。
ユイはと言うと、呆れた様に、そして何処か教師然とした口調で言う。

「もう、パパ、説明書くらい見ておいたほうがいいですよ。えっと、スプリガンの魔法では、灯りの魔法が丁度いいですね。……えっと」

ユイが発声したワードを一つ一つキリトは右手を掲げながら言う。……少々覚束無い様子だが、何とか成功したようで、仄白い光のはどうが広がり、リーファと自分の身体を包んだ。それは、周囲を照らすもの、ではなくプレイヤーに暗視能力を付与する魔法の様だ。

「そうそう、やっぱ洞窟ではこれがあった方が良いのよね。うんうん。久しぶりだけど、やっぱり便利な魔法」
「ん? 仲間なんだろう?」
「あー……言いたいことは、判るけど、気難しいって言うか……人見知りって言うか……恥ずかしがり屋さん、って言うか……、中々パーティ組んでくれないのよね~、間違いなくこの世界最強の魔法使いだって思うんだけど……」

 リーファは苦笑いをしながらそう言っていた。

「あたしとしては、もちょっと仲良くしたいな? って気持ちが強いけど、それに負けないくらい、魔法能力凄いから」
「へぇ……、でも判る気もするな……」

 キリトもそう言う。
 キリト自身も、ソロ歴が長いからだ。……変わる以前の自分だったら、きっとそのシルフの大魔法使いと同じような行動を取ると思うから。

「さ、さ、それより、魔法は暗記する様にしといた方が良いわよ?イザって時に頼りになるかもしれないからさ? しょぼいスプリガンの魔法でも」
「うわ、なんか傷つくぞ?それ。……殆ど全部知ってるなら、更に先が見えて……」
「ふふ、でもやっぱり上位魔法ならそれなりにすごいわよ。ま、それを使える様になるまでが大変ですけどね!」

 キリトとリーファが話しながら歩いていく内に、どうやら、付与継続時間が切れたらしく、視界に広がっていた光は見えなくなっていった。

「うぇぇっと……アール・デナ……れ、レイ? いや、レオ……」

 キリトは、リファレンスマニュアルを覗き込み、再び覚束無い口調で詠唱を呟くけど……。

「だめだめ、そんなにつっかえたら、ちゃんと発動なんてできないわよ?詠唱文全体を機械的に暗記しようとするんじゃなくて、まずはそれぞれの《力の言葉》の意味を覚えて記憶するのが、近道、かな?それを覚えたら後は組み合せ次第だから、大体覚えられるの」

 リーファの言葉を聞いたキリトは、深いため息と共に、がっくりとうなだれていた。

「……まさか、ゲームの中で英熟語の勉強みたいな真似をするとは、夢にも思わなかったなぁ……」
「そりゃ、言い得て妙ね。因みに言っときますけど、上位の魔法なんて、20ワードくらいはありますからね~、更に大変! ああ、魔法の数を覚えこなそうとしたら、組み合せ次第で、覚える量は更に2乗、3乗……っと……」
「うわっ、やめてくれって……。うぅ……そいつ、半端ないな……、全部覚えてるのか?現実で考えたら、滅茶苦茶頭が良いんじゃないか?」
「う~ん、多分ね。でも、興味あることにしか見向きもしない感じだから、どうなんだろ?彼女、魔法に関しては探究心の塊だったからね。ほらっ! 大魔法使い様とはまた、機会があれば、謁見させてあげるから、練習練習! ……へんにミスってたら、黒焦げにされちゃうかもよ?」
「うへぇ……超スパルタ教師じゃんか……」

 キリトは苦笑いをしながらそう言う。だが、リーファは大真面目で、答えた。

「因みに、あのレコンは、要領も物覚えも悪くってモタモタしててね、カンに触ったよーで、火の魔法でほんとに炙られちゃったよ」
「……マジかよ」
「マジです」
「……謁見許可、いらないです。会わないから……」

 キリトはブンブンと首を振りながら、再び詠唱に入っていった。あのレコンの事は知っている。そして、何故だか、容易にその炙られているシーンが浮かんできていた。


 そして、洞窟に入って2時間弱。入り口で言っていた様に、何体ものオークと遭遇していたが、難なく切り抜ける。そして、スイルベーンでマップを確認し、頭の中に叩き込んだお陰もあり道にも迷わずに進むことが出来た。

 マップによれば、この先は広大な地底湖に架かる橋があり、そこを通る事で、地底鉱山都市ルグルーに到着、ダンジョン突破となる。……時間の問題か、と思っていたが。

「パパ、接近する反応があります」

 ユイの言葉に事態が急変する事になる。

「モンスターか?」

 キリトがそう聞くが、ユイは首を振った。

「いいえ、これは……プレイヤーのものです。……とても多いです。8……10……いえ、14人」
「じゅっ、じゅうよん??」

 思わずリーファは絶句をした。通常の戦闘単位から考えたら、それは多すぎる数だから。だから、アルンを目指すシルフ族の交易キャラバンか、と思ったが、正体が判らない以上は慎重に構えた方が良いのは事実だ。


――……だが、この時リーファは思いもしなかった。


 まさかこの後、大量PKが起こる事、そして、まさかの大怪獣・大決戦が起こる事なんて……。





 兎も角、リーファ達は、嫌な予感がしたのは事実だから。

「……何だかちょっとヤな感じがするから、隠れてやり過ごそう」
「隠れるといっても、位置的には一本道だし、……何処に?」

 キリトは戸惑うようにそう言い、周囲を見渡すけど……やはり隠れられるような場所は見当たらない。
そんなキリトを見たリーファはニヤリと笑う。

「ま、そこはオマカセよん。これでも、あの気難しくて、とってもシャイな大魔法使い様と一緒にパーティを組んだことがある内の1人ですからねん!」

 リーファはすました笑みを浮かべながらキリトの腕を取る。そして、左手を上げて、詠唱を開始。唱え終わると、直ぐに緑に輝く空気の渦が足元から起こり、2人の身体を包み込んだ。こちらからは、視界が変わっただけで、わかりにくいが、外部からはほぼ完全に隠蔽された筈なのだ。

「……これで、完全に隠れられたわよ。ただ、喋るときは最低のボリュームでね。じゃないと、魔法、解けちゃうから」
「成る程……、……隠蔽(ハイディング)スキル要らずだな」

 キリトは、かつて大分世話になったあの世界でのスキルを思い馳せながらそう呟いていた。視覚的に決して見つからない魔法だから。

 そして。

「……パパ、あと二分ほどで視界に入ります」

 ユイの言葉で身を引き締めた。先に視界に捉えたのはキリト。そして、……出くわしたのは、プレイヤーではなかった。出くわしたのは……リーファはつい最近見たものだった。

 赤いコウモリ。そう、あの時の、レコンと一緒に襲われた時の物と同種。サラマンダーの使い魔。高位魔法である《トレーシング・サーチャー》だった。

 あの時、レコンと一緒に飛んでいた時に、場所を補足された。現れたのは3人のサラマンダーの重戦士。今回は14もの大部隊のサラマンダー。
 ……それは、考えられる内の最悪の展開だったのだ。











~ルグルー回廊・入り口~


 時間は少し巻き戻す。
 キリト達がトレーシング・サーチャーと遭遇する大体1,2時間前。

「……ん。ここがルグルー回廊か」
「ええ。ここを通ると、《鉱山都市ルグルー》、その先を更に超えたら《アルンの街》にまでいけるわよ」
「……それは良いが本読みながらで、大丈夫なのか? リタは」
「ん? 良いんじゃない」
「……そうか」

 ドラゴとリタも、古森を超え、ルグルー回廊の入り口にまできていた。リタはと言うと、基本的にモンスターが現れたら一応臨戦態勢に入っている。その上、ドラゴの魔法を見逃すまいとして、更に集中する。……そこはいい。魔法を使うような展開にならなくなったら、まるで辞書か?と思えるような分厚い本を開いて歩いているのだ。
 聞いた所によると、それは魔道書であり、様々な詠唱文や、効果がびっしりと記入されている様だ。それをウインドウに表示するのではなく、本のオブジェクトにしているのは、恐らくその方が魔道書らしいだろう……と言う製作者側の案だろう。
 ……その本を真剣な顔つきで見ているリタを見たら……、効果は覿面の様な気がする。 

 別にウインドウ表示だったとしても、同じ気はするが、雰囲気は出るだろう。

「ふむ……ルグルーか。悪魔系のモンスターが出るのか? もしくは幽霊……アストラル系のモンスターが?」

 そう、リタに聞いたドラゴだった。いつもどおりに、最短単語で返答が帰ってくるものと思っていたのだが。

「ば、ばっかじゃないの!! そんなのいるわけないじゃないっ!!」

 両手で、ばんっ!!っと音を立てて本を閉じるリタ。……本に集中してたようだから、2割くらいは聞いてないと思っていたドラゴだったのだが、あまりの食いつきに驚きを隠せなかった。

「ど、どうした? オレは、名前 そして、洞窟の感じから 推察しただけなんだが?」
「っ……、な、何でもないわよ……っ。ここに出てくるのは、オーク!! ……間違ってもその……変なのは出ない!」
「変な?」
「うっ……、ほ、ほら! さっさと行くわよ! ……っと言うか、早く抜けるわよ! 地底湖の橋の所までっ! そこまで行ったらもう、街も傍だから!!」
「???」

 ドラゴは、何をそんなに急ぐのか、さっきまで、マイペースが如く本を読んでいたのに、突然やる気を出した様に足早に行こうとしていたのだ。よく判ってなかったドラゴ。もう、おわかりだろうが(ドラゴ以外は……)、リタはアストラル系のモンスター……、霊と言った類のモンスターが大の苦手なのだ。

(……? よく判らないが……良いか。……っ!)

 そう判断したドラゴが一歩進んだ所で、再び……声が聞こえてきた。

『な、何が、なるほどな、なのっ!!怖くなんかないんだからねっ!』

 そう、頭の中に過る。

(……こわく……ない?)

 ドラゴの頭の中でその言葉が回る。

『……怖い』

 その意味は当然知っている。

『やだぁぁぁっ!! あぅ……リ■■キ君が……』

 あの声が続くから。
 やはり、その声の正体がなんなのかは、まだ判らないが、それでも……ドラゴの表情は徐々に柔らかくなっていく。

 何故なら、自分の記憶の扉が、少しずつだが、ゆっくりと開いていく事が嬉しく感じたからだ。そんなドラゴの顔を見てしまったリタはというと。

「な、なによ?」

 そうドラゴに聞いていた。それをドラゴが聞いていたかどうかは判らない。……この時、頭に広がる声に集中していたのだから。


――……これは、偶然なのだろうか?


「……怖い、か」
「っっっ!!!!!」

 ドラゴが、そうつぶやいた瞬間、リタの顔が、かぁーーっと赤くなった。

 それは、茹で上がったタコ、と言うよりは、赤さ的には林檎に近く……茹でると言うよりは炙られた、と思うくらい熱くなっていたのだった。


 
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