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黒魔術師松本沙耶香  人形篇

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3部分:第三章


第三章

「二人きりで部屋の中にいたらすることは一つしかありません」
「けれどそれは」
 避けようとする。だがそれより前に絵里は捕まってしまっていた。そして沙耶香の唇を自身の唇で受け止めてしまった。
「やっ」
 舌が入ろうとする。だがその直前で口を離す。だがそこに一瞬の隙が生じてしまった。絵里はベッドに押し倒されてしまっていた。
「止めて下さい」
 沙耶香から離れようとする。
「こんなこと」
「いけないことと仰るのですか?」
「勿論です」
 絵里は困った顔で沙耶香を見上げて言った。
「女同士でこんなこと」
「おかしなことを仰る」
 だが沙耶香はそれに従おうとはしない。
「女同士ではいけないと誰が決めたのですか?」
「それは神が」
「神、ですか」
 その言葉を耳にした沙耶香は冷笑を浮かべた。
「神なぞ。私には関係ないことです」
「えっ」
「私は魔術師なのですから」
「では貴女は」
「そう、私は神の世界とは別の世界に身を置く者」
 沙耶香はゆっくりと語った。
「黒魔術師なのです」
「そんな、それでは私は」
「大丈夫ですよ」
 今度は絵里を宥めるようにして囁いてきた。囁きながらその黒く気品のある服を脱がしていく。
 中から白いブラとショーツに守られた白い裸身が現われた。沙耶香のそれとは違い胸は小さい。だが細身に均整はあった。
「神を裏切るのでは、と思われているのでしょう?」
「はい」
「罪を犯すのでは、と」
「その通りです。それは」
「罪なぞ何を恐れることがありましょう」
 沙耶香は絵里の左肩に舌を這わせながらこう言った。紅の長い舌がその白く柔らかな肌を伝っていた。
「神の力は赦しの筈です」
「はい」
「赦しは罪を犯さなければ得られないのですよ」
 誘惑の言葉であった。そこには多分に詭弁が含まれていた。それと同時に絵里を自分の魔性の世界に導こうという言葉であったのだ。だが絵里はそれにあがらおうとしていた。
「けれど罪は」
「甘い罪なら犯すのもいいものです」 
 沙耶香はまた囁いてきた。
「それで赦しが得られるのなら。いいではありませんか」
「赦しが」
「そう、貴女は赦されるのです」
 肩から口を離して言う。
「神により」
「神により」
 その言葉を復唱した。もう目が虚ろになりかけている。
「甘い罪は清められるでしょう」
「では今から私が犯す罪は」
「清められるのです。いいですね」
「はい」
 こくりと頷いた。もう自分が何を考えているのか、そしてどうなっているのか半分わからなくなっていた。夢幻の世界に身を沈めようとしていた。その沈む身体を今抱かれていることすらわからなくなってきていた。誘惑に今全てを委ねようとしていた。
「さあ」
 沙耶香はまた言って来た。
「共に堕ちましょう、そして」
「犯すのですね」
「清められるべき、甘美な罪を」
 こうして絵里は沙耶香に陵辱された。それは男では到底味わうことの出来ない倒錯した、半ば幻想の世界にある快楽であり絵里が今まで知っていたものではなかった。絵里は沙耶香にその甘い毒を心にも身体にも注がれた後で現実の世界に帰って来た。その時には既に沙耶香はベッドの中で彼女の隣にいた。そしてその媚惑的な横顔を彼女に見せながら暗闇の世界に半身を起き上がらせていた。
「素敵でしたよ」
 沙耶香は絵里にこう声をかけてきた。
「思った通りの方でした」
「思った通りですか」
「ええ。私も堪能させて頂きました」
 そう言いながら手から煙草を取り出した。そしてそれを口に含む。
 指から火を出しそれを煙草に点ける。それから煙草を口から離して煙を吐き出した。闇の中に白い煙と青い煙が混ざり合った。
「そして用件ですが」
「はい」
 絵里はベッドの中から応えた。肩から下はシーツに覆われている。
「学校のことでしたね」
「ええ」
 彼女はその言葉に頷いた。


 
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