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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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ALO編
  第124話 貴方は誰?


 先ほどの、サラマンダーたちとの戦闘が終わった後。

 ……いや、《戦闘》と言える様なものではないだろう。
 それ程までに、一方的な展開だったから。
 そして……その後、ある疑問が男……黒いスプリガンの男にはあったようだ。

「なぁ? この炎ってなんだ?」

 指をさした先にあるのは赤く燃え上がっている炎だ。
 何かを燃やすわけでもなく、その場に留まっている。人魂……、とも見えなくないもの、それに気になったようだ。

「しっ!」

 リーファは口元に人差し指をあて言葉を制した。

「それはリメインライト。……まだ、連中の意識はそこにあるわ」

 そう教えてくれた。
 つまり、消えるまでは全て話を聞かれてしまうと言う事なのだ。あまり情報を与えるのも宜しくないだろう。……大して情報は持ってはいないけれど。

「なるほどな……、つまり、死亡してからホームに戻るか? もしくは復活するか? その選択をする時間帯……と言ったところか」

 銀の男はじっと、炎を見てそう呟く。
 確かにプレイヤーのデータはまだその場に留まっているようだ。この炎に、蘇生のアイテムなりを施すとその場に復活できるのだろう。リーファも頷いていた。

 そして、さらに数秒後経ち……。

 完全にその炎が消え去ると、リーファは再び表情を強張らせる。

「……で? あたしはどうすればいいのかしら。お礼を言えば良いの? 逃げればいいの? ……それとも」

 言葉を切り、すっと剣の柄に手が伸びる。そのままリーファは抜刀の構えを取った。

「……戦う?」

 その問いにスプリガンの男は、腕を組みながら唸り声を上げた。

「ん~オレ的には正義の騎士がお姫様を助けたって場面なんだけどな」

 そう言うと、肩頬でにやっと笑い、さらに続けた。

「そんでもって、感激したお姫様が涙ながらに抱きついてくる……的な?」

 そう言う。所謂、要求?まがいな事をしてきたのだ。
 
 それを聞いた瞬間、リーファは一瞬固まった。

――……つまり、自分がお礼に抱きつけ、って事なのだろうか。

 そう、頭の中で結論したと同時に、一気に頬が紅潮する。

「ば、バッカじゃないの!!」

 リーファは思わず叫んでしまった。叫びと同時に更に頬が、かぁっ! っと赤く、熱くなっていた。まさか、そんな言葉が返ってくるとは思ってもいなかったからだ。

「……オレはそこの黒い彼とは違う考えかな」

 そして、話を聞いて黙って聞いていた男が話しだした。

「え?」

 若干興奮していたリーファは、一先ず抑えて銀色の男の方を見た。

「……オレ的には、このALOをプレイしようとしたんだが、特に説明、ゲーム内でのチュートリアルも何も無し。その上、初期設定ステージにいたのに、突然上空に転送されたと思ったら、今度はさらに突然プレイヤー間の戦いに巻き込まれた。と言う感じだ。戦闘面は問題なさそうだが、少しこのゲーム自体の説明がほしかった所。……だから君がお礼を……と思ってくれているのなら、少しでいいから教えてくれないか?」

 2人を交互に見てしまうリーファ。

 本当に随分対照的な2人だ。
 
 片方はふざけているのに、もう片方は至極真面目。
 あまりに違う返答の二人を見てリーファは肩の力が抜けてしまったようだ。手にかけた剣の柄を離し一息をつく。

「……まあ良いよ。それくらいはお安い御用だし。でも、君のは絶対い・や!! 戦ったほうがマシってものよ!」

 リーファは銀色の男には《OK》をだし、スプリガンの男には《NO》と返事をする。

「ははは。冗談冗談」

 スプリガンの彼は、如何にも楽しそうです。と言わんばかりに笑っていた、その時だ。

「だっ駄目です! パパっ!!」

 突然、スプリガンの男から、別の声が聞こえてきた。

 その声色から察するに幼い女の子の声だ。リーファは咄嗟に周囲をきょろきょろと見渡すが人影はない。

「……随分と珍しいのを連れているな?」

 男だけが、その姿を捉えていた。
 きょろきょろと周囲を見渡すリーファに対し、銀の男はスプリガンの男の方を見てそう言っていたからだ。

「あ、いや……こ、こら 出てくるなって!」

 その短衣の胸ポケットから、何やら光るものが飛び出していた。小さなそれはしゃらんしゃらんと音を立てながら飛び回る。

「パパにくっついていいのは私とママだけですっ!」
「ぱぱぁ!?」
「ふむ……、オレと歳的には変わらないと思ったが……、子供がいるんだな。まぁ、アバターだから、一概には言えないが」

 あっけに取られているリーファといつも通りのクールな銀色の男……。
 その部分も、実に対照的だ。 
 いや、誰だとしても 銀色の男といればこう見えてしまうだろうと考えられていた。

 少しため息をしながらリーファはその光るそれに近づく。するとそれは妖精なのだと言う事がわかった。恐らくはヘルプ窓から召喚できるナビゲーション・ピクシーだろう。だが、理解できない事もある。

 あれは基本的に質問で定型文で答えるだけの存在。

 こんな高性能のAIを搭載しているかの様な仕様ではない筈だと。好奇心から、リーファは警戒も忘れて飛び回る妖精にまじまじと見入った。

「あ、いや……これは……」

 男は焦りながら両手で包み隠す。
 そして引きつった笑いを浮かべていた。

 リーファはその手の中を覗き込みながらたずねた。

「ねぇ、それってプライベート・ピクシーってヤツ? ああ、別名ナビゲーション・ピクシー!」
「へ?」
「あれでしょ? プレオープンの販促キャンペーンで抽選配布されたって言う……、へえーはじめて見るなぁ……」

 リーファは、その姿をまじまじと見つめていた。

「………」

 銀色の男だけは、真剣な表情のまま見つめていた。
 何かを探るかのように。

 ……その≪眼≫に、スプリガンの男は警戒していた。

 何故なら、全てを≪視≫られてしまいそうだったから。

「わ、あ、私は……うぷっ……」

 ピクシーが何かを言おうとした時、その顔を手で隠すように覆った。

「そ、そう! それだ。オレ クジ運良いんだ!」

 慌てながらそう言っていた。……それは、あからさまな態度だった。
 どう考えても不自然だから、怪しいので≪視る≫までも無いと思う。

(……悪い男じゃないのは解るがな)

 銀色の男はそう考えていた。
 確かに、目の前の男の力量は驚嘆に値するものだった。……あの男達が言うには初期装備なのだと言う事、そして初心者なのだと言う事。なのにあれだけの実力を持っている。

(……他人のことを言えた筋合いじゃないが……な)

 苦笑いをしながらそう考えていた。
 自分自身のパラメータも一線を凌駕しているのだ。どういう仕様かは解らないが……そのデータは明らかに初期のものじゃない。それに、武器を確認する際に見たが、アイテムストレージ内のアイテム欄も破損データがずらっと並んでいた。
 こう言ったアイテムは、GM監査で引っかかっては厄介なので後で消去していた方がよさそうだ。普通であれば、全て消去して最初からやり直す事もあるが……、それは出来ない。このデータに何かがある、失われた何かがあるハズだから。



 そして、その後スプリガンの男は、なぜここに別種族、スプリガンである自分がいるのかを説明していた。……それは、『道に迷った』との事。

 そして、彼女は方向音痴過ぎだと笑っていた。

「まあ、兎も角お礼は言うわ。助けてくれてありがとう。あたしはリーファって言うの」
「オレの名はキリトだ。それで、こっちがユイ」

 その名を聴いた瞬間……、再び頭がズキリとなり、軽い痛みが走った。


「……きり、と? ……ゆい?」

 名を……自然と口ずさむ。
 どこかで、聞いたことがあるような……、それも昔と言うわけじゃない。だけど、頭の中にもやが出来たようで、その中身を読み取る事ができない。事、データを扱う術に遥かに長けている自分が……わからないんだ。
 少々痛みは感じるが、現実での様に脳髄に亀裂が入るかの様な程の痛みは襲ってこなかった。

 それは、ここが 仮想世界だからなのだろうか?

「それで? キミは?」

 そんな時、リーファが声をかけた。

「……え?」

 男は、リーファの方を、辛うじて見る事が出来た。
 まだ、少々頭は痛いが、それを悟らせ無いように出来たようだ。

「キミだよ、キミ。名前は? 出来れば一体なんの種族なのかも教えてくれたら嬉しいんだけど?」

 リーファは、そう聞いていた。リーファにとって、今回の最大級の疑問点の1つ。異常な戦闘能力の高さと対を成す疑問。目の前の男の正体だった。

「……ん。オレか。それはオレも聞きたい所なのだがな……。先ほど言ったように、ゲーム初期設定の際、突然ここに飛ばされたんだ。だから、その種族?は決めれていない」

 腕を組みながらそう答える。
 そして、傍にあった池の水面を見て自分の容姿を確認。

「どんな種族があるのかは、解らないが。オレとしては今の容姿の方が良いな。……銀と白は好きな色だ」

 男は、髪の毛を、指先で、摘み 髪を梳く様に触りながらそう答えた。

「……はは。アンタ、女の子?? その容姿も随分と童顔っぽいし~。髪を触っている仕草をみたら、勘違いしちゃうよ~?」
「ッ……。オレは男だ」

 リーファがそう言うと、銀色の男は、すねてしまったように ぷいっ!っとリーファから視線を外した。そんな姿を見てしまえば、ますます笑いを誘う。

「あははっ! ゴメンゴメン、冗談だよ? それで、名前は?」

 リーファは楽しそうに笑みを零すとそう聞く。

「……ドラゴ、だ」

 彼は、まだちょっと拗ねてたけれど……、とりあえず返せれていた。

「んじゃあ、ヨロシクね? ドラゴ君にキリト君?」
「ああ」
「……ああ、よろしく」

 3人は自己紹介を済ませ頷きあっていた。

 自己紹介をしていた時こそ、平静を保っていたキリトだったが、もうそうは言っていられなくなっていた。

「……ッ、……これ、は……。そん、な……」

 キリトは違和感があったからだ。

 あの男………≪ドラゴ≫について。

 今ドラゴは、リーファに色々と聞いている。その後姿……横姿。

――……何故だろうか?

 見れば見るほど違和感が……拭えない。《彼》の輪郭がぼやけてきて……アイツの姿に被って見えてしまう。その容姿自体は、≪アレ≫とは違うゲームだから、違うのは当然だろう。この≪ALO≫でのアバター設定はシステムが自動的に設定するのだから。
 
 だが……、何度見ても……どう感じても……この雰囲気はやっぱり……。

「ぱぱ……」

 この時、ポケットからユイがキリトの顔を覗き込んでいた。

「……パパも想ったと思います。あの人……、≪お兄さん≫にそっくりです」

 ユイがはっきりと自分が思っている疑問を口に出していた。

 ユイが言っている≪お兄さん≫とは……、キリトの親友で。……そして 玲奈の恋人。明日奈と同じくずっと……ずっと探している自分の親友だ。それに、彼なら今の明日奈の現状を……解析できるかもしれないと言う事も思っていた。淡い期待を抱いて、彼の事もずっと探していた。彼は、無事だ。きっと無事。約束を違える男じゃない。

 最後にレイナに言っていたあの言葉。

 それを違える男じゃないと強く信じていた事もあったのだ。だけど……、彼は現実世界でも行方不明となっている。

 この2ヶ月間……、玲奈もそうだけど 自分自身も出来る範囲で探した。SAO生還者(サバイバー)として、開発関係の人達に協力を仰ぎながら。……だが、当初、あの男が言っていた通りだったんだ。

 そして、明日奈の病室に来ていたあの男の言葉も頭を過ぎっていた。
 だが、決して認めないし納得もしていない。

「……私も一目見てから、ずっと気になってました。そして、気になって……気になって、あの人を見てみたら データIDが、その構成がお兄さんのものだって解ったんです。でも……」

 ユイは少し暗い表情をする。

「ドラゴさんが、お兄さんなら……リュウキお兄さんなら……、私達に気づかないとは思えないんです。……どうしても。お兄さんは、私よりも……ずっと、ずっと鋭い≪眼≫を持ってました。……何よりもお兄さんとても優しかったですから。私たちの事を知らないふりするなんて……。パパの名前、だけじゃなく、私の容姿はあの世界のと変わってませんから。それに、目も合いました。……だから、知らないふりをするなんてどうしても……」

 容姿が違うのはキリトだけだ。
 ユイはあの時の姿をそのまま小さくしただけ、それに名前も変えてない。

 そして、ユイはもう一度彼の事を見た。

 ただ、視線を向けるのだけではなく……、そのデータを再び見てみた。IDデータを、かつての記憶……記録と照らし合わせたのだ。……そして、確信した。

「……このデータは、間違いなく確かにお兄さんのものです。お兄さんのナーヴギアの情報と一致します」

 ユイのその言葉にキリトは驚きを隠せない。ユイがそう言う以上は間違いないのだから。あの男……ドラゴこそが ずっと探していたリュウキなのだと。

「な、なら! 直ぐに確かめてみる価値はあるじゃないか……! アイツがもし、リュウキだったら……!」

 キリトは急ぎ足でそう答えた。

――……そのキリトの脳裏に浮かぶのは玲奈の憔悴しきったような表情。

 それをキリトは見たから、自分のことの様に見ていたから……。その境遇は同じ。……いや、明日奈は目を覚ましてはいないけれど、生きている。

 でも、リュウキは、隼人は違ったのだ

 生きているのか、死んでいるのかさえ判らないんだ。いや、皆信じている。絶対に生きていると。
だけど……それでも、玲奈は……。

 キリトは呼びかけようと手を伸ばしたが、ユイがポケットから飛び出てキリトの指先を?んだ。

「パパっ! 待ってください! ……ナーヴギアのメモリをアミュスフィアに搭載すれば、お兄さんのデータでプレイする事は十分に可能です。……私も向こうで装着しているのがお兄さんだと言うのはわかりません……。それに、さっき言ったとおり……やっぱり、リュウキお兄さんなら、私達の事を知らない振りするなんて考えられません……」

 ユイは悲しそうな表情をしていた。
 あの時、SAOで彼に撫でられた感触は今でもついこの間の事かの様に鮮明に残っている。少し無愛想だけれど……とても笑顔が素敵で……優しくて。
 ユイにとってパパであるキリトと同じ位大好きな存在なんだ。

 だって、《お兄さん》……だから。

 だからこそ、ユイはとても寂しそうな表情をしていた。

「ッ……」

 キリトは伸ばした手を……ゆっくりと下げた。

「……わかった。一先ず様子を見てみるよ」
「それが良いと想います……」

 ユイは、キリトの言葉にそう返すが……やはり内心では直ぐにでも聞いてみたい。リュウキのIDを使う以上は、かなりの確率でリュウキに近い人がプレイしている可能性が高いんだから。

 でも……、逆に怖くて聞けないんだ。

 希望は奪われたときに……絶望に変わる。……体から一気に力が抜ける様に。100%じゃない。万が一本人かもしれない。自分達に気づいていないだけなのかもしれない。

 でも……。怖いんだ。

 ……絶望に変わることが何よりも。ユイは、その事を誰よりも知っている。MHCP(メンタルヘルス・カウンセリング・プログラム)である自分はよく解ってる。
 ……自分自身はキリトの娘である事を強く思っているから、プログラムなんて思いたくないけれど。それでも……様々な感情のデータからよく解るんだ。だから……ユイは、キリトを止めたんだ。
苦しむキリトを見たくないから。
 
 ……今のドラゴは、リュウキ本人だって確信がもてないから。





 リーファは、ある程度のレクチャーを施した。

 このゲームでは目玉の飛行。フライトエンジン搭載の件も。
 ドラゴは、それを聞き初めこそはコントローラーを構える様に飛ぶ初心者のやり方でしていたが、随意飛行リーファが教えてからはモノの数秒で自分のものにした。その姿に、リーファは驚いていたが、あの出鱈目な戦闘能力を目の当たりにしてるから……さきほどまでの驚きは無かったようだ。

「あれ? なんで、2人は補助コントローラなしで飛べるの?」

 キリトは、落ち着きを取り戻し、傍に近づいてそう聞く。まだ……諦めたわけじゃないが、確信を持てるまでは、触れない事を自分の中で決めたのだ。だから……今は純粋に疑問に思った事を聞いていた。

「あ、ああ。そっか、キミも初心者だったんだね。えっとね……」

 リーファも、キリトの傍へと向かう。

「じゃあ、ドラゴ君は暫く練習しててよ」
「ああ、判った。教えてくれてありがとう」

 ドラゴは、礼を言うとそのまま低空飛行を続けていた。
 速度を上げてみたいが……、飛行時間が存在するし、このまま使い切るわけには行かないからだ。

「だが…… 皆が夢中になる理由が判るな、これは……」

 ドラゴは背面飛行をして、目をつむった。体に羽が生えて、空を自由に飛びまわる。それが、これだけ気持いい事なのか、とドラゴは、表情を緩めていた。

 そして……そんな時だった。


「うわああああぁぁぁぁぁっ――――」


 突然、叫び声が聞こえたと思えば……。
 あの黒い彼は、まるでロケットの様に真上へと飛び出していたのだ。ドラゴは、片目を開け、それを見た。

「………なるほど、これが所謂、『たーまやー』と言うヤツか」

 ドラゴは見上げるとそう呟く。
 随分楽観的だけど実際なら死んじゃう高さだよ……? 苦笑

 教えていたリーファは、ナビゲート・ピクシーのユイと顔を見合わせて……。

「やばっ!?」
「パパー!!」

 2人同時に慌てて飛び立って後を追っていた。

「やれやれ……、オレも練習がてら、ついてくか」

 ドラゴも2人の後を追った。

 樹海を脱し、ぐるりと夜空を視渡すと、やがて金色の月に影を刻みながら右へ左へとふらふら移動する姿を見つけた。


「わああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………とっ、止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 そして、情けない悲鳴が広い空に響き渡った……。

「「……ぷっ!」」

 再び顔を見合わせていたリーファとユイは同時に噴出した。

「あははははははは!!!」
「ご、ごめんなさいっパパ!面白いです~~~!!」

 並んでホバリングしたまま、おなかを抱えて笑っていた。

「まぁ……確かに」

 ドラゴも2人の傍に来て笑っていた。

「わぉ! 凄いじゃない! もう、そこまでマスターしたんだ?」
「すごいですー ドラゴさん!」

 ユイとリーファは笑いながらも、いつの間にか付いて来ていたドラゴのフライトに驚きながらそして拍手もしていた。ドラゴは、そこまで面向かって言われたら、流石に恥ずかしいのか、頭を掻きながらそっぽ向いていた。



 そして、キリトがフライトに悪戦苦闘している時、ドラゴは暫くリーファに色々と聞いていた。


 この世界でのゲームのプレイの仕方は全く問題ないだろう。
 先ほどの装備からは恐らくは熟練者の位置にいるであろう男達を手玉にとって一蹴したんだから。だから、リーファはこの世界の成り立ち、そして目的を簡単にではあるがレクチャーしていた。

「……成程。あの世界樹に。在り来たりな通り名だが色々と面倒そうだな」

 ドラゴは、この世界の何処にいても視界に捉えられる大きさの巨大な樹木を見ながらそう呟く。

 あの樹の頂上に登ること。 それがこのALOのグランド・クエストだと言う事。

 ただ……それが難しい。
 鬼神の様に強く無限と感じる程の数のガーディアンが守護しているとの事だった。今だに攻略の糸口も見つけられてないと言う事。こう言うタイプのRPGでは、そう簡単にはクリア出来ないのが相場だ。
初期段階からゴールが明確に存在し、そこに行く事事態はそこまで難しくない以上は。

 ……ゴールする為の試練が難関だと言う事が。

「そっ、ほんっと まるで理不尽なんだから。ガーディアンが飛んでくる量も量だし。攻撃してくるのだって近距離・遠距離……バランスよく攻めてくる。 こっちが離れて魔法をしようにも距離つめられてグサリ。それならばと接近戦したところで……、今度は放たれた弓やら魔法やらであっさり……、ここまで来たら、やるだけ無駄って感じになってる」

 リーファは肩を落としながらそう答えていた。

「何か重要なクエストを逃している可能性が高いな……、フラグを立てていないとか」

 ドラゴは腕を組みそう考える。

「熟練者達が誰も到達できない以上はその可能性が濃厚だろう。或いはキーアイテムの存在も捨てがたい。重要クエスト以外にもな」
「ドラゴ君、解ってるじゃん。多分それアタリ!だから、皆、躍起になって探ってるよ」

 リーファも頷いていた。

 そうこうしている内に、キリトは何とか止まる事ができて、ユイと共にこちらへと戻ってきていた。
 その後、暫くキリトは飛行訓練を続ける。

 その訓練に付き合っていたリーファはずっと無軌道に飛び回るキリトの襟首を捕まえつつフォローをし、随意飛行のコツを伝授した。キリトは、初心者にしては中々筋が良い方らしく、10分ほどのレクチャーでどうにか自由に飛べるようになっていた。

「おお……、これは……これはいいな!」

 キリトは、浅海やループを繰り返しながら大声で叫んでいた。拳も突き上げている様だ。ドラゴは、ややため息を吐いていたが。

「はしゃぎ過ぎだ……、と言いたい所だが、これは素直に同意だな」

 ホバリングをしながらキリトの練習風景を見ていたリュウキはそう言っていた。

「そ~でしょ!」

 リーファも笑いながら返す。でも、……リーファは他にも思った事もある。それは隣にいるドラゴの事。

「でもアンタ……パッと見、ものすっごい冷めてるっと言うか……、飛べてる感動無いの? これって、人類がずっと夢見ていた事なんだよ~?この大空を羽ばたく事っ! 昔の歌でもあったでしょ? えっと~、翼を……なんとか、って言う歌」

 リーファは脇腹を肘で突きながらそう言う。それを聞いたドラゴは。

「……ん、無いなんていってないぞ?素直に同意って言わなかったか?」

 ……少し戸惑いながらそう返していた。自分としては、喜んでいるつもりだからだ。勿論、このゲームの世界の自分としてだが。

「い~や~。可愛い顔してるのに、表情に出ないな~って思って。やっぱアンタって見方変えれば女の子に見えない? 普段そう言われない!? 気を付けないと、男の人に言い寄られちゃうよ?」
「ッッ!!」

 リーファのその言葉を聞いて、ドラゴは慌てた様子でそっぽ向いた。傍から見ても解る……。拗ねちゃった。 

「あははっ! ゴメンゴメン! 冗談だよ」

 リーファは笑いながらそう言っていた。

「……言ってるだろ、オレは男だ。それに、リーファは冗談言ってる様に見えない」

 ドラゴはバツが悪そうに返していた。
 そんな笑いながら言っても説得力に欠けるというものだ。

「あははは~~」

 リーファはその仕草の一つ一つが本当に可愛くて……キリトのあの珍妙な飛行を見た時くらい笑っていた。そんな陽気な声がこの森に木霊していたのだが……。

 そんな微笑ましくも思えるやり取り……全く笑えないのがキリトとユイだった。……そう、その姿を見れば見るほどに、被るのだ。

 あの時の光景。

 こことは違う世界であったあの光景と。そう、アイツ(・・・)もこんな感じだった。

 あの時は、リズだったり、レイナだったり、あの世界の女性プレイヤー達だったり。

 そして、その男は……。

「ッ……」

 キリトはゆっくりと2人に近づいた。

「ぱぱ……」

 ユイはこの時ばかりは止めなかった。……そもそも、止める理由がもうないんだ。もし……リュウキじゃなければ、キリトは落胆してしまうだろう。ユイは、そんなキリトを、パパの姿を見たくない。それに……。

(私も……怖いのかもしれません……。そう凄く……怖いんです)

 ユイは、そうも思っていたのだ。あの世界で出会ったかけがえの無い存在だったから。
AIである筈の自分が……。……いや、もう家族。皆は家族。だからこそ……怖いんだと思える。

(お兄さん……)
 
 ユイは うっすらと目に涙を浮かべていた。……心が、システムが崩壊していた時、暖かさをくれたあの時を。

 頭を撫でてくれたあの時を。……必死に助けてくれて、また パパであるキリトに巡り合わせてくれた事を。

 ユイは、あの世界での、……たった数日だったけれど、鮮明に覚えている思い出を思い浮かべていた。

 そして、願う。
 キリトの、自分のパパの通りだと、あの人が……あの優しかったお兄さんだと願っていた。






「あはは……、やー笑った笑った。うん、そろそろ行かない?この位のお礼じゃ私としては足りないって思うし、まだ伝えきれてない事もあるし……、何より もうこの中立地帯からさっさと出たいからね」

 リーファは 笑顔のままそう答えた。楽しいことは楽しいんだけど、こんな場所にいたらまた、面倒な事に巻き込まれかねないからだ。……恐ろしく強い2人もいるが、さっき殺した2人や残った1人が大量のメンバーを、魔法使いを合わせた集団で連れてきたとしたら、流石に無理だろうと思えるから。
 潔く帰ったけど、何を思っているかは判らない。

「そうだな。……ん? キリト?」

 ドラゴに後ろに来たのはキリトだった。その表情は何処か思いつめている様な表情。

「どうかしたのか?」
「い、いや……そのっ……」

 キリトは聞こう、言おうとしていたが……、喉に小石が引っかかったようになって、言葉が出なかった。

「どーしたの?」

 リーファもキリトの表情から、何か思ったのか……、そう聞いていた。だけど、ここは妖精の世界。
ゲームの世界だ。だから、深刻な事だとは思えなかった。
 それに、キリトに限ってそれは無い、と思える。お気楽な男だって思っているから。

「いや……何でもない。中立地帯からシルフ領までは結構遠いのか?って聞きたくてな」
「……それは、オレじゃなく、リーファだろう?」

 聞く相手を間違えている、とドラゴは苦言を言っていた。このリーファと言う少女の種族はシルフなのだから。

「んーとね、そんなに距離は無いよ。ここから真っ直ぐ飛んだら、直ぐに判ると思うけど、光のタワーが伸びてるんだ。そこが、シルフ領の首都《スイルベーン》だよ。歩いていくなら、確かに距離はあるけど、あたしの飛翔力も大分回復してるし、皆もそんなに飛んでないから、まだ制限時間も大丈夫だと思うし」

 リーファは、輝きが戻っている翅を軽く動かしながらそう言う。そして、一度翅をたたみ、念押しをする様に聞く。

「もう一回聞くけど、本当に行くの? さっき、説明したけど街の圏内じゃ君達はシルフを攻撃できないけど、逆はアリなんだよ?」
「問題なし。リーファを信頼してるしな? そんな気構え無くてもいいさ。いざとなったら、逃げるから」
「同じく。……この世界を視て回りたい、と言ったしな」

 ドラゴは、そっと自身の側頭部に触れた。それは、頭を掻くような仕草ではない。

「ん~、あたしを信頼してくれるのは嬉しいけど、本当にどうなっても知らないからね? 恨まないでよ~、やられちゃっても」

 リーファはわざとらしく、両手を合わせた。そう、まるで拝むように……。

「早速殺さないでくれよ……」

 キリトは、苦笑いをし、そしてつられてリーファも笑う。ただ、ドラゴだけは、じっとこの世界の空を見つめていた。

 そんな時、ユイがふわりとドラゴの前に来た。

 キリトとリーファは気づいていないようだ。

「この世界を視るですか? ドラゴさん」
「ん? ああ、そうだよ」

 ニコリと笑ってそう返すドラゴ。
 熟練プレイヤーであるなら、このユイの高性能AIを目撃したら、リーファの様に驚くと思われるが、ドラゴは初心者だからそうでもないらしい。……でも、感情豊かなユイを見れば、少なからず思うところがあってもいい、って思えるけど、ドラゴはそんな感じは全くない。

「……ドラゴさんは、私を。……その、視て、何か思わないんですか?その……リーファさんの様に驚いたり……」

 ユイは思い切ってそう聞いてみた。
 お兄さんは、あの世界では、自分の事を、壊れていた自分のことを視破ったから。殆ど答えを出していたから。

 それを聞いたドラゴは軽く笑う。

「ん。……感情豊かで良い。感情模倣機能もあると思うが、正直それ以上だと感じる。……それに優秀なナビゲート・ピクシーだ。それくらいかな」

 そして、軽く指先でユイの頭を撫でると。

「……オレには、人間にしか視えないよ。ユイは、『キリトの娘』 なんだろう?」
「あっ……」

 ドラゴの言葉を聞いて、思わず涙が出そうになったのを必死に堪えようとしたユイ。だって、この雰囲気は……、やっぱり と思わずにいられなかったから。でも、気配を匂わせても……、自分たちの事を判らなかったから。

 悲しい気持ち。それはこの世界で、この世界では 感情を隠す事は出来ない。

 だから、誤魔化すようにドラゴの周囲をひゅんひゅんと飛んで。

「……はいっ!ありがとうございます。ドラゴさん! それに、変な事聞いちゃって御免なさい!」

 そう言うと、ユイは、キリトのポケットの中へと戻っていった。ドラゴはその姿を笑いながら見つめていた。



「……ユイ」
「ぱぱ……」

 ユイは、涙目でキリトの顔を見た。そして、首を左右に振る。


――……あの人は……違うと思う。


 違うって思う。それが目だけで伝わった。
 思うと付け足したのは、100%違うとは思いたくなかったからだ。だけど……、キリトは聴く事をもうやめていた。


 少なくとも今は……。





 そして、ドラゴは改めてユイの事を考えていた。

「……これまで、あれほどのAIは……視たこ……とっ!!」
“ザザッ……!!”

 考えていたその時だ。

 一瞬景色が歪みだした。
 そして、微かにだけど……耳元で声が聞こえてきた。


『■■■■さんは、……おにぃ……凄い……す。そ…、優し……眼は、何でも……し、なん……ね』


 微かに、そして所々にノイズの様な雑音が入り、話の全容はつかめない。でも、この声は……あの少女のモノの気がする。


「……っと……うぶ?」


 ドラゴは、必死に考える。
 この世界では、現実のあの世界程の痛みはこない。……そして、真に危険信号がきたら、自動的にログアウトする仕様になっているから、安全面では万全だ。そして、その信号は綺堂にも伝わる様にセッティングもしているから。

 だから……、絶対にこの違和感を、そして失われた記憶の手がかりを探し出してみせる。ドラゴは、決意をする。



 それが、自分にとっての最終目的なのだから。
 
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