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俺と乞食とその他諸々の日常

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二十三話:宿舎と日常

 ―――無限書庫。
 管理局が創設されるよりも前から存在していた巨大な書庫。
 無重力に保たれた書庫内には数多の世界で発行された有形書籍が収集され続けている。
 確認されている最古の書籍はおよそ6500年前のもの。
 連綿と連なる世界の歴史を収めたその書庫は「世界の記憶が眠る場所」とも言われている。

「つまり、全世界で発行された薄い本があるということですね? はやてさん」
「そや、ごっついハードな物からアブノーマルな物までより取り見取りや」
「無限書庫はそんないやらしい場所じゃありません!」

 管理局本部の宿舎で明日は薄い本探しに勤しもうと思ってはやてさんと話していたら何故かヴィヴィオちゃんに真っ赤な顔で怒られてしまった。
 幼女にはまだ早かったか……。コロナちゃんは薄い本という単語に過剰に反応しているが何か身に覚えでもあるのだろうか?

「しかしだな、ヴィヴィオちゃん。本というのは何も歴史を伝えるためだけにあるんじゃない。その時に生きた人々の文化を伝えるという重要な役目があるんだ」
「ダメなものはダメです! そんな物を探すなら連れて行ってあげませんよ!」
「ははは、冗談だ。だからそんなに怒らないでくれ」

 頬を膨らませてプンプンと効果音が付きそうな表情のヴィヴィオちゃんの頭を撫でる。
 柔らかい金色の髪と子供特有の体温の高さが気持ちいい。

「ヴィヴィオさん……?」
「キャッ! ア、アインハルトさん、これは違うんです! リヒターさんが無理やり!」
「確かに俺からだがその言い方だと凄まじい悪人に聞こえるな」

 壁の横からぬっと顔を出したアインハルトちゃんの姿にヴィヴィオちゃんが怖がって震えた声を出す。
 因みに俺も若干ハイライトの消えたアインハルトちゃんが怖い。

「優しいのは良い事ですが誰にでもふりまくのはいけません」
「分かった、分かったからその魔力溜めた拳を下ろしてくれ」
「……私も撫でて欲しいです」

 アインハルトちゃんの涙目上目遣いの攻撃が俺のハートを射抜く。
 仕方がないのでよしよしと頭を撫でてあげる。
 気持ちよさそうに猫のように目を細め、頭を俺の手にぐりぐりと押し付けてくるアインハルトちゃん。
 何だ、この可愛すぎる生き物は? 思わずクラリと来てしまいそうだ。

「さ、満足したんなら部屋に戻りーや。子供はもう寝る時間やで」
『はーい!』
「……分かりました」
「おやすみ、二人共」

 はやてさんの言葉で子供達は部屋に戻っていく。
 まあ、子供達は部屋も一緒だから仲良くお話でもするだろうけど。
 因みに俺の部屋は男一人なので勿論一人部屋だ。

「あ、リヒター君はちょいとお話があるから待ってな」
「こんなところにいられるか、俺は部屋に戻る!」
「そして翌朝、寝室で黒焦げで横たわるリヒター君が発見されたとさ。死亡フラグ回収乙やでー」

 俺も部屋に戻ろうとしたところではやてさんに呼び止められる。
 俺もまだ死にたくはないのでその場に止まることにする。

「それで話ってなんですか。告白なら喜んで」
「はっはっは、お姉さん独身やけどそこまで飢えとらんで。それとそないなこと言っとったらリヒター君の命が危ないんやないの?」
「確かに」

 一瞬ジークとアインハルトちゃんの幻影が見えたような気がするが気のせいだろう。

「それで結局何なんですか?」
「うん、まあ単刀直入に言うと君は古代ベルカとなんか関係あるんやないの?」

 真剣な顔で尋ねられ、辺りに一触即発の空気が流れる……ということはなく、あくまでもホンワカとした空気で柔らかい表情でそう尋ねられる。
 そもそも、どうしてそんな事を聞いてきたのかが分からない。
 俺の疑問を察したのかはやてさんが手を軽く振りながら答えてくれる。

「いやな、君の回りは聖王、覇王、雷帝、それにエレミアとおるやろ? やけ、なんか不思議な縁があるんやないかってーな」
「その理屈だとミカヤが一番関わりがあるんじゃないですか?」
「ミカヤんが特に関係ないのは知っとるんよ。だから後は君だけってわけや」

 ちゃめっけたっぷりに片目を瞑るはやてさんに俺はまるで刑事ドラマで追い詰められる犯人の様な気持ちになる。
 ついでなので俺もノリのために悪役っぽい甲高い笑い声をあげてみる。

「ふははは! ばれたのなら名乗ろう。俺の真の名前は聖王諸国に滅ぼされたノルマン王国、正統後継者―――リヒテン・(ヴォート)・ノルマンだ! 我が身は復讐の為にある!」

「そんな大きな声で中二発言したら周りに迷惑やでー」
「すいません、ちょっと調子乗っていました。後、冷静になると凄く恥ずかしいです」
「ええんやで。誰しも一度は通る道や」
 
 中二発言をした俺を優しい目で見守ってくれるはやてさん。流石はおかん。
 恥ずかしさでつい涙が零れてもそれを見逃してくれる包容力が素敵です。

「ま、そんなごろごろとベルカの末裔がおるわけないよな。さっきのは忘れてええで。ほな、おやすみ」
「おやすみなさい、はやてさん」

 はやてさんに見送られて自分の部屋に戻る。
 特に何も持ってきていないのですることがない。
 寝坊助という汚名返上の生活にも飽きてきたころだ。
 折角なのだから久しぶりに惰眠をむさぼるとしよう。
 そう思っていた矢先にノックの音が響く。
 少しムッとしたもののそれを表に出さないようにドアを開けて来客を確認する。

「なんだ、ジークか。こんな時間にどうしたんだ?」
「……あ、ああ、会いとうな、な、なったから、来た」
「………やけにぎこちないな」
「と、とと、遠回しに言うたほうが良いなら善処するわ」

 顔を真っ赤にしながらいかにもさっき覚えてきましたと言わんばかりの棒読みセリフを噛みまくりながら告げるジーク。
 恐らくは俺が何を言っているのかも分かっていないんだろう。
 ふむ……ここは少し乗ってやるべきか?

「ジーク、お前何か変わったか?」
「変わったと感じるならそれはリヒターのせいや」
「確かに色々な意味で俺のせいだな……」

 何故か、この台詞だけは真顔で答えてきたジーク。恐らくは冗談抜きの本音なのだろう。
 少し、その言葉の裏に恨みが籠っているような気もするが気のせいだろう。

「それはそうとお前も女なんだからこんな時間に男の家に来るな」
「……? いつものことやん。それにリ、リ、リヒターだから来とるんよ」
「俺だからと言うと一体どういう意味なんだ?」

 内心で少し悪い笑みを浮かべながらわざと追い込むような台詞を言ってやる。
 すると、あうあうと口をせわしなく動かしてせわしなく指を動かし始める。
 もはや、クーデレのクーの字は無い。

「す……す………」
「酢? 何だ、地球食でも食べたいのか?」
「ちゃ、ちゃう。す……す…す!」

 何やら頭から湯気が出始め真っ赤な状態でオーバーヒートを起こし始めるジークをさらにからかうために俺はジークのおでこに自分のでこを合わせて熱を計る。
さらに顔が赤くなるジーク。目も右往左往して落ち着かない。
 ジークは混乱している。

「顔が真っ赤じゃないか風邪でも引いたんじゃないか?」

 わざと吐息を吹きかける様に声を掛ける。恐らくジークの内心は『たった二文字や。それを口にするだけや。気張れウチ! て!? や、やっぱり、あかんわこれ!』といった感じだろう。
しかし、何事もやりすぎは禁物らしい。

「ふにゃ~…………」

 猫のような声を出してパタンと倒れ落ちるジークに思わず驚いてしまう。
 慌てて抱え起こすがその顔は何故か幸せそうだった。
 俺は心配して損した気持ちになり溜息を一つ吐き何気なしに幸せそうに眠るジークの頬を撫で微笑みかける。



「俺も好きだぞ、ジーク………なんてな」



 フッと笑い、そのままお姫様抱っこでジークをベッドまで運ぶ。
 優しく寝かせ毛布を掛けて俺は近くの椅子に座り寝顔を見ながらのんびりと時間を潰す。
 どれくらいか時間が経ったかまだ起きないのでゆっくりと息を吐く。


「まったく……困ったお姫様だ。まあ、乞食な姫というのもおかしな話か」


 一人で冗談を言っているともぞもぞと布団からジークが這い出てきた。
 寝ぼけ眼で辺りを見渡しているあたり状況が分かっていないのだろう。

「リヒター…?」
「ジーク、起きたならさっさと部屋に戻れ。俺が寝られん」
「はわ! そやった、はよ帰らんとヴィクターに心配かけるわ!」
「おい、そんな勢い良く立ったら危な―――」

 この時に起こったことを説明するとだ。
 起き上がろうとするもふらついて倒れかけるジーク。
 慌てて腕を伸ばす俺。
 何かを掴もうとして腕を伸ばすジーク。
 掴まれる俺の腕。
 ジークに引っ張られて一緒に倒れ込む俺。
 俺の下敷きにされるジーク。
 ジークがパニックを起こしてさらに絡まる俺達。

「夜分遅くに失礼しますわ、リヒター。ジークを見かけませんでした……か……」

 しっかりとノックをした後に入って来るヴィクター。
 ベッドの上で絡み合う俺とジーク。
 無言でセットアップするヴィクター。
 
 悲報、リヒター・ノーマン終了のお知らせ。


「小便はすみましたか? 聖王へのお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はよろしくて?」


「話せばわかる」
「問答無用ですわ!」

 その後ジークが助けてくれなかったら俺は間違いなく死亡フラグを回収していただろう。
 フラグはむやみやたらに建てる物じゃないな、まったく。
 
 

 
後書き
おまけ~雷帝さん√~


「また、他の女にデレデレして…ッ! 私というものがありながらなんですの!」
「ギブギブ! それ以上は俺の右腕が電熱で真っ赤に燃える!」
「全くあなたという人は……」

 ふん、と如何にもご機嫌斜めな様子で顔を逸らすお嬢様にリヒターは軽く痛む右腕を振りながら苦笑いする。
 傍から見ればDVの現場のようであるが自分が悪い事は分かっているので文句は言わない。
 別に彼がドMという事実は存在しない。

「別にデレデレはしていたわけじゃないんだがな」
「周りにいつも女性を侍らしているようにしか見えませんわ」
「まあ、そのせいでお前に嫉妬させているのは悪いとは思っているんだが」
「なっ! べ、別にわたくしは嫉妬なんかしていませんわ! ただ、男性が多くの女性と共にいるのは不純だと思っただけですわ」
「そ、そうか」

 明らかなツンデレ発言に思わず言葉が詰まってしまうリヒターだったがヴィクターはそんなことには気づかない。
 そればかりか鬱憤がたまった居たのか堰を切ったように話し始める。

「大体、あなたは一人暮らしの身で女性を夜遅くに家へ向かえるという行動がおかしいと思わないんですの!?」
「まあ、その通りだが……それだとお前もダメなんじゃないか?」
「わ、わたくしは構いませんのよ! ふ、深い意味はありませんけど」

 ほんのりと頬を染めて顔を逸らす仕草がやけに似合っていて彼は思わずクラリと来てしまう。
 しかし、彼女はそれを話しを真面目に聞いていないと思ってさらに語気を強めて語り続ける。


「そもそも、あなたはわたくしの彼氏なのですから、わたくしだけを見ていればいいんですの! だから…その…わたくしもあなたのことだけを見ていますからッ…」


 彼女は表には出そうとしないが彼にベタ惚れである。まあ、彼女が表に出そうとしないせいでこうしてツンデレ発言となり出てくるのだが。
 さらに誰がどう聞いても彼に惚れているが分かるのは顔を赤らめてモジモジと指を弄んでいることからも明らかだろう。


「お前と付き合えて心底良かったと思うよ」
「当然ですわ。あなたのような男性に付き合ってあげる物好きはわたくしぐらいしかいなんですもの」
「……全くだ」

 彼は彼女のご機嫌を取るために彼女を抱き寄せる。
 彼女は嫌がる声を出すが体は全くというほど動こうとはしていない。
 それどころか彼から離れないようにしているようだ。
 彼はそのことに愛しさを感じながら甘く囁きかける。

「愛しているよ、ヴィクター。それで俺の事は?」
「あなたのことを好きか嫌いかと言われましたら……その嫌いじゃないですわ」
「ありがとうな」

 相変わらず素直じゃないと思いながら彼は彼女の頬に口づけを一つ落とすのだった。
 その後、真っ赤になった彼女に黒焦げにされかけたのは余談だろう。







覇王:[壁]∧〈・〉)お兄ちゃん……?
殲撃:[壁]Ξ〈・〉)リヒター ……
 侍:[壁]∨〈・〉)ニタァ…… 
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