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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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23部分:第二十三章


第二十三章

 闇夜の中の庭は奇麗に手入れされていた。やはりそこも何か地上絵の如き模様が描かれている。そしてその中にはギリシアの神々の像も置かれていた。
「ここですね」
「ええ、ここね」
 沙耶香は速水の言葉に頷いて応えたのだった。
「ここに彼女がいるわ」
「おそらく中に」
「それは間違いないわ。ほら」
 さらに宮殿を指し示したのだった。
「見て」
「はい、灯りがですね」
「照っているわ。それも全ての部屋に」
「私達を歓迎してくれるということですか」
「わかっているのね」
 今度は微笑を浮かべた沙耶香であった。
「向こうも」
「時間通りですしね」
「私が時間を護ると思っていたのかしら」
「少なくとも私についてはそうかと」
 速水もまた沙耶香に自分の顔を向けて微笑んでみせてきた。
「私は時間通りに来るとわかっていて下さっているかと」
「信頼されているということね」
「いいことです」
 それを素直に喜んでみせてもいる言葉だった。
「それがあるというのは」
「そうね。ただ」
 ふと言葉の調子を変えてきた沙耶香だった。その言葉は。
「私が絶対に来ると思うのはね」
「それは間違いだというのですね」
「そのつもりはなかったわ」
 これは昼に言った通りである。
「全くね」
「ですが実際には時間通りに来られましたね」
「気が向いたのよ」
 そのせいであるというのだった。
「それで来たけれど」
「はい、それでは」
「来たからには仕方がないわ。行くべきね」
「既にあの方はそのつもりですし」
「ああしたところは相変わらずね」
 間違いなく宮殿の中にいる依子に対しての言葉である。
「昔から」
「似た者同士でしょうか」
 今の沙耶香の言葉を受けてこんなことを言った速水だった。
「私達は」
「私はわかるけれど貴方もだというのね」
「これで強引なところがありまして」
 自分でそうだというのであった。口元が微笑んだままである。
「それでなのです」
「そうかしら。貴方はどちらかというと引く方だと思うけれど」
「自分ではそう思っていますが」
「そうなの。まあそれならそれでいいわ」
「左様ですか」
「貴方自身がそう思っているのなら」
 それでいいというのであった。
「それでね。私がそれについて言う資格も権利もないし」
「だからなのですね」
「ええ。それにしても」
 二人は宮殿に入る途中の中央の白く大きな道を進んでいた。その左右にそれぞれ黒薔薇で彩られたその模様があった。そこに描かれているものは。
「成程、らしいわね」
「全くです」
 速水は今の沙耶香の言葉に頷いた。
「陰陽道の星とは」
「ええ」
 それは五つのあの星であった。それが描かれているのだった。
 しかしであった。その星はただの陰陽道の星ではなかった。見るとであった。
「逆になっているというところが」
「裏の陰陽道の星ね」
 それであるというのだ。表のそれとは違い逆になっている。そこに大きな謎があるのであった。
「それを飾るということが」
「他にも様々な紋章を描いていますが」
「すべて左道ね」
 それだというのであった。
 つまり日本でいう黒魔術、しかも己の欲望やそういったものの為に使われる許される種類のものではないものだというのである。まさに依子の陰陽道だった。
 
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