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Tales Of The Abyss 〜Another story〜

作者:じーくw
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#24 六神将・鮮血のアッシュ



 タルタロス内で美しい旋律が響き渡る。



「―――――――――――――――――――――― …♪♪♪」



 その旋律の正体はティアの譜歌だった。
 ティアの譜歌で艦橋付近にいた兵士は全て眠りにつき、無力化していった為、戦闘らしい戦闘は全くなく、そして構造を完璧に把握しているジェイドの案内の元、比較的簡単に目的地へと到着していた。

「ティアさんすごいですの!! キレイですの!」
「だね。……本当に綺麗な歌声だよ」

 ミュウの感想を訊き、そしてアルは、目を瞑り歌を聞き入っていた。深淵へと誘う旋律だとの事で、自分達も訊いていたら 眠ってしまうのでは? と思っていたのだけど、対象者以外は問題ないとの事、だから 訊けていたのだ。……ちょっぴり眠たくなってしまったのは仕方が無いけれど。

 そんな時、思ったことをそのまま伝えただけなのにティアは焦っていた。というか照れている様だ。

「もう! 2人とも何を言ってるの……っ!」

 だから、ティアは、歌をちょっと中断しそう慌てて言っていた。

「いや……、ほら 戦闘中も聞いていたけどやっぱり綺麗な声だって思ったから。第1譜歌、だったかな。うん。やっぱり綺麗っ」
「みゅうみゅう♪」

 ミュウも同様だった。
 ルークに何度か、『うるせえ!』って言われてたけど、今はルークは比較的大人しい様子だったから、ミュウは安全だった。


 ……その後、とりあえずティアは必死に照れ隠ししてました。殆どバレていたけれど。

















 そして目的地に続く大きな扉の前に到着し。

「さて、艦橋(ブリッジ)を取り戻します。ティアは私を手伝ってください。アルは後衛を……、つまり、出入り口の確保をお願いします」

 そう言うと、ティアと共に中へ入ろうとする。でも、もう1人ジェイドは忘れている。

「俺は?」

 そうだ。この場にルークもいるのだから。ジェイドは、悪びれる様子を一切見せず。

「ルークはアルと一緒にそこで見張りをお願いします!」

 颯爽とそう言うと今度こそ中へと入っていった。それを見たルークは。

「んだよ…… オレの剣術は見張りくらいにしか役にたたねーってことか? 頼るよ―な事言っといて」

 ルークは、自分の扱いに不満だった用だ。あの時は跪いたのに、とも思っているのだろうか。

「ま、まーまー。 ほら、ここの出入り口を確保するのも重要なことだしさ? 作戦が成功しても 出入り口、ここだけだし、待ち伏せされても厄介だからさ」

 いつもどおりアルがフォローを入れていた。ずっと、こんな感じですね。 変わってない、というより、これが形になりつつあるのだ。

「そーいや……お前… 俺と同じで記憶喪失なのに。……その、あーいう事見て……、なんとも思わないのか?」

 ルークは、渋々ここで待つ事を決めた後、聞きたかった事をアルに訊いていた。アルは、突然ルークの表情が暗く沈んでいるのを見て驚いてはいたが。

(そっか……、そうだよね。ルークは公爵の息子って言ってたし……、戦いだって、無い筈。……オレはアクゼリュスの件があったから)

 アルは理解しつつ、ルークの方を見て話す。

「さっきの事……だね」

 アルの言葉に、ルークは返事をせずただ顔を背けた。

「オレはさ……、オレの大切な人達が、暮らしている町がモンスターに襲われた時に、ちょっとあってね。 ……その時は、幸い死者は出てなかったけど、 重傷者は何人も出てたんだ。沢山、血だって流れていた。 ……それで、あまり動じなくなったのかもしれない、かな? ……でも、オレも人が人を刺すところなんて見たのは初めてだよ。ルーク。」
「ならなんで 平気な顔してんだよ! アルといいティアといい!!」

 ルークは、アルの言葉を訊いて思わずそう言っていた。まるで動じずにここまで着ていたのだから。あの後も、決して多くはなかったけれど、それなりに戦いはあった。でも、全く変わらなかったのだ。また、刺してしまうかもしれない、と全く考えていない様だったから。

「人を……、刺したんだぞ…… 相手は、魔物じゃない…… 人なんだ……」

 ルークは僅かながらに震えていた。それを訊いたアルは。

「……彼らだって、……好きで人を殺している訳じゃないと思うんだ。 ……だって、そうしないと これからもっと人の命が失われるんだから。 オレは目の前で見た。ただ……、鉱山でいつも通り仕事をしているだけの人たちを、理不尽に蹂躙するかの様に襲う魔物たちを……、アレだって、人と魔物の戦争みたいなものだ。……人と人の戦争が起これば、人が人を殺す、もっと悪化すれば、 戦士じゃない平和に暮らしていた街が戦場になるかもしれない……んだ」

 そう、それは国境付近の町 アクゼリュスでも起こりえる事だ。いや、寧ろ国境だからこそ その可能性は高いだろう。障気の問題は置いといたとしても。

「オレは、そんなのは嫌なんだ……。笑顔で暮らしていたのに、毎日、頑張ってきたのに。……そんな事になるのは」

 そう言うと、アルは俯いていた。

「………」

 ルークは、それ以上何も言い返す事はせず、ただ黙ってアルの話しを聞いていた。



 そんな時だった。


『う………うぅ…………。』


 甲板に、声が聞えてきたのだ。今にも、消え入りそうな……そんな呻き声が、


「っっ!! ルークっ! 向こうだ!」


 戦闘も起こらず、静かな場所だった。だからか、聞き取る事が出来たのだ。
 その事に、アルがいち早く気付き、駆け出した。

「って、おい! 待てよ!!」

 ルークも同様に走りだした。
 あの扉から、少しはなれたところに……1人の兵士が倒れていた、

 兵装から見ると、この軍の、マルクトの兵士だろう。つまり、ジェイドの部下。彼の周辺には、モンスターの残骸が残っていた。


 彼自身は、全身に満遍なく裂傷、貫通、……見ているだけで自分自身に激痛が走りそうな状態だった。

「ッッ!! だっ 大丈夫か!?」

 アルは、近づいて状態を確認した。口元に手を当てると、判る。僅かだが、息はあると言う事に。

「しっかりしろ! 《ファースト・エイド》」

 だから、咄嗟に治癒の譜術を使用した。

 この人の傷ははっきり言って重症を通り越して致命傷に近い。 なぜ、今生きていられるのかが不思議な程に。だから……、より高度な治癒術を掛ける為の詠唱時間ですら惜しいのだ。

 焼け石に水だと思えるが、命をつなぐ為には、これしか方法はなかったから。


 ルークはそんなアルを見ていて、

「お前……、そんなことも出来るのか」

 と驚いていた。譜術の中でも、治癒の力は難しい。素養がないと不可能だと言う事はルークも知っていたから。

「う、うん、 攻撃の譜術よりは苦手なんだけど! 無いよりはマシだから!  ルークは入り口のところへ戻っててくれ!」 
「んあ?」
「この人…… 傷が酷い。ティアさんが戻ってきたら呼んでほしいんだ、彼女の力もいるから! お願いっ、ルーク! 助ける為に!」

 そう言うと再び怪我人の治療に当たった。

「お、おお! 判った」

 そう言うとルークは元の持ち場へと戻っていった。正直、駄々をこねそうだったけれど、ルークは助けるという言葉を聴いて、身体が反応した様にも見えた。

 そして、予断を許されない状態って事はルークもよく分かっていたようだ。


「きをしっかり持って! 絶対、死ぬんじゃないぞ!」

 消え入りそうになっている息が、僅かにだが、強くなる。そして……。

「ぐっ……がはぁっ……ッ……」

 意識が戻ってきた。

「!! 大丈夫ですか!?」

 意識を取り戻したことに安堵するが、まだ油断は出来ない。苦しそうにしていえるからだ。恐らく、あまりの痛みのせいで、気を失ってしまったのだということは判るから。治癒術をしているとは言え、まだかなりの重症。……意識を取り戻した事で、痛みを思い出してしまった様だ。

「……うぐ、……す、 ……すまない」

 痛々しい姿だったが、アルは意識が戻った事と、言葉を交わす事ができて喜んだ。これなら、助かると思ったからだ。

「もうちょっとだからっ!がんばっt「うおおおお!!」っ!!!」

 そんな時だ。突然の怒号が響き渡ったのだ。
 アルは、驚いて振り返ってみると。ルークが戦っていたのが見えた。

「そんな……。ティアさんの譜歌で眠っていたはずなのに!!」


 アルは思わず拳に力が入った。普段のルークなら、大丈夫かもしれない。ライガ・クイーン相手にあれだけの戦いを見せたルークだからだ。だけど、今の精神状態では危ないのは事実だ。

 そして、倒れている兵士を再び見た。

(………まだ、予断を許されない状態、このまま、治癒をやめたら……危ない。この人を見捨てるなんて、何てできるわけが……。)

 今の状況に歯軋りをしていた、その時だ。


「おぬしは…… アル、……だな? オレに、構うな………、少年のところへ………行け!」

 
 そんな時だ。……この兵士から置いていけと言われたのだ。

「なっっ! 何を馬鹿を事をっ!  今のこんな状態で、そんな事したらっ。 それに、たったあれだけの時間の治癒術で回復なんて、殆どしない! 今やめてしまうと、死んでしまうぞ!」

 そう言うと、その兵士は 手を必死に伸ばし、アルの腕を掴んだ。どこに……、こんな力があったのだろうか……?

「あの……、少年は……… 任務を遂行する上での、最も重要な人物だ……。 失うわけには……、いかない! 俺は兵士だ…… 任務の遂行が第一……、 そして覚悟なら既に出来ている。 ……オレの、事を、想ってくれるの、なら、……行ってくれ、……後生だ。頼む」

 掴まれている腕から痛いほど感じてくる。倒れて、不甲斐無い自分に構わず行ってくれと。そしてそれを無視すればそれこそこの兵士の覚悟に対する侮辱なのだろうと。



 そんな懇願を受けた。ならば、最早 アルが取れる行動は1つしかなかった。




「………ッ! 直ぐに、直ぐに戻ってくるから。お願い! 頼むからそれまで持ちこたえてくれ!!」

 アルは、祈るようにそう言った。

「……ああ、それくらい、してみせる、さ。……行ってくれ」

 仮面をかぶっていて判らなかったが、それでも、その仮面の中の表情は笑っているように見えた。そしてアルはルークの元へと急いだ。







 ルークは、ティアの譜歌が及んでいないのだろうか、兵士の急襲を受けていた。ルークは先ほどの、人を刺した光景がルークの中で何度もフラッシュバックし、いつもの実力をまるで出しきれなかった。

「死ねェェェェエエ!!!!」

 その隙を突いて、神託の盾(オラクル)兵がルークを切り裂こうとした時だ。

「あ……、 死……?  あ!!  く……くるなァ!!!」

 ルークは、自分自身の死を感じ取った事で、漸く身体を、腕を動かす事が出来、無我夢中で剣を突き出す。

 そして……、鈍い感触が、ルークの手に残る。闇雲に放った剣は……正確に……。

「が……はぁ………」

 兵士の腹部に突き刺さったのだ。そして、壊れた人形のように倒れ……、動かなくなった。



「ひっ………、う……、うわああああああああ!」



 倒れ逝く兵士を見てルークは狂いそうになる。

「さ 刺した………人を…… オレが……、オレが 殺し……」


――……人を殺した。

 その事実がルークを苦しめようとしたその時だ。

 突如、衝撃波のよなものがルークを襲った。

 遠くから放たれたであろう、その衝撃波を受け、ルークは吹き飛ばされてしまう。

「ぐあっ!!」
「ご主人様!!」

 そして、その先を見ると、男が立っていた。剣を突き出して。

「人を殺すことが怖いなら剣なんて棄てちまいな!! この出来損ないが!!!」

 そうルークに吐き捨てていた。


「ルーク!!!」

 そこに、アルも駆けつける事が出来た。

「ああ!! 誰だ!? テメェは!!」

 その男は、乱入者を見て明らかに不快感をだした。切っ先を向けてくる。

「それはこっちのセリフだ!」
 
 ルークの前まで行き、庇うように身構えたと同時に。


「ルーク! アル!!」
「どうしました!!」


 丁度、ジェイドとティアが戻ってきた。
 しかし、その声に一瞬だが気を緩めてしまった為。

「隙ありだ!」

「くっ!!」
「うわあ!!」

 ルークとティアが、あの男の攻撃を受けてしまった。アルは何とか攻撃を躱す事が出来。

「っ! ……来いッ! 連擊の焔! 《フレア・ボム》」

 掌に拳大の大きさの炎を出し連続で放った。
 男は弾道を確実に捕らえ、剣を振り下ろす。

「ちっ! やるな……、 お前!」

 その炎を剣で斬り落とし、アルの方を見た。

「早い……っ」

 アルの詠唱は攻撃力の高いものほど詠唱時間がかかる、その為 現時点で使える術で最速の攻撃を使ったのだが、威力不足のせいか、相手の服を少し焦がした程度で終わってしまっていた。

 その上。

「う……これは……」
「アッシュ、様……」

 ティアの譜歌で眠りについていた兵士達が次々と目を覚ましていった。そしてルーク、ティアも戦闘不能の上、敵の方で倒れている。

「状況は、最悪……っ」

 人質に取られでもすれば、この場ではもう挽回は無理かもしれない。

「アッシュ――― 六神将 鮮血のアッシュ!!」

 ジェイドがそう叫んでいた。どうやら、ジェイドが知っている相手。……そんな生易しい相手じゃないと言う事も判った。

(ジェイドが無事でよかったけど、 ……この状況を打破できるか?あの男……かなりの使い手……?? だけどあの顔、ルークと……)

 アルは、この時初めて相手の顔をはっきりと見た。

「さすがは死霊使い(ネクロマンサー)殿……。しぶとくていらっしゃる……」

 その男、アッシュは笑いながらジェイドの方を見ていた。そこへ攻撃を入れようと集中していたその時だ。

「アッシュ! そのへんにしておけ! 閣下のご命令を忘れたか?」

 もう1人、後ろから、いや頭上から現れたのだ。更に敵が増えた。

「リグレットか……?」
「く!!」

 アルは、再び両腕に集中したその時。

「……妙な真似はやめておけ小僧」

 あの女、リグレットと呼ばれている女から、銃弾が頬を掠めるよう飛んできた。ワザと、外したのだろう。忠告だと言う事だ。かなりの腕前だと言う事がはっきりとした。

「ちっ 捕らえてそいつらを閉じ込めておけ!」

 邪魔をされたのに腹が立ったのか、アッシュはそのまま命令し、後ろを向いた。

「報告します! 導師イオンをタルタロス広報の森林地帯にて拘束しました!」
「アッシュ 私が行こう」

 リグレットがそう言うと、アッシュは頷いた。

「あぁ……、任せる」

 アッシュはそれだけ言うと、離れていった。

 そしてルーク・ティア・ジェイド・アルの4名は、拘束された。

 そう、拘束されたのは、4名だけだった。



 アルが助けようとしたあの兵士は、もう息を引き取っていた。



 連行される前に、あっちにいる兵士も頼むと頼み込んだのだが、隠れられていても厄介だと判断した兵士が確認に行った所、 もう冷たくなっていた。

 
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