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真田十勇士

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巻ノ七 望月六郎その十

「化けものでも倒せるわ」
「山はまた違う世じゃ」
 幸村は供の者達の話を聞きつつ述べた。
「人以外のものもよくおる」
「ですな、拙者怪は見ませんでしたが」 
 山で賊の棟梁をしていた由利の言葉だ。
「時折人を見ました」
「山の民か」
「あれは山の民というのですか」
「うむ、伝え聞くところにおるとな」
「そうした者もいますか」
「山にはな」 
 そうだとだ、幸村は由利だけでなく他の者達にも話した。
「山に生まれ山に生きておる者もおるのじゃ」
「左様ですか」
「町や村に生まれずに」
「山に生まれて山に生きる」
「そうした者もおるのですか」
「鎌之助が会った者はそれじゃ」
 山の民、山に生まれ山に生きる者達だというのだ。
「その者達は人でありじゃ」
「山の民ではないのですな」
「左様ですな」
「そうじゃ、町にも村にもおらぬ故どの家の下にもおらぬ」
 その者達はというのだ。
「しかしあの者達の暮らしがあるのじゃ」
「山の中においてですか」
「そうじゃ、あの者達のな」
「それがしは見ませんでしたが」
 山に篭もり修行をしていた海野の言葉だ。
「確かに山で暮らそうと思えば暮らせます」
「そうじゃな」
「山姥の様に」
「山姥は怪じゃが山の民を間違えるでない」
 その山姥と、というのだ。
「そのことはわかっておらねばな」
「ですな、人と怪を間違えてはなりませぬ」
「決して」
「そこを間違えますと大変なことになりますな」
「実に」
「だからじゃ」
 幸村は家臣達に厳しく忠告した。
「怪がおり悪を為しているのなら成敗するのは武士の務めじゃが」
「人と怪を間違えてはならん」
「そこは、ですな」
「そういうことじゃ、また怪でもな」
 例えそうした存在であってもというのだ。
「悪を為していなければよい」
「それならですな」
「退治せずともよいのですな」
「特に」
「人と同じじゃ、人も悪を為しておらぬ者は成敗せぬであろう」
 幸村は人と怪をここでは同じものとして話した。
「それは怪も同じじゃ」
「では殿」
 幸村のその言葉を聞いてだ、望月は主に問うた。
「狒々でもですか」
「うむ、その狒々が悪さをしていれば退治するが」
「そうしたことをしていなければですな」
「別によい」
 退治せずとも、というのだ。
「それでよい」
「そうですか」
「悪を為していれば倒すがな」
「それでよいのですな」
「その者がどうかじゃ」
 人か怪かではなく、というのだ。 
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