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真田十勇士

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巻ノ七 望月六郎その八

「勝敗はつかぬ」
「同じ強さの者同士がぶつかれば」
「決着はつきませぬな」 
 穴山達も頷く、その通りだとだ。
 そして実際にだった、根津と望月は互角の勝負をしていた。
 それが一刻程経った頃にだ、お互い動きを止めて言い合った。
「これはな」
「幾らやっても勝負はつかぬな」
「我等の勝負は互角」
「まさにな」
「ではこれ以上はな」
「勝負を止めるか」
 こう言い合ってだ、そしてだった。
 二人は勝負を止めてだ、望月はあらためて根津に言った。
「御主程の者ははじめてじゃ、確か根津甚八といったな」
「左様」
「流派は何じゃ」
「それはな」
 根津は望月に応え自身の流派に己のこれまでの修行のことを話した、その最後に幸村に仕える様になった経緯も話した。
 話を最後まで聞いてだ、根津は幸村を見て言った。
「ふむ」
「こちらの方が殿じゃ」
「真田幸村殿か」
「天下一の武士となられる方じゃ」
「ふむ、確かに」
 望月は幸村、特に彼の澄んでいて尚且つ強い光を放つ目を見て述べた。
「まだお若いが相当な方じゃな」
「そうじゃろう」
「しかもどんどん大きくなられる方じゃ」
 望月は幸村を見つつこうも言った。
「御主程の者が仕えるだけはある」
「人は人を知るというからのう」
「それでじゃ、御主今は浪人じゃな」
「先程言った通りな」
「それではどうじゃ」
 あらためてだ、根津は望月に申し出た。
「このままこの橋で勝負を続けるのならそれでよいが」
「仕官じゃな」
「殿に仕える気はないか」
 こう望月に尋ねるのだった。
「どうじゃ」
「そうじゃな、わしもこれまではな」
 望月も根津のその言葉に頷いた、そしてだった。
 そのうえでだ、静かだが確かな声でこう述べた。
「織田家を離れてな」
「特に、じゃな」
「仕官しようと思わなかった、やはり仕えるならな」
 どうかとだ、彼は話すのだった。
「見事な方に仕えたい」
「己が仕えるに相応しい主にじゃな」
「そうじゃ、下らぬ方に仕えても戦に負けるだけじゃ」
 例えその戦から逃れられても負け戦に加わり厄介なことになることは変わらない、望月はそれを嫌がっているのだ。
「勝ち負けは戦の常、しかし下らぬ方の負けはな」
「無残な負けじゃな」
「いい負けをしたい、どうせ負けるならな」 
 こう言うのだった。
「よき方は負けたとしてもよい負け方をする」
「待て、殿が負けるというのか」
 清海は望月の言葉をここまで聞いて彼にむっとした顔で問うた。
「それは聞き捨てならんぞ」
「そうは言っておらぬ、問題は幸村殿が下らぬ方かどうか」
「それはもっと聞き捨てならん」
「そうじゃ、この方はさっき言ったが素晴らしき方」 
 また幸村を見つつ言うのだった。
「わしから見ても天下一の武士となられる方じゃ」
「わかっていればよいがな」
「わしも何時までもここにおるつもりはなかった」
 こうも言った望月だった。 
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