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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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11部分:第十一章


第十一章

 先に言葉を出したのは速水だった。彼はその流麗な顔を頬笑まさせてそのうえで沙耶香に対して告げてみせたのである。その穏やかな声で。
「こんばんは」
「あらためて挨拶をというのね」
「その通りです」
 その微笑みのまま答える彼であった。
「暫く御会いできなかったですね」
「そうね。最近はね」
「ですから。今私はとても幸せです」
 こう沙耶香に言ってみせるのであった。
「貴女に御会いできたことで」
「私は特にそう思わないわ」
 だが沙耶香の返答は実に素っ気無い。
「別にね」
「おや、そうなのですか」
「そうよ。貴方がどう思っていても」
 沙耶香もまた微笑んでいた。その微笑みと共に言葉を続けていくのであった。
「私はそう思っているわ。これからもね」
「本心を隠されるのはいいことではありませんが」
「隠してはいないわ」
 それはすぐに否定するのであった。
「何もね」
「御冗談をと言いたいところですが」
 ここは速水が折れた。
「そうですか。残念なことです」
「気が向けばね」
 沙耶香はその彼にまた述べてみせた。
「その時にね」
「ではその時を待たせて頂きます」
「それでいいのね」
「私は無理強いはしませんので」
 だからだというのである。
「それで」
「わかったわ。それではね」
「私も今宵はこれで」
「ええ、また」
 こうして別れる二人であった。そしてその翌日。泊まっている高級ホテルから出た沙耶香はその足でルーブルの近くにある喫茶店に入った。そこにはもうモンテスと速水が待っていた。
 二人は店の外に設けられた席で白い石畳の道を下にしてコーヒーを飲んでいる。二人共かなりくつろいでいる様子であった。
 そうしてその様子のまま。沙耶香に声をかけてきたのです。
「おはようございます」
「ええ、おはよう」
「朝食は」
「もう済ませたわ」
 微笑んでモンテスの問いに応える沙耶香だった。
「ルームサービスでね」
「そうですか。それは何よりです」
「いいものね。巴里の朝食は」
 その朝食について微笑んで述べるのであった。
「フレンチトーストにオムレツに」
「ふむ」
「それとサラダとデザートを頂いたわ」
「デザートはフルーツですか」
「そうよ」
 微笑んでモンテスの問いに応える。
「朝からかなり貰ったわね」
「では体調の方が」
「この通りよ。それでだけれど」
「はい」
「私もコーヒーを貰うわ」
 こう言って二人が今座っている席に腰を下ろすのだった。それもまた実に優雅な動作であった。巴里にいても全く遜色のないまでのものであった。
「今からね」
「はい、それでは」
 こうして沙耶香もまたコーヒーを飲むことになった。朝のまだ寒い巴里の街において。三人はまずはある女のことを話すのであった。
 モンテスが聞く側であった。彼は二人に依子のことを問うていたのだ。
「それではその高田家というのは」
「そうです」
 速水が応えていた。
 
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