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万華鏡の連鎖

作者:fw187
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宇宙戦艦ヤマト異伝
  力の源泉

 沖田艦隊は冥王星に赴き、可能性の扉を開いた。
 地球人類は次元波動超弦跳躍機関、通称『波動エンジン』の設計図を得たが。
 惑星間航行の経験しか持たず、恒星間航行機関の実用化は不可能と言って良い状況にあった。

 イスカンダルと地球では入手可能な金属材料、各種元素や鉱物資源は遙かに異なる。
 ましてや遊星爆弾の為に地表は放射能で汚染され、地球人類の生存圏は地下都市のみ。
 触媒となる元素は取得し得ず、致命的な大爆発を誘う微細元素を含む場合も多かった。

 真田志郎の才を以てしても克服し難い難関、想定外の陥穽も頻発したが。
 苦心して組み立てた超光速航行機関が爆発、地球人類の希望が断たれる度に。
 閃き《インスピレーション》を装い、挑戦者達の潜在意識に様々な情報を挿入《インプット》する為に。
 星の女神は時を超え、設計図の届いた時空連続点《クロス・ポイント》に舞い戻った。


 数十、数百、数千、数万、数億、数兆、数宮を遙かに超越し那由他の単位にも及ぶ再試行。
 有限と無限の境界に迫る膨大な数の時間実験、再挑戦《リトライ》が繰り返されたが。
 地球人類を救う可能性を秘めた波動エンジン、希望の星が完成した後も難関は解決しなかった。

 小惑星の岩盤で防御装甲を補い、艦体を覆い隕石を偽装する等の案も実施されたが。
 艦載兵器は射程と破壊力と貫通力に劣り防御力も隔絶、戦力の格差は到底埋め難い。
 脆弱な星船《スター・シップ》は数える気にもなれぬ程、撃破され宇宙の藻屑と化した。

 ガミラス宇宙軍に匹敵する兵器を持たぬ故の悲劇、当然の結末である。
 地球人類の希望、宇宙戦艦ヤマト装備の兵器は総て真田発明の試作品。
 イスカンダル星では戦争を放棄、自衛用の武器を廃し設計図も保存しなかった。

 照射物質の内部に多重衝撃波を発生させる低出力レーザー、断続的破壊光線《パルス・レーザー》砲。
 大口径版の衝撃波砲《ショック・カノン》もまた、地球防衛艦隊の標準装備に非ず。
 沖田艦隊は射撃精度に優るが貫通力、破壊効果、射程距離で遙かに劣る低威力光線砲で奮闘。
 『ゆきかぜ』未帰還の責任を一身に背負い、真田志朗が精魂を込めた《解答》であった。

 正式名称『次元波動爆縮放射機』、タキオン粒子圧縮噴射装置。
 通称《波動砲》、タキオン波動集束破壊砲について説明する必要はあるまい。
 数百年に渡り波動エンジンを駆使し大マゼラン星雲から銀河系大星雲にまで君臨した宇宙国家。
 我が栄光ある大ガミラスでさえ、実用化に漕ぎ着けられなかった超兵器だ。


 女神の恩恵が如何に巨大なものであるか、御理解いただけるだろうか。
 いや、それだけでは無い。

 惑星間航行の経験しか持たぬ物質文明が、初めて製造し得た恒星間宇宙船が。
 銀河系間空間を突破し遥か14万8千光年先、大マゼラン星雲内部にまで到達し得るのか?
 往復29万6千光年の超大距離宇宙航行を、365日以内に実現する事が果たして可能であろうか。
 宇宙は其の様な甘いものではない、と私は断言する。

 外宇宙航行の初心者を餌食とする無数の難関、想像を超える怪奇現象が待ち受けている。
 未知の太陽系外宙域には無数の危険が潜んでおり、そんな都合の良い事象は発生し得ない。
 宇宙戦艦ヤマトは幸運にも、1度しか遭遇しなかったとされているが。
 電気熱量波動吸収宙域や異次元断層帯は無数に存在し、多数の恒星間宇宙船を遭難に導いた。

 銀河系間空間には航行禁止宙域、直径数百光年に及ぶ遭難多発地帯が在る。
 複数の電波星に拠る共鳴、相互干渉作用が発生させる超強力な磁界力場。
 物質を分解する超電磁力場《フィールド》、緑色に発光する分子分解宙域。
 巨大恒星数10個で形成され、光の圧力が元素を破壊し物質を消滅させる原子破壊宙域。

 無限に拡がる大宇宙には更に、想像を絶する無数の難関が待ち受けている。
 超重力の潮汐作用が万物を引き裂く、黒太陽《ブラック・ホール》数百個の密集地帯。
 四次元時空連続体が捻じ曲げられ、時空歪曲波を放射する重力渦巻。
 星雲規模の放電現象、電磁嵐。

 半径数1000光年に渡り催眠暗示波を放射する遠隔催眠現象、宇宙の歌魔女《セイレーン》。
 宇宙気流数百流の大合流点に生じる大瀑布、超空間への次元転送路に繋がる《渦潮》。
 地球人類最後の希望、宇宙戦艦ヤマトは。
 幾度と無く、誰にも知られる事無く宇宙の塵と化した。


 エネルギー吸収力場と遭遇の際には、イスカンダル星からの援助で脱出。
 マゼラン星雲から銀河系内部に直接、エネルギー転送装置を用いているが。
 初めて遭遇する想定外の事態に対処する術、脱出方法を知らねば遭難は確実。
 太陽系から移住した第1次人類ですらも、帰郷は物理的に不可能であったのだ。

 数万、数億、数兆。
 京の単位を凌駕する膨大な挫折、原因究明、再挑戦が繰り返された。
 女神の繰り返した無数の時間実験、想像を絶する試行錯誤が実を結ぶまで。
 経験値の積み重ね、希望を棄てぬ強靭な《意志》が地球人類を救った。
 宇宙戦艦ヤマト最大の武器、力の源泉は《可能性》であったのだ。


 イスカンダルの女王スターシアから、直通回線《ホットライン》が接続された。
 スターシアもまた、イスカンダル星と共に自ら死を選んだ記憶を回復。
 我々が唯一無二の現実と信じていた世界は廃棄分岐、再生された時空と理解していた。
 メローラ姫に託された異世界の情報、秘薬の製法も超次元間の遠隔感応波に乗り到達。
 宇宙戦艦ヤマトの守護者、星の女神は敵対勢力の我々に対する配慮も忘れていなかった。

 秘薬は金星《アムター》の生命延長血清と同様、数時間に及ぶ《脱皮》を励起。
 ガミラス星人は酸素、放射能を適度に含む大気が必要に必要不可欠であった筈だが。
 全身の細胞を質的に転換、地球人類と共存可能な身体に変貌の恩恵を甘受している。

 我々は惑星メル王女メローラ姫から連絡を受け、イスカンダル恒星間宇宙巡航艇を捜索。
 ビーメラ星の女王から得た蜂蜜に指示通りの処方を施し、サーシャに投与の数分後。
 予想を覆し、奇蹟《ミラクル》が起きた。

 数万年の歴史を誇る高度な医療技術を以てしても、治癒は不可能であったのだが。
 サーシャの白血病は完治し、彼女は一命を取り留めた。
 王女《プリンセス》の言葉は、真実であった。


 我々の思考を受信した王女は感謝の詞と共に、重大な情報を提供。
 無限艦隊は植物的形状タナトス生命体《エネミー》に操られ、太陽系を攻撃する。
 私は要請を全面的に受け容れ、最大限の無償援助を提供する事に決めた。

 女神を救う事は、総てに優先する。
 ガミラス全軍に超緊急非常事態の発生、最優先至上命令を伝達。
 サレザー星系も含め総ての拠点を放棄の上、太陽系に集結を命じた。

 当宇宙は重要な時空連続点《クロス・ポイント》、数多の世界に影響を及ぼす《鍵》であるらしい。
 女神救出作戦の為に、各次元界から協力者《サポーター》達が集結するまでの間。
 我々ガミラス星人が無限艦隊を遮り、地球を護る盾となる。

 サーシャの生還に狂喜したスターシャも、私の選択に賛同。
 姉妹は無数の墓標が連なる母星を棄て、新たな未来を切り拓く決断を下した。
 太陽系連邦は地球人の定義を変更すると決議、我々にも参加が要請された。


 地球連邦政府は我々ガミラス星人を同族と認め、太陽系第4惑星への移住を承認。
 サンザー星系に移住した避難民、太陽系の先住民族は地球人類に含まれる。
 イスカンダル星人も地球人類の恩人として歓迎し、最大級の待遇を申し出た。

 放射能除去装置《コスモクリーナーD》に拠り、人類発祥の惑星は復活を遂げた。
 スターシャとサーシャの為に地球人は移動可能な海上都市、《マザー・タウン》を建設。
 水の惑星・地球は《水星》、第1惑星は《火王星》の別称を新設。
 軍神《マルス》の異名を持つ第4惑星は、火星《ガミラス》に改称された。

 感謝に堪えぬが宇宙戦艦ヤマトは未完成、冥王星付近の地球艦隊11隻は戦力にならぬ。
 沖田や古代守も含め乗組員は総員、水星《テラ》へ送還。
 戦力の整わぬ太陽系人類へ向け、メローラ姫の個別連絡が届いた。
 精神と時の部屋に似た性質の次元界に、回廊が開く。


 我々の時空間の1日は、相手先次元界の数ヶ月に匹敵する。
 だが超空間が次に接続し、超次元の回廊が接続する間隔は特定し難い。
 次元間通路が生じるのは数秒後か、数日後か、数ヵ月後か誰にも分からぬが。
 猶予は、無かった。

 異世界の収容可能人員は僅少であり、人類の大半は地球に残留。
 ヤマト建造の為に真田技師長以下、技術陣が異世界に赴いた。
 ガミラス宇宙軍が冥王星前線基地に集結の直後、無限艦隊が殺到。
 女神救出作戦(プロジェクト・スワティ)の第1段階、太陽系防衛戦が開始された。 
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