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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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ファンディスク:神話と勇者と断章と
バーサス~PV200000突破記念短編~
  バーサス《上》

 
前書き
 聖杯戦争コラボが恐ろしく長くなりそうだったので断念。別の作品として再募集かけてますので、どうかご協力お願いします。 

 
「ねぇ、ユキトはもう聞いた? 《ヒューマンタイプ・デュエルアバター》の話」


 ***

 
「ぐあー、暑いぃぃぃ……」

 2047年、8月。アホみたいに科学技術が進歩したこのご時世になっても、今だこの時期、日本国はクソ暑い。
 街路樹に泊まったセミが延々と鳴き続ける中を、俺こと栗原(くりはら)幸人(ユキト)は少々早足で歩いていた。目指すは最寄りのファーストフード店。家に帰りつく前にそのクーラーの涼のおこぼれに与ろうという魂胆である。

 しかしその道中が大変暑い。そりゃもう赤系デュエルアバターの熱線系の必殺技をくらったんじゃないかと錯覚するくらいに。頸筋に備え付けられた万能VR端末、《ニューロリンカー》のパッド部分が余計にジメジメしていて頭にくる。

「うるさい! 暑いって言ったら余計暑くなるじゃない……!」
「アザミのがもっと言ってるじゃないか」

 そんな俺に向かって喚き散らすのは、隣を歩く一人の少女。濃紺色の髪をポニーアップ状にし、気の強そうな赤い目でこちらを睨む、彼女の名は雛笠(ひながさ)アザミ。まぁ、俺との関係性を端的に言い表すなら『恋人』……もっと正確に言うならば『パートナー』ということになる。

 一年前、突然俺の前に現れた、『天宮薄葉』と名乗る純白の少女の手によって、俺のニューロリンカーに植え付けられた二つのプログラム。その片割れは、《ブレイン・バースト2038》というVRゲームだった。意識を一千倍に加速させ、その世界で最高峰であるLv10を目指し、延々と格闘ゲーム/アクション系MMOをやり続けるというそのゲームに於いて、彼女は俺のタッグパートナーにして、同じレギオンのレギオンメンバーでもある。
 想いを告げられて恋人になったのはほんの二ヶ月前であるが、大層ツンデレ気味の少女である故、八つ当たりとかかなり多い。まぁその辺りは彼女の抱える『心傷』も関わってきたりするから割とデリケートな問題で、詳しくは語らないでおくことにする。

 ともかく、ぎゃーぎゃー喚くアザミの手を引いて歩くこと二分あまり、ようやく目的地に到着した。あー、此処までの時間が異様に長く感じられたぜ、本当に。
 店内にはあまり人はいなかった。まぁ、さすがに昼飯時も過ぎてるしな。

「あぁぁああー、気持ちいぃ~」

 涼しい空気にありつけたおかげか、アザミが頬を緩ませて叫ぶ。

「そりゃよかったな。所で俺とヤってるときとどっちの方が気持ちい?」
「なっ、バっ……バカ! こんなところで下ネタ発言しないで!」

 ()()()()左手で、思いっきり俺をぶっ叩いてくるアザミ。なんだよ、せっかく場を和ませようというジョークだったというのに……いやすまん、割と真面目に相応しくない下ネタだったな。

「……あなたとヤってるときの方が気持ちい」
「そりゃよかった」

 顔を真っ赤にしながらぼそっと答える姿がまた可愛いな。……いやちょっと待った! その手を降ろせ! グーで殴るのは良くない!


 ***


「いってー……」
「ふん」

 まだ痛みの引かない頭をさすりながら、俺とアザミは向かい合って席に座った。アザミの取り出してきた直結ケーブルを、何の違和感も無くニューロリンカーの専用プラグに装填し、ついでに反対の端子をアザミの方のプラグにも挿入してやる。

「あっ……」

 ……なんで女子って直結するとこういう可愛らしい反応をするんだろうな。いや、アザミだけかもしれんのだけど。

 《直結》というのは文字通り、前述のケーブルを以てして、ニューロリンカー同士をつなぐ行為の事だ。これを行うとお互いのニューロリンカーのセキュリティは八割だか九割あたりまで解除され、プライベートファイルすら覗き見することが可能となる。まぁ、数十年前くらいの感覚で言うなら裸を見せてるようなもんかな。
 故に直結というのは、家族以外とは行うことはほぼない。家族以外の異性と直結するということは、ほとんどその二人が恋人同士であることを明言しているようなものだ。
 因みに同性との直結はさほど珍しくもない。まぁ、さすがに相当な親友でも無い限りしないだろうけどな。

 ともかく、そんな俺の迷いのない行動を見て、周囲の女子高生共ががひそひそと喋りはじめるが、とりあえず無視。俺が先ほどからずっとアザミの右手を握っているのも要因の一つなんだろうが、気にしない。だって仕方ないもん。

 アザミは、右手が不自由だ。ほとんど動かせない。だから俺が代わりにその手を握って、動かしてやらなきゃいけないんだ。

 ……まぁ、そんな重苦しい話題は置いておくことにしよう。いや、大事な事なんだけどね。


 なんてことない話題で、アザミと雑談…直結している場合の特権として、口に出さなくても思念で会話をすることが可能だ。俺達は基本的にリアルバレしてはいけないBBの使用者……《バーストリンカー》である都合も含めて、思念会話をすることが多い…していた時の事だ。

「ねぇ、ユキトはもう聞いた? 《ヒューマンタイプ・デュエルアバター》の話」

 唐突に、彼女がそんな事を言い出した。

「人型? ……いや、デュエルアバターはほとんど人型してるだろ。異形系も珍しくはないけどな。アボガドさんみたいに」
「そういう事じゃなくて。何て言ったらいいのかな……」

 うーん、と悩むアザミ。うん、可愛いな。思念会話になると割と感情が表に出やすいせいか、素直というかいつもよりも甘えてくる。繰り返すが可愛い。

「ほら、デュエルアバターってさ、基本的にロボットみたいな外見してるじゃない?」
男性(F)型は特に顕著だな。まぁ、例外はいるけどな……アボガドさんみたいな」
「そのネタやめなさいよ……マゼンタに怒られるわよ」
「おっと、そりゃぁマズイ」

 話がずれた。戻す。
 
 BBにおけるプレイヤー、《バーストリンカー》には、ゲーム内で扱うアバター……《デュエルアバター》が配布される。バーストリンカー自身の渇望や心の傷を反映して誕生するそれは、紛れもなく己の分身。唯一無二の存在となる。

 で、その外見は多くの場合において、半有機のロボットみたいな姿であることが多い。俺の《パールホワイト・オーラリー》はそうだし、アザミの《ミッドブルー・ロスター》、あるいは《ライトブルー・メイカー》もそうだ。

 ああ、話しが読めて来たぞ。つまりは……

「本当に人の外見をしてるわけだ。ALOとかみたいな普通のVRMMOの」
「そう、そう言うことよ」

 ほー。そりゃぁ珍しいな。
 
 バーストリンカーのデュエルアバターは多種多様だ。先ほどから何度も俺が引き合いに出している異形のバーストリンカー、《アボガド・アボイダ》の様にロボットのような外見ではないデュエルアバターはいないことは無いが、俺の良く遊ぶ普通のVRMMO第一位である《アルヴヘイム・オンライン》みたいな、リアルな人の外見をしているデュエルアバターは全くと言っていいほどいない。現状、俺が知っているのは俺にBBを渡した女、天宮薄葉の《クリア・ホロウ》だけがヒューマンタイプのデュエルアバターだが、あれは何かの偽装のような気がしなくもないため、除外することにする。

「で、そのヒューマンタイプさんがどうしたのさ」
「いや、別に? 異常に強くて、何人も挑んで負けてる、って話を聞いたから……ユキトはどう思うのかな、って思って」
「何で強い奴と戦わなくちゃならん。俺は勝ち目のない戦いに挑むのが嫌いだ」

 世の中そう簡単には上手くできていない。俺の親父なんかは「大丈夫、きっとうまくいく」とかよく言うけど、そうそううまくいくもんじゃぁ無い。俺の親父はいろいろ異常だから『そういうこと』ができるだけだ。

「そう言うと思った」
「だろ」

 結局、何でアザミがその話題を出してきたのかは、今一よく分からなかった。



 ***



「は? バイト?」
「そ。追加給料出すよ」

 《アルヴヘイム・オンライン》ゲーム内。世界樹の天頂に存在する都市、《イグドラシルシティ》のプレイヤーホームにて、栗原(くりはら)清文(きよふみ)/セモンは、姉の栗原小波(さなみ)が出したその提案に首を振った。

「やだよ。早く帰らなきゃいけないのに」
「ほー、コハクちゃんを満足させてあげなきゃいけないからかい?」
「なっ……このッ……下ネタやめろよバカ姉貴……ッ!」
「へぇ、いつ何時俺が下ネタ発言したよ? ん? 言ってみ?」
「……この野郎……ッ!」
「いけないなぁ。俺は女だから『女郎』とか『アマ』とか言わなきゃ」
「……」

 もう怒りと呆れで物も言えない。セモンはぷるぷる震えながらニヤニヤ笑う姉を睨み付けるだけだった。
 そしてさらに追い打ちをかける様に一言。

「で、どうなんだい? 全く、新婚さんは大変だね、お盛んな事で」
「……そうだよ。ああそうだよこの馬鹿姉貴! 琥珀と一緒に居られる時間はお前のせいで限られてるんだぞ! 琥珀だって子ども欲しがってるのに、お前のせいで……ッ!」

 セモンの脳裏によみがえるのは毎晩の妻の姿だ。夜遅くに帰ってきた己を出迎え、『疲れたからもう寝る』と言われ、泣き笑いのような表情と共に『わかった』と答えるあの姿。言外に『今日もしてくれないの……?』と落胆しているその姿が、セモンには堪えられない。今すぐ抱きしめて押し倒したいくらいだ。だが時間がそれを許さない。一日は24時間だ。そして睡魔には勝てない。

 憎い。ほとんど疲労が溜まらないはずのこの《超人》の体に睡魔が溜まるほどの疲労を与える仕事ばっかり出してくる己の姉が憎い。

 ―― 嗚呼、《自在式(いのう)》で時間を延ばせればいいのに。というかそのためにあるんじゃないのかよこの力。使えねー……。

 もはやおかしな方向に思考が流れ始めている。融通の利かない能力を自分に与えたどこぞの白い少年神を心の中で呪いながら、セモンは姉を罵り続けた。

「大体なんだよ、給料外の仕事多すぎるだろ!」
「だから言ったじゃん、追加給料出すって」
「それ以前に未払いの給料を払え!」
「KO☆TO☆WA☆RA☆NU」
「いや素直に言えよ! そしてよっしゃぁッ!」

 これでもうちょっと生活がどうにかなる! とガッツポーズを決めながら、セモンはとりあえず座り直す。

「……で? 俺は何をするんだ?」
「お、やる気になってくれたのかい?」
「聞くだけだ」
「そりゃ嬉しい。
 まぁ、超ざっくり言えばテストだよ、《レプリカ》の」

 姉が口にした名前は、セモンにとっては懐かしく、忌々しく、それでいてどこか楽しい記憶を思い出させるものだった。

 《ジ・アリス・レプリカ》。それがその正式名称。
 世界を牛耳る神々が一角、最大級の規模を誇る超常の”レギオン”、《白亜宮》の長、《主》がこの世に落とした邪悪の種。もう十何年も前に起こった、意識不明事件に於いて鍵を握った特殊なVRゲーム。
 《ジ・アリス》と呼ばれたそれの『欠片』が、彼女の持つ《ジ・アリス・レプリカ》。

 まだ自分たちが19歳だったあの夏。《白亜宮》の侵蝕から世界を護る為に戦った、ある意味で思い出の場所だった。

「……なんでまた、そんな今更……だってあれは、内部で《六王神》がどうにかしてくれてるんだろ?」

 《六王神》。それは《レプリカ》の手によって再現された、創作神話の世界、『六門世界』を収める六柱の神々。現在は水と闇の二柱が抜け落ち四柱になっているが、補充をするつもりも、その呼称を変えるつもりも彼らにはないらしく、いまだに『六』の名を冠している。

 彼らはNPCだが、『ジ・アリス』を動かすシステム、《DVWs(ディーヴォス)》が、『異世界との間にゲートを構築し、その異世界を仮想世界としてこの世界に持ち込む』機能を有することを考えれば、彼らは《本物の魂を持った異世界人》ということに成る。

 ともかく、そんな彼らが管理をしているのだから、問題が起こる事なんてほとんどないと考えていたのだが。

 セモンの問いに、小波は苦笑しながら

「そうなんだけどね。向こうからじゃ対処できないらしい。この世界の人間が必要なんだとさ」
「じゃぁリーリュウは? あいつ、まだイギリスに居るだろ」

 今セモンと小波はALOの一角に集っているが、リアルワールドにおける二人の位置は、日本とイギリス、と遠く離れている。小波たちの本拠地がイギリスにあるためだ。
 セモンが口にした彼の友人は、今現在イギリスに居るはずだった。

 その問いに、小波は珍しく真剣な顔になって答えた。

「いや……アイツじゃ対処できないんだとさ。なんかまた特殊な資格がいるらしくてねー……で、お前にお呼びがかかったってワケ」
「……断れないじゃないか……」

 がっくり、と頭を垂れるセモン。

「そんなに長いミッションじゃないし、ログイン自体はお前の家でもできる様にしてあるだろ? 頼むよ、姉ちゃんにカッコいい所見せてくれ」
「……仕方ねぇなぁ……」

 そう言って、渋々……そして結局、姉の依頼を引き受けるのであった。 
 

 
後書き
 はいはい、どうもお久しぶりですAskaです。なんだかR18抵触気味のキワドイ発言の多かった今回の短編。予定ではあと一話か二話を使って、『バーサス』をやろうと考えております。

 この章を作るにあたって、以下の設定を覚えておいてください。
『ユキトの年齢が16歳(当初のプロットでは14歳。二歳年上になっている)』
『清文と琥珀は結婚した後(つまり『神話剣』最終回後)』

 亀更新ですがどうにかしていきたいと思います。
刹「それでは次回もお楽しみに」 
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