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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第12話 怪物との再会

京の夜の街は普段ならば昼間よりも煌びやかで人出も多い。
遊郭では女たちが男を誘い男達は色に狂った。
確かに暗殺や斬りあいはあった。が、新撰組の介入及び長州の敗戦によりある程度はましにはなっていた。
しかし、あの恐怖の惨殺事件が広まってからは武士も町人も女も男も夜の街を歩くことはなくなってしまった。
京の街は再び暗黒の街へと変わっていった。
「慎太郎、もう一軒行くぜよ」
精悍な顔に少しくせ毛の男が横を歩く男に言った。
「おいおい、そろそろ宿に行かんとやばいぜよ。夜の街は物騒になちょる」
慎太郎と呼ばれた男はあたりをきょろきょろしながら言った。
「心配ないっちゃ、慎太郎。わしにはお守りがあるきにのぉ」
くせ毛の男は懐から拳銃をちらつかせた。この銃を持っていれば困難などないとその男は思っていた。
「じゃがのぉ」
「心配ないぜよ。例の化け物じゃろ?そうそう、出くわさんって。それにわしはその化け物にちょっと会ってみたいとおもっちょる」
くせ毛の男は楽しそうにニヤニヤと笑った。
「ば、馬鹿言うな。噂では会った途端に粉々にされるって話じゃぞ」
慎太郎と呼ばれる男は一つ身震いをした。
「ははははは、怖がりじゃのぉ、慎太郎は」
くせ毛の男は慎太郎と呼んだ男を見て大口を開けて笑った。
「ば、馬鹿言うな。怖がりなんかじゃないぜよ。わしは万が一の事を考えて」
「わかったわかった。今日は慎太郎の顔を立てておとなしく帰るぜよ」
くせ毛の男は再び笑った。

「だ、旦那。例の化け物、今日は現れないといいですね」
へっぴり腰で同心の後をついて来ている岡っ引きが十手を抜いてあたりをきょろきょろと見渡している。
「ば、馬鹿野郎。不吉な事いうんじゃねぇ」
岡っ引きの手前同心は強がってみたものの怪物に会わないことを祈っていた。
「だ、旦那、あそこに人が」
岡っ引きは上半身裸の人間を見つけた。
「も、もしかして・・・・・・・・・・」
岡っ引きは腰が抜けそうになっていた。
「お、おい、お前、そこで何をしておる」
同心はその人間に声をかけた。
その人間はゆっくり同心たちの方へ顔を向けた。
「う、うわぁーーー、でたぁー!!」
岡っ引きが驚くのも無理はなかった。その人間の目は暗闇に輝く猫の目のように輝いていた。

「ぎゃぁーーーーーーーーー!!」
くせ毛の男と慎太郎と呼ばれた男は断末魔さながらの悲鳴を聞いた。
「慎太郎!!」
「お、おぉ」
二人は悲鳴が聞こえた方へと走り出した。
くせ毛の男は銃を懐から抜き右手に持った。そして、慎太郎と呼ばれた男は刀を抜きくせ毛の男の後ろについた。
そこには上半身裸の男が立っていた。
「おい、そこでなにしちゅう」
くせ毛の男は銃をその男に向けた。
そこには肉片と化した元人間の姿が転がっていた。
「おまんが殺ったのかよ?」
くせ毛の男は隙を見せないように銃をその男に向けて身構えた。
「竜馬、無事か」
慎太郎と呼ばれた男がくせ毛の男にようやく追いついてきた。が、そこにある惨状をみると吐き気を催した。
「竜馬?」
上半身裸の男はゆっくりとくせ毛の男に顔を向けた。
「久しぶりぜよ、竜馬」
その男の目はまだ不気味に金色に輝いてはいるがくせ毛の男には見覚えがあった。
「おまん、以蔵か?」
くせ毛の男はいまだ拳銃を構えたまま昔の仲間ではあったが、今はもうまるで化け物に変わり果てた男に言った。
「おまん、生きとったんか?」
「フフフフ、どうかのぉー。死んだといえば死んだぜよ。まぁー、武市先生のおかげかのー?」
男はニヤリと笑った。
「なに?武市さも生きちゅうんか?」
「武市先生は死なんぜよ、竜馬。あの人は不死身じゃ」
その男は狂ったように笑った。
「以蔵、おまん、なんの目的があるんぜよ」
「わしは武市先生の命で動いちゅ。竜馬、もし、おまんが邪魔するちゅんならおまんでも容赦せんぜよ」
男は身構えた。
「慎太郎、後ろで隠れてろ」
くせ毛の男は銃を左手に持ち替え右手に愛刀を持った。
「ウヒヒヒヒヒヒヒ」
以蔵と呼ばれた怪物は不気味に笑った。と同時に風のような速さでくせ毛の男との間合いを詰めた。
くせ毛の男は銃を2発発射した。が、以蔵は刀でその弾丸を打ち落とし、まるで針鼠のような姿でくせ毛の男に襲いかかった。
くせ毛の男は愛刀を振り下ろそうとしたが、以蔵の動きの方が速く首筋に刀の刃をあてられたしまった。
「ククククク、冗談ぜよ」
以蔵は目を大きく見開いているくせ毛の男に笑ってみせた。
「あ、そうだ。おまんにこれをやるぜよ」
以蔵は薬包をくせ毛の男に手渡した。
「なんぜよ、これは?」
くせ毛の男の背中には冷たい汗が流れ出ていた。
「あぁ、これは風邪薬のようなもんぜよ」
以蔵は不気味に笑った。
「化け物と化したおまんのいう事は信用できんぜよ」
くせ毛の男は以蔵をにらみつけた。
「はははは、信じるか信じないかはおまん次第ぜよ」
以蔵は背を向け闇へと消えて行った。

「竜馬、あいつ、本当に以蔵か?」
慎太郎と呼ばれた男がくせ毛の男に問いかけた。
「あぁ、あれは間違いなく以蔵ぜよ」
(武市さ、いったい何をたくらんでいるぜよ)
くせ毛の男は暗雲漂う京の夜空をみつめた。
そう、この男二人の名前は、坂本龍馬と中岡慎太郎。その人達だった。

 
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