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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第99話 神聖剣 vs 二刀流

 
前書き

 

 


 その日は、本当に穏やかだったんだ。
 レイナのリズに対するヤキモチから始まった『浮気!』発言。その後のリュウキの一言で終わったあの空気。本当に穏やかで、リズもネタばらしをして、更にレイナは赤くなってしまって、そして、リズは仕事があるから、と言って帰っていったけど、帰る間際でもニヤニヤと笑っていた。

 だけど……、帰って来たアスナとキリトの言葉を聞いて一気に場の雰囲気が一気に変わったのだ。

 その中でリュウキだけが、やや……引いた形で見ていた。と言うより、呆れた表情、そして冷ややかな視線でキリトを見て。辛辣なコメントを頭の中に浮かべると。

「……お前は馬鹿か? キリト」

 更にリュウキはため息を1つ突きながら本当に頭で思った事がすっと、直球ど真ん中、どストレートに口に出していた。

「なっ! ばっ!? ばかぁ!?」

 リュウキのまさかの一言にキリトは目を丸くさせながらそう言う。シーンと静まり返った場で響いたその一言だったからだ。リュウキは言っている意味がイマイチ判ってない様なので、更に言う。

「だってそうだろ……。何で、説得に行くって言ってて、こんな事になってるんだ?昨日今日で色々とあったのに、更に火に油、どころか火に爆弾だろ……。オレなら絶対にヤダ。考えただけでアタマイタイ……」

 最後の方は、ため息を盛大にさせながらリュウキはそう言っていた。……そう、キリト君はと言うとヒースクリフとの立ち会い……つまり決闘(デュエル)を受けて立ってしまったみたいなんだ。

 リュウキが言うように、確かにここから出ていく時は、説得に行くといっていたけれど。トップギルド、血盟騎士団・団長にして、生きる伝説とまで言われているこの世界最強のプレイヤー。

《ヒースクリフ》

 最前線と言う危険地帯をソロで闊歩する男の1人。その目にも止まらぬ速度であらゆる敵を屠り去る。
こと、速度の領域においては誰もかなわないのでは無いか?とさえ言わており、黒の剣士の異名を持つプレイヤー。

《キリト》

――……そんな話題の2人が、決闘でぶつかるような事があったら?

 特にキリトに関しては、リュウキと共に倒したあの青眼の悪魔との一戦でかなり尾ひれが付いた噂が出回ったから。……更に更に期待を寄せる事だろう。そんな伝説的とも言える一戦を一目見ようと、どんどん集まってくる。そう、簡単に言えば、アインクラッド中のプレイヤーに大注目されると言う事。

 大注目……の一言じゃ済まされないとも思える。

 あの闘技場の全てが埋る。アインクラッド中のプレイヤーが集まってくるんだ。

「ソンナノ、絶対カンガエタクナイ……」

 考えただけで、本当に頭の痛そうなリュウキ君。自分が戦う訳じゃないのに、頭の中で想像しただけで……、そう思ってしまうみたいだ。それに、何かと理由をつけられて自分も参戦せざるを得ない様な状況になる、と言う可能性は、0じゃないのだ。

「あははっ………。リュウキ君の珍しい顔、見れちゃったなぁ……」

 レイナはそんなリュウキを見て苦笑いをしていた。ここまで苦悩している姿は本当にレアだ。シリアスな場面ではなく、何となくギャグっぽい苦悩。デフォルメっぽい顔つきだ。……何処となく、その表情も可愛らしいとレイナは思った様だ。

「もうっ! 皆して緊張感が無いんだからっ! 今はそれどころじゃないよっ!! これじゃ、私がお休みするどころじゃないじゃないっ!!」

 アスナは、ヒースクリフの案にのったキリトの安易な決断に怒っていた。確かに 最初は説得のつもりだったんだけれど。

 ヒースクリフの『アスナ君が欲しければ剣……二刀流で奪い給え。』の言葉に、キリトも『良いでしょう。剣で語れと言うのならば……デュエルで決着を。』っと乗ってしまったのだ。

 キリトが勝てばアスナを連れてゆく事が出来る。だが、ヒースクリフが勝てばキリトは血盟騎士団に入団しなければならない。つまり、売り言葉に買い言葉だった。

 アスナは怒っていたけれど、正直に言えば、内心は凄く嬉しかったんだ。

 そう、怒っていたけれど……、キリトは自分の為に、戦ってくれる……、だから嬉しかった。

「あはっ……お姉ちゃん赤くなってる♪やっぱり、嬉しかったんだ?」

 レイナは、アスナの頬を一撫でした。横から見てたら一目瞭然。もう、怒ってる様な表情ではないんだから。

「あぅ// も、もう! レイっ!?」

 アスナは、内心はやっぱりレイナには見透かされていた事に気がついていた。……というよりこの子は事、恋愛事情に関しては先輩だし……何より自分より何枚も上手だって事もよく判っているから。 
 
 そんな女性陣の2人の事は露知らず。

 男性陣の2人は、逆にやや表情が真剣味を帯びていた。

「さて……と、で、どうなんだ?あの男と決闘る以上は、勝算はあるのか?」

 リュウキからそう切り出した。その表情は先ほどまでの『頭イタイ』って言ってた表情じゃなかった。……それはまるで、戦いの前の戦士の表情だった。

「……どうだろうな。ヒースクリフのスキル、あのユニークスキル≪神聖剣≫は何よりも防御の力が圧倒的だ。同じ団員で副団長のアスナもそのHPがイエローゾーンまで下がったのを見たこと無いってさ」

 これまでの幾重のBOSS戦で キリト自身もヒースクリフを間近で見た事はあるが、その性能は嘗て無いほどのものだと記憶している。

 ここ、アインクラッドでは《二大ネーム》の1人。

 その内の1人が、言わずと知れたリュウキである。もう1人は……キリトではなくヒースクリフだった。

 ある意味では、名だけで言えば、リュウキより遥かにこの世界に浸透しているんだ。

「……なるほどな」

 リュウキは腕を組んで壁にもたれかかった。確かにこれまで、共にBOSS攻略をしてきたが、ヒースクリフが危機に陥った所を見たことは無い。基本的にBOSS戦は参加しているリュウキとキリトは彼の事は知っているのだ。そして、同じギルドに所属しているアスナとレイナの2人も、HPが半分以下になったことを見た事無い、と言う以上は その話に嘘偽りは無いのだろう。

 誰しもが、同じギルドに所属しているアスナやレイナでさえ、あの強さはゲームバランスを崩しているとさえ言わしめているのだ。

「まぁ、見てろって。簡単に負ける気は無いさ」

 キリトはニヤリと笑っていた。その顔には後悔も有るようだが……自信も遥かに持っていた。

「ふふ……、アスナの為にも、だろう?」
「ッッ!!」

 キリトはリュウキのその言葉に動揺し思わず何も言わずに、顔を背けた。まさか、この男にそんな事言われるとは思ってもいなかったからだ。

「ふむ……、キリトもアスナと同じような反応だな」

 リュウキはアスナの表情を思い出しながらそう言っていた。キリトはそっぽ向いていてアスナは赤く顔を染めているのだから。本当に似た者同士だ。

 まぁ、その状況になる火種はここの新婚夫婦だ。ある意味では、本当に似た者同士が集まったようだった。

 そんな皆を眺めながら自然と表情を微笑ませるリュウキ。
 そして……

《キリト vs ヒースクリフ》

 その戦いを考える。事、反応速度の領域においてキリトの右に出るものは無いだろう。そして、何よりも、VRMMOでのゲームセンスもズバ抜けているとも思える。以前に聞いた話だが、現実の世界では剣道を少なからずしていたらしい。

 剣の世界であるSAOでも影響しているだろう。だからこそ、敵との間合いや見切り、太刀筋も一級品なのだろう。ゲームのアシストに頼ってない通常攻撃もそう。あのクラディール戦で見せた武器破壊もそうだ。……だからこそ、不気味な相手だが、決して勝てない訳ではない。
 そして、二刀流の破壊力においてもそうだと思える。

 だが、勝てないとは言えなくとも、ヒースクリフのあの神聖剣は、キリトも言うように鉄壁の防御を誇る。何よりも強大なのがあの堅牢な≪盾≫だ。剣が神聖剣なら盾は神の盾といった所だろうか?
 その盾は、ありとあらゆる攻撃を受け止め、ある時は受け流す為……、どんな攻撃も、ヒースクリフ本体まで届かない。

 それは、これまでの各層のフロアBOSSも例外ではなかった。だからこそ、HPが半分も減らないのだろう。直撃(クリーンヒット)を殆どさせないのだから。

 だから、まず入口として、あの盾をどう突破するかが、攻略の鍵だと思える。

「ふむ、結果は明日になれば解る……か、……そして」

 リュウキは、外を眺めた。≪あの時≫ヒースクリフと会い、感じたあの気配。あの気配のその正体が明日、勝敗と共に解るかもしれない。……それは、キリトとヒースクリフの対決以上にも気になっているいた事だった

「……リュウキ君?」

 レイナは外を眺めているリュウキに気がついた。傍で見てみても、どうやら心此処に在らずと言った感じだった。色んなリュウキを見てきたレイナだが、そんな表情は少し珍しいと思った。
 だから、とりあえず姉弄りは一段落ついたのか、リュウキの傍へときていた。

「どうしたの?」

 レイナはそっと、リュウキの手を握った。

「……ん。いや……」

 リュウキは一瞬考えを言おうとしたが。確信は持てないし、……何よりも証拠が無い。
 多分、リュウキの心の奥。深層域では違和感に対する答えは出ているんだろう。それは、今最も考えたくない結論だった。

 リュウキ自身が接触してきた相手の中で、あれだけのオーラを纏っている人間。そんな人間何人もいる筈がない。ましてやリュウキは他人との接触など一般人と比べたとしても無いに等しいんだから。

 だからこそ、考えてみたら……、直ぐに思い立つ事筈、だったんだ。

 画面越しで、実際に会った訳じゃないんだが……、あの男だと言う事が。


「何でも無いさ……。明日のことを考えたら、キリトに深く同情したくなってな?」

 リュウキはそう言うと苦笑いをしながらレイナを見た。多分……、表情には出ていないと思う。

「……そう、あははっ そうだね~」

 レイナはニコリと笑っていた。いつも通りのリュウキだから。
 でも、何処か違和感はあるけれど、それでも今は良いと想っていた。

「リズさんだって言っていたみたいだけど……、キリト君とリュウキ君がああしてくれなかったら……もっともっと、犠牲者が出てたって思うの。後で後悔するくらいなら行動する……でしょ?」

 レイナはそう言った。リュウキの言葉を思い出して。

「ああ……、オレも今も後悔はして無いさ。……だが、それを差し引いたとしても、ちょっとアレなんだよな……」

 後悔は無い、と言い切っているが、最後の部分だけはどうしても、言葉を濁してしまうリュウキだった。まぁ、そのあたりは流石に仕方ないとレイナは思っていたようだ。注目を集める事……、もう、随分昔の事だけれど リュウキも嫌と言うほど体験しているから。

「明日は、キリト君を応援しないとね?お姉ちゃんとキリト君がくっつくチャンスなんだからっ!」

 レイナは両手の拳をぐっと握り締めた。

「……ん、そうだな。……んん? そう言えば、仮にキリトが負けても血盟騎士団に入るだけだったよな? ……なら、どちらの結果でも同じなんじゃないか?」

 リュウキは思い返しながらそう言う。そう……、アスナが休暇をとる理由はキリト。でも、それが出来なくて、決闘(デュエル)になった。
 だけど、それは2人を引き裂く様な行為では無く、逆にキリトを血盟騎士団に引き込むと言う事だ。つまりは同じ団員になると言う事。

 ヒースクリフ側にしたら、ギルドの戦力も増して更にアスナも一時脱退などしないから、一石二鳥といった具合だろう。それに、ギルドの仕事関係はわからないが、少なくとも同じギルドならば、アスナとキリトが共有する時間は増える可能性もあると思える。

 レイナは目をぱちくりっとさせ、リュウキの言葉をすこ~~し考えて。

「あっ、あはは!それもそーだね?じゃあ、後で危なくなったら早めに降参するように言っておこうかな?」

 レイナはそう笑いながら言っていた。

「まぁ……、アイツが勝負を投げるとは思えないし、それに簡単には負けないさ」

 リュウキはキリトの事をそう言っていた。

「オレのライバル……だからな?」
「あははっ!それ聞いたら、キリト君喜びそう!リュウキ君のこと、《もくひょーだ!》ってずっと言ってたしねっ?」
「……オレが目標……か」

 キリトの方を向いてレイナはそう言っていた。リュウキも同様だった。リュウキ自身……、キリトが、自分の事をそう思っている事は知らなかった。これまでも、キリトは自分と対等とずっと思っていたし、自分より下に見た事は無い。

 確かに β時代は自分の方が遥かに先には行っていたが、それはただのゲームの中での結果であり、過去のデータだ。だから、リュウキはそう言った考えは無かった。
 でも……自分が目標だと見てくれているのは何だか嬉しくもあり、恥かしい気もしていた。

 その後もキリトはアスナと何かを話している。

 アスナの心底心配そうだけれど……、やっぱり嬉しそうな表情も時折見えるんだ。キリトもそれは同様だった。レイナは、そんな2人を暫くリュウキと2人で笑いながら眺めていた。




~第75層・コリニア 転移門前~


 それは翌朝の75層の風景。
 ここに関してはクライン達が有効化をしてくれてから、当然ながら来た事はある。75層の主街区は古代のローマ風の作り。何よりも目に付くのが、この75層の中心だとも言える巨大な建造物のコロシアムだ。……つまりは、まさに決闘をする場所としてはうってつけだろう。

 初見では、そんな事はさらさら考えていなかったが……。

 とまぁ、色々と説明はしたが、つまり、ここは以前見た風景とは明らかに違っているのである。……75層に降り立った、リュウキは昨日の自分自身の考えが間違っていなかった事を確信したのである。

「あ……あはははは………」

 一緒に移動していたレイナも苦笑いが止まらないようだった。こういう風になるだろうと、事前にリュウキから言われていたけれど、『まさかそこまでー』とも、正直思っていたんだ。でも……、目の前の現実を見たら自分の考えが外れていて、リュウキの考えが当たっていたと思い知る。

 75層では、既に多くの剣士や商人プレイヤーが乗り込んできている。

 それ自体は、別に驚く事でもなくこれまでにもあった光景だ。攻略自体には参加しないが、見てみたいと言うプレイヤーも多々いるから。

 その所謂 新しい層を、開通した層を見てみたい と言うもの。

 だけど、今回ばかりはそれが≪いつも≫と違うのだ。

 大変な活気を呈しているこの場所ではこのアインクラッド一大イベントが行われようとしていたのだ。ここ第75層では、これまでとは違った特徴がある。

 コロシアムで、キリトとヒースクリフは決闘するのだ。……さて、最初に戻るがリュウキとレイナが見た光景の正体を説明しよう。 


「火噴きコーン!! 10コル!! さ~~買った買った!」
「黒エールも! キンキンに冷えてるよ~~!!」


 そこは、コロシアムの入り口。
 転移門の前が直ぐ入り口だから、もう直ぐに解る。

 そう……見渡す限り 人人人人………∞。

 そして、その中心にさっきの台詞をわめき立てる商人プレイヤーの露店がずらりと並んでいて、長蛇の列をなしているんだ。

「……ああ、良かった。本当に良かった……。これに出るのが俺じゃなくて」

 リュウキは心底安堵していた。レイナは直ぐ横で見ていてそれがよくわかった。

「あはは……。でも、ほんとすごいね~。あっ あのチケット売ってるのって……」

 レイナは、露店の長蛇の列の間から縫って出てくるプレイヤーに目が留まった。それはKoBの白赤の制服。それだけで、どのギルド所属なのか一目瞭然なんだけれど……。これほど似合わないものか?物凄く横幅がある身体にたゆんたゆんの腹部。向こうもこっちに気がついたようで近づいてきた。

「いや~~ おはよーレイナはん!ほんまキリトはんには頭上がらんで~」

 挨拶も手短に、会うなり陽気な声を上げながらそう言う。

「あはは……、これは、ダイゼンさんの仕業でしたか~」

 レイナは、苦笑しながらそう答えた。そう、同じギルドの所属であり、ギルドの経理を担当している《ダイゼン》。任されている事から判るが、この手の事に関しては、かなりしっかりとしているのだ。

「仕業って……、そないなことあらへんで? なんせウチの団長とキリトはんやからな~。ほっといてもこうなるって! おっ!」

 ダイゼンは、レイナの後ろにいるリュウキに気がついたようで ずいっ!っと前に出てきた。何やら、獲物でも見る?かの様な表情。決闘なら受けて立たなくもない……と思うが、ちょっと違う様だ。

「なぁ! 次はリュウキはんもやってくれはると更に助かりますなぁ!」

 キリトの次は、自分にやってほしい、と言う事。勿論、リュウキは即座に返答した。

「……だれがやるか」
「……や~~。同じ台詞やけど明らかにここまでテンションが違うと逆に笑えますっ!」

 ダイゼンは両手を腰に当てて朗らかに笑っていた。どうやら、一足先に来ていたキリトの反応と比べていたようだった。リュウキは、このダイゼンの事を見て、そしてキリトの立場になって考えてみて……心底同情していた。

(……代わってやりたいとはぜんっぜん思ってないけれどな。ま、ガンバレ……)




~第75層・コロシアム内~


 その後はダイゼンにキリトの控え室にまで案内してもらった。控え室は闘技場に面した小さな部屋だ。コロシアム前の露店やのあの長蛇の列、そして、コロシアムの入口の長蛇の列。それらを見て相当な人数だと思ったが……。

「……それにしても、よもやここまでとはな」

 コロシアムに面しているとは言え……、歓声がうねりながらここまで届いてきているのだ。
もう、見る間でもない。

「……だよねぇ?」

 この歓声を聞いてレイナも思っていた様だ。そして、控え室の扉越しに声は聞こえてくる。

『……たとえワンヒット勝負でも強攻撃をクリティカルでもらうと危ないんだからね? レイの言ってた通り! 危険だと思ったら降参するのよ!』

 この声はアスナだろう。レイナがキリトに言ってたことを復唱していた。まぁ……意味は違うけれど。 
 外で聞き耳を立て続けるわけにもいかない(と言うよりアスナの声がでかいから聞こえたのだが。)から中へと入っていった。

「そーだよっ! キリト君っ! 無茶したら 今ならもれなく2つくらいビンタが飛ぶからね。私の事も忘れずにっ!」

 レイナは、ニコニコしながら、入ってキリトに話しているけれど随分と物騒な事をいってる気がする。

「まぁ……、アレだ。気張らずに頑張れ」

 リュウキは、こんな大歓声の中で戦うのが自分でなくて良かった……と言う安堵感がマダマダ残っているようで、少し心此処に在らず……のようだった。

「あっ……2人とも!」

 アスナは気がついたようで、こちらに振り向いて手を上げた。

「ったく……姉妹2人して……。だから俺よりヒースクリフの心配をしろよ」

 苦笑いしながらそう答えるキリト。やがて、遠雷の様な歓声に混じって闘技場の方から試合開始を告げるアナウンスが響いてきた。それを聞いたキリトはゆっくりとした動きで立ち上がる。背中に交互して吊った二本の剣を同時に少し抜き……、“チン”と音を立てて鞘に収めると同時に歩き出した。

 目の前、右側にアスナ。左側にレイナがいて……、そして最後にリュウキが腕を組み目を瞑っている。
 控え室の扉はもう開かれており、そこから四角く光が漏れてきている。

 それはまるで光への入り口。先にあるのは勝利か敗北かは判らない。キリトが扉に近いリュウキに近づいた時。

 リュウキは片目を開いて、キリトに向けて拳を突き出した。キリトもそれに答えるように拳を挙げ……。

 コツンっ、と拳をあわせていた。

 戦いの時はいつも2人はこれをしている。例えそれが、1対1の決闘(デュエル)だろうとそれは関係ない様だ。

「……暴れて来い」
「ああ」

 短い言葉だがリュウキからの激励を受けたキリトは、その光の中へと入っていった。








 円形の闘技場を囲む階段状の観客席は……、リュウキの目でも空席を見つけるのが難しいほどぎっしりと埋っていた。それは軽く千人はいるのではないだろうか。その最前列にはエギルやクラインと言った顔見知りも見えた。

「さて……と……」

 リュウキは、闘技場の入り口……キリトが出て行った扉にもたりかかりながら両雄を眺めた。

「……どう思う? リュウキ君」

 レイナも隣でキリトを見ながらそう聞く。リュウキは少し目を細めながら。

「……どうだろうな。互いのLv、それにステータス数値、パラメーター的には同じ攻略組だ。殆ど五分だろう。……キリトは ややSTR―AGI型、ヒースクリフはこれまでで見た所バランス型、優劣は付けれない。後は……ゲームセンス、間合い取りの上手さ、当て感、場数……何処をとってもキリトが劣っているとは思えない。だから……」

 リュウキはヒースクリフのその武器を視た。

「団長のスキルとキリト君のスキル……それが明暗を分けるって事?」

 直ぐ隣で2人の会話を聞いていたアスナがそう聞いた。

「……だろうな」

 リュウキは肯定する。普通のスキルならば、あまりにもレベルが離れてさえいなければ どうとでも対処は出来るだろう。だが、キリトとヒースクリフの≪それ≫は違う。
 この世界で2つとないスキルを其々が持っているのだ。そして、レベル的にも、……全てが同等とくれば……、手持ちの武器が明暗を分けてもおかしくない。

「……結果は直ぐにわかるだろう。恐らく勝負が長引く事は無い」

 リュウキはそう言うと親指を二人に向け、視るようにと促した。予想はあくまで予想だからだ。もう……デュエル開始まで後10秒を切っているのだから。




 その中央の巨大な電工掲示板のような数字カウンターが《0》になった瞬間。




 弾かれた様にキリトが真っ先に動いた。

 目にも止まらぬ速度、姿勢を低くしさながら得物を刈る獣の様に飛び出したのだ。あの起動から推察するにキリトが選択したそれは 二刀流突撃技 ≪ダブルサーキュラー≫

 相手がどう出るか解らない、そして何よりも初撃。その選択は間違ってはいないと思った。その素早い速度のままにヒースクリフに切り込むが、それを読んでいたヒースクリフは弾き返していた。





「……一先ずは、挨拶代わり、か」

 リュウキは2人を視ながらそう呟く。リュウキ自身の腕も震えていた。まるで、自分自身も混ざりたい衝動を抑えているかのように。




 デュエルはまだまだ序の口。

 ヒースクリフは、その巨大な盾に隠れ突進を始めた。身体の8割方がその盾に隠れた状態。つまりは手に持っているであろう剣も見えないのだ。攻撃に転じるその瞬間を見極めなければあっさりと喰らってしまうだろう。

 そして、正面からの攻撃も8割以上は防がれる。

 だから、次にキリトがとった行動は右側へ素早く回避した。それはセオリーだ。盾の方向へと回り込めば正面からでは解らなかった初期軌道がわかり、攻撃に対処する余裕も生まれる。……が、ここで予想外の事が起こっていた。



「!」


 リュウキも思わず目を見開く。ヒースクリフは盾自体を水平に構えるとそのままとがった先端で突き攻撃を放っていたのだ。本来盾の役目は防御だ。それは今までの片手直剣スキルでもそれ以外では無かった。それがヒースクリフは盾を武器として扱っているのだ。キリトは警戒していなかった盾での殴り攻撃を喰らっていた。

 いや……あの一瞬で後方へと飛んだのだろう。大袈裟に飛距離はあるがHPも殆ど減らず、そして無事に着地も出来ていた。

 だが……まさかの攻撃手段に動揺は隠せられない様だ。




「あの盾……、攻撃判定があるのか」

 リュウキはそう呟く。これではキリトの左右二択の攻撃が出来ると言う有利性も危うくなってしまうのだ。

「……まるで盾と剣の二刀流だな」
「だ、団長が盾で攻撃するなんて……」
「うん……」

 アスナとレイナの2人も驚きを隠せない様だ。これまででも、盾での攻撃は二人も知らなかったから。幸いなのが、盾はあくまで防御の役割。故に攻撃力は、剣よりは劣ると言う事だった。



 その後も一進一退の攻防が続く。
 
 ヒースクリフの≪双・閃光≫のアスナ・レイナもかくやという速度での突きを連続。キリトも片手の剣は防御に使い、残った剣で≪ヴォーパル・ストライク≫を放ち応戦。その衝撃音はまるでジェットエンジンのようなサウンド、そして赤い光芒を伴っていた。キリトの一撃は重く盾である程度は防げるが、その衝撃までは防げないようだ。
 ヒースクリフは跳ね飛ばされており、HPも勝敗を決するほどではないが、減少していた。

 そして、互いに距離をとり……、遠目には解らないが2人ともが何かを言っているようだ。暫く、と言っても2,3秒程の時間。

 その次の瞬間には2人ほぼ同時に大地を蹴り即座に互いの距離をつめあっていた。キリトはあの盾で攻撃の殆どが防がれてしまうのを確信していた。ならば、相手がついてこれない程の速度で切り続けるしかない。超高速での連続技の応酬。それはヒースクリフも付き合っていた。

 互いが小攻撃を受けHPのバーを減らしていたが、決定打は入れられていない。
命中しなくともHPが半分を切ればその時点で勝者は決する。

 ……が、キリトが、そのような勝ち方を望むような男ではないのはリュウキはよく解っている。
自分もそうだからだ。

 恐らく……否、間違いなくヒースクリフは、此処アインクラッドで随一の相手。そんな相手と剣を交えているんだ。視ているこちらが熱く震えてしまう程のもの。
 アスナもレイナも、初めこそは心配をしていたが……今は目が離せないと言わんばかりに魅入っていたようだった。

 そして……、そのキリトの剣速はまるで底無しの様にまだまだと加速していっている。
他人の目からもそう見えるのだから、本人達はそれ以上に感じているだろう。

「……ん?」

 リュウキはこの時違和感を感じていた。そのせいだろうか……、無意識に自身の≪眼≫も使用していた。そのリュウキの≪眼≫は今の今まで表情を殆ど変えず、冷静に捌いていたヒースクリフの表情が歪んだのをとらえていたのだ。だが、今はまだそんなタイミングじゃない。

 まだHPも勝負を決するほどまで減少していないのにも関わらず不自然にゆがめていたのだ。

 あるとすれば、不敗神話の中で一際輝きを放っているHPがイエローゾーン以下になった事が無いと言うのが覆されるかもしれないと言う事だけだ。

 それはキリトも感じていたようだ。だが、キリトはその歪む表情を、チャンスだと読み取ったのか、此処が勝負所だと判断し、青眼の悪魔に使ったスキル。16もの連撃を繰り出す超高速の剣技。

《スターバースト・ストリーム》を撃ちはなった。

 全ての防御を捨て、特攻ともいわん速度で打ち込む左右の連撃。まるで名のように。恒星から噴き出すプロミネンスの奔流の如き剣閃が殺到する。撃ち放つ剣撃の軌道が残り、まるで剣閃の檻が出来ているかのようだ。それは、あの時以上の速度だとリュウキは感じた。

 青眼の悪魔戦で、直にその技を視る事は出来なかったが、確かに感じたあの連?を思い出しながらそう思っていた。

 この時、リュウキは、ヒースクリフを視ずにキリトにコンマ数秒意識が集中していた。

 リュウキとて、ネットゲームにおいては、負けず嫌いな所も勿論ある。だが、これまでのゲームでは自分に匹敵するどころか、やり合える相手すらいなくトップに君臨していた。だが、この時キリトを視て、そしてヒースクリフを視て……触発されてしまったのだろう。少しだけ、自分でも気がつかないと思うが、目が輝いていたのだ。


 キリトの剣閃はヒースクリフの盾に襲い掛かり、上下左右……縦横無尽に襲い掛かる。僅かずつだがヒースクリフの反応が遅れているようだ。

(抜けッ!)
(抜けるッ!!)

 キリトとリュウキはほぼ同時にそう考えた。2人の意識はまるでシンクロしているかのようだ。キリトの最後の一撃がガードをついに超える事を……確信した。あの攻防が見えたものであれば十人中全員がそう思うだろう。その通り、盾が右に振れたその瞬間を逃さず、左から剣を振り下ろす。
その一撃が当たれば……確実にHPの半分を切り勝敗が決するだろう。

 だから、リュウキ自身もキリトの勝利を疑わなかった。

 が、この時 ありえない事が起きた。

「ぬッ!?」

 思わずリュウキも唸り声を上げる。なぜなら、……あの瞬間、世界がブレたからだ。それは、他者にまで見えるほどに……明らかにブレた。強者同士がぶつかり合う時に、時間軸がまるで矛盾する事は希にあると言われているが、それは互いの体感時間であって、他人が感じる様な事は無い。
 
 そのありえない事、……言うならば、キリトの速度はそのままだった。否、キリトの速さは今日一番のだと言える。だが、まるで、その速度を無理やり止めた……、ボタンを軽く押して、キリトを一時停止したかのように止まったのだ。

 そしてキリトは……世界は止まっている筈なのに、ヒースクリフは動ける。止まっていると感じているのに、その中で1人だけが動けていた。

 その刹那の時間。

 リュウキはレイナやアスナの2人を視た。手に汗握る試合だったから、身を乗り出さんばかりに見ていた2人でさえ時間が止まっているようだった。
 それはまるで、時が止まった世界。

 ……それなのにあの男だけが動ける。キリトも、その剣も止まっているから後は簡単だ。その剣の軌道上に右に振れた盾を置けばいい。ならば、自分から当ててくれる。

 長く長く感じたがそれは本当に一瞬。刹那の時間。時の矛盾を感じながらも、勝負は決すると言う読みは当たった。


 ただ……、違ったのは その決闘の勝者だけだった。

 
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