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掛かれに退き

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第三章

 水を飲みだ、そうして。
 六角の使者達にも水を勧めてだ、笑みで言うのだった。
「まずは飲まれよ」
「遠慮は無用でござるぞ」
「して用は何か」
「何用で来られたか」
「はい、それは」
 使者は水が入った椀を受け取りつつだ、二人に答えた。
「この城を明け渡してもらいたいのですが」
「六角殿にか」
「左様です」 
 こう言うのだった、二人に怯んだ口調で。その怯みは城の者達が水をたらふく飲んでいることからであるのは言うまでもない。
「お命は約束しますので」
「ははは、この城が欲しければ」
「力ずくで来られよ」
「我等はこの通り水をたらふく飲み」
「力がりまする」
 二人はその水をどんどん飲みつつ使者に余裕の笑みで答えた。
「戦は武士の務め、思う存分やろうぞ」
「槍も弓矢も使いな」
「何と、そうされると」
「うむ、この城が欲しければ」
「何時でも来られよ」
 城を明け渡すとどころかだ、戦を申し出るのだった。二人に笑って言われてだ、使者は返す言葉もなくだった。 
 すっかり飲まれた顔になって暇の礼をしてだった、城を後にし六角の陣に戻った。その使者達を見送ってだった。
 柴田はすぐにだ、城の瓶を全て自ら割った、そして城の兵達に言うのだった。
「最早この城に水はない」
「一滴も」
「左様ですか」
「そうじゃ、もう一滴もない」
 その水がというのだ。
「生きたければ勝ってじゃ」
「敵の城の水を飲む」
「それしかありませぬか」
「そうじゃ、わかったな」
「皆の者出陣じゃ」
 佐久間も兵達に言う。
「よいな」
「はい、では」
「ここは出陣しそのうえで」
「六角の兵達を倒し」
「敵の城を奪いそこの水を飲みますか」
「そうじゃ、敵は我等が水をたらふく飲んだのを見て城に水があると思っておる」
 ここでまた柴田が兵達に話した。 
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