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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第93話 遭遇 風林火山と解放軍


 そして、4人が丁度食事を終え、一息ついていた時だった。

 この場所、迷宮区の安全エリアに誰かが、入ってきたようだ。入り口から鎧をがちゃちゃと音を立てながら。その音からして複数の人数のパーティだろう。その瞬間的に、若干近づき気味だったキリトはアスナと離れ。リュウキは、レイナを庇うように前に一歩出た。警戒するような行動だったが、この層の迷宮区にくるパーティは十中八九は攻略組のメンバーだ。

 危険プレイヤー、オレンジ等の連中は、基本的にこんな危険な層には来たりはしない。基本的にオレンジプレイヤーは、危険を犯さず、犯罪を犯す連中だからだ。それに、この層にはプレイヤーも少ないから。

 だから、さほど警戒はしてはいなかった。そして、その通り、警戒する必要は皆無だった。

 現れたのは6人のメンバー。

 そのリーダーを一目見て、リュウキは力を抜いた。それはキリトも同様だったようだ。その男はこの浮遊城・アインクラッドの中でも最も古い付き合い男と言っていいプレイヤー。

 刀使いのクラインだった。

「おおっ! キリトにリュウキじゃないか! 暫くだな?」

 クラインの方もこちらに気がついたようだ。右手を上げ、笑顔で近づいてきた。

「まだ 生きていたかクライン」
「暫くだな……」

 2人はそれぞれ軽く挨拶?を交わす。随分と辛辣なのはキリトだった。

「相変わらず愛想がねーな? リュウキも もーちっと変われれば完璧なんだがな~。っとと、そういやあオメーは結婚したんだったな? ちと遅いがおめでとさん」

 クラインは祝福してくれているんだろうか?でも、目と口調は嫉妬の念がよく判るようだ。キリトは勿論、リュウキにもそれくらいは解って、苦笑いをしていた。尚、リュウキには暖簾に腕押しだとは思うが。

「……ん? 何だ、今日は2人じゃないのか? 迷宮区に。珍しいな……お前ら以外……に………」

 クラインは、荷物を手早く片付けて立ち上がった2人。アスナとレイナを見て、目を丸くさせて、そして固まってしまった。
 
 刀使いのクライン……額にまいた趣味の悪いバンダナ、その直ぐ下の目……よく目を丸くさながら固まっている。
 先ほども使ったが、まさにその通りだと思えるほど、比喩じゃないほどに実際に丸くなっていて、リュウキはその珍妙な表情にも若干だが笑いを誘っていた。

「あー……っと、BOSS戦や攻略会議で何度か顔は合わせてるだろうけど、一応紹介するよ。こいつは、ギルド《風林火山》のクラインだ。んで、こっちの2人が《血盟騎士団》のアスナとレイナ」

 キリトが2人を紹介すると、2人とも同じタイミングでちょこんと頭を下げていた。だが、クラインは変わらず……、目のほかに口も丸くあけて完全に停止していた。直立不動とはまさにこの事だと思えるほどだ。

「……? どうした? 大丈夫か?」

 リュウキが、一歩近づいてクラインにそう言うが、全く動かない。少し心配になり、現実世界で接続を絶たれたのか?と考えたリュウキはクラインを注意深く視てみたが、そんな感じはなかった。

「おい、何とか言えって、ラグッてんのか?」

 キリトも不自然なクラインに肘で脇腹を突いてやると漸く、凄い勢いで最敬礼気味に頭を下げた!

「ここっ!!こんにちは!!くく、クラインと言う者で、24歳っ独身っ!」

 ドスッ!ゴスッ!! ドサクサに紛れて妙な事を口走る刀使いの脇腹をもう一度、今度はリュウキが拳を入れ、反対側をキリトが肘撃ちをした。このクラインの行動……、自己紹介と考えたが後半の部分は明らかに違うとリュウキも思ったようだ。年齢は兎も角、独身と言う情報は要らないだろう。故に考えられる事はひとつ。つまりは口説こうとでもしているのだろう事。

「……オレの結婚相手に何を言ってんだ」

 リュウキは、クラインにそうツッコミを入れつつ拳を引き抜いた。

「あっ……。えへへ……///」

 正直、レイナはちょっと状況についていけて無かったけれど、リュウキの行動を見て、聞いて……何だか嬉しかったようだ。でも、アスナはまだまだよく解ってなくちょっと戸惑っていた。
 
 そして、そんなクラインが同じ数だけいるのか?似た者同士が集まったギルドのようで、後ろに下がっていた残り5人のメンバーが一斉に2人の方へと向かってきた。

 それは、リュウキとキリトじゃなく……、アスナとレイナの方へと。

 圧倒的に男性陣より人気のある2人を見て興奮したようだ。アインクラッド屈指の美貌を誇る姉妹だから。一頻り、彼らはアスナやレイナの名を連呼すると、我先にとクラインに習って、自己紹介を始めていた。

 このギルド、≪風林火山≫は全員がSAO以前から馴染みらしい。つまりは、あの時……、クラインが見捨てれないと言っていたメンバーだろう。クラインは、独力でギルドの仲間達を守り抜き、さらには攻略組の一角を占めるまでに育て上げたのだ。痛みを伴った事はある、だがそれでも この最前線にまで来られるだけの力をつけたのだ。だからこそ、リュウキはクラインのことは十二分に敬意を表していた。

 先ほどの言動は……まぁ ガマンできないようだが。

 キリトは、あの時……見捨ててしまった事を気にしているようだった。とりあえず、リュウキは男共を抑え、キリトはアスナ達の方を向く。

「……とまあ、悪い連中じゃないから、リーダーの顔は兎も角」

 その言葉が終わった瞬間だ。

 ドスンッ!!!と、今度はクラインが思い切り、キリトの足を踏みつけていた。突然の不意打ちにキリトは言葉を詰まらせていた。

「へへっ! さっきの仕返しだ! コラァ リュウキっ! てめぇもだぞ!」

 クラインは、ガーーッと吼え、今度は飛び掛るように来るが、リュウキは軽く華麗に避ける。

「それについては、妙な事を言うお前が悪い」

 そう言って一蹴した。クラインの伸ばした手は掠りすらしない……。そして、そうはっきり言われてしまえば、クラインは言い返せないようだった。

「くぅ~~!! あんな、鈍感君だったリュウキが、こ~~んな美人を~~!!」

 クラインは、捕らえられない事もそうだし、レイナと結婚したこともそう、心底悔しそうにしていたが……。最後には、笑っていた。
 最後の笑み、それは嫉妬の類ではなく、祝福の笑いだった。

「まっ、可愛いリュウキには、可愛い嫁さんが似合うってことかよ……。あーあ、良いな~ちくしょうっ!」

 捨て台詞とも取れない言葉を笑いながら言っていた。だけど 当然だが、リュウキは、クラインのそのセリフ、それだけは受け流せられない。

「っ! ……誰が可愛い……だっ!」

 リュウキは思わず反論と同時に。
 ドゴンッ!!と、リュウキの拳がクラインの左頬にヒットした。それは、かなりのスピードらしく、気づいたら 殴られてた?って錯覚するほど。だけど、流石にHPを削るわけにはいかないから、ヒットの刹那のタイミングで力を抜き、殆ど寸止めの状態だ。でも、ノックバックは結構するみたいで。

「ぐほっ!!!」

 その衝撃でクラインを再びKOしてしまったリュウキだった。

「おおぃ! そっちで色々する前にこいつら抑えてくれよ! クラインっ!!」

 キリトはキリトで、踏まれた後、殆ど暴動と化してしまった風林火山のメンバーを抑えていた。リュウキとクラインが言い合っているけれど、他のメンバーはまだ、レイナとアスナに釘付けだその様子を見ていたアスナとレイナは、もう流石にガマンできなかったのか、体を折りながら、くっくっと笑い始めた。

「やー ほんとに仲良いんだね?」

 レイナも普段は見られない2人の姿を見てそう思ったようだ。アスナと共に笑っていた。





「んで!どう言う事だよ!結婚してるリュウキは兎も角、なんで殆どソロのお前が!」

 クラインは、キリトをひっ捕まえてそう聞く。耳元で言っているようだが、如何せん声がでかいからまる聞こえだ。それを聞いたアスナは一歩前に出て。

「どうも、こんにちは!私達は暫くパーティを組むのでよろしく!」
「よろしく!」

 アスナと、そしてレイナも出てきてまるでシンクロしているようにそう言っていた。それは良く通る声だ。キリト自身は今日だけだと思っていたようで、その暫くと言う単語に仰天しているようだ。リュウキはリュウキで、事前にどうやらレイナから聞いているようで、ただただ頷いているだけだった。

 やがて、クラインはギロ!!っと殺気充分の視線をキリトへ。

 リュウキには見せなかった。多分、リュウキは既婚者だから、だろうか? 

「キリト、てんめぇ……」

 クラインのキリトをつかむ手にも力が良く入る。

「ははは……。」

 リュウキは外からキリトを眺めているだけで助け舟は出したりはしなかった。キリトの視線は感じるが……、むさ苦しいのは苦手と言う事のようだ。

「ほんとっ仲良しだねっ♪ キリト君もそうだけど、リュウキ君もっ」

 レイナがリュウキの傍でそう言う。

「……だな」

 リュウキも頷いた。キリトはあのはじまりの街でクラインと別れた時の事をずっと後悔しているようだった。だから、クラインと訳隔てなく……接している姿を見たら安堵感を覚えるものだった。そんなリュウキの思考とは殆ど正反対にいるキリトは、もうただでは解放されそうも無い……っと肩を落としていた。




 談笑が続いていて、平和だと思えたその場所だったんだけど、それの雰囲気がガラリと変わる。



 先ほど風林火山の連中がやってきた方向から、新たな一団の訪れを告げる足音と金属音が響いてきた。その歩調はやたらと規則正しい。その連中の姿を確認したアスナは、緊張した表情でキリトの腕に触れ囁いた。

「キリト君……、《軍》よ」

 それを確認したクラインも手を上げて、仲間の5人を壁際に下がらせていた。指揮官としての手腕は、申し分なしだ。

 ここは、最前線の迷宮区。

 仲間の安全が最優先だからだ。位置的には後列にいるリュウキもレイナを庇うように手をすっとレイナの前に出し下がるように促す。レイナも緊張を隠せずリュウキの腕にそっと触れていた。
 
 その軍は二列縦隊で部屋へと入ってきた。
 先頭に立っていた男が『休め』と言った途端、軍のメンバー全員が盛大な音と共に倒れるように座り込んだ。男は仲間に目もくれずにコチラへと向かってくる。注視してみれば、その男は他のメンバーと装備がやや異なるようだった。身に着けている防具もプレイヤーメイド品ではあるが、高級品のようだ。そしてその胸の位置に他のメンバーには無い、アインクラッド全景を意匠化したらしき紋章が書かれている。……物の言い方からリーダーだと言うのは見て取れるが、その器は決して大きくは思えなかった。

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ。」

 その言葉に若干その場のメンバーは眉を寄せた。
 そもそも≪軍≫と言うのは、その集団の外部の者が揶揄的につけた呼称だったと皆は記憶している。いつの間に正式名称となったのか? その上《中佐》と来たようだ、どうやら階級制らしい。キリトがそれに答えるように《ソロ》だと短く名乗る。
 男は頷くと横柄な口調で訊いてきた。

「君らはもうこの先も攻略をしているのか?」
「……ああ、ボス部屋の手前までのマッピングはしてある」
「うむ。では、そのマップデータを提供してもらいたい」

 その当然だ。と言わんばかりの男の台詞にキリトは少なからず驚いていたが、後ろにいたクラインはそれどころじゃないようだ。

「なっ……! て、提供しろだと!? 手前ェ、マッピングする苦労が解って言ってんのか!?」

 胴間声でわめく。当然だが、未攻略区域のマップデータは貴重な情報だ。トレジャーボックス狙いの鍵開け屋は勿論、アルゴも時としてその売買に乗り出している。
 そのクラインの声を訊いた途端男は片方の眉をピクリと動かし、ぐい!っと顎を突き出すと、

「我々は君ら一般プレイヤーの解放の為に戦っている! 諸君が協力するのは当然の義務である!」

 ―――それは傲岸不遜と言うものだ。
 そもそも軍は第25層攻略の時かなりの被害が出てからクリアよりも組織の強化を図っていたようにも思える。故にここ1年は最前線は勿論。フロアの攻略に乗り出してきた事は殆ど無いはずなのだ。……それは、一番前線を闊歩しているリュウキが一番の証人となり得る。
 その他には血盟騎士団、聖竜連合、そして今出会った風林火山以外ではキリトくらいのものだったからだ。

「ちょっと! あなたねえ!!」
「そうだよ! 幾らなんでも、それは無いわよ!」
「てめえな……」

 三方から激発寸前の声を出すクライン、そしてアスナとレイナ。だけどキリトは両手で制する。リュウキも同様だ。

「……こんな前線でプレイヤー同士争っても仕方ない。……アンタ等にしてもさっきの名目なら本末転倒だろ?」

 リュウキがそう言う。データを出そうとしたが、キリトの方が早かったようだ。

「そりゃそうだ。リュウキの言うとおり。……それにどうせ町に戻ったら公開しようと思ってたデータだ。構わないさ」

 そう言いながら、提供する姿勢だ。その行動にクラインはキリトの方へと来た。

「おいおい……そりゃあ、人が良すぎるだろ?2人とも」
「……マップのデータで商売をする気は無い。そんな事をする暇が有れば最前線のフロアでモンスターを狩った方がよほど効率が良くて、経済的だ。経験値も入るから一石二鳥どころじゃない」

 リュウキは平然とそう言っているが……前線のモンスターは、勿論強力だ。
 以前アスナが言ったように、アルゴリズムにもイレギュラー性が色濃く出てきており、思いもしない行動を取る……、前触れも無くありえない攻撃力を発揮してくる。そして何より最悪なのがその層に見合わないレベルを持ったモンスターも稀だが出現するときだってある。それをリュウキのあっけらかんとした言い方には若干引くものがあるようだ。

 キリトも頭をガシガシっと掻きながら苦笑いをするとトレードウインドウを出し、コーバッツ中佐と名乗る男に迷宮区のデータを送信した。

 男は表情1つ動かさず、それを受信すると「協力感謝する」と感謝の気持ちなど欠片もないような声で言うとくるりと後ろを向いた。キリトは、その背中に向かって声をかける

「ここのBOSSにちょっかいを出す気ならやめておいたほうがいいぜ」
 
 その声に反応したのか、コーバッツは僅かにこちらを振り向いた。

「……それは、私が判断する」

 この男のリーダー性には不安が過ぎる。引き連れているメンバーもそうだ。

「……さっきBOSSの部屋を覗いてきたけど、生半可な人数でどうこうなる相手じゃないぜ。仲間も消耗しているみたいじゃないか」
「私の部下はこの程度で音を上げる軟弱者ではない!」

 部下と言う所を強調して苛立ったように言ったが、等の部下達は床に座り込んだままで同意している風には見えない。

「貴様ら! さっさと立て!!」

 その一喝でのろのろとった地上がり、二列縦隊に整列した。その先頭にコーバッツは立つと最早コチラに見向きもしない、と言わんばかりに片手を挙げ、進軍を開始していく。

 その時だった。


「……もう一度訊くがお前らは何の為に戦うんだ?」


 見送ろうとしていたメンバー達から一歩前に出たリュウキがそう聞いていた。コーバッツは キリトじゃ無い事を確認したのか再び振り向くと。

「先ほども言ったとおりだ! 我々は一般プレイヤーの解放の為に戦っている!」

 コーバッツの声が、このエリア内に響き渡る。それを聞いたリュウキは。

「……お前達も含まれているんだろうな? 最後の解放されると言うその中には」

 それはリュウキの意味深な言葉だった。その言葉が発せられ、沈黙が周囲を支配する。声はコーバッツのほうが明らかに響き渡り声量も比較するまでもないはずなのに、リュウキの言葉はずしっ……っと 皆の頭に響いたようだ。

「それは、どういう意味だ?」

 判っていないのは、この場ではコーバッツだけのようだ。

「……本当にリーダーだったら、仲間を大切にしろって事だ。軟弱の一言で無理強いをするな。……生きる、生き残る為に軟弱な決断が必要ならそちらを選択しろ。死んだら何もならない。……失ってから後悔しても遅いんだ」

 場が一瞬まるで時が止まったかのように静かになる。リュウキのその言葉に不思議な力がある様にだった。リュウキの事を知っているレイナだけじゃなく……、皆がそう感じていた。

『部下といっているが決して駒じゃないんだ。彼らは消耗品じゃない。皆で生きて帰る為に最適な行動を心がけろ』


 後に続いて強めの口調でそう言うリュウキ。人前に出るのが苦手、目立つ事は嫌うと言う男だが、……こういうときのリュウキはどんな強大な組織の、どんなトップよりも、どんな組織のトップに、リーダーに相応しいと思える印象だった。

 普段の《アレ》が無ければ、の話だが。

「一般プレイヤーが何を言うか! この私を愚弄するな!!」

 ……リュウキのその言葉に耳を貸す気配すらないようだ。リュウキはそれ以上は何も言わず、右手を上げ左右に一度だけ振る。

 そのまま、メンバーを連れこの場から去って言った。
 
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