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俺と乞食とその他諸々の日常

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十七話:炎と日常

 気絶したまま運ばれていったヴィヴィオちゃんの容体だが真っ赤な髪に金色の目が特徴的なコーチのナカジマちゃん……この呼び方を俺がしたら何故か睨まれたのでノーヴェさんと呼ぶことにした。
 とにかく、ノーヴェさんが言うには消耗し過ぎて意識レベルが下がっているだけで命には支障はないらしい。

「さて、ヴィヴィオちゃんも無事みたいだし俺は戻らせてもらうか」
「リオさんの応援はしないんですか?」
「こっちの試合も近いんでな。そろそろ戻らないとジークに関節を外される」
「さらりと物騒なこと言うな、あんた」

 初対面であるノーヴェさんは俺の発言に若干顔を引きつらせているが、質問してきたアインハルトちゃんもミカヤもコロナちゃんも日常茶飯事として平然として受け入れている。

「もしかして、あたしがおかしいのか?」
「大丈夫だよ、ナカジマちゃん。おかしいのはリヒターの頭だ」
「黙れ、お前も大概だろうが」
「ナカジマちゃん、リヒターが苛めてくる!」
「今のミカヤちゃんが猫を被っているのはあたしでも分かる」

 泣き真似をしながらノーヴェさんに抱き着くミカヤ。
ノーヴェさんの方はその姿に何かを察したように微妙な顔をしている。
アインハルトちゃんとコロナちゃんは本性を知っているのでジト目で睨んでいる。

「もう、化けの皮が剥がれる一歩手前だろ」
「まだだ、まだ私には奥の手がある!」
「認めているじゃないか」
「あ」

 しまったと頭に手をやるミカヤを無視して俺は最後にアインハルトちゃんの頭を一度撫でてからジークの元に歩き出す。
 エルスにおもり任せているが大丈夫だろうか?
 また、腹を空かせて道端で倒れていないよな。
 これ以上の出費は、今月は避けたいから倒れるならヴィクターの前で倒れて欲しい。





「リ、リヒターさん! チャ、チャンピオンが!」
「何だ、空腹で倒れたのか?」
「違います! いいから早く来てください!」

 エルスに急かされて首を傾げながら付いて行ってみるとジークが何事も無い様に笑いながら出迎えてくれた。
 ―――目からハイライトが消えた状態で。
 …………え?

「えらい、遅かったなぁ……リヒター」

 音もなく俺の隣に立ち耳元に息を吹きかける様に声を掛けてくるジーク。
 思わず背筋が凍り付いたようにゾクリとしてしまうのは息を吹きかけられたからだけじゃない。
 いつも通りの声のはず何だか今のジークの声は絶対零度を思わせる冷たさを感じさせた。

(ウチ)を置いて他の女の子に囲まれて観戦なんてええ身分やね」
「ま、まあ、あれは知り合いだからな」
「あの子の隣にずっとおってご満悦そうやったねぇ。リヒターは(ウチ)のセコンドなのに」

 まるで世間話をするかのように終始笑顔で語るジーク。
 だが、その目には一切の光が灯っておらず、まるで地獄の亡者が道連れを品定めしているかのように感じさせた。
 まずい、どう考えてもこれはまずい。

「あの子は(ウチ)の対戦相手なのにえらいなかよー、しとったなぁ。もしかして、(ウチ)よりもあの子の方に行きたかったん?」
「い、いや、そんなことはない―――」
「そうやね。あっちにはミカさんも居るし、可愛い子がぎょーさんおるもんなぁ。(ウチ)と一緒におるよりも楽しいんよね」

 ダメだ。もう聞く耳を持ってない。
 というか、これは本気でヤバいぞ。選択肢を間違えたらヤンデレルートに進みかねない。
 下手したらNice boatな結末が俺を待っているかもしれない。
 とにかくジークを宥めるためにまずは謝ろう。

「その、だ……。お前の傍から離れてすまなかった」
「ええよ、別に。どうせ、(ウチ)のことなんかどうでもええんやろ」
「そんなことはない! 俺にとってお前は…ッ! ……その、大切な存在なんだ」

 冷たく言い放つジークだったが続けて出した俺の言葉にピクリと眉を動かす。
 流石の俺もこの期に及んで嘘をつく気はない。命が冗談抜きでかかっていそうなこの場面を何としてでも切り抜けなければならないのだから。
 ジークは俺にとって大切な半同居人だ。だから嘘は言っていない。

「そ、そんな優しいこと言ってまた(ウチ)を騙す気なんやろ!」
「確かに俺なんかが言っても信用できないだろうな。だから、これは俺からのお願いだ」

 俺の手を振り払おうと暴れるジークの肩を掴み真っ直ぐにその瞳を見つめる。
 透き通るような青色の瞳に俺の姿が映し出される。
 切なげに唇を震わせるジークに向けて俺はしっかりと告げる。



「これからも俺をお前の傍に居させてくれ!」



 少なくとも大会中はセコンドとして役目を果たすつもりだ。
 終わったらどうなるかは俺にも分からないけどな。
 とにかく、俺の言葉は無事にジークに届いたようでほんのりと頬を染めたままパクパクと口を動かしている。
 その後、フイとそっぽを向いて体の後ろでせわしくなく手を組み合わせながらツンとした態度で言い放つ。

「そ、そんなに頼むんなら仕方ないから(ウチ)の傍におってもええよ」

 見事なまでのツンデレ発言に思わずツンデレ乙と言いたくなってしまうがここで今までの苦労を台無しにするわけにもいかないのでグッと堪えて爽やかな笑みを浮かべてみせる。

「ありがとうな、ジーク」

 これで何とか無事に明日を迎えられそうだ。
 だが、まだ油断は出来ないので念には念を入れてジークの頭を撫でる。
 ふにゃりとした顔になりながらもっととせがむように俺の手に頭を擦りつけてくる。
 何となしに猫みたいだと思いながらそのまま撫で続ける。

「あの……私はお邪魔でしょうか?」
「あれ? 居たのか、エルス」
「まず、そこからですか!?」

 さっきまで居るのを忘れていたエルスから勢いのあるツッコミが入る。
 ジークのことで頭が一杯で仕方がなかったんだ。
 恨むなら顔を真っ赤にして恥ずかしがっているジークに文句を言え。

「そ、そうや! 番長の試合見よ! しっかり応援せな!」

 照れ隠しのようにそう言うジークをからかってやりたいが今やると再発しそうなので再びグッと堪える。
 ハリー対リオちゃん……悪いが今回はハリーを応援することになりそうだ。
 でも、リオちゃんも心の中では応援しよう。

「さて、見せて貰おうか、春光拳士の性能とやらを」
「ハリー選手は確かに赤いですが彗星じゃないです」

 エルスのツッコミを受けながら試合を観戦していく。
 すると、リオちゃんが地面を持ち上げた……地面を。

「ええい、チームナカジマの春光拳士は化け物か!」
「やろうと思えば、(ウチ)も出来るよ」
「……お前、やっぱりチャンピオンなんだな」

 家の乞食はどうやら只者ではなかったようだ。
 最初はリオちゃん優勢だった試合もハリーがレッドホークを使い始めたことで形勢逆転する。
 レッドホークの鎖部分で絡めとられ身動きを封じられるリオちゃん……。

「ボロボロの服に絡みつく鎖、そして息を荒げながら上気する頬……エロい」
「そんな目で試合見るようなら潰すで?」
「ごめんなさい、お願いだから俺の目に突き付けた指をどけてください」

 リオちゃんの色気に思わずエロいと零してしまうと再び目からハイライトが消えたジークが俺の目を潰そうとして来る。
 いつもなら冗談だと流せるが今日ばかりは本気度が違う。
 渋々といった形で手を降ろすジークだったが今度はピッタリと俺の隣にくっ付いて離れようとしない。
 ……正直怖い。

「鎖を力で引き千切ったというんですか!」
「でも、番長は負けへんよ」
「相も変わらず鎖で縛られるとエ―――な、何でもない。そうだ、エクスタシーだ!」
「ごまかそうとしてさらに変態になっていますよ」

 しまった、俺としたことが。
 ジークの指が再び唸りを上げそうになったが丁度いいタイミングでハリーが必殺技を決めてくれたおかげで何とか注意を逸らしてくれた。
 ありがとう、ハリー。この恩は忘れない。三日ほどだけど。

「番長の遠隔砲撃……(ウチ)も気いつけんと」
「ええ、対策頑張りましょう」
「リオちゃん(のおっぱい)はこれからの成長に期待だな」
「どこ見て言っとるん、リヒター」
「どこでもいいさ」
「ふざけるな!」

 ふざけてなんていない。どこだっていい、見たいのなら堂々と見ていればいい。
 その結果ジークに関節を外されるのだとしても俺は後悔しない(キリッ)
 あ、いや、今のは冗談、ちょ……や、やめ―――アーーーーッ!








オチが微妙だと思ったそこのあなた。
そんなあなたにお詫びとして本編で出すことが出来なかったジークのヤンデレを送ります。
苦手な方はそのままお戻りください。いいですか、絶対ですよ? 絶対!







おまけ「ヤンデレと非日常」

 目を開けるとそこは鉄格子で囲まれた部屋だった。
 しばらく思考が停止していたが取りあえずベッドから起きようとすると首に違和感を覚える。
 目をやってみるとそこには首輪がついていた―――鎖付きで。
 …………Why?

「あ、リヒター起きたん」
「ジ、ジークこれは一体どういう事だ?」

 気づけばすぐ傍に髪を下ろした状態のジークが佇んでいた。
 無表情な顔にドロドロと黒いものに満たされた様な濁った目。
 思わず逃げる様に下がってしまうがそれが行けなかった。

「なぁ……なんで逃げるん? (ウチ)のこと嫌いなん?」
「そ、そんなことは―――」
「じゃあなんで(ウチ)の傍におってくれんのんッ!?」

 今まで溜めていた物を全て吐き出すようにジークが叫びにじり寄って来る。
 その表情は酷く悲し気で寂しげでそれでいて―――笑っていた。
 
「もう、堪えられへん……リヒターが他の子と話すのを見るのも、(ウチ)以外の子に笑顔を向けるのも―――堪えられへん!」
「ジーク、お前…ッ!」

 本能が逃げろと告げてくる。自分が鎖で繋がれているのも忘れて俺は逃げ道を求めて目を彷徨わす。
 しかし、それは許されずに俺の体の上に馬乗りしてきたジークに頭を抑えられ無理やり目を合わせられる。
 いつもは光り輝いている青色の瞳は今は狂気をはらみ俺しか映していなかった。

(ウチ)だけ見てくれたらいいんよ……。他の物なんて全部無視して、(ウチ)を見て」
「何で、そこまで……」
「そやね、リヒターは(ウチ)のことなんて興味ないもんね。いっつも他の女の子のとこに行くしなぁ」

 そんな事をどこか狂ったように口走りながらジークはガリッと俺の皮膚を爪で引っ掻く。
 思わず、痛みで涙を流すとジークは流れるような仕草でそれを細く美しい指ですくい取りペロリと舐めとった。
 熱にうなされたかのようにふやけた顔にとろけるような甘い吐息を上げるジークに思わず目が釘づけになってしまう。

「………好き、大好き」

 ホニャリと頬を緩ませ俺の胸に顔を押し付けてくるジーク。
 余りの変わりように呆気にとられている俺だったが続いて聞こえて来た言葉に背筋が凍り付く。



「大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好きダーイスキ」



 告げられるのは愛の言葉。
 だが明らかに正常ではないジークからの言葉は恐ろしい物があった。
 逃れなければならないと頭が命令するが体が動かない。

(ウチ)だけのもん……誰にも渡さん。リヒターは―――ゼッタイニハナサナイ」

 次の瞬間には俺の四肢はバインドで固定され身動き一つ出来なくされていた。
 頬を優しく手で撫でられるがゾワリと全身の毛が逆立つような気持ち悪さがそこにはあった。
 ジークはそんな俺の様子に満足したように笑みを浮かべ言葉を続ける。

「これでずーーーっと一緒やね、リヒター」
「ジーク……俺は……お前の事を―――」

「大丈夫よ、(ウチ)は離れんから―――イッショニ愛死アオウヨ」


 最後に見たのはドロリと濁った俺の大好きな青い瞳だった。


 
 
 

 
後書き
 Qどうして書いたのか?
 Aヤンデレが好きだからさ。

 最後に主人公が言おうとした言葉はご想像にお任せします(´・ω・`) 
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