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磯女

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第三章

「見つかったら殺されるとか姿を見たら死ぬとかな」
「言われてるんだ」
「だから夜には海の方に行くのもな」
「よくないんだね」
「海の中から何か音がしたらな」
 その時はというのだ。
「急いでそこから立ち去れ、いいな」
「うん、そうするよ」
「若し夜に海の傍に行くことがあってもな」
 それでもというのだ、祖父の話は真剣なものだった。
 それで彼は学校で担任の先生に祖父が話してくれたことを話したがだ、先生は笑ってこう言ったのだった。
「それは違うよ」
「磯女はいないの?」
「化けものなんてこの世にはいないさ」
 こう笑って言うのだった。
「絶対に」
「そうなんだ」
「出るのなら、そうだな」 
 先生は彼の祖父の話を頭から信じないまま彼に言った。
「先生が今晩港の方に行ってみよう」
「港の方に?」
「岸の辺りも歩いて。若し磯女が本当にいるのなら」
 その時はというのだ。
「先生は磯女に襲われて殺されるね」
「血を吸われて」
「そうなるよ。じゃあ漁師の人に無理を言って艫綱を下ろした船の中で一泊もしようかな」
「本当にそうするの?」
「だから磯女なんていないよ、大丈夫だよ」
 生徒へのことよりも日教組での組合活動にばかり熱心でPTAからは小学生をいつもいやらしい目で見ているだの生徒の母親に言い寄るだの北朝鮮に行ったことがあるだの過激派に賛同しているだの評判の悪かった先生だがだ、妖怪は信じておらず。
 その日の夜に実際にそうした、船を貸してくれと言った漁師が馬鹿なことをするなと止めるのも聞かずにだ。
 夜に岸を歩いてだ、船の艫綱を下ろして寝た。祖父は彼からその話を聞いてだ、夕食を食べながら驚いて言った。
「すぐにその先生止めろ」
「止めてもなんだ」
「聞かなかったんだな」
「うん、それでなんだ」
「今港に行くとだ」
 その艫綱を下ろした船の中にだ。
「襲われるからな」
「行けないんだ」
「行った人も死ぬ」
 そうなるというのだ。
「止めろと言ったが手遅れか」
「じゃあ先生は」
「明日の朝とんでもないニュースが来るからな」
 祖父の言葉はこうしたものだった。
「覚悟しておけ」
「うん・・・・・・」
「いいか、本当にな」
「あそこには行ったら駄目よ」
 地元で育った両親も一緒に食事を摂っていたが二人も彼に言った。
「夜の海の方はな」
「ましてや船に艫綱なんて下ろしたらね」
「その先生はもう駄目だ」
「やられるわ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 両親は彼に今日はもう寝る様に言った、彼は食事の後風呂に入って布団の中に入った、暫く先生が心配だがぐっすりと寝入った。
 そしてその朝だった、起きると。
「やっぱりか」
「さっき港の方から話があったよ」
 父が出勤前に祖父に話していた、朝食の場で。
「先生がな」
「馬鹿なことをしたからだ」
 祖父は忌々しげに言っていた。
「そうなったんだ」
「そうだよ、本当に」
「身体の血を抜かれてだな」
「凄い顔で死んでたらしいよ」
「やっぱりあれだな」
「磯女だね」
「絶対にな」 
 こんな話をだ、二人でしていた。彼が居間に来ると二人で彼に言って来た。
「話は聞いたな」
「先生死んだからな」
「言ったな、だからな」
「ここでは夜の海には気をつけないと駄目なんだ」
「うん・・・・・・」
 彼も確かな、だが恐怖を感じつつ頷いた。そしてだった。
 学校に行くとこの話で持ちきりだった、皆口々に言っていた。 
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